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現代魔法の翻訳者  作者: ナート
第一章 ボーダレス
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デバイス作成

 火曜日の放課後、匠と鉄也は、研究部の休憩室でニアのデバイスについて話し合っていた。

「一発撃つのに、魔力弾の生成に、特殊効果付与と発射、そして、跳弾の魔法を数回だな」

「魔力弾の生成は、魔法じゃないからいいとして、特殊効果付与と発射と跳弾はポイントを使わざるを得ないよな」

 魔力弾を発射する魔法は、その過程において差別化がしにくい魔法のため、最初に作られた魔法が、もっとも使われている。

 そして、特殊効果と一口に言っても、属性付与や、貫通力強化など、様々な種類がある

「いや、ポイントを使うのは、付与と発射だけだ」

 そういって匠が見せたのは、ニアの用意した跳弾の魔法について記載された二つの資料。その製作者には、ニア=マギリと記されていた。

「自前で用意したのか」

「まったく、魔法科入試成績4位、ニア=マギリ、なんでこんな奴が、俺達にデバイスを任せたのか……」

「よく調べたな」

「玉姉に頼み込んだよ」

 その一言をいうと、匠は疲れきった表情を見せた。

 まるで、思い出したくないように。

「せめてもの救いは、これがそこまで高度な魔法じゃないってことか?」

「流石にスペルマスタークラスの生徒がごろごろいたら、俺に価値はないよ」

「技術科じゃ、匠は天才って呼ばれてるぜ」

「やめてくれ、俺じゃ本気の天才には敵わないのはわかってるんだから」

 匠は、苦虫を噛み潰した顔をした。

 鉄也は、その理由を知っているため、傷口をえぐるような真似はしない。

 匠は、頭を切り替えるために左右に振り、デバイスへと意識を戻す。

「そうそう、魔力消費の大きい魔法ってのは聞いたのか?」

「いや、教えてくれなかったよ。ただ、そうそう使うものじゃないけど、使うと慣れば、一発一発と併用するらしい」

 二人が如何に魔力の消費量を減らすかを考えていると、外が騒がしくなった。

「いやー、すまんな、せっかく手伝って貰ったのに」

「いえ、いいんですよ。でも、私の魔力量が少ないばかりに、お役に立てなかったようで」

 聞き覚えのある声に反応し二人が入口を見ると、二人の生徒が休憩室に入ってきた。

「おや、君達が、今年の新入部員か。俺は部長の川崎(かわさき)(しげる)だ。デバイスマスター志望だから、相談は、機械部分だけにしてくれよ」

「二人共、こんにちは」

 聞き覚えのない声の持ち主である川崎は、大柄な人物だった。

 そのため、横にいる音羽との身長差は、かなりのものになる。

「こんにちは。俺は、1年の真木匠、翻訳者志望です」

「同じく、1年の平賀鉄也、デバイスマスター志望です」

「翻訳者志望とは、また珍しいな」

 翻訳者には、古流魔法使いとの付き合いが必須になるため、一つの学年に一人もいないこともある。そのため、珍しいと言われることは、珍しくない。

「でも部長、真木君は、スペルマスター志望の生徒に引けを取りませんよ」

「ところで部長、何かあったんですか?」

 鉄也は、同じデバイスマスター志望ということで、部長である川崎の抱えている問題に興味が沸いている。

 匠は、鉄也が話を逸らしたため、何も言わなかったが、少し安堵していた。

「ああ、俺は魔力タンクの研究をしていてな、それを手伝って貰ったんだ」

 魔力タンクとは、魔力を溜めておく外部装置で、いざというときのために溜めておく魔法使いは多い。けれど、魔力を維持しておく時間や、溜められる量に問題があるので、多くの人間が、研究を続けている。

「あー、デバイスマスターなら、誰もが一度は通る道ですよね」

「その通りだ。俺は、魔力量が少ないから、これがないときつくてな」

 一般的な魔力量を持つ二人にとって、そこは触れてはいけない領域に思え、口を開くことが出来なかった。

「それで、部長は私に強度実験を頼んだんですけど、いっぱいにならなくって……」

「なに、放課後だからな、実習とかで魔力を使う以上、しかたのないことだ」

「そういうのって普段はどうしてるんですか? この部って技術科だけみたいですし」

「ああ、蘆屋先生に頼んで、他の部活にデバイスの調整と引き換えにテスターをしてもらってる。ただ、魔力タンクの強度実験は嫌がられるんだ」

 他の部活の部員ということは、その練習で魔法を使うことになる。

 だが、強度実験で魔力を使い果たしてしまえば、その日の練習し支障が出る。

 それを避けるのは当然のことだ。

「魔力が多くて、授業後も余ってて、使いきっても文句を言わない人ですか。技術科の知り合いにはいそうにないですね」

「俺と匠の知り合いってほぼ共通だからなー」

「それに、魔力量が多ければ、基本的に魔法科に行くから、そもそも知り合えそうにないな」

「こればっかりはしょうがないさ。数日かけてやるだけだ」

 二人は部員になった以上、何かしらの協力をしたいと考え、頭を働かせる。

「……あ、木葉」

 川崎が諦めていると、匠が何かを思い出した。

「木葉ちゃん帰ってるだろ」

「いや、玉姉に、帰宅部は駄目って説教食らったとかで、風紀委員会の外部協力者にさせられてたから、いるかもしれん。先輩方、ちょっと知り合いに連絡してみます」

 風紀委員会のメンバーは、各クラスから一人選出される。けれど、人手が足りない時の有志代わりに、外部協力者という枠組みが存在する。

 ただ、権限を与えられた時しか強権を持てず、完全に見返りのないボランティアなので、なる人は少ない。

 だが、外部協力者にも、ある程度の研修が必要なので、なったばかりの日であれば、まだ残っている。匠はそう考え、廊下に出て連絡を入れた。

「外部協力者でも、風紀委員なら、魔力の消費を嫌がると思うが?」

「いや、木葉ちゃんなら、匠の頼みは断りませんよ。というか、見回り名目で、実験棟にいるかもしれませんし」

 そして、しばらくして匠が戻ってくると、隣には木葉がいた。

「こんにちはー。魔法科の1年、小川木葉です。呼ばれたので着ちゃいました」

 川崎と音羽は、木葉のテンションについていけていなかった。

「……ああ、部長の川崎だ。ところで、小川って、あの小川か?」

「あの小川っていうのが、玉姉のことを指しているのなら、その小川ですよ」

 川崎は、何かに悩む素振りを見せると、匠へと向き直った。

「これは、俺とお前達という、部活の中での関わりだな?」

「怯える理由はわかりますが、その通りなので、安心してください」

 川崎は、匠の言葉に安心し、木葉に頼むことを決める。

 ただ、同じ三年にも玉梓が恐れられていることを匠達が理解することになった。

「それで、話は聞いてると思うが、手伝ってくれるのか?」

「たっくんの頼みですから」

 木葉は、いつも以上の笑顔で答えた。

 何故なら、風紀委員会の外部協力者が、想像以上に退屈で、暇を持て余していた。

「それじゃあ早速頼む。皆も来てくれ」

 今日、川崎に使用権のある実験室に着くと、音羽が手伝いながら、準備を始める。

「木葉ちゃんには私が説明するね。魔力タンクは、あの透明な箱の中にあるやつで、このコードを経由して、魔力を流し込んで。現代魔法も使えるみたいだから、大丈夫だと思うけど、魔力の流し方は、デバイスに流しこむのと同じだよ」

 ここにも一人、呼び方を矯正された人物がいた。

「はーい。もういいですか?」

「ちょっと待ってくれ。最後に、これは強度実験だから壊すのは構わない。けれど、流し込む量は少しづつ頼む。それと、こちらが止めたら、その時点でやめてくれ」

「わかりました」

 そして、川崎が合図を送ると、木葉は魔力を流し始める。

 計測機器の画面には、流し込まれている量が表示されている。

 その量が次第に増えていき、仮で設定されている許容量を超えた。

「凄いな、この魔力量は」

「そうですね、古流の名家ならわかりますけど、古流の魔法が伝わってるだけの家で括れば、トップクラスです」

「あの生徒会長も規格外だが、その妹も凄いな」

 川崎と音羽は、木葉の魔力量に、ただただ驚くことしか出来なかった。

「部長、あの箱、魔力を吸収して強度が増すやつだと思いますけど、大丈夫なんですか?」

「ああ、信頼と実績のある道具だからな」

 研究部の部長の言葉なので、匠は信じることにしたが、自然と手がデバイスに伸びている。

 その行動事態は、周囲に気付かれているが、誰も咎めることはなかった。

「部長さん、少し引っ掛かりを感じるんですが」

「ああ、満タンになったんだろう、場合によっては少し強くしてくれ」

「はーい、そんじゃ、いっきます」

 木葉が少し気合を入れながら、魔力を流し込む。

 その結果、魔力タンクから妙な音がし始めた。

「そろそろだな。真木、やばいと思ったら、すぐに使えよ」

「わかってます」

 魔力を流し込まれている魔力タンクが震えだし、今にも壊れそうに見えた。

「部長さん、そろそろ壊れますけど、いいんですか? というか、何か入らなくなりましたよ」

「ああ、それは安全装置だ。気にせず突っ込んでくれ」

「りょーかい」

 木葉が気合を入れて魔力を流し込むと、それをきっかけに魔力タンクが爆発し、魔力が溢れ出す。

 ただ、魔力タンクを収めている透明な箱は、物理的衝撃も、魔力の奔流も抑えこみ、一切を外に伝えなかった。

「いやー、助かったよ。これで、次へ進める」

「いえいえ、いいんですよ。魔力タンクの外装が、物理的に強固なだけじゃだめってのは知ってますけど、この透明な箱の材料じゃダメなんですか?」

 木葉の言葉を聞いた瞬間、匠と鉄也は驚愕を露わにしている。

「な、何で、木葉が、そんなこと知ってんだ……」

「そのくらい知ってるよー」

「まぁまぁ、驚くのもそのくらいにしといてやれ。いいか、この箱の素材については、さっき真木が言ったな。つまり、この素材を使うと、ただでさえ長持ちしない魔力が、あっという間になくなっちまうんだ」

 魔力タンクに溜め込まれた魔力は、一週間持てばいいと言われているほど長持ちしない。

 そのため、魔力タンクを研究している研究者達は、一週間を超える期間を維持しようとしている研究者と、一週間でよしとし、溜め込む魔力の量を増やそうとしている研究者の二つにわかれている。

「魔力を吸収しちゃうのか。でも、限界はありそうですね」

「まっ、そういうことだ。どっかでは、限界まで吸わせて、強度を高めてから素材にしようって研究もあるらしいが、上手く言ってないらしいぞ」

「部長、小型化は、どのくらい進んでいますか?」

 突然、鉄也が口を挟む。

 その顔は、何かを思いついたようだった。

「量と期間によるぞ」

「最低3日あればいいはずです。量は、最低でも大型の魔力弾生成が出来るくらい。欲を言えば、発射と跳弾の魔法も使えるといいんですが」

「なるほど、大きさは弾丸か。でも付与はどうする?」

「それは、グリップのところに、付与用の魔力タンクを別で付けるさ。まぁ、ちょっと制御が大変だけどな」

 二人は、ニアに頼まれたデバイスの作成で、消費魔力を減らすのではなく、別の方法を考えついた。

 それは、弾丸に込めた魔力を使うことで、ニアのいう消費の大きい魔法の分を補おうという考えだ。

「何だか妙なものを使ってるな。まぁ、その大きさなら、十分作れるぞ。手伝ってもらったお礼も兼ねて、資料はくれてやる。どうせ漏れても問題ない資料だからな」

「ありがとうございます」

 川崎は、そういうと電子生徒手帳を経由して二人に資料を送る。

 けれど、それに対して不服そうな声が聞こえた。

「ねぇ、たっくん、手伝ったの私だよ。何で、二人がお礼貰ってんの?」

「……甘いモノでいいか?」

「アリっちも呼ぼうか」

「ああ、お手柔らかに……」

 二人は大人しく従うことにした。

 この後、帰り際に、あちらこちらで仮入部をしていたアリシアと待ち合わせし、木葉お気に入りのカフェへ向かった。





 カフェに着くと、アリシアが遠慮がちに声をかけた。

「私も奢ってもらっていいんですか?」

「いいんだよ、二人がお礼を貰ったんだから」

「遠慮するなら、有耶無耶になってるお昼の話を無しにしてくれ」

「それはダメです」

 匠の呟きは、アリシアに拒否された。さらに、追い打ちをかけるように木葉が詳しく話すよう笑顔の圧力をかけてくるが、匠はそれを無言で受け流す。

 けれど、それは逆効果だった。

「ふっふっふ、たっくん、そうか、そうくるのか。今ならちょっと財布を軽くするだけですまそうと思ったのに……」

「ま、待て、話す。詳しく話すから。デバイスの基板を集めに行った時に、偶々、街であって、荷物もにしてもらったから、そのお礼に昼を奢るって話だ」

「そうです。木葉が心配する必要はないです。それでは、今週の日曜日に奢ってください。場所は私が決めますから」

 匠は、苦笑いしながら頷くしか無かった。

「まったく、匠は尻に敷かれやすいな。ところで木葉ちゃん、ニアちゃんの話はどうなったんだ?」

 鉄也は、とばっちりから自らの財布を守るために話をそらす。

 その目論見は上手くいき、木葉は、アリシアへ視線を向けた。

「アリっちが、詳しい話を聞きたいって言うから、話したんだけど、二人からも聞きたいって」

「いえ、その……」

 アリシアは困った表情を見せる。けれど、匠と鉄也は、その意味を察した。

「何となくわかったから、聞きたいことを言ってくれ」

「はい、今までのチーム実習を含めて何ですが、私は氷属性を基本とするのに対し、木葉は火と水を基本にしています。問題がないとは言い切れませんが、どうにか出来る範囲です。木葉は、火力で押し切る面があるので、それが二人になると、私だけでサポート出来るかどうか……」

 魔法と一口に言っても、病院などで使われる治癒魔法や、産業に関わる魔法、そして、軍や警察で使われる攻撃性の高い魔法が存在する。

 その中で、魔法使いの就職先として最も多いのは、軍や警察、そして、現代魔法を実質的に管理しているワイズマンカンパニーとマホラックだ。

 日本では、陰陽庁という選択肢もあるが、そこは古流の魔法使いが、ほぼ独占している。

 けれど、特に優秀な生徒であれば、マホラックの国際魔法著作権捜査官が自然と目標になってくる。

 つまり、チーム実習でも、攻撃性の高い魔法を使うことを前提としている。

 そのため、一つのミスが命取りになりかねない。

 アリシアは、そのことを心配していた。

「なるほどな。木葉のデバイスには、いろいろ入れてるんだけど、考えるの苦手だからな。それで、ニアについてだが、跳弾の魔法を自前で用意してるから、高火力というよりも、精密狙撃ってところじゃないか?」

「そうですか、まぁ、入試成績4位ですから、心配しなくても大丈夫だと思います」

「それじゃあ、OKってことでいいな?」

「はい」

 ニアについての話はまとまり、匠がデバイスの件と一緒に連絡することになった。

 そのまま雑談に移行したためアリシアが、「ニア=マギリ、まさかね……」そう呟いたのは、誰も耳にも届かなかった。





 水曜日、ニアは元いたチームを離れる話をし、木曜から匠達のチームに加わることになった。

 けれど、ニアのデバイスに関しては、この日から製作に入る。

「弾丸型の、魔力タンク、グリップ部分の、魔力タンク化……。確かに、それなら、問題、なし。制御は、得意」

「それで、ニアちゃん、消費の大きい魔法を組み込みたいんだけど、射撃の流れにどうかかわるの?」

「……ある種の、身体強化。デバイスに、組み込む、必要、なし」

 ニアは、少し考えながら、口を濁した。

「そうか、じゃあ後は詳しい仕様だな。弾丸型の魔力タンクの持続時間と容量の相談だけど、一発撃つのに必要な魔力があればいいか?」

「生成、発射、跳弾を、1回。2回目、以降、デバイスで、発動。持続、時間は、コストと、相談」

「了解。それじゃあ、ある程度出来たら、使ってもらって調整するから。俺はこのくらいで、次は匠だな」

「ありが、とう」

 鉄也は、ニアの側を離れると、デバイス本体の作成に入る。

 魔力タンクについては、容量が少なくてもかまわないのであれば、コストはそこまでかからない。

 そのため、気軽に作ることが出来る。

「生成、付与、発射、跳弾については、時間差で発動するように調節するから、ちょっとデータ取らせてくれ」

「わかりました」

 ニアは、計器の付いたデバイスを使い、テスト用の魔法を発動させる。

 それにより、一つ一つの魔法の発動にかかる時間や、魔力の波形を計測する。

 この週は、こういった作業を何度も繰り返した。

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