嫉妬と怒り
27日、この日、アリシアは登校して来なかった。
木葉からのメールでそのことを知った匠は、嫌な予感を紛らわせながら、昼の呼び出しに応じる。
そして、匠、木葉、鉄也、ニアの4人が食堂の隅の方にある席を陣取ると、匠は、いつもの癖で木葉を隣にしたことを激しく後悔した。
「さて、たっくん、昨日はアリっちに、何をして、ナニをしたの?」
「ま、待て、そんなこと言うもんじゃ――」
「話をそらしちゃ駄目だよ」
感情の篭っていない笑顔を向けられたのは匠だけだが、その周囲にいる人が、例外なく恐怖に背筋を震わせる。
「昼を奢って、買い物に付き合っただけだ」
「本当に?」
「本当に」
「ホントの本当に?」
「本当だ、俺が信じられないのか?」
匠は、卑怯だと思いながらも、木葉の目を見つめながら告げる。
けれど、それに対する木葉の反応は、やはり感情のないものだった。
「信じてるよ。でもね、自分の目で見たものだけを信じるべきだよね。つまり、私が見てない昨日のことは、信じようがないよね」
言い返されたことに対して、匠は何も言えなかった。
けれど、それでは何も解決しない。
そのため、匠は、話をずらすために行動した。
「そもそも、アリシアに確認したのか?」
「メールしたら、返信なかったよ。つまり、欲情したたっくんに、あんなことやこんなことをされたんだ。私には全然手を出さな……ふが……」
匠は、手で木葉の口を塞ぐ。
口で行動する数が、体で行動していた。それは、この発言は、まずいという判断故だ。
「時と場合を考えろ。それと、俺から言えることは言ったから、後は本人から聞け」
匠が一方的に話を打ち切ったため、木葉は、不服ながらも一応の納得を見せた。
そして、会話が一段落したと判断し、鉄也とニアが話に加わる。
「全く、二人は仲がいいなー」
「仲、いい。ところで、昨日、ワイズマンカンパニーで、事件。何か、関係、ある?」
「ノーコメント」
「その、回答は、肯定と、取る」
匠は、ニアが何か知っていると、判断するが、その根拠が勘しかないため、口には出さなかった。
そのため、最後の手段を取る。
「好きにしてくれ」
追求に疲れたふりをし、この後のチーム実習を犠牲にしながらも、話を有耶無耶にした。
次の日、木葉からアリシアが登校してきたと聞き、昨日の様子から食堂で話せないと考えた匠は、放課後に実験室が取れていたため、そこで話をすることになった。
この日も、チーム実習において、不機嫌な木葉の相手をすることになったが、匠は、木葉が何かを言い出す度に、「放課後な」と言い続け、後回しにし続ける。
そして、放課後、匠と鉄也は、他の三人が来るまで、ニアのデバイスに関する作業を続けることにした。
だが。
「匠、さっきから画面をスクロールさせてるだけだぜ」
「あ、すまん」
「作業はしないほうがいいぜ。今までの経験上、何かしらやらかすから」
「ああ、そうする」
匠は、作業中のウィンドウを閉じ、鉄也の作業を眺めることにした。
静かに時間が過ぎて行くと、チームメイトの訪問を知らせるインターホンが鳴った。
「ああ、来たか。開けたぞ」
二人が椅子を集めようとするが、木葉が床に座ると、匠に正座をするよう促した。
「いや待て、俺の濡れ衣は晴れてなかったのか」
「晴れてないよ。だって、アリっちが何も話さないから」
匠は、一縷の望みにすがったが、木葉の笑顔に恐怖を感じたため、木葉の指定した場所に大人しく正座した。
それに習い、他の三人も全員で円を作るように座る。
その際、アリシアが自然と匠の隣に座ったため、木葉の放つ威圧感が増した。
「笑顔って怖い……」
恐怖のあまりに鉄也が漏らした言葉は、幸運にも、木葉には届かなかった。
「さて、アリっち、言い残すことは?」
「えっと、言い訳させて」
「言い訳か……、つまり、認めるんだね。なら、それをもいでやる」
木葉が話を聞かず、アリシアへ襲いかかる。
アリシアは咄嗟のことで反応出来なかったが、匠は予想していた行動の一つだったため、すぐに押さえ付ける。
「たっくん離して、それをもげない」
「落ち着けって、ちゃんと誤解も解けるから」
匠は、そう言ってゆっくりと、アリシアとは反対側に木葉を座らせる。その際に、自然な動きで木葉の頭を撫でたことについて、他の三人は、一切口を挟まなかった。
「それでは、まずこれを見てください」
そういってアリシアが取り出した手帳は、日曜日に匠が見たものと同じ、マホラックの捜査官という身分を示すものだ。
「アリシアちゃん、これマジ?」
「恐らく、本物」
「本物知らないから、わかんない」
三者三様の反応を見せる。
その上、木葉がいつでももげるように準備しているため、匠は、落ち着かせるために声をかけた。
「日曜に確認してるから、本物だぞ」
「……たっくんが言うなら」
「それで、日曜日のことですが、私は上からの指令でワイズマンカンパニーのビルに行くよう言われました。目的は、ボーダレスという犯罪組織の襲撃を退けることです。そこでいろいろありまして、昨日はその事後処理のために学校に来れませんでした」
淡々と話しだすアリシアに対し、木葉は、怒りを露わにし始めた。
「アリシア、匠君を巻き込んだの?」
木葉がいつもと違う呼び方をしただけで空気が一変する。
「ええ、そうです」
「許さ――」
木葉は、デバイスに手を伸ばす。
けれど、匠が、木葉の手にしたデバイスを弾き飛ばし、そのまま押さえ付けた。
「落ち着け、俺は無事なんだから、いいじゃねーか」
「それは結果論だ。危ない目に合わせたんだから――」
「一緒にチームを組んだんだ、そんな相手を無闇に危険に晒すわけないだろ。アリシアは、俺なら大丈夫だと思ったから、連れて行ったんだ」
匠は、なんとか木葉を言いくるめ、心配になりながらもアリシアに続きを促した。
「マホラックは、事前に情報が入った場合、正規の捜査官をチーム単位で送ります。けれど、準備期間が短く、また、戦力的に問題がない場合、各地の学校に研修名目で極秘裏に通わせている捜査官を派遣します。日本ではチーム制があるので、戦力として数えられる生徒とチームを組むよう言われていました。その点でいえば、このチームのメンバーは、最適です」
「でも、アリシアに声をかけたのは私だよ」
そもそも木葉とアリシアの仲が良いのは、小さな理由はいくつもあるが、ただ席が隣だったために、木葉が声をかけたことが、一番大きな理由だ。
「仲良くなったとしても、チームを組むかどうかは別の問題です。それに、本来は、入試成績1位の土御門春清さんに声をかけるつもりでした。ただ、初日と2日目のことを考えると、木葉達と組んだ方が今後の活動がし易いと判断しました」
入試成績上位者の魔法使いとしての成績に、そこまでの違いはない。
入試成績1位が土御門だが、魔法科の入学順位に関与されないデバイス関連に疎いということは、初日の時点で知れ渡っている。
だが、それは古流の名家である土御門の出身者である故、しかたのないことだ。
それよりも、一部では性格に問題があると言われている。
「だからって、匠君を連れて行く必要はなかったはず」
「最初の日曜日、偶然遭遇した事件で、私は匠さんの実力を見ました。授業などで計ることの出来る実力ではなく、実戦での実力です」
「そんなことは聞いてない。何で、匠君連れて行ったの」
木葉は、声を荒らげた。
その言葉の裏には、返答によっては容赦しない。そんな考えが、見て取れる。
「私一人では行くなと厳命されていました。それが直接的な理由ですが、マホラックから渡された情報によれば、匠さんに危険が及ぶ相手ではないと断言出来ましたし、私に匠さんを危険にさらす気はありません。確かに、結果論ではありますが、無事にこうしていることが、その証明です」
「……そう、いろいろ納得いかないけど、今回は許してあげる。でも、たっくんに怪我を負わせたら、絶対に許さないよ、アリっち」
木葉は不器用な笑顔をアリシアへ向けた。
それにより、実験室の空気が緩んだ。
「まったく、木葉ちゃんは、匠のことになると、人が変わるからなー」
「仲が、いい」
「心配し過ぎなんだよ。俺は、やばいと思ったら、すぐ逃げるし」
「だって、たっくんが私より胸の大きいアリっちに誑かされないか心配なんだよ」
木葉が匠に抱きつき、気を和らげながらアリシアを見つめる。
それに反応し、アリシアは体の前で手を交差した。
「そんなこと……、しませんよ」
「今の間、何? 友達だと思ってたのに、泥棒猫だったのか!」
「私は猫じゃなくて、木葉の友達です。そういえば、匠さん、どうして私が『エクスプロード』を使えるってわかったんですか?」
アリシアは、言いたいことだけを言い、話を切り替える。
そうしなければいけないと直感していた。
『エクスプロード』などの強力な魔法は、マホラックにより使用が制限されており、公的機関などの許可がないかぎり、使うことは許されない。けれど、それは、許可があれば使えることを意味する。
「マホラックの捜査官なら、捜査官特権で使用許可出てるだろ。『ブリザード』も同じようなもんだし。それに、壊せっつったけど、魔法を特定してないぞ」
「そういえば、そうでしたね」
アリシアはあからさまな逸らし方には触れずに匠は話を続けた。
二人の思惑は上手くいき、木葉の興味が逸れる。
「ねぇ、たっくん、捜査官特権て学生特権と何か違うの?」
木葉の言葉を聞き、四人は、「これもか……」そう小さく口にした。
「学生特権はわかるよな。所謂学割だ。捜査官特権ってのは、特定状況下でのみ割引が適用されて、使用制限のかかってる高出力魔法も、使えるんだよ。ただし、事後承諾で、いろいろ面倒くさい手続きがあるらしい」
「なるほど、敵と戦うのに、ポイント気にしてらんないから、割引されて、凄い魔法も使えるのか」
「でも、捜査官特権の割引は、事後にポイントでの払い戻しなので、慎重にならないといけないんです。そういえば、匠さん、『カノン』と煙幕の魔法、申請すれば、ある程度はポイント戻って来ますよ。特に、煙幕の方は、音声発動の割引がないから、定価でしょうし」
「あー、『カノン』の方は頼む。制限かかるほどの魔法じゃないけど、かなり高いから。それと、煙幕の方は、デバイスがギミック検定通って、音声発動と同じくらいの割引率になってるから、問題ねーよ」
「あの検定通ったんですか!」
アリシアは驚きのあまりに大きな声を出した。
その横で、木葉が首を傾げている。
「木葉さん、入試、総合成績、1位、です、よね?」
「ニアっち、私はね、記憶してても理解してないんだよ。それで、たっくん」
「ああ、わかった、教えるから。まず、ワイズマンカンパニーが音声発動を推奨してる理由、わかるよな」
「もちろんだよ。かっこいいからでしょ」
実験室が沈黙に支配された。
何故なら、木葉の回答が間違っているからではなく、本当に木葉の回答が正しく、その事実を再認識させられたからである。
「ああ、そうなんだよな。そのせいで、デバイスを手動で操作して魔法を発動させると、ポイントの消費が半端無いんだ。音声発動が通常価格って言われるくらいにな。それで、ギミック検定ってのは、発動方法において、ワイズマンカンパニーが認めれば、割引が適用される検定だ。前に作った衝撃で魔法が発動する特殊形状デバイスあるだろ。検定の担当者に忍者好きがいたらしく、煙幕系の魔法限定で、検定通って、割引が適用されるようになったんだ」
「つまり、煙玉を再現したから、割引なんだね」
「……まぁ、間違っちゃいないな」
ちなみに、このギミック検定に通ることは稀で、デバイスマスターの夢と言われているが、判断基準が、高い技術ではなく、「夢」とだけ伝えられている。そのせいで、高い壁と考えられているが、日本人のデバイスマスターには、ギミック検定を通すことが出来た人物が多い。
「そうそう、ニアちゃん、例のデバイスも、ギミック検定に出すから、通ればあのデバイスでもちゃんと割り引かれるよ」
「ありがとう」
「いや、いいんだよ。ただ、あのデバイスで発動出来る魔法が、発射系と付与系と跳弾系の魔法だけになりそうなんだよね」
「それで、大丈夫。他の、魔法は、通常の、デバイスを、使う」
全員の話が一段落し、ニア用のデバイスの作成に移ろうとすると、アリシアが意を決し、一つの相談を持ちかけた。
「皆さん、私から一つお願いがあります。図々しかもしれませんが、私を助けてください」
アリシアが頭を下げて頼み込んだ。
それに対し、木葉は無言で近付く。
「アリっち、私のこと、何だと思ってる?」
「私は、友達だと思ってます」
アリシアの答えを聞き、木葉は満足したように頷く。
そして、詳しい話を聞かずに結論を出した。
「なら、いいよ。どうせ、捜査官のお手伝いでしょ。ただし、出来る範囲だけね」
「俺はもう手伝うって言ってあるしな」
「デバイスをいじることしか出来ないぜ」
「協力、する」
アリシアに対し思い思いの返事をする。
「ありがとうございます」
チームを組んでからの時間は短いが、木葉を中心とした人間関係が出来上がっており、その絆を再確認した。
そして、鉄也とニアは、デバイスの作成に移ったが、アリシアが、匠と木葉を呼んだ。
「二人は、強力な魔法の使用制限を緩和させることが出来ますが、申請しますか?」
「いくら強力でも、私にはたっくんが翻訳してくれた魔法があるからいらない」
「俺を戦力として数えないでくれ」
二人は、それぞれの理由で断る。
そもそも、二人は、アリシアに協力するとはいったが、捜査官という立場に近付く気はない。
アリシアもそれを感じ取ったのか、無理に勧めることはなかった。
「そういえばさ、アリっちは、部活決めたの? 今考えると、私達が駄目だった時の候補者選びも兼ねてたみたいだけど」
「やっぱりばれてたんですね。まぁ、その必要はなくなったので、木葉と一緒に風紀委員会の外部協力者にでもなろうかと」
「私に続き、アリっちまでもか。近衛君が可哀想になるね」
「そこは気にしてもしかたありません。それで、本題ですが、この間の犯人は、やはりボーダレスの構成員でした。あの娘のデバイスにも、違法パッチがインストールされていたので、そこから、セキュリティの強化を図るそうです」
二人にとって、違法パッチやセキュリティの話は、聞いたとしても何かあるわけでもなく、聞き流していたが、一点だけ、木葉にとって聞き捨てならない部分があった。
「たっくん、あの娘って誰?」
「何故そこだけこだわる……」
木葉が、恐怖を与える笑みを浮かべるが、そのことについて、匠から教えるわけにもいかないので、アリシアへと視線を向ける。
「えっと……、イギリスにいた頃の知り合いで、ボーダレスに利用されてた娘がいて、一昨日は、その娘を保護したんです」
「ふーん、そういうことにしといてあげる」
木葉は納得を装い、これ以上は聞かないことにした。
アリシアが黙っているのではなく、嘘をついたことに意味を感じ取ったからだ。
木曜日の朝、匠と木葉が登校していると、木葉がある変化に気付いた。
「ねぇ、たっくん、何かさっぱりしてるけど、昨日の祝日に何かあったの?」
木葉の顔は笑っている。けれど、目が笑っていない。
そのため匠は下手なことを言うと大変な目にあう。そう考えたが、正直に答える以外の選択肢が存在しなかった。
「お祓いに行ったんだよ。二度目は意図的だったとはいえ、面倒なことに遭遇したし、手伝う以上、不安要素はなくしておきたかったからな」
「私に頼めばただでやってあげたのに」
木葉がふてくされながら言うが、匠は訝しむ視線を向けた。
「木葉の場合、ただのコスプレになるだろ。お祓いも、ある種の古流魔法だぞ。木葉はお祓いの魔法持ってねーんだから」
「ぶー、お祓いは行けないから、気分だけ味わったっていいじゃん」
「はいはい、今度な」
匠は、適当に流すが、木葉は約束として処理した。
その日の午後、チーム実習で集まると、アリシアに対して同じ質問が集中した。
「その怪我どうした?」
「ほら、やっぱり皆気になるんだよ。まったく」
「いえ、昨日もボーダレス絡みのことがあって、少し油断してしまいました」
昨日は祝日で、学校が休みだったため、正規の捜査官と行動を共にしており、荒事の際に、小さな傷を負っていた。
だが、このやりとりは、木葉とニアで消化していたため、匠と鉄也からの質問は、軽く流された。
「ところで、今日の実習なんだっけ?」
「協力して備え付けの大型デバイスを修理して、指定した魔法を使えってさ」
「この課題、何度目?」
「今は、チームを、試す、期間。同じ、課題、しょうが、ない」
大型連休が終わるまでは、生徒達の離合集散を前提にしているので、それぞれの相性や生徒個人の能力を見るために、基本的な課題が何度も行われる。
この時期は、匠達のように固定しているチームの方が珍しいので、このような不満が出ることは滅多にない。
「まぁ、毎回修理箇所は違うから、俺は楽しいぜ。流石に、前回は騙されたけど」
「ああ、デバイス本体に修理箇所があると思ったら、ソフト面だったからな。しかも、えげつない位置だった。まぁ、始めるか。アリシア、ニア、準備が出来るまで、絶対に木葉を近付けるなよ」
「ちゃんと分解して特定したら、教えるから、待っててね」
アリシアもニアも、ある程度の知識は持っているため、修理を手伝うことは出来る。ただ、木葉が修理途中のデバイスに触れると、高確率で不運な事故が起きるため、木葉を押さえることが、二人に与えられた最も重要な役目になっている。
「私だって日々成長してるから、調整くらい出来るのに……」
「調整ではなく、修理。鉄也さんの、行っている、作業から、察するに、魔力回路、異常。木葉さん、確実に、壊す」
微かに抵抗をするが、作業内容から修理箇所を把握できなかったため、これ以上の反論を諦めている。
そもそも、アリシアとニアに両側から押えられているため、わかったとしても何も出来ない。
そして、しばらくすると、匠の手が止まった。
「こっちは確認完了だ。鉄也、そっちはどうだ?」
「ああ、もう少しで……、くそ、えげつない仕掛けだ」
鉄也の手が止まり、不安だらけの顔をしながら木葉を見つめた。
「おい、待て、まずは説明してくれ」
「ああ、回路の一部がつまってる。時間と材料があれば、直せるけど、今回の配られた道具じゃ無理だ」
「ああ、えげつないな。他のチームなら、安心して出来るが、あいつに任せるなんて……」
魔力回路のつまりは、初期不良どころか、出荷前の検査で必ず確認される項目の一つで、そんな異常を抱えたデバイスが流通することは、まずありえない。
そんな異常を目の前にして、二人は改めて木葉を見つめた。
「どしたの?」
「木葉、協力……、いや、頼っていいか?」
「ふむふむ、私の力が必要なんだね。しょうがない、他でもないたっくんの頼みだから、頼られてあげる」
「木葉さん、甘い」
匠の言葉に気を良くした木葉は、ニアの呟きを流し、匠のもとへ駆け寄る。
「それで、何するの?」
「木葉、一応言っておくぞ。誰かに頼られても、内容を聞いて、考えてから答えろよ」
「大丈夫。みんなの頼みしか聞かないから」
木葉の答えに唖然としながらも、それなら大丈夫と無理やり納得させ、匠は、先へ進むことにした。
「それと、他のことはするなよ。それでだ、回路の一部がつまってるって話はしたな。これは、故障というよりも、製造時の問題だな。まぁ、詳しい話は省くが、それを直す方法が二つある。一つは、作り直しだ。そして、もう一つ、大量の魔力を流し込み、つまりの原因を押し流すことだ。それも、ただ流すだけじゃ駄目だ。圧力を高めて、一気に流すんだ」
「それって、前にやった魔力タンクの時みたいに?」
「ああ、そうだ」
「なるほど、それは木葉向きですね」
「現代魔法を、メインに、している、私達は、魔力の、圧力、操作が、苦手」
現代魔法では、必要量の魔力をデバイスに供給する技術を必要とされており、魔力の圧力で、何かをなすという作業を必要としない。
そのため、魔力操作は出来ても、魔力の圧力操作が出来ない現代魔法使いは多い。
それとは逆に、古流魔法では、魔法陣などを用いる時に、魔法陣を描く材料が悪いと、魔力がスムーズに流れないことがあるため、そういった技術を習得していることはよくある。
「木葉ちゃん、ここから魔力を流し込んでね」
「了解だよ、てつ君」
木葉が準備をすると、匠と鉄也がデバイスを構え、万が一に備える。
そして、振り返っている木葉に対し、頷き、作業が始まる。
「いっくよー」
木葉が掛け声と共に大量の魔力を、瞬間的に流し込む。
その結果、人為的に作られたつまりは、木葉の魔力に抵抗できず、あっという間に流された。
「ねぇ、歯ごたえがないよ」
「歯ごたえのあるつまりなんて、それつながってねーよ」
「まあまあ。木葉ちゃん、最後の確認するから、変わってくれる?」
「はいよ。後お願いね。手伝ったら満足したから、魔法使うのは、誰かに任せるよー」
木葉は自ら離れた位置に座り、課題が終わるのを待つ。
その後は、何のトラブルもなく、順調に課題を終わらせた。
ただ、順調に終わったため、時間が余ってしまい、今回の実習を担当している教師から、他のチームを見てやって欲しいと言われ、匠は木葉を連れ、アリシアは一人で他のチームを回ることになった。
「それで、ニアちゃん、例のデバイスだけど、名前付けてくれる? ギミック検定の担当者に、言われちゃってね」
「煙幕用の、デバイス、名前、あるん、ですか?」
「ああ、あれはふざけて煙玉ってしといたら、それ含めて気に入られてたんだ」
二人の作った衝撃で魔法が起動するデバイス全般を煙玉という名称で呼ぶことになったため、その外装が、サイコロであろうと、ストレートタイプの携帯電話であろうと、その中にインストールされている魔法が、煙幕系の魔法である限り、魔法使用時のポイント消費は、割り引かれたままだ。
これは、外装を除いた仕組みに対して、検定がおりた結果である。
「そう、ですか」
「まぁ、日曜から連休になるから、ゆっくりでいいよ。物自体は、土曜に渡せると思うけどね」
「ありがとう、ございます。思い、ついたら、連絡」
相談が終わると、二人も他のチームの手伝いへ向かう。
今回の修理箇所が特殊であり、その対処法も特殊な方法であったため、一部の生徒の間でいざこざがあったが、匠は今回の課題が何度も出ることはないと考え、頭の片隅に追いやった。
金曜日、アリシアが登校してこず、土曜日には、あちらこちらに包帯を巻いた状態で遅刻して来たため、学校中の噂になった。