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現代魔法の翻訳者  作者: ナート
第一章 ボーダレス
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ボーダレス強襲・後編

 匠達は、鉄也達と別れて通路を進んでいた。

 時折、ボーダレスの構成員と遭遇するが、それは問題にはならない。

「しつこい。『スタート:散火(さんか)』」

 木葉が、迫り来る構成員に対し、魔法を発動させた。

 魔法によって生み出された炎が舞い散り、構成員へ向かって殺到する。

 その躊躇ない攻撃に、構成員達は恐怖を覚えていた。

「木葉……大丈夫なの?」

「私は魔力量が多いからね」

「そうじゃなくて……」

 アリシアは、笑いながら答えた木葉に恐怖を覚えた。

 ボーダレスの構成員は、敵であるが、人間だ。にも関わらず、木葉は遭遇次第、なんと躊躇いもなく魔法を放っている。

 アリシアですら、それが出来るようになるには、かなりの時間がかかった。

「木葉、飛ばしすぎてガス欠になるなよ」

「もー、たっくんまで。大丈夫だよ」

 そんなやりとりを何度も繰り返していると、何度目になるかわからない大きな部屋へ出た。

 ただ、そこには今までと違う点が一つある。

「『スタート:炎夢(えんむ)』待ち構えるなら、見つけ次第撃ってくるもんだろ」

 匠は、部屋の中央で待ち構えていた大量の構成員に対して、魔法で先手を取った。

 多くの構成員は、幻術の炎に焼かれ、身悶えている。だが、その中で数人は、幻術から逃れていた。

「君はその魔法を使い過ぎだよ。解除方法のある幻術は、その方法が知れ渡れば、役に立たないのだから」

「あー、木葉、すまん」

「別にいいよ。本来『炎夢』は、解除方法が固定されてないし、現代魔法としての初期設定がばれただけだから、次から解除方法を変えて使えばいいだけだよ」

「そうか。それで、その解除方法を教えてないのは何か理由があるのか?」

 戦力を確保するためには、幻術を解除する方法を教えるだけですむので、それをしなかったことが、匠に違和感を覚えさせた。

「君達と話がしたくてね。暴走しかねないメンバーには、少し黙ってもらうことにしたんだよ」

「俺達を仲間にでもしたいのか?」

「ああ、そうい――」

「『スタート:火仙龍(かせんりゅう)』たっくん、アリっち、先行っていいよ。ここは私が片付けるから」

 木葉は相手の言葉を遮り魔法を発動させた。

 炎で作られた龍が、幻術で身動きの取れない構成員を飲み込み、この部屋にいる構成員のリーダー格の男へ向かっていく。

 その魔法には、一切の情け容赦がなかった。

 幻術から逃れていた一部の構成員は、炎の龍を避け、道を開ける。

「わかった」

 匠はアリシアの手を掴み、木葉の魔法により出来た空白地帯を駆け抜る。

 木葉は、その後を追いかけ、通路を塞ぐように立ち塞がった。

「さて、雑魚さん達、ここは、通さないよ」

 木葉は不敵な笑みを浮かべながら言った。

 その光景を見て、木葉達に話しかけた構成員は、交渉の余地がないと判断した。

「全員、影を見ろ」

 炎の龍によって焼かれなかった構成員が、リーダー格の男の指示に従い、幻術から逃れ、立ち上がる。

 その顔には、出会い頭に幻術で無効化された恨みが滲み出ていた。

 立ち上がった構成員達は、幻術によって苦しみを味わっていたため、木葉の『火仙龍』に気付いていない。

 その光景を見なかったことが、彼等にとって幸運とは言い切れなかった。





 たっくん達、この先、大丈夫かな。

 木葉は、聞こえなくなる足音に耳を傾けながら、そう考えていた。

 本来であれば、匠の隣には木葉がいるはずだった。

 助けるのであれば、それでいい。

 そして、木葉もそのつもりだった。

 けれど、今朝、その考えが変わった。

 木葉がアリシアに協力するのであれば、今回の主役はアリシアだ。

 だからこそ、木葉が匠の隣で全てを片付けるのではなく、アリシアにこの先を任せることにした。

 今は、二人を信じ、目の前のことに集中する。

 デバイスが二つに、二種類の呪符が大量、これが、木葉の持つ武器。

 木葉にとって、これだけあれば、目の前の敵を制圧するには十分過ぎる。

「さて、か弱い女の子相手に、何するのかな?」

「女に生まれてきたことを後悔させてやる。やれ」

「『スタート:障壁』」

 構成員が銃に手を伸ばした段階で、防御魔法を発動させた。

 障壁が張られた後に、構成員が引き金を引き、弾丸が障壁によって止められる。

 どんなに魔法の発動が早くとも、音声認識の時間が必要なため、銃の引き金を引かれてからでは、魔法の発動は間に合わない。

 魔法使いには、先を読む力が必要と言われていた。

「さて、どうしようか。このまま『障壁』で押さえ続けるのもいいんだけどね」

「ふざけたことを……」

 ボーダレス側の魔法使いは、様々な魔法を木葉へと向けた。

 けれど、木葉が『障壁』へと魔力を流し込み続けているため、ボーダレスの構成員は、木葉へと攻撃を届かせることが出来ない。

「何故だ。『障壁』は、物理障壁のはずだ」

「物理障壁だから、防げるんだよ。これで防げないのは、魔力弾とかの純魔力攻撃だって。まぁ、魔力弾でも、この魔法を維持するための魔力の塊を貫けるとは思えないけどね」

 木葉は、障壁をストックするのではなく、弾丸や魔法を防いだことによって失われる魔力を補充し続けることで『障壁』を維持した。

 張り直す手間と、消費する魔力を天秤にかけた結果、木葉は手間を惜しんだ。だが、これが出来るほどの魔力を持った魔法使いはそういない。

 その現実を目の当たりにしたせいか、ボーダレスの構成員による攻撃が次第に勢いを失っていく。

 そもそも、構成員は必死の攻撃を加えているのに対し、防御に徹しているとはいえ、木葉はかなりの余裕を見せている。

 そんな光景を目の当たりにし、戦意を奮い立たせることは出来ない。

「面倒だし、もういいや」

 木葉はそう呟くと、腰につけた二つのケースに触れ、魔力を流し込む。

 大量の呪符が入った二つのケースは、木葉の魔力に反応し、その蓋を開き、その中から大量の呪符を外へと放出する。

 赤い文字の呪符と青い文字の呪符、それぞれが一つの魔法陣を描く。

「古流魔法か……」

「さて、なんだろうね」

 二つの魔法陣が完成すると、空気中に漂う魔力を吸い始めた。それが、魔法陣を通し、別の力へと変換される。

「魔力が消えていく……」

 木葉の背後に描かれば魔法陣は、次第にボーダレスの魔法使いの魔力すらも吸い始める。

 それは微かな量だが、防ごうとして防げるものではない。

「何で、この状況で、『障壁』を維持出来るんだ!」

「ん? だって、両方私が制御してるんだよ、何言ってんの?」

 木葉は心の底から馬鹿にしたように答える。

 二つの魔法陣により、魔力が消えていくとしか認識出来ないということは、これから何が怒るのか、想像するきっかけすら与えられないということだ。

 この間にも、銃弾や、魔力を吸われ弱々しくなる魔法が、木葉へ殺到しているが、『障壁』によって防がれていた。

 次第に、木葉は、銃声に煩わしさを感じるようになった。

「こんなもんかな」

 木葉が普段学校へ持ち込まないデバイスを構える。

 そして、静かに一つの魔法を発動させた。

「『スタート:神降し』」

 木葉は、デバイスに魔力を流し込む。

 その魔力を使い、デバイスが魔法の処理を開始した。

 けれど、その魔法はすぐには発動しない。

「ふ、魔法の不発か、『神降し』なんて魔法が、現代魔法で発動出来るわけがない。あれは、古流魔法の真髄だぞ」

 木葉はその言葉を無視し、着々と魔法の処理を進めるデバイスを眺めていた。

 デバイスが、魔法の処理を完了し、木葉の魔力を用いて、魔法陣を足元へ描く。

 そこまでが、デバイスに記述された内容だった。

 木葉の足元にある魔法陣が一際輝いた時、ここまでの工程を利用し、木葉は、言葉を紡ぐ。

「身を焦がすような思いも……」

 背後にある赤い魔法陣から放出された火の神気が足元の魔法陣へと吸い寄せられた。

「息苦しい思いも……」

 もう一つの青い魔法陣から放出された水の神気が足元の魔法陣へと吸い寄せられた。

「全部、味あわせてあげる。『神降し:木花咲耶姫(このはなさくやひめ)』」

 二つの神気を吸い込んだ魔法陣が、一際輝き、一柱の神を木葉に降ろす。

 強大過ぎる力は、遥かに力が劣る者が感じ取ることを許さない。

 そのため、敵は、敵として存在することが許されなかった。

「邪魔だよ」

 ただその一言で、木葉の目の前にいる構成員は、舞い散る炎に焼かれ、全てを鎮める水に沈んだ。

 魔法使いであれば、微かな抵抗が出来るが、そうではない人間に、抵抗する術はない。

「何故……神降しが……」

 けれど、木葉は眼前の相手を敵として認識していない。

 その上、今いる建物の上層に、似て非なる力を感じ取ったせいで、そちらに気を取られていた。

「あれは、不味いよね。ごめんね」

 その一言で、木葉は『神降し』の制御を自ら手放した。

 二つの神気が猛威を奮い、辺りに破壊の力として被害をもたらす。

 そして、水の神気は下へ、火の神気は上へと広がっていく。





 匠とアリシアが木葉と別れてからしばらく進んでいると、次第に構成員との遭遇回数が減り、二人に終りが近いと感じさせた。

「匠さん、木葉は大丈夫なんですか?」

 アリシアは、木葉を置いて来てから何度も同じことを聞いている。

 それだけ木葉のことが心配だった。

「大丈夫、木葉は自分で言ったんだ。なら、信じれる。それより、もうそろそろ頂上じゃねーか?」

「わかりました。匠さんが信じるなら私も信じます。前もって手に入れた情報から察するに、次が最上階です」

「何で、ボスってのは、一番奥にいるんだよ」

「匠さん、一つ間違ってます。ガリレオは、日本支部のボスであって、ボーダレスのボスではありません。つまり、中間管理職です」

「ハハ、そうかそうか」

 匠は大きく笑った。

 これから一つの組織の頭と戦うと思っていたが、その相手を中間管理職だと言われてしまったため、急に、大したことのない相手に思えたからだ。

 そして、最上階に着くと、微かな変化を感じ取った。

「アリシア、わかるか?」

「何が……、空気中の魔力が妙な雰囲気です。まさか……」

「ああ、神域だ」

 匠は、この建物の最上階にガリレオの神域が張られていると考えた。

「『スタート:火炎球(かえんきゅう)』」

 匠が、考えを確かめるために魔法を発動させると、デバイスによる処理が完了したにも関わらず、炎の球が出現しなかった。

 そこで、多めに魔力を流しこむことによって、無理やり魔法を発動させる。

「チッ、本物だな。まぁ、完全に魔法が使えないわけじゃないってのが、せめてもの救いか」

「ですが、これは厄介です」

「まぁ、神域が張られている以上、出来る限りのことで何とかするしかないってことだ」

 匠は、そう言いながら懐にある小型のデバイスを確認した。

 木葉には、遠慮せず使うよう言われたが、匠はこのデバイスを使いたくない理由がある。

 それも、一つではない。

 そう思いながらも、使わなければいけないと考えていた。

「匠さん、とにかく向かいましょう」

「ああ、そうだな」

 最上階に上がってからは、構成員と遭遇することはなく、ただ一直線に道が伸びている。

「さて、何か無駄な作りをしたビルだな」

「確か、ルート次第で、壁の向こうに上がれたはずです。それにしても、大きな扉ですね」

 匠達が着いた先には、大きな扉がある。

 そして、その前に着いた途端、扉が開いた。

 その先の部屋には、簡易的な宇宙図の様な飾りがある。ただ、一つ違う点は、その図が、天動説に基づく物だった。

「ここまでこれたのは二人だけか。マホラックは、どれだけの人員を用意したのかな?」

「貴方が、ガリレオですね」

「答える気がないのか、それとも答えを知らないのか。まぁいい、ジーニアス・プロジェクトの成功体、始めは興味があったが、今は君よりも興味を惹かれる者が、二人もいる」

 ガリレオが手元の機械を操作すると、壁にあるモニターが、二つの場所を写しだした。

「木葉と、鉄也達か」

「実に興味深い。ワイズマンカンパニーが保護しているはずの魔眼所有者、それも、珍しい両魔眼の上、異なる魔眼を所持している少女、そして、『神降し』を使える少女。ああ、それを現代魔法と古流魔法を併用することで、『神降し』の高速発動を可能にした君も、含めれば三人か」

 モニターには、特殊なフィルターを付けたカメラで録画されていたようで、ニアが魔眼を発動した場面と、木葉の『神降し』の発動時の様子が、様々な情報と共に映しだされている。

「ボーダレス日本支部のボス・ガリレオ、マホラックからの命令により、貴方を拘束します、大人しくしてください」

 アリシアは、ガリレオの醸し出す雰囲気に飲まれていたことに気付き、切り替えるために目的を口にした。だが、ガリレオはアリシアの言葉に耳を傾ける気はなく、ただひたすらに、モニターと匠を凝視している。

「どうだ、私の部下にならないか?」

「生憎と、ボーダレスに興味はねーよ」

「だがどうする? ここは私の神域の中だ。入口の二人は上がってこれそうになく、『神降し』の少女も、制御を誤りその力を暴走させている。君達だけで、私を捕まえられるのか?」

 火の神気が広がってきたため、ガリレオの神域の中にも、その力が紛れ込んでいる。

 神域は、魔力に影響を及ぼす魔法であるため、木葉によって拡散された神気をどうにかすることは出来ない。そのため、神気の炎が見え始めていた。

「この神域、『天動説』だろ。この宇宙図を媒体とし、お前を中心とした範囲に神域を発生させる。これが、もし『地動説』だったら、本来の宇宙図に、中心とする対象を指定できるのにな」

「フハハハ、君がいれば、それも可能になると思うが?」

「俺じゃ無理だな」

 匠は、そう大声でいうと、小声でアリシアに告げる。

「俺が神域を何とかする。そしたら、任せるぞ」

 アリシアは何も言えなかった。

 神域を何とかする。それには、媒体を破壊するか、神域で相殺するしかない。けれど、ガリレオの媒体は、この部屋そのものだ。

 この部屋を破壊するにしても、どれだけ破壊すれば神域が停止するかわからない。さらに、それをガリレオがただ見ているはずもない。

 けれど、匠には、何とかする方法がある。

 そう感じさせる何かをアリシアは感じ取った。

「なぁ、ガリレオ」

 匠は、そう言いながら歩き出す。

 そして、手には小型のデバイスが握られていた。

「何だね、翻訳者」

「何だ、知ってたのか。なら話は早い。俺は、本気の天才には敵わない。それに、魔法使いとしての力も、普通だ。そんな俺に、何を求める」

「その発想力だ。『神降し』のプログラムは実に興味深い。時間のかかる処理はプログラム化し、複雑で柔軟性の求められる処理は、魔法陣を描き、処理する。さらに、現代魔法の部分は、未完魔法にすることで、魔法としての完成を求められる必要もない。それらを含め、古流魔法と現代魔法を使うに至ったその発想力が、私は欲しい」

 匠が、足を止めた。

「俺が木葉といなかったら、その言葉に乗ったかもしれんが、木葉といなければ、お前の目には止まらなかっただろうな」

 そして、不敵な笑みを浮かべ、小型のデバイスに魔力を流し込む。

「俺は男だからな、これは使いたくなかったぜ。『スタート:神域(しんいき)』」

 匠が、小型のデバイスに魔力を注ぎ込み、魔法を起動させる。だが、その処理にいくつものエラーが発生する。

 匠にはそれがわかっていた。わかっていたが、使うことを選択した。

 小型のデバイスに発生したエラーは、本来であれば、魔法の処理を停止させる程のものばかりだ。けれど、匠は、魔力を操作することで無理やり最終段階まで進め、匠の足元に魔法陣を描いた。その反動で体中に痛みを感じるが、今は、その痛みを無視する。

 だが、そこまでしても、この魔法で行える処理は、ここまでだ。

 ここから先には、別の魔法を必要とする。

「ガリレオ、見せてやるよ。『神域:火中出産(かちゅうしゅっさん)』」

 その言葉と共に、周囲に漂う火の神気を媒体とし、匠の足元に描かれた魔法陣が、不完全ながら神域を発動させた。

 その結果、ガリレオの媒体である宇宙図にヒビが入り、二つの神域が相殺された。

「ガリレオ、木葉は『神降し』を暴走させたんじゃない。制御を手放したんだ。俺にお前の神域を破壊させるためにな。アリシア、やれ」

「『スタート:パーマフロスト』」

「それは!」

 アリシアがマホラックから預かったガリレオを拘束するための魔法を起動する。

 その結果、ガリレオは驚愕しながらデバイスを探す。それに対し、匠は、体の痛みを無視し、デバイスに魔力を込めながら大きく下がった。

「『ファインド:ネット:ダウンロード』くそ、なんてもんを使わせやがるんだよ」

 匠はその魔法の正体を知っていた。

 永久凍土を意味するその魔法は、使用者の視界に映る全てを凍らせる魔法だ。

 そのため、『神域』の中ということで、完全に油断していたガリレオに対し、匠は、気休め程度の拘束に使える魔法を発動し、アリシアの背後へと回るために必死に体を動かす。

 匠にとって、せめてもの救いは、その魔法が発動に時間のかかることだった。

 本来であれば、間違いなく敵に反撃の隙を与える魔法だが、神域を破壊されたことと、匠の魔法によって抵抗する機会を逃したガリレオは、そのまま氷の塊に閉じ込められた。

「ぜぇはぁ、くっそ、前もって魔法を聞いとくべきだった」

「すみません、ここまでの物だとは思わなかったので」

「まぁ、カタログスペックだけじゃ、わからねーよな。映像で見たことあって助かった。それで、これからどうするんだ?」

 匠は、拘束するための魔法を勝手に推測していたため、自らの責任として、アリシアを責めることはしなかった。

 そんなことをしても意味が無いとわかっているからだ。

「この魔法を発動させると、その情報がマホラックに送信されるようになっているので、見張っていればいいと言われています」

「そうか、じゃあ、木葉達には連絡しとくか。それと、木葉のことは、黙っててくれるんだよな」

 匠は、声色を変え、真面目に伝える。

 匠にとって、それは最も大事なことだ。

「ガリレオが収集した情報は、私ではどうにも出来ませんが、私は何も見ていません」

「まぁ、それが限界か」

 匠は、木葉達に連絡し、終わったことを伝えた。

 ただ、気絶させた構成員がいつ目を覚ますかわからないので、十分注意するよう念を押している。

 そして、ボーダレスの構成員の移送が始まると、匠達は、後日の事情聴取を約束させられ、帰路についた。





 連休の最終日、匠達は、アリシアの住んでいるマンションを訪れていた。

「やっほー、アリっち、遊びに来たよー」

「呼び出してごめんなさい。後始末が大変で、時間が取れなくて」

 アリシアが中へ招き入れると、そこは随分と殺風景な部屋だった。

 一応の家具はあるが、機能性重視のため、最低限の物しかない。

「アリっち、家具が駄目。もっと揃えないと!」

「いや、でも……」

「木葉、人の好みもあるんだから、やめとけ」

「はーい、ごめんね、アリっち」

 元々強制するつもりもなかったのか、匠の言葉に大人しく引き下がった。

 それに対して、アリシアは、ただ苦笑するしかない。

 そして、アリシアが準備を終え、呼び出した理由を話し始める。

「まず、ボーダレス日本支部の強襲と連日の事情聴取に付き合ってくれてありがとうございます。マホラックからは、みんなの魔法については他言せず、また、組織内でも無闇に拡散させないことを誓約します」

 これは、主に木葉とニアに向けてのことだ。

 マホラックを運営するワイズマンカンパニーからすれば、魔眼所有者は珍しくないが、両目とも魔眼という存在は、珍しい。

 もし、両目とも魔眼の魔眼所有者の情報をワイズマンカンパニーに知られれば、どこからか横槍が入ると考えた、国連側の人員であるアリシアの上司は、ニアの事を極秘扱いにすることに決めた。

 さらに、『神降し』を行える魔法使いで、古流魔法の名家に所属していない魔法使いは、皆無と言っていい。

 それだけに、木葉の存在は、公になれば数々の厄介事を引き込みかねない。

 そんなことに巻き込まれたくないという考えも隠れている。

「ありがとね」

「ありがとう」

「いえ、これは協力者に対しては当然のことです。続きですが、ガリレオに関しては、マホラックが確保したので、後のことはこちらで処理するそうです。後、みなさんのことですが、今回の件に関して、魔法以外のことも口外されません。また、みなさんからも口外しないようお願いします」

「まぁ、言ってもしなたないし、デバイスマスター志望の俺からすると、魔法戦闘の実績なんて、あってもしょうがないんだよな」

 鉄也を皮切りに、全員が承諾する。

 鉄也の言う通り、全員に、今回のことを口外する理由がなかった。

「ありがとうございます。それで、これからのことですが、もしよろしければ、マホラックの外部協力者として、私を助けていただけませんか? 手厚い待遇などは出来ませんが、マホラックへの就職を希望されることになれば、有利にはなるはずです」

「アリっち、私達は、マホラックには興味ないよ。それとね、私にアリっちを助けることなんて出来ないんだよ。だって、私達は友達なんだから。私に出来るのは、アリっちに協力することだけだよ。だから、マホラックの外部協力者じゃなくて、アリっちの協力者になるよ。ね、いいよね」

 木葉は、匠達に同意を求めた。

 マホラックに協力する義理はない。けれど、協力する相手がアリシアであれば、話は別だ。

 それが、事前に相談した上での総意だった。

「まぁ、相談したからな。アリシアになら、協力するって」

「はい、アリシアさん、貴女に、協力、します」

「そういうことだぜ」

「みんな、ありがとう」

 この時をもってボーダレス日本支部に関する事後処理が終わった。

 けれど、私立関東魔法高等学校での生活は、まだ始まったばかりだ。

皆様こんばんは


今回で1章が終わるので、後書きを書くことにしました。

といっても、特にこれと言ったことがありません。

2章に関しては、大まかな流れと、冒頭しか出来てないので、時間がかかると思います。

それでは、そろそろちゃんとしたあらすじも考えたいと思っています。

今回まで、お付き合いいただき、ありがとうございました。

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