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現代魔法の翻訳者  作者: ナート
第四章 古流の名家
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京都合宿・4

 匠達が賀茂の分家へと向かった頃、アリシア達は古式を中心とし、賀茂の本家へと向かっていた。

「皆さん、相手は名家の本家です。危ないと思ったら、私の後ろに隠れてください。必ず守りますから」

「古式先輩、少し確認を。『リモートビューイング』」

 ニアは右目に付けているコンタクトレンズを外し、魔力を流す。

 魔眼の力を使い、屋敷の中を覗こうとするが、屋敷全体を覆う結界に阻まれ、ニアは右目に激痛を感じた。

「ニア・マギリさん、門で閉ざされた家を除くのは、やめたほうがいいですよ」

「結界、強固」

「では、任せてください」

 古式はそう言うと、賀茂の本家の門を叩く。

「私は古式家次期当主、古式咲です。この門を開けなさい」

 その声に対し、すぐさま反応があった。

「おやおや、咲お嬢様、どういったご用件で?」

 出てきた男はわざとらしさを隠すことなく笑い、古式を出迎えた。

 古式は、そのことについて気にすることなく話を始める。

「最近の賀茂家の行動には目に余るものがあります。そのため中を検めます。入れなさい」

「いくら咲お嬢様でも、突然来られて入れろと言われましても、お通しするわけには……」

「急々如律令」

 古式は相手の反応を見ると、呪符を撒き、古流魔法を発動させた。

 それは、男を吹き飛ばし、門を破壊する。

 それによって、賀茂の本家を守る結界のうち、一番外側の結界が破壊された。

「これは決定事項であり、拒否権はありません」

 門の瓦礫の中を進み、本家の家屋へと向かう。

 だが、それを待っていたかのように術者が現れ、古式を取り囲もうとする。

 それを防ぐかのように、同行していたアリシア達が続いた。

 アリシアとニアはそれぞれのデバイスを向け、術者達を威嚇する。

「おやおや、古式ともあろう者が、どこの誰ともわからぬ者の力を借りるか」

「賀茂の当主ですね。本家を含めた大半の家を取り潰します。大人しくしなさい」

「我が家に押し入り、取り潰すと? 何の権利があって行っているのですかな?」

 賀茂の当主は白を切る。

 本人は一切尻尾を掴まれていないと思っていた。

「古式家には名家を監督する義務があります。賀茂の分家が一般人を襲い、本家もそれに協力していた。既に証拠は手の中です。諦めなさい」

「お前達、やれ」

 それが本当かどうかはわからない。

 けれど、古式家がそう判断し、動いている以上、賀茂が生き残るには、この場を切り抜ける必要がある。

 術者達は、呪符を取り出し、祝詞を唱える。

 術者達の祝詞は共鳴し、一つの大規模な古流魔法を発動させた。

 その魔法により、呪符を核とした八咫烏の式神が現れる。

 そして、八咫烏は一斉に古式へと群がった。

「素直に従えば分家の一つとして残すことも出来たのに。貴方には隠居してもらいましょう」

「『スタート:アイスブリット』」

「任せる」

 アリシアが魔法を起動し、ニアがデバイスを向け、引き金を引く。

 氷の弾丸と魔力の散弾が八咫烏の核となる呪符を貫き、破壊する。

「では、私はこれを試しましょう」

 古式が木葉から渡された二枚の呪符を取り出し、そこへ魔力を流す。

 帰ってきた反応を頼りに魔法を構築し、二つの魔法陣を描く。

 一枚の呪符で描かれた魔法陣は小さく、周囲の魔力を吸い込む程の力はない。

 だが、古式には、自身の魔力を神気に変換出来ればそれで十分だった。

「そ、その呪符は……」

 賀茂当主は古式の持つ呪符を見て驚く。

 賀茂も安倍も、神降しについて研究している間に、そんな呪符を作り出すことは出来ず、古式家を作り上げた後でもそれは変わらない。

 そのため、その呪符の出処に気付くまで時間がかかった。

「神気を作り出すまでの時間は減りましたが、ここからは時間がかかりますね」

「あの家の呪符か」

「気付いたところで、もう遅いですよ」

 古式は術者の対応をアリシア達に任せ、呪符と祝詞を主体に、簡単な動きを加え、儀式を行う。

 現代魔法で代用する木葉と違い、簡略化しているとはいえ、本来の手順を踏んでいる古式の儀式は時間がかかる。

 だが、神を降ろすという目的に違いはない。

 アリシアとニアはそれまでの時間を稼ぐ。

 だが、アリシアは自らのデバイスに対し、違和感を覚えた。

 それは、些細というには大きく、甚大というには小さい、けれど、確かな変化だ。

「ニアさん」

「恐らく、Magi-Line(マギライン)に、何か、あった」

「Magi-Lineって……ああ、ワイズマンカンパニーの社内名称でしたね」

 アリシアが魔法を起動するが、それに対し不発が交じる。

 そんな現象に対して、ニアには心当たりがあった。

 けれど、木葉の神降しによる影響は既に対策済みだ。

 そのため、その心当たりが正しいとは思えない。

「見せてあげましょう。霊峰富士に祀られし神の力を。『神降ろし:木之花咲耶姫(このはなさくやひめ)』」

 古式が自らに降ろそうとした一柱の神の名を告げる。

 それに応じるように、一柱の神の力の一部が、古式へと舞い降りた。

 だが、その力は今までとは桁違いの量だった。

「これほどの力とは……」

 古式は今まで受け入れたことのない力の量に戸惑い、制御に苦しんでいる。

 そのため、時間を稼ごうとニアがアリシアに指示を出す。

「アリシアさん、ネットワークに、繋ぐ、必要の、ない、魔法で、対処」

「そこまで有効なものはありません」

 アリシアは不安定なネットワークを頼りに魔法を発動させるが、不発となる回数が如実に増えていった。

 それに対し、ニアには問題が起きていない。

 何故なら、アリシアとニアは捜査官としてのランクが違うため、それぞれが持つ権限が違う。

 そのため、ニアはワイズマンカンパニーのネットワークが不安定であっても、普段と同じように魔法を発動させることが出来る。

「お二人共、お待たせしました」

 アリシアとニアが周囲を牽制していると、強すぎる力の制御に成功した古式から声がかかる。

 木葉の手によって本来よりも多くの力が貸し出されたため、古式はその制御に苦労していた。

 だが、制御しやすいような工夫がされていたため、時間はかかったものの、古式はその力をモノにした。

「その力、我々のために使っていただきましょう」

 賀茂の当主は九字を切り、術者達が使った呪符のかけらを利用し、古流魔法を発動させる。

 魔力で呪符を繋ぎ、大きな輪をいくつも生み出した。

「縛」

 その一言で魔力の輪が縮まる。

 それは、古式達を拘束しようとするが、古式の操る神気が核となっている呪符を焼き尽くした。

「今までとは比べ物にならないほどの力ですね。この力のために犠牲にしたものが気になります」

「アリシアさん、拘束系の、魔法で、発動、出来る、ものは?」

 術者達の相手を古式に任せ、警戒しながらもアリシアへと声をかけた。

 さらに、鉄也と静江にも近くに来るよう促す。

 だが、アリシアは首を横に振った。

「ネットワークが不安定な状態で発動できるものにはありません」

 ニアは結果として拘束に繋げるような魔法を持っているが、拘束として使うための魔法を持っていない。

 そのため、アリシアに頼ろうとしていたが、色よい返事がなく、最後の詰めを決めかねている。

「……古式先輩に任せちゃ駄目なんですか?」

「倒す、ことは、可能。でも、捕まえる、ことは、別。それに、木葉さんとは、違う。実力、未知数」

 ここにいるのが木葉であれば、ニアは何の心配もなかった。

 けれど、神降しという一点において、古式は木葉に劣る。

 そのため、余計な心配かもしれないが、最後の始末はつけようと考えていた。

 そんなニアの考えを裏付けるかのように、古式に疲労の汗が浮かぶ。

 魔力を神気に変換する魔法陣を使うということは、魔力を消費するということだからだ。

「そうですか。なら、準備してたものがあります」

 そう言って静江はデバイスを見せる。

 だが、ニアのような高ランクの捜査官か、この状況に適した魔法の著作権を持たない限り、役には立たない。

 ニアはそう考えてた。

「そうか、あれだな」

「鉄也さん、何かあるんですか?」

「結論、先」

 ニア達が話し合いをしている最中でも、古式は賀茂本家の術者達と戦っている。

 木葉と違い圧倒的な力の差を見せつけることはないが、それでも次第に追い詰めていた。

「えっと、逆翻訳です。アリシアさんに見せてもらった現代魔法を、魔法陣などの手段で再現するんです」

「実は、昨日匠達と最後の詰めをしてて、試しにやったら出来そうだったんだぜ。まぁ、魔法使いとしての才能の問題で、上手くいかなかったけどな」

「そんな訳で、準備は出来てます」

「発動はアリシアちゃんにお願いするぜ」

「わかりました」

 アリシアは具体的に何をすればいいのかわかっていない。

 けれど、捜査官としての権限の違いから、ニアは普段通りに魔法を使うことが出来るため、アリシアが適任だと自覚している。

「古式先輩の、援護。『ヴィジョン』」

 そう言ってニアは左目のコンタクトレンズを外し、魔眼を発動しながら前へと出る。

 疲労の色を浮かべた古式は、ニアに対してそっと笑いかけた。

「まったく、嫌らしい相手です。八咫烏の式神でこちらを消耗させるなんて」

「手伝う」

 賀茂家は神降しを研究していた家ということもあり、それが大量に魔力を使うということを知っている。

 そのため、消耗を強いる戦い方をしていた。

 だが、その消耗も、ニアが加わることで、ある程度緩和される。

「それで、何か手はあるんですか?」

「魔法に、よる、拘束。準備、中」

 そう言いながらニアは賀茂の術者によって放たれる魔法を迎撃し続ける。

 時が経つにつれ、その精度が上がっていった。

「そうですか。倒した後を任せられるのであれば、無理をしてでも、倒しましょう」

 古式は魔力を用いて魔法陣を描く。

 それと同時にニアは古式の分も呪符を撃ち抜き始めた。

「小娘共が、何をしても無駄だ。来い、十二神将」

 その様子を見た賀茂の当主は、12種類の呪符の束を取り出し、ばら撒く。

 それぞれの干支に対応した式神へと変化し、古式達へと襲いかかる。

「その式神、名家としては上位に位置するものですね。ですが、無駄です。焼き焦がれなさい」

 その言葉に反応し、魔法陣から神気の炎が吹き荒れる。

 だが、古式は神降しを維持することに限界を感じると同時に、神の力が離れ始めた。

 けれど、神気の炎は、式神を焼き尽くし、術者達を襲う。

 その結果、術者達は意識を失うが、賀茂の当主は最後の抵抗を試みていた。

「ま、まだだ」

「いえ、終わりです」

 お互いに呪符を手にし、最後の力を込める。

 だが、動いたのは二人だけでなかった。

「アリシアさん、魔法陣を展開します。後は、詠んでください」

 静江がデバイスに魔力を注ぎ込み、魔法陣を描くためのプログラムを起動した。

 その光景は、未完魔法を使う際の工程に似ているが、一つ違う点は、デバイスで魔法として処理しているかどうかだ。

 つまり、静江が展開した魔法陣以外に、必要な物がある。

「凍れ」

 アリシアは展開した魔法陣に魔力を流し込み、その反応を手がかりに詠唱を始めた。

「凍れ」

 魔法陣が青白く輝き、冷気を生み出す。

「凍れ」

 生み出された冷気が広がり、本家の敷地を埋め尽くす。

「狙うは我が敵。『フリーズバインド』」

「こ、小娘……」

 魔力を帯びた冷気が凍り付き、動きと魔力の流れを阻害する。

 ただそれだけだが、魔法使いにとって魔力の流れを阻害されるということは、魔法が使えないことを意味する。

 その結果は、見るまでもなかった。

「どうやら、ここまでですね」

 古式は抱え込んでいた力を手放し、全ての魔法の発動を止める。

 賀茂の当主が手にした呪符も凍り付いているため、これ以上の抵抗は不可能だった。

「終了。後始末、任せる」

「ええ、後始末には陰陽庁も呼ぶ必要がありますが、マホラックの手を借りる必要はありません」

 古式は古式家の用意した術者を呼び寄せ、賀茂の術者達を連行させる。

 ここから先は名家の中のことであるため、アリシア達が口を出すことが出来ず、口を出す気もなかった。





 匠達は後始末を古式達に任せ、土御門の家で寛いでいた。

 ただ、休んでいる訳ではない。

「それで、アリシア、詳細を教えてくれ」

「いえ、その……、魔法陣からの反応を口にしただけですし」

「アリシアちゃん、その反応について詳しく教えて欲しいんだぜ」

「そうです。私達はそういう反応が返ってくるように作りましたけど、それを感じ取れなかったんですから」

 アリシアが一人質問攻めにあっており、乾いた笑みを浮かべていた。

 しばらくすると、春清と冬海が帰ってきたため、アリシアへの質問攻めが終わり、打ち上げへと以降し、ゆっくりと過ごしていた。





 その日の夜、匠がふと廊下へ出ると、誰かに呼ばれている気がしたため、先日と同じ場所へ向かう。

 そこでは、木葉が前と同じように座っていた。

「たっくん来てくれたんだ」

「そんなとこ座ってると、冷えるぞ」

「じゃあ温めてよ」

 そういう木葉に対し、匠は自然な動作で隣に座る。

 それに対し木葉は、匠に寄りかかった。

「それで、どうしたんだ?」

「んー、相談?」

「じゃあ、相談に乗るぞ」

「んーと、たっくんと私はワイズマンカンパニーを目指すことになった訳だけど、何が必要かな?」

「どういうことだ?」

 その言葉に匠は驚いた。

 匠がワイズマンカンパニーを目指すということは木葉にも伝わっている。

 だが、木葉がワイズマンカンパニーを目指すということは初耳だった。

「アリっちとニアっちに頼んだんだよ。たっくんが二人を頼ったら、手を貸して欲しいって。その対価は私」

「な、何で」

「だって、手助けは必要でしょ。それに、たっくん迷ってたけど、ワイズマンカンパニーを目指すのは時間の問題だったから、早いか遅いかの違いでしょ。たっくんが目指すなら、私も目指すよ」

 匠は木葉から強い意志を感じ取った。

 その目的は、ワイズマンカンパニーではなく、匠と共にいるということだ。

「木葉は優秀な魔法使いだから、着いて行くのが大変だ」

「大丈夫、私のデバイスをいじれるのは、たっくんだけだから。たっくんがいないと、優秀じゃなくなっちゃうよ」

「何言ってんだよ。俺の課題は逆翻訳だ」

「じゃあ競い合おうか。勝った方が部下にするってことで」

 木葉は匠に笑顔を向け、それに答えるように匠も笑顔を向ける。

 けれど、木葉は何かを思い出したかのように表情を変化させた。

「あ、もちろん家では仲良くだよ」

「何か返答次第で大変なことになりそうだな」

 匠の答えを聞き、木葉は頬を膨らませた。

「そこは、もちろん、って答えるところでしょ」

「はいはい、家だけじゃなく、外でもな」

 匠はそう言いながら木葉を強く抱き締める。

 木葉は、それを静かに受け入れ、静かに時を過ごした。





 京都合宿最終日、匠達は京都観光を行い、東京へと帰る。

 帰りの新幹線では、京都での精神的な疲れが出たのか、全員が寝ていた。

 駅で別れ、それぞれが帰路へ着く。

 帰り道では、古流魔法使いに襲われることがなく、今回の件が終わったと感じさせた。





 連休明け、匠は託されていたレポートを提出し、放課後に木葉と共にニアを呼び出した。

「二人共、どう、しました?」

「ああ、今回のこと、手伝ってもらう条件覚えてるよな」

「もちろん」

 ニアは匠を見つめながら頷く。

 そこに、木葉が口を挟んだ。

「ちなみに、たっくんには伝えてあるから、黙ってなくていいよ」

「了解。二人が、ワイズマンカンパニーを、目指す。そして、私の、部下」

「ニアの部下ってのは初耳だが、それもありか」

「ニアっちの部下でも、上下関係は決めるからね、たっくん」

 匠は木葉に対し頷き、ニアへと向き直る。

「そういうわけで、本腰を入れるから、ニアの方でもフォローは頼むぞ」

「少し、なら。でも、逆翻訳。それで、十分」

「まぁ、それは俺だけじゃ無理だが、よろしく頼むぞ」

「よろしくね、ニアっち」

 匠は何もかもを一人で出来るとは思っていない。

 そのために、人の力を借りることに躊躇いはない。

 こうして、必要に迫られたとはいえ、自身で決めた目標のために先へ進むことを決めた。

こんばんは


今回で区切りをつけたつもりでいます。

至らない点も多いとは思いますが、ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

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