突然ですが、彼女になりました。
新緑の5月。
無事第一志望の高校に入学して約1ヵ月。
部活に入って、それなりに友達もできて、なんとなく慣れてきた、新生活。
充実した高校生ライフが送れそう!なんて、浮かれていた矢先。
「好き、なんだけど。」
「…はぁ?」
告白の返事にしてはあまりにも酷いと思われそうだけど、説明させてほしい。
今私の目の前にいるこの男、クラスは違うけど、知ってる。1年4組、渡辺コウキ。
中学の頃から女をとっかえひっかえしてるっていう噂のある、要注意人物のチャラ男。
スラッと伸びた手足に高身長、清潔感のある黒髪。見た目はいかにも好青年な感じだけど、喋るとチャラいな、と思わなくもない。
とにかくヘラヘラしてる。
私との接点、特になし。
ていうか今がファーストコンタクト。
私は一目惚れされるような容姿の持ち主でもないし、見た目は悪くないこのチャラ男に入学1ヵ月で告白される理由など皆目検討もつかない。
そんな相手が放課後の誰もいない教室に突然現れて(私は部活中に怪我をして絆創膏を取りに来ていた)、挨拶もなしに告白されたら私の反応はごく普通だと思う。
「…だから、好き。俺のものになって。」
「え、いや、は??なんで??」
「もしかして今彼氏いる?」
「いや、いないけど……」
「じゃあ決定。お前、今から俺の彼女ね。」
……………はぁぁぁぁぁぁ?!
あまりの急展開に唖然とする。
本気!?本気なの!?ていうか「お前」って!
…まぁ、どうせ渡辺コウキにとっては遊びなんだろうけど。(どう考えたって私が本命になり得る訳がない。)
何故高校最初のターゲットが私なのかは謎だけど、まぁ放っておけばそのうち飽きるだろうと軽くあしらっておく事にした。
「はいはい、冗談も程々にね〜」
そう言って部活に戻ろうと渡辺コウキの横を通り過ぎると、パシッと手首を掴まれた。(あ、これ、マンガみたい。)
「誰が冗談って言った」
さっきよりもいくらか低い声。
………え、もしかして、ガチ?
軽くあしらうつもりだったのに、3秒でもうそんな事できない空気になってしまった。
「……いや、うちらさ、今初めて喋るのに、突然告白とか冗談だと思うでしょ」
「初めてじゃない」
「え?」
聞けば、受験の時に席が隣だったらしい。
試験開始前、消しゴムがない事に気付いてペンケースや鞄をひっくり返して探していた渡辺コウキに私が予備でもっていた消しゴムを貸してあげたんだとか。
……ああ、覚えてる。あれ、キミだったのか……
「ま、まぁ、話した事あっても無理だから…」
「じゃあどうすれば俺の彼女になってくれる?」
「どうすれば、って………。ていうか私、部活に戻らないといけないから、手…離して。」
「やだ。お前が俺の彼女になるって言うまで離さない」
「困る」
「俺もこのまま行かれちゃ困る」
「いい加減にして」
「だから、俺の彼女になるって言えば離すって」
この男がここまで私に執着する理由は何なのだろう。
全くわからないけれど、とにかく今は早く部活に戻らねば。さすがにこれ以上遅くなると怒られてしまう。
「………はぁ………。わかった、アンタの彼女になるよ」
「え、マジ!?本当に!?よっしゃー!!」
本当に?って、あんたが強制的に言わせたようなもんでしょ!…と思ったけど、こんなあからさまに適当な返事でもこんなに喜んでくれるんだ、なんて思ってしまって、少し心が揺れた。
「じゃあ早速、今日一緒に帰ろうな!俺、部活終わるまで待ってるから!」
満面の笑みで、私の腕から離した手を振る。
私は呆れながらもそんなに悪い奴じゃないのかもしれない、なんて。少し、ほんの少しだけ、思った。