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現代魔法の翻訳者  作者: ナート
第二章 新人戦
9/24

新人戦

 連休が終わり、私立関東魔法高等学校の授業も本格化し始めた。

 さらに、チーム実習のためのチームにも、大きく変化が生じている。

 それは、匠達のチームも例外ではない。

「真木、チームは七人までだから、俺も入れてくれ」

「何で?」

 匠の言い方はやや冷たいが、ここ数日、同じやりとりをほぼ全員とやっているため、飽き飽きしている。

 そして、誰も匠の問いかけに答えることは出来なかった。

「朝から大変だな、匠」

「鉄也も同じチームなのに、何で俺にだけ言ってくるのか……」

 鉄也は、匠とは違い、チームに入れてくれるよう頼まれることはなく、匠が苦労しているのを眺めているだけだった。

「そりゃ、誰がどう見ても、匠がリーダーに見えるからだぜ」

「おかしい。俺達のチームのリーダーは木葉だろ」

「でも、その木葉ちゃんが言うこと聞くのは、匠だけだぜ」

 木葉は、匠の言うことを最優先にしているため、事実はどうであれ、周りには匠が実質的リーダーだと認識されている。

 このやりとりが朝から休み時間の度に繰り返されたが、二度目に挑戦しようという勇者はいなかった。





 昼休みも半分過ぎ、一部の生徒は、チーム実習の準備をしている。

 そんな中、一人の生徒が匠と鉄也の元へやってきた。

「あの……、真木君、平賀君、突然で悪いんだけど、今日だけでいいの、チーム加えてください」

「何で?」

 匠は、相変わらずの冷たい反応を返す。

 今日だけという言葉に引っかかりを覚えたが、何かにつけて残ろうとすると判断し、態度を改めることはなかった。

 だが、今回は今までの生徒とは違い、匠に答えることが出来た。

「あのね、連休前に組んでたチームを解散することになって、まだ、次のチームが決まってないの」

「黒田さん、別に一人でも課題は挑めるよ」

「それは、そうなんだけど……」

 急にチームを解散し、一人で課題を受けることになった生徒も、少なからずおり、彼女が特別というわけではない。

 けれど、彼女には少し変わった事情があった。

「実は、連休前にいろいろあって、連休が終わってから誰も組んでくれないの」

 匠と鉄也は、連休前の実習を思い出す。

 そして、魔力回路のつまりを直す実習を思い出した。

「あ、何か実習で揉めてたけど、あれって黒田さんのチーム?」

「うちだけじゃなかったと思うけど、私の言い方が悪かったみたいで、土御門君を怒らせちゃって……」

「土御門か……」

 二人は、記憶の片隅から土御門について思い起こす。

 古流の名家である土御門家の出身で、自信過剰なきらいがある。

 そして、実習での揉め事についても詳しく思い出した。

「何だっけ、確か、技術科で何とかしろって言われてたやつ?」

「そうなの……」

「匠、木葉ちゃん達に聞いてあげればいいんじゃないか?」

「まぁそうするか」

「ありがとう」

 匠は、木葉に連絡を取ると、すぐに承諾の返事が来た。

 二人にしもて、他のメンバーがいいというのであれば、断る理由はない。

 そして、この日のチーム実習に新しく一人の生徒が加わることになった。





 チーム実習の時間になり、実習室へ集まると、匠は周囲から嫌な視線を感じ取った。けれど、何かしてくるわけではないので、その視線の相手に対し、不敵な笑みを浮かべるだけにとどめている。

「やっほー、知ってると思うけど、小川木葉だよ」

「あの、今日はありがとうございます。私は、黒田(くろだ)静江(しずえ)といいます」

 二人にならい、それぞれが自己紹介を始めた。

 そして、一通りの挨拶が終わると、何かを考えていた木葉が、口を開く。

「うーん、しずっち? いや、違う……。くろっち……、よし決めた。しずっちだ!」

 木葉の言動に対し、もう誰も反応しなくなっていた。

 ただ一人を除いて。

「え、あの、小川さん?」

「今日からしずっちだ。それと、木葉だよ」

「あ、はい、木葉さん」

 静江は、木葉から浴びせられた笑顔の圧力に怯え、素直に呼び方を修正した。

 一連の流れが終わると、匠と鉄也が、課題の内容についての確認を始める。

「さて、お約束が終わった所で、課題だぞ。今日は、大量にあるパーツから、使えそうなのを選んで、デバイスを一つ組み立てろって内容だ。ただ、5種類に分けてあるから、ちゃんと分担しろってさ」

「俺は、基板を担当して、匠には、プログラムを頼むから、アリシアちゃんは、魔力吸入口を。ニアちゃんは、外装を。静江ちゃんは、魔力回路をお願い。木葉ちゃんは……」

「木葉は俺と来い。後ろで見てればいいから」

 匠は、木葉に何かさせるのが不安で、木葉を目が見える場所に置こうと考えた。けれど、木葉には、別の意見があった。

「えー、しずっちと魔力回路が見たいよー」

「え、私と?」

「……黒田さん、頑張って」

 戸惑う静江に対し、匠はただ声をかけることしか出来なかった。

 ただ、匠は、木葉が言い出す以上、何かを本能的に察していると考えている。

 そして、木葉と静江が魔力回路を取りに行く直前、匠は木葉の注意事項を伝えることを思い出した。

「黒田さん、木葉には絶対触らせないで。それじゃあ健闘を祈る」

 匠は、それだけ言い残すと、プログラムの選別へ向かった。

 それに対し、その一言を残された静江は、不安のどん底へ叩き落とされている。

「大丈夫だよ、私は触らないから」

 堂々と何もしないと言い切られ、逆に不安になっているが、木葉が先へ行こうとしているため、静江は落ち着く暇もなく、魔力回路の選別へ向かった。

「ほらほらしずっち、魔力回路も覚えてても理解してないから、頑張ってね」

「は、はい……」

 静江は、木葉に見守られながら大量に置かれている魔力回路の確認を始めた。

 ただ、そこにある魔力回路は、酷いものばかりだった。

「これも駄目、こっちも駄目……。ほとんど何かしらの異常を抱えてる……」

 それもそのはず。

 今回の実習用に集められた部品は、すべて不良品で、万が一にも、まともな部品が混じっていることはありえない。但し、部品により、不良品である理由は違うので、自らの技量にあった部品を選ぶことが重要になってくる。

 けれど、今日チームに加わったばかりの静江には、どこまでなら直せるかわからない。

 そこで、大雑把ではあるが、いくつかの魔力回路に目星はつけた。

「木葉さん、真木君と平賀君って――」

「黒田か。あれだけの口を聞いておきながら、よくもまあ俺の前に顔を出せたな」

 最後の仕上げとして木葉に確認しようとした静江に対し、土御門が横から口を挟んだ。

 ただ、その土御門に対し、静江が口を開く前に、声がかかった。

「おやおや、古流の名家出身のくせに、あの程度の回路のつまりも直せないなんて、大笑いだよ。それと、しずっち、あの二人なら、大抵のことは直せるから、回路が繋がってれば、問題ないよ」

「小川……」

 土御門は、苦虫を噛み潰したような顔を見せる。

 入学して二日目に行った模擬戦で、圧倒的な力の差を魅せつけられて以来、土御門は木葉に何も言えずにいた。

 そんなことは露知らず、木葉は一つの魔力回路を掴んだ。

「さてさて、土御門君、君はこの魔力回路を持っていけばいいんじゃないの? ちゃんとした古流の魔法使いなら、直せるはずだよ」

 木葉が挑発的に渡した魔力回路の不具合は、連休前に行われた魔力回路のつまりだ。

 そして、それは一度その魔力回路を見た静江も理解している。

「木葉さん、それは……」

「ふん、それぐらい俺には簡単なことだ」

 そう言うと、土御門は木葉から魔力回路を奪い取り、踵を返した。

 その時の木葉は、とても悪い顔をしている。

「あの……よかったんですか?」

「ん? 何が? どれでも直せるから、早くもどろ」

 木葉は、静江が目星を付けていた物の中から、無造作に拾い上げた。

 たとえ、修理が出来なくとも、付き合いの長い二人が、どの程度の腕前かは理解している。だからこそ、修理できる範囲がすぐに判断できた。

 そして、二人が戻ると、他の面々も戻り始めていた。

「さて、不良品ばっかりだったな。俺はプログラムを修正するから、鉄也、任せていいか?」

「ああ、任せとけ。まず基板だけど、これが一番修理しやすそうだったから、まずはこれを修理する」

 そう言うと、道具を取り出し修理を始める。

 だが、手元を見ながらも、他の部品にも目を配っていた。

「外装は、穴がちゃんと空いてないのか」

「バリ取り、やる」

「じゃあニアちゃん、そのまま頼むぜ。それで、アリシアちゃんのは……」

 アリシアは、選んできた魔力吸入口を見せながらも、肩を竦めている。

「ほとんど同じにしか見えませんでした」

「ああ、いいよ。チームの誰かが魔法を使えればいいから、デバイスに魔力を纏わせられるんなら、魔力吸入口はいらないし」

 鉄也が慰めるが、アリシアは責任を感じ、簡単な修理を行い始めた。

「え、平賀君、デバイスに魔力を纏わせられるの?」

「木葉ちゃんが古流魔法を受け継いでる家系で、その辺りの魔力操作は必須技能だぜ。俺と匠も、付き合いが長いから、覚えたし、アリシアちゃんもニアちゃんも、何だかんだ出来てたぞ」

「そう、なんだ……」

 静江は、魔法科の面々はともかく、同じ技術科の匠と鉄也との、魔法使いとしての差に驚いた。

 二人は、魔法使いとしての基本的な才能は平均クラスだが、訓練次第で身に付けることの出来る技能を身に付けている点で、静江を遥かに凌いでいる。

「静江ちゃん、魔力回路見せてくれる?」

「あ、はい」

 鉄也は、静江が持ってきた魔力回路を確認する。

 鉄也の視線を向けると同時に、静江が簡単に魔力を流すことで、回路の状態を確認した。

「これの修理箇所わかる?」

「わかります。ただ、これにも回路がつまっている部分があるので、私一人では……」

「それじゃあ、つまり以外直して、最後は木葉ちゃんに手伝ってもらって」

「わかりました」

 鉄也は、作業を割り振ると、自らの作業に没頭した。

「それじゃ私はアリっちの作業見てるから、必要になったら呼んでね」

 木葉は、細かい作業の邪魔をしないように害にならない場所へ移動した。

 簡単に直せると言っても、用意された部品が、どれも良く出来た不良品なため、修理に時間がかかる。

 そして、すべての作業が終わる頃には、授業が終わりそうになっていた。

「魔力吸入口が不完全ですけど、大丈夫なんですか?」

「アリシア、魔法使う時に、吸入口に魔力吸わせてないだろ」

「そうですけど……」

 普通の魔法使いなら、魔力吸入口に魔力を吸わせることで、魔法を発動させる。しかし、魔力操作に長けた魔法使いであれば、自らの意思で魔力を流し込むため、魔法の発動速度に差が出る。

 その技術を使えば、魔力吸入口がふさがっていようとも、何の問題もない。

「それじゃ、木葉、頼むぞ」

「はーい」

 木葉、課題で組み立てたデバイスに魔力を流し込み、魔法を発動させる。

 魔法が正常に発動したのを確認し、担当の教師によって、課題の終了が認められた。

 その後、残り時間も少ないので、実習室の隅で待機していたが、木葉が、突然口を開いた。

「しずっち、このままチーム入る?」

「で、でも、私は……」

「土御門君のこと? 別にそんなのほっとけばいいんだよ。本当のことは知らないけど、しずっちのことは、何となく見たもん」

「あー、木葉、ちょっと来い」

 匠は、木葉を連れ、少し離れる。

「アリシアのこと、どうする気だ?」

「アリっちになら、さっき相談して許可貰ったよ」

「ああ、そうなのか。なら、任せる」

 静江が不安そうな眼差しを向けているが、木葉は何事もなかったかのように戻って来た。

「さて、返答や如何に」

「えっと、いいんですか?」

「たっくん達も、いいって言ってるから、問題ないよ」

「ありがとう」

 静江は、ただひたすらにほっとした表情を見せた。

 だが、そこに水を差す男が現れる。

「小川、どういうつもりだ」

「んー、土御門君が何か用?」

 木葉は不機嫌さを隠すこと無く表し、土御門を威嚇した。

「お前達のチームには俺を入れろと言っただろ。夏には日本魔法高校合同新人戦があるんだ。去年の優勝校が私立古都魔法高等学校である以上、選ばれる種目は、学術的な物になるはずだ。ならば、古流の術者である俺が必要になる」

 日本にある半官半民で作られた私立魔法高等学校は、各地方に一校づつ存在し、全部で九校存在する。

 夏には、各校の最優秀チームと、完全な私立の魔法高等学校から選出された混合チームの計十チームによる新人戦が行れ、優勝した学校は、秋に行われる全国魔法高等学校合同選抜戦において、有利になるよう配慮される。

 種目によってその内容は違うが、秋の選抜戦のためにも、新人戦は、負けることの出来ない戦いだ。

 その年の種目は、前年度の新人戦優勝校が決めることになっており、昨年優勝したのが、京都にある私立古都魔法高等学校であるため、古都校が得意とする学術的な種目が選ばれると言われている。

 ちなみに、新人戦や選抜戦の運営にはワイズマンカンパニーが関わっているので、ここで活躍し、ワイズマンカンパニーの目に止まれば、将来は約束されると言われている。

「でも、古都校の中心は古流の名家が占めてるでしょ。古都校から外されて、関東校に来てる土御門君をチームに入れても意味ないよね」

「だが、古都校に対抗するなら、古流の術者の協力が必要なはずだ」

 木葉は、言うべきか言わざるべきか迷った表情をしているが、少し考えただけで、躊躇いなく口を開いた。

「そもそも、新人戦狙ってないから、君、いらない」

「な……ま……」

 土御門は何かを言おうとしているが、言葉に出来ていないため、木葉には通じず、かなりの衝撃を受けている。

 木葉は、土御門の反応を確認し、話は終わったと判断した。

「さて、行こうか」

 そんな二人のやりとりを遠巻きに生徒が見ていたが、木葉達が新人戦を狙っていないと知り、多くの生徒がチームの強化に奔走することになった。





 次の週の月曜日、朝のホームルームの時間、突如校内放送のスイッチが入れられた。

「あー、あー、よし、お前達、聞こえているな。生徒会長の小川玉梓だ。一部の一年のやる気がなかったり、一部の一年が異様にやる気を出しているが、ご存知、全国魔法高等学校合同新人戦の連絡だ。心して聞け。今朝、去年の新人戦優勝校である古都校、そこの生徒会長、古式(こしき)(さき)から各校に連絡が入り、今年の種目が決まった。それは……」

 玉梓がここで言葉を切ると、急にドラムロールが流れるという演出がなされた。

 しかも、そのドラムロールが長く続き、時折、途切れるため、誰かが付き合わされていることは明白だ。

「バトルウィークだ。もちろんルールは知っているな。場所は、青木ヶ原の樹海近辺だ。内容は、簡単にいえば、数日かけて行われる、ある種の遭遇戦だ。ちなみに、私が一年の時もこの種目で、最後に古都校と優勝を争い、勝った。そのため、古式咲には、随分と恨まれている。だから、今年の選抜戦では必ず勝つと宣言されてしまった。まぁ、ある種の巻き添えだが、諦めて励め。以上」

 こうして毎度のことながら放送が一方的に切られる。

 そもそも、放送自体が一方的なものだが、玉梓の雰囲気から、その印象を強く植え付けられた。

「さて、生徒会長からの連絡通りです。目指す目指さないは自由だけど、新人戦出場チームという肩書は、随分と役に立つよ」

 蘆屋のやる気のない声による案内が終わり、クラス中がざわつく。

 匠達のチームが興味ないと言っている以上、自分達にもチャンスはある。そう考えてのことだった。





 その日の放課後、匠は木葉を介し、生徒会室へ呼ばれた。

「なぁ、用件は聞いてないのか?」

「そ、それが……、絶対に連れて来いって……」

 常に笑顔を浮かべている木葉が酷く怯えており、匠はこれから先に待ち受けているであろうことを想像しているせいで、木葉を気遣う余裕がなかった。

「な、なぁ、逃げるか?」

「逃げられると、思う?」

「……」

 匠は答えようとしなかった。

 それは、逃げられず、逃げれば何をされるかわからないからだ。

「木葉、先帰っていいぞ」

 ここに来て、匠は諦めの境地に達したのか、木葉を気遣うように言った。

「たっくん……、駄目だよ。二人に話があるって言われたから、帰ったら……」

 木葉はそこまで言うと、自らを抱きしめ、小刻みに震えだした。

 その姿に普段の面影は無く、ただただ恐怖に震えている。

 そして、二人が現実逃避をしていると、生徒会室へ到着してしまった。

「それじゃあ行くぞ」

 匠が電子生徒手帳をインターホンにかざすと、中から声が聞こえた。

「よしよし、二人共来たな。入って来い」

「し、失礼、します」

「まったく、何を青ざめてるんだ」

 正面には、恐怖心を与える不敵な笑みを浮かべた玉梓が椅子に座っていた。

 その横では、風紀委員長という腕章を付けた恐山(おそれやま)(はく)が、ゆっくりとお茶を飲んでいる。

「お、恐山委員長、来てたんですね」

 薄は、座りながら二人に小さく手を振っている。

「ああ、木葉ちゃん、それと、真木君ですね。玉ちゃんが不気味に笑って怖かったですよ」

「木葉、匠、とりあえず座れ。それと薄、玉ちゃんはやめろ」

「えー、可愛いじゃないですか。あ、お茶淹れますね」

 匠と木葉は大人しく指示に従い、薄にお茶を入れられている。

 けれど、二人は生きた心地がしなかった。

「さて、本題だ。二人共、新人戦に興味がないらしいな」

「……」

 二人は答えない。

 下手に答えると、どんな目にあうかわからないからだ。

「お前達のチームは、最優秀チームだ。さらに言えば、バトルウィークにおいて、優勝すら狙えるはずだ」

「いや、俺は戦えませんよ」

「ほう、口答えするか、いいぞ、もっと言え。匠、お前は二度も災難に遭遇したらしいな。その際に、範囲を決めずに幻術を使い、他の人質にも被害をだしたとか」

 玉梓が匠の様子を観察しながら告げる。

 その一言一言が、匠にとって死刑宣告を匂わせる。

「い、いや、あれは非常事態でして……」

「学園側に、問い合わせがあったんだ。あれは苦労したなー。それでだ、お前は度胸もある、咄嗟の判断能力もある、多様な魔法から適切な魔法をえらべる、そして、情け容赦がない。これほど楽しみな選手はいないはずだ」

「俺は、魔法使いとしてのさいの――」

「才能なんて他人が決めた物差しにすぎん。だが、かつてバトルウィークで優勝した私が言うんだ。私の物差しは信じろ。それと木葉、経験を積んでこい、以上だ。ああ、他のチームメイトには、既に承諾を得た。諦めて、選ばれるよう行動しろ」

 匠は玉梓の言葉に冷や汗をかきながらも、最後の抵抗を試みる。

 けれど、玉梓は既に二人の逃げ道を塞いでいた。

 そして、二人に拒否権はない。

「わかりました」

 二人は恭順を示す。

 けれど、玉梓はつまらなそうな表情を見せる。

「もう少し抵抗がないとつまらんな」

「玉ちゃん、言ってることがちぐはぐだよ」

「しかしだ、この二人は私に抵抗しようとしない。それはつまらんだろ」

「うーん、玉ちゃんに怯えてるから、無理だと思うよ」

 薄ののんびりとした視線が二人を捉える。

 薄には二人がどんな目にあってきたかはわからない。けれど、同級生や下級生の玉梓に対する反応を見れば、過去のことを想像することくらいは出来る。

「玉姉、話はそれだけか?」

「後は、嫌がらせを考えているが、何が嫌だ?」

「それじゃあ、俺達は行くから」

 匠は、木葉を連れて生徒会室を出ようとする。けれど、木葉が匠を引き止めた。

「待って、一つ聞き忘れてる。玉姉、新人戦の出場チームってどうやって決めるの?」

「ああ、一定の基準を超えるチームに、模擬戦をやらせる。その結果次第だ」

「そう、じゃあそれに勝てばいいんだね、わかったよ。たっくん行こう」

 木葉は、過程はどうあれやると決めた以上はやる。そのために手は抜かない。

 そんな木葉の姿に、匠も覚悟を決めることにした。

「とりあえず、情報収集だな。玉姉、新人戦出場チームには、学校をあげてバックアップするのか?」

「ああ、そのつもりだ」

「了解」

 匠と木葉は、生徒会室に入ってきた時とはまったく違った雰囲気で生徒会室を後にした。

 しかし、その中身は、覚悟と諦めが混ざりこんでいる。





 次の日、アリシアが怪我をして登校してきた。匠達はその理由にいくつかの予想を立てたが、静江はアリシアがマホラックの捜査官だということを知らない。また、大声で言うわけにもいかないので、全員のデバイスを調整するという名目で、放課後に実験棟の調整室を借り、集まることにした。

「ニアさんのデバイスすごいですね。これを二人で作ったなんて、尊敬します」

「基本はニアちゃんが設計してたから、俺達は手を加えただけだぜ」

 鉄也と静江がデバイスについて会話していると、アリシアが自身のことを説明するために、近付いていく。

「黒田さん、一つ、お話があります。ただ、この話は内密にお願いします。もちろん、話を聞いたから、手伝えとはいいません」

「あ、はい」

 アリシアの改まった雰囲気に静江は押され気味になった。

 けれど、アリシアの真剣な表情を見て、すぐに気を引き締める。

「私は、マホラックの国際魔法著作権捜査官なんです。この学校には、研修で来ています。ただ、チームメイト以外には知られてはいけないので、黙っていてください」

 静江はアリシアのことばを聞いた。けれど、その言葉を信じることが出来ていない。

 そもそも、マホラックの捜査官は、なろうとしてなれるものではない。

 匠は、アリシアが捜査官になった理由を、簡単にであるが、聞いている。けれど、わざわざ話すことでもないため、他のチームメイトには黙っている。

 そのため、匠以外は、聞いてはいけない物だと察し、誰も聞こうとしていなかった。

「そのことは、私以外は知ってるんですか?」

「はい、知った上で、協力すると言ってくれました。ただ、黒田さんに協力を要請するつもりはありません。お互い実力を知りませんから。ただ、捜査官だということを黙っていてください」

「でも、それなら教える必要ないんじゃ……」

 静江の言うことはもっともである。

 けれど、アリシアには、事実を告げる理由があった。

「これからチームメイトとして共に学ぶんですから、教えられる秘密は、教えることにしたんです」

 アリシアの言うことも理解できないわけではない。ただ、教えられることは、秘密とはいわない。

 静江はそう考えながらも、アリシアが腹を割って話していることに、嬉しくなっていた。

「私は、特に秘密とかないんですけど、秘密は守ります」

「さて、しずっちも共犯者だ。それで、アリっち、その怪我どうしたの?」

 木葉はいい雰囲気になりかけていたのをぶち壊し、本題へと急いだ。

 木葉を除く全員は、呆れつつも、木葉ならしかたないと考え、作業をやめて話を始めることにした。

「察しは付いていると思いますが、捜査官として駆り出されてしまい、その時に負った怪我です」

「あれ? ボーダレスは潰したんだよね」

 木葉の言葉に、静江は驚いているが、そもそも詳しいことを知らないので、どの程度の相手だったのかを理解出来ていない。

 そのため、驚き切れていないように見えた。

「確かに、ボーダレス日本支部は壊滅させました。ですが、あの支部は、日本にある支部を統括する立場で、あそこ以外にも、ボーダレスが潜んでいることが判明したんです。そして、日本国内に残っているボーダレスの構成員が、報復を始めました。各地でマホラック関連施設を襲っているそうです」

「なるほどー。でも、ガリ……ガリ……ガリレオが日本支部の支部長なら、一番強いんでしょ。なら、そこまで手間取ることなの?」

 木葉の疑問ももっともだ。

 ガリレオは神域の研究者として知られており、魔法使いとしての実力も高い。しかし、匠とアリシアが捕まえることが出来たのは、ガリレオが研究者としての興味を優先し、神域を張るという先手を取りながらも後手に回ってしまったからに過ぎない。

 つまり、ガリレオよりも強いわけではないということだ。

「確かに、名前のわかっている構成員では、ガリレオに匹敵する人物はいません。けれど、一芸に秀でた魔法使いとなれば、状況によっては力の差を覆します。それに、ガリレオを捕まえたのは私達で、ボーダレスは、日本全国で動いています。襲撃の規模が大きくなれば、手が足りなくなり、一人で動かざるをえないので、私一人では、この怪我も当然のことです」

「私達も協力するって言ったのに、一人で動いてたのか、まったく」

 木葉はわざとらしく憤慨してみせた。

 それに対し、アリシアも慣れた対応を見せる。

「いくらなんでも突然の出動要請に突き合わせることは出来ません」

「むー、たっくん、アリっちにふられた」

「あー、そうだな。それで、怪我の原因はわかった。次は、玉姉からの話を俺達に黙ってたことについて追求するか」

 匠は、木葉を適当にあしらい話題を変えた。

 けれど、匠の言葉を聞いたアリシア達は、顔を強張らせている。

「いや待て匠、俺達に拒否権があったと思うか?」

「ん? ないに決まってるだろ。そんなことわかってるって」

 鉄也が一番最初に反応するが、匠は悪い笑みを浮かべ、面白半分で追求を始めた。

こんばんは


2章にある程度の目処がつきました。

それでは、今回もお付き合いいただけると、幸いです。

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