ボーダレス強襲・前編
土曜日の放課後、本来であれば、翌日からの連休に備え、浮かれた雰囲気に支配されているが、アリシアのことが話題となり、一年生は、暗い雰囲気に包まれていた。
「アリっち、何があったの?」
木葉は、匠達が使用許可を得た実験室でアリシアを問い詰めていた。
それに対し、アリシアは、迷いのある表情を見せている。
「木葉、聞いたら頼み事を引き受けてもらわないといけないけど、それでも聞く?」
「まったく、その言い方は卑怯だよ。でも、引き受けるから、話して」
木葉はアリシアを真っ直ぐ見つめたまま、戸惑うこと無く頷いた。
その瞳から強い意志を感じ取ったアリシアは、緊張した面持ちで口を開く。
「実は、月曜日から、短いサイクルでボーダレスによる襲撃が行われているんです。恐らく、私達が保護したメンバーの口を封じるのと、そこから手に入れた情報の解析が終わる前に何かしらの目的を果たそうということだと思います」
「だから、この前少し怪我してたんだ」
「はい、あの時はかすり傷程度でしたが、今回は違う現場で何度も戦ったため、疲労から油断してしまいました」
アリシアは、悔しそうに顔をしかめる。
そこからは、本来であれば、こんな怪我を負うことはなかったという考えが見て取れた。
「それで、その怪我の具合はどう?」
「見た目は酷いですが、綺麗に治る範囲です。骨折とかではないので、行動に支障はありませんし」
「そう、ならよかった。それで、私が引き受けなきゃいけない頼みってのは、協力してボーダレスの襲撃を迎え撃てってこと?」
アリシアが怪我をしたということは、他の捜査官も怪我をした可能性がある。そのため、戦力が減ったのであれば、補充するのが基本だ。
木葉達は、戦力として数えられると言われているため、そう考えるのが、当たり前だった。
けれど、アリシアは首を横に振る。
「そうではありません。昨日までの襲撃で、かなりの数の捜査官が負傷しています。別の区域からの増援も来ていますが、現状では耐えられる保証はありません。また、上位の捜査官を手配していますが、揃うには時間がかかるので、マホラックは、一つの決断をしました。それは、現状の戦力で、ボーダレスを叩くことです。動ける捜査官の中で、怪我の度合いと実力を鑑みて、私もそのメンバーに選ばれました。作戦と呼べるようなものはありません。だから、断ってくれて構いません。ですが、どうか私を助けて下さい」
アリシアは、全てを包み隠さず話し、助けを乞う。
けれど、協力するとは言ったが、捜査官ですらない木葉に、アリシアの頼みを聞く義務はない。
そして、アリシアも、木葉がこんなことを引き受けてくれるとは、思っていない。
それを裏付けるように、木葉は即答した。
「引き受けるよ」
けれど、予想とは違う答えに、アリシアは戸惑った。
正式な捜査官でないアリシアが選ばれるということは、正式な捜査官に勝てる人物が敵にいるということだ。
さらに、作戦と呼べるような物はないため、お世辞にも、楽な依頼とは言えない。けれど、木葉はそれに対し即答した。
「だって、アリっちが助けてって言うんだから、助けるよ。たっくんのことでいろいろ言ったけど、これから同じチームの仲間として学校に通うんだから、当然のことだよ。ね、そうでしょ」
木葉は、作業を続けている三人の方へ振り向きながら声をかけた。
そして、その声に答えるように、匠達は手を振る。
「それで、それはいつやるんだ?」
「準備が出来次第、すぐにでも」
「そうか、鉄也、そっちはどうだ?」
「魔力タンクの補充と、ギミック検定の申請が終わればすぐだ」
「補充は手伝う。後は、名前か」
匠は、ニアを見た。
ギミック検定に通らなくても、魔法は使える。
いざとなれば、必要なポイントくらい、負担しようと匠が考えていると、ニアが口を開いた。
「プリズムスコープ、です」
「ニアちゃん、それじゃあすぐに申請するから、記入よろしく」
「よし、木葉、弾丸に魔力込めるぞ」
「らじゃー」
用意した二種類の魔力タンクに魔力を注ぎ込む。
弾丸型の方は、一発一発に必要な量はすくないが、数が多いため、手間がかかる。
それを時間の許す限り続けることになった。
「弾丸の持つ時間を考えると、連休中にやる必要があるな」
「たっくん、帰ったらデバイスの調整お願いね。私も準備するから」
「調整なら今……、いや、わかった」
匠は、木葉の言葉の意味に気付き、帰ってからの調整を約束した。
アリシアとニアは不思議そうな顔をしているが、鉄也は、その理由を知っているため、余計な口出しをせずに作業を続けている。
「木葉の方は、準備にどのくらいかかるんですか?」
「今日の夜には終わるはずだよ。魔力も寝れば回復するし」
「それでは、支部の方に連絡を入れてきます」
アリシアが席を外し、マホラックの支部へと連絡を入れる。
実験室では、プリズムスコープの最終調整と、魔力タンクへの魔力供給が続いた。
「ニアっち、そのプリズムスコープってスナイパーライフルの形だから、それ持ってると可愛いよ。こうね、ぎゅっとしてるところ見ると、ぎゅってしたくなるんだよ」
「こう、ですか」
ニアが木葉に言われたとおりにプリズムスコープを抱きしめた。
その姿を見た木葉は、弾丸への魔力補充の手を止めててしまった。
「か、かわいい……。ニアっち、抱きしめていい?」
「お断り、します」
木葉がニアににじり寄るが、ニアはそれを気にせず却下した。
だが、木葉もそのままニアを抱きしめる。
「ニアっちが冷たいよー」
「そうか、よかったな」
「離して」
匠は、魔力を補充しているが、匠自身の魔力は、普通の域を出ないので、次第にペースが遅くなる。
その上、木葉の話し相手をしているせいで、余計に体力を消耗していった。
「たっくん大丈夫?」
「調整に必要な体力は残しとくから、大丈夫だ。それと、手伝え」
しばらくすると、支部への連絡を終えたアリシアが戻って来たが、顔色が優れない。
「アリっちどうしたの?」
「支部からの指令で、明日、ボーダレス日本支部を襲撃するよう言われました」
「明日か。なら、問題ないな」
「でも、今日頼んでおきながら、明日なんて……」
「問題ないよ。だって、準備が出来次第でしょ。今日で準備は終わるもん。でしょ、みんな」
木葉の言葉に誰も反論しない。
それが、アリシアにはありがたかった。
「ありがとう」
「それでだ。話はそれだけだったのか?」
「いえ、追加で情報が送られて来ました。構成員のリストと、ボーダレス日本支部の支部長の詳細です」
構成員については、目新しい情報はなく、特に目を引くものではない。
けれど、支部長だけは、別格だった。
「ガリレオ……」
「過去の偉人?」
「そう名乗ってる天才だ。確か、神域研究においては、ワイズマンカンパニーの創設者に継ぐ天才って言われてる」
「神域……ああ、サンクチュアリですか。日本ではそういうんでしたね」
神域、それは、他者の魔法を無効化する領域を展開する魔法で、現代魔法だけでは再現出来ないと言われている。
その発動には、古流魔法独特の仕掛けか、神気と呼ばれる力が必要になるが、発動できれば優位に立てるため、襲撃を仕掛けるには、最悪の相手だ。
「神域か……。まぁ、媒体を壊しちゃえばいいんだし、どうにかするしかないよ」
「木葉、簡単に言うけど、魔法が使えなければ、何かを壊すのも大変よ」
「とりあえず、各自準備を整えておくだけだ。こいつに辿り着く前に負けたら何の意味もないんだからな」
「そうですね。それと、明日の予定ですが、連日襲撃が行われているので、その襲撃のために構成員が出払っているところを狙うことになりました」
現在、アリシアが派遣されているマホラックの支部で用意出来る戦力では、ボーダレス日本支部の敵をまとめて相手するには、心もとないが、襲撃に合わせて相手を足どめするための人員を用意することは出来る。
けれど、向こうの戦力がいつ追加されるかわからない以上、時間をかけるわけにはいかなかった。
「つまり、近くまで行って、襲撃が始まるまで待機か」
「そうなります。集合場所と時間は、後で連絡するので、準備をお願いします」
「わかったよー」
こうして一度解散し、明日集まることになった。
その日の夜、木葉は匠の家を訪れていた。
「さてさて、美少女とこんな時間に二人っきりだよ」
「わー、嬉しいなー、どきどきするなー」
匠は、デバイス調整の準備をしながら、平坦な声色で告げた。
「まったく、ちゃんと感情込めてよ」
「ここで俺が感情込めるようなタイプだったら、こんな時間にこれないだろ」
「ん? 何で? うちは全員認めてるから、大丈夫だよ」
木葉は誘惑するような姿勢をするが、匠はその誘いに乗ろうとしない。
「はいはい、そもそも、こんな機材だらけの部屋で何をする気だよ、まったく」
匠と木葉がいる部屋は、デバイスの整備や作成をするための部屋で、大型の機材があるため、動きまわるための場所も少ない。
「まったく、ノリが悪いな。はい、このデバイスお願いね」
そう言いながら、木葉は三つのデバイスを取り出す。
一つは、学校で使っているデバイス、残りの二つは、学校に持ち込むことのないデバイスで、普段使っている物の色違いと、小型の物だ。
「待て、これもか?」
匠は、残りの二つの中から、小型の物を指さした。
「何があるかわからないからね」
「わかったよ」
匠は、三つのデバイスを順番に調整する。
調整といっても、使用者の魔力の波長を測定し、デバイスに入力するだけなので、大した手間はかからない。
ただ、匠が使っている機材は、精度が高く、細かく調べることが出来る反面、時間がかかる。
その間に、デバイスの整備を行っていた。
「たっくん、わかってると思うけど、遠慮しなくていいからね」
「ああ、俺も死ぬ気はないからな」
こうしてデバイスの調整が終わると、木葉は色違いのデバイス二台を持ち、匠に家まで送ってもらった。
ただ、向かいに住んでいるので、送ってもらうという程の手間はかからない。
日曜日の午前中、木葉は、家の中をひっくり返していた。
「木葉、出かけるなら、前もって準備しておけと言ってるだろ」
「玉姉、手伝ってよー」
木葉は助けを求めているが、そもそも何を探しているかを伝えていない。
そのため、玉梓は大きくため息をつくだけだった。
「ハァ、それで、何を探してるんだ?」
「えっと、デバイスホルダーもう一個何処だっけ?」
「待て、何をしに行く気だ?」
玉梓が真剣な声を出した。
その目には、嘘を許さないという意思が宿っている。
「友達がね、助けてっていうから」
木葉も真剣な眼差しを玉梓に向ける。
玉梓は何も言わず自室へ戻ると、しばらくして何かを手に戻って来た。
「同じ外装だからな。ちゃんと返すこと」
「玉姉ありがと」
そして、準備を終え、出かけようとしていると、背後から声がかかる。
「木葉、何時頃帰ってくるの?」
「あ、お母さん、えーと、夜遅くなるかな?」
「匠君とデート?」
「たっくんもいるけど、学校のチーム全員だから、デートじゃないよ。ご飯は後で連絡するね」
「木葉、その助けてって言った友達は、チームの娘?」
木葉の母親の声色が変化した。
どんな人でも、真面目な話をすると、声が低くなる。
それは、普段やわらかい雰囲気を纏っている人でも、同じだった。
「そうだよ。だから、助けるんだ」
けれど、木葉に返した言葉は、思いがけないものだった。
「木葉、貴女はいつから友達を助けられるようになったの。友達なんだから、対等な関係なんでしょ。貴女はまだ未熟なんだから、貴女に出来るのは、協力よ。自分の力をちゃんと理解しなさい」
そう言いながら、二つの皮で出来たケースが付いたベルトを取り出した。
「これ……」
「何で代用するつもりだったのかは知らないけど、これを使いなさい」
「ありがとう。友達に協力してくるよ」
木葉はケースの蓋を開け、中身を確認した。
そこには、白い呪符が入っており、片方には赤い文字が、もう片方には青い文字が書かれている。
木葉はベルトを巻き、玄関の扉を開けた。
「それじゃ、行ってきます」
匠と木葉が揃って集合場所へ向かうと、ニアとアリシアが既に待っていた。
「匠さん、今度は私が先でしたね」
「いや、競ってたわけじゃないんだが……」
「たっくん、アリっちと楽しそう。ニアっち、やっほー」
「こんにちは」
ただ、この会話は、待ち合わせの20分前の出来事だった。
そして、待ち合わせの時間になった瞬間、最後の一人が現れた。
「いやー、遅くなったつもりはないけど、待たせた?」
「私は助けて貰う立場――」
「てつ君、アリっちに協力する側だからって、待たせちゃ駄目だよ」
「木葉、時間ピッタリなんだから、早く着てたからって、文句を言う資格はないぞ」
匠は、木葉の言葉に微かな異変を感じ取った。
ただ、その異変の正体がわからず、言葉に出来ない。
けれども、気にするべきことではないと判断した。
「それでは、場所を変えて再確認をしましょう」
アリシアは、ボーダレスの襲撃が始まる予想時刻まで時間があるので、簡単な確認を言い出す。
そのため、近くのファミレスへ向かうことになった。
「ニアっち、その服可愛いね。フリフリがいっぱいだよ」
「ありがとう。木葉さんは、匠さんの、好みの、服装?」
「そうだよー。スカート短すぎると怒るから、大変だよー。ところで、その楽器入れには、プリズムスコープを入れてるの?」
「はい。大型の、デバイス、こうやって、隠す、物」
特に、ニアのデバイスは、狙撃銃型なので、中身が連想できない物に入れるのが、魔法使いのマナーと言われている。
木葉は気付いていないが、ニアの服には、弾丸型の魔力タンクを入れた弾倉や、付与系の魔法用の魔力タンクがいくつも隠されている。
正しく、ニアの服装は、戦うための服だった。
それでなくても、魔法使いは、懐に手を入れられるようにして、いつでもデバイスに手が届くような服を着る傾向にある。
そもそも、魔法使いには、デバイスを見せびらかさないマナーというものが存在した。
そして、ファミレスへ着くと、なるべく奥の方にある席に通してもらい、確認を始める。
「それでは、始めます。まず、ボーダレスの襲撃予想ですが、午後の早い時間には、襲撃が始まると思います。ただ、昨日までで、最大三ヶ所の同時襲撃がありました。そこで、移動時間も考えて、三つの部隊が出ているのを確認したところで、私達も突入します。突入するのは、私達以外にも、いくつかの部隊がいるそうですが、残念ながら詳しいことは聞かされていません。ここまでで、質問はありますか?」
ここは、まだアリシアから送られたメールに書かれていたので、誰も口を挟まない。
「それでは続けます。ボーダレスにも、魔法使いがいますが、構成員の数に対して、そう多くはないようです。ただ、どの程度の魔法使いがいるかはわからないので注意してください。次に、戦闘になった時ですが、容赦しないでください。みなさんは、実戦経験がほぼないとは思いますが、一瞬の油断が命取りになります。特に、相手の命に対して手心を加えると、確実に死にます」
匠達が魔法使いとはいえ、一般人である以上、どんな状態であっても、相手の命を奪うことになれば、必ず何かしらの悪影響が出る。
アリシアは、そのことについて心配しながらも、匠達の命を優先するために告げた。
「まぁ、避けては通れないだろうな。拘束系はインストールしてきたけど、それで確実に無力化出来るとは限らないからな」
「何かあれば、私のせいにしてくれて構いません。とにかく、自分達を第一に考えてください」
「まぁ、大事なことだけど、今考えてもしかたないことではあるんだよな。それよりも、そうならないための話をしようぜ」
鉄也が、重くなりそうな空気を変え、話を先へ進めた。
「そうですね。それでは、先に言っておきましょうか。私は、ガリレオ拘束のための魔法をマホラックから預かっています。ただ、処理の多い魔法なので、発動には時間がかかります。なので、ガリレオを確実に無力化しないといけません」
匠は、捜査官専用の拘束系魔法だと判断した。
ならば、いざというときは体を張って押さえ込めば、発動までの時間を稼げる。
そんなことを考えていると、ボーダレスの襲撃予想時刻になった。
匠達は、ボーダレス日本支部の近くで待機し、突入の指示を待つ。
「近くにコンビニがあってよかったな」
「ええ、流石に不自然ですから」
木葉は、ニアと共に、お菓子を買い、店の外で食べていた。
匠は、何か使えそうなものはないかと店内をうろつきながら、アリシアへの連絡を待つ。
そして、アリシアの携帯に連絡が入った。
「匠さん」
小さく声をかけ、連絡が来たことを告げる。
そして、行動を開始した。
日本支部の入口近くでは、他の突入班と、ボーダレスの構成員が戦いを始めており、魔法や、弾丸が飛び交っている。
「木葉、流れ弾に気を付けろよ」
「大丈夫だよ」
「私達はこのまま中へ入ります」
中に入ると、外と同じように戦いが始まっているが、ここではマホラック側が押されているようだった。
建物の地図は入手してあり、ガリレオが使っているという部屋までの道もわかっている。だが、この場をボーダレス側に占拠されてしまえば、増援は期待出来ず、挟み撃ちにあう可能性すら生まれる。
そのことを理解し、もっとも早く行動したのは、鉄也だった。
「アリシアちゃん、俺はここで加勢してくぜ。『スタート:エレキテル』」
鉄也は、デバイスに魔力を流し込み、魔法が発動したのを確認すると、構成員へ向けて腕を突き出した。
拳から放射状に電撃が撃ちだされ、ボーダレスの構成員を撃ち貫く。
「そんな魔法使えたんですね」
「ただの壁役だと思った?」
鉄也は笑いながら答えた。
そう言いながらも、体の動きに合わせれ雷撃を放ち、形勢に変化を与える。
「私も、手伝い、ます」
ニアが狙撃銃型デバイス・プリズムスコープを構え、引き金を引く。
すると、魔力弾が生成され、弾丸型の魔力タンクが排出されると同時に、真っ直ぐ構成員へと飛んだ。
そして、その魔力弾は、命中すると同時に、構成員を大きく吹き飛ばした。
「衝撃を、付与」
「麻痺とか無理?」
「その、系統は、捜査官、特権が、必要」
「まぁ、そういうわけだ。三人とも、先へ言ってくれ」
「でも……」
「鉄也、気を付けろよ」
「ああ」
鉄也とニアをこの場に残し、匠達は、先へと進んだ。
鉄也の耳に、三人の遠ざかる足音が聞こえた。
「ニアちゃんまで残らなくてよかったのに」
「この、お礼」
「そっか、じゃあ気を付けてくれよ」
鉄也が、ニアへ近付こうとする敵へ向けて駆け寄り、デバイスへ魔力を流し込んだ。
「『スタート:竹とんぼ』」
その声に反応し、魔法が起動する。
そして、構成員を殴りつけると、設定された条件が満たされ、鉄也が殴りつけた場所を中心とし、回転しながら吹き飛んだ。
「妙な、魔法」
「面白いでしょ。『スタート:火浣布』」
周囲を確認し、流れ弾に備え、防御魔法を発動させた。
その直後、防御魔法を待っていたかのように流れ弾が鉄也達へ迫る。
防御魔法により、弾丸と魔法の両方を受け止め、何の問題も怒らなかった。
鉄也は、腕の周りにも何枚もの障壁を小さく展開している。
そして、障壁の耐久値がなくなり、砕け散ると、腕の周りに展開していた障壁に魔力を流し込み、大きくして張り直す。
鉄也は、それを何度も繰り返した。
「障壁の、ストック」
「防御に使うなら、必須でしょ」
魔法の著作権による管理は、身を守るための魔法であっても例外ではない。そのため、音声発動では間に合わない場合が存在する。
そのため、魔力を大量に流し込むことで多重展開しておき、必要な時に障壁を移動して使うという方法が確立されている。
そして、ニアは、鉄也の戦い方を見て、身を護ることをやめ、魔力弾を放つペースを上げた。
ただ無言で引き金を引き、確実に命中させ、魔法による衝撃で、壁へと叩きつける。
「このガキが!『スタート:インフェルノ』」
「ニアちゃん、多分壊される」
構成員の放った魔法の炎が周囲を埋め尽くす。
鉄也の魔法で何とか持ちこたえているが、何度か障壁が破壊されており、手持ちの枚数でも、破られるのは、時間の問題だった。
「撃つ」
ニアが短く言うと、後ろを向き、引き金を引いた。
魔力弾が生成され、衝撃の効果が付与される。そして、魔力弾が撃ちだされると、跳弾を引き起こす魔法、『フレキシブル・リフレクト』が発動した。
背後の炎がない所を通り、魔力弾を跳弾させ、『インフェルノ』を発動させた魔法使いを狙う。
その結果、敵の魔法使いは、魔力弾に付与された衝撃で吹き飛ばされ、魔法の制御を手放した。
力の込められない魔法から身を守ることは簡単で、鉄也の魔法は壊されることなく耐え切る。
魔法使いが倒され、ニアの魔法を目の当たりにした構成員は、遮蔽物に身を隠しながら、時折顔を銃だけを出し、鉄也達へ向けて撃ってきた。
さらに、魔法使いは、狙いも付けず、デタラメに魔法を発動させている。
「参ったな。物陰を狙えても、場所がわからないんじゃ、意味ないか」
「試す」
ニアは、何度か引き金を引くが、その魔力弾に手応えはない。
遮蔽物の影も狙えるということは証明出来たが、命中させることは出来ないと宣言してしまった。
ニアが手をこまねいている間にも、入口の広間に向かってくる足音が聞こえる。
匠達が進んだ方へ向かう通路を背にしているので、そこから来られるとまずいが、足音のほとんどは、別の通路から聞こえる。
そのことに安堵しながらも、敵が補充され続けるという状況に、焦りを感じていた。
「二人共、我々が突撃して敵を追い出す。そこを狙ってくれ」
マホラックの正規の捜査官としてのプライドか、この場にいた数人の魔法使いが構成員へ向かって行こうと準備を始めた。
だが、ニアには別の手段がある。
「その、必要、なし」
ニアは、手を顔の前に持って行き、両目に指で触れる。
「ちょ、何を……」
そして、指を離すと、そこには赤いコンタクトレンズが付いてた。
「撃つ。『リモート・ビューイング』」
ニアの右目に描かれている魔法陣に魔力が流れる。そして、ニアの脳裏には、遮蔽物に隠れる敵が見えた。
場所を確認し、ニアが引き金を引く。
敵は、当たらないと考えているが、その考えを撃ち砕くように、ニアの魔力弾が命中し、敵を吹き飛ばす。
「魔眼……所有者……」
鉄也が小さく呟いた。
魔眼、それは、先天的に一つの魔法を有した瞳。
魔法陣という形で瞳に刻まれ、魔力を流しこむことで魔法が発動する。
その仕組が、現代魔法の開発に役立ったと言われており、魔眼所有者のほとんどは、ワイズマンカンパニーに保護されている。
魔眼所有者の瞳に刻まてれいる魔法は、ほぼ全て、古流・現代問わず、人の手による再現が確立されていない。
「ニアちゃん、君は……」
「鉄也さん、他に、魔法、ありませんか?」
「ああ、ごめん。『スタート:エレキテル』」
鉄也が前方の床へ向けて電撃を放つ。
その結果、遮蔽物の下を通り抜けるように電撃が走り、向こう側にいる敵へ襲いかかった。
もともと上手くいくとは思っていなかったようで、遮蔽物の向こうにいる構成員には、防がれているようだが、攻撃手段が一つではないと思わせることは出来ている。
その結果、一方的な戦いになっていたが、それも長くは続かなかった。
構成員が防御魔法を使うようになり、目の慣れてきた構成員は、魔力弾を避け始める。
「自由に使えるのは、まだあるけど、うちの魔法は全体的にネタだあらな。まぁ、応用は利くから、何とかしてみるよ」
そんな鉄也に対し、ニアは顔を向けた。
鉄也は、目にした事実に絶句する。
「それ……」
一つの瞳に一つの魔法陣。だが、それは一人に一つという意味ではない。
何故なら、人には二つの瞳があるからだ。
「行きます。『ヴィジョン』」
ニアの左目に描かれている魔法陣が発動した。
ニアが連続して二度、引き金を引く。
二発の魔力弾が時間差で敵へ迫ると、敵は一発目を回避する。そして、どこに避けるかわかっていたかのように、二発目の魔力弾が命中した。
それを皮切りに、敵が一人、また一人と撃たれていく。
防御魔法により身を守ろうとした者も、障壁を張っていない場所からの二発目により、倒されていく。
最後の敵を倒した時、鉄也はふと、匠達が入っていった通路を見た。
「水の神気……」
「どう、した?」
「いや、何でもない。ところで、ニアちゃんは、大丈夫か? その魔眼、消費が激しいんだろ」
鉄也は、後ろから迫る異質な力のことを頭の片隅に追いやり、この場のことに集中することにした。
敵は倒したが、また増えるとも限らないため、油断できない。そのために、お互いの状態を把握するために、鉄也は微かにふらついているニアを支えた。
「ありがとう。少し、休めば、大丈夫」
「それじゃあ、回復するまで任せてくれ」
この場での戦いは、一先ず終わり、倒した構成員の対処は、マホラックの捜査官に任せた。