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現代魔法の翻訳者  作者: ナート
第三章 N's Report
17/24

Report

 夏休み最終日、私は右目に付けている眼帯を外し、様子を確認。

 赤い目には、薄っすらと魔法陣が描かれおり、欠損は見られない。

 右目の積層立体魔法陣の再生は終わった模様。

 視界がぼやけている気がするが、ずっと眼帯で覆っていたためと判断。そのうち治る。

 念のため、魔法陣修繕用の眼帯を付け直し、作業へと戻る。

 そこで、鏡に写った姿を見て、驚いた。

「木葉さん、いつの、間に」

 私の眼帯に、黒いマジックで、ガンバレ、と書かれていた。

 頑張るようなこともないが、少し嬉しくなる。

 けれど、今していることを考えると、少し申し訳ない気持ちになった。

 それでも、これが私のここにいる理由。

 私は、PCの前に戻り、簡易的な報告書の続きへと取り掛かる。

 そこに開かれているファイル、上から送られてきた、5月の連休時と8月におこったワイズマンカンパニーのネットワーク――Magi-Line(マギライン)――の一時的な障害、そして、3年前にあった2度の障害、その度合の違いなどが記載。

 今年の2回は、ワイズマンカンパニー側の対策もあり、障害についてはかなり軽微なものになっている。けれど、それは想定を遥かに超えていた。

 恐らくは、原因となった魔法を使用した人の力量も関係。

 3年前は、可能性の一つ。

 けれど、今では原因と確定。

 それは、膨大な神気を使った神降し。

 それが、ネットワークに影響を及ぼした。

 その調査が、私がここにいる理由の一つ。

 8月に関して言えば、運良く古式系の神降しも確認。

 けれど、あれはネットワークに影響を与えない。

 つまり、小川家と古式系の神降しは、明確に違う物。

 ここで、私は上から送られてきた小川家に関する報告に目を通す。

 そして、驚いた。

 この情報自体、手に入れられたことは、いくつもの偶然が重なっている。

 今となっては記録も記憶もない時代の情報、誰かの目を使ったはず。その候補者は、数人。でも、今はそれを気にする場合じゃない。

 時計を見ると、もうおそい。

 明日からは新学期。





 翌日、始業式という式典。

 日本ではこういう式典が多い。

 秋の選抜戦の情報が開示。

 私達は出場が確定。しばらくは静かに過ごせる、はず。

 私は3組。だから、基本的に一人で過ごす。

 けれど、毎日昼休みになると、木葉さんに連れて行かれる。

 もう、慣れた。

 それに、嫌じゃない。

「ニアっち、目の方はどう?」

「ほぼ、完治。今は、様子見」

「ニアさん、無理はしないでくださいね」

「無視、する、必要、ない」

 学校では、しばらく平穏が続く。





 上から送られてきた小川家に関する情報。

 調査で、かなり古い家だと判明。

 術者の家系という意味では、古式家とそう変わらない古さ。

 けれど、ある時、名を変え、他の家に紛れ込んだ。

 その手段までは不明。

 かなり巧妙に隠されているため、当時は誰も気付かなかった模様。

 そんな手間をかける必要があった理由、禁忌を犯したと記載。

 神の力を借りるのではなく、神そのものを降ろす。

 それは、本来いるべき場所から無理やり動かすということ。

 そのため、絶対の信仰心があった時代には、禁忌とされた。

 それが、今の古流との繋がりがない理由。

 ただ、古い家の名まではわからない。

 けれど、私の任務は、過去の調査ではなく、将来に脅威となるかどうか。

 その点に関しては、無いと断言。

 ネットワークへの影響も、本人達の力量から、問題ないと判断。

 後は、この考えをまとめ、上に送るだけ。

 それで、一先ずの区切りがつく。





 しばらくして、秋の選抜戦が近くなった。

 他のチームも決まり、模擬戦に明け暮れる。

 バトルウィークも選抜戦用にルールの調整。

 会場を三つに別け、予選を行い、1位のチームだけで、最後の本戦を行う。

 始めの予選は、学年別に行うため、本戦は、各学年3チームづつの計9チームで行う。

 これで、しばらくはアリシアさんの調査に集中。

 現在Bランク捜査官、アリシア=ジーニア。

 イギリスで行われたジーニアスプロジェクト、その最初の成功体。

 そういったことが重荷になっているのか、マホラックの捜査官として動く際には、かなり気を張っているように見える。

 マホラックは、既にアリシアさんの昇格を決めているが、本人には伝えていない模様。

 その辺りは、国連側の捜査官達の管轄なので、私が余計なことをする気はない。

 ただ、妹の一人の治療を理由に、ワイズマンカンパニー側に借りを作ったため、彼女はかなり微妙な位置にいる。

 場合によっては、上同士の権力争いに巻き込まれる。

 それは、彼女達にとって、不幸でしかない。

 今は、アリシアさんの実力を報告することも、任務になっているため、戦闘の機会が多い選抜戦は、ちょうどいい。





 秋の選抜戦、その結果は予想通りだった。

 最初の予選では、1位なので、その後の本戦の出場権を手に入れた。

 ちなみに、3つのブロックに分かれているが、他のブロックの優勝チームと戦って順位を決めるということはない。

 そのため、公式記録では、予選上位入賞。

 他の入賞チームは、古都校と北海道校の新人戦出場チーム。

 その後の本戦では、順位が付くのは3位まで。

 それ以外は、私達含め、敗退扱い。

 他校の生徒は、小川玉梓会長の神降し知り、木葉さんもそれに匹敵するものを持っていると考えられていたため、厳重にマークされていた。

 そのため、木葉さん自身に使う気はなくとも、厳しい試合運びになった。

 その結果、2年生相手には、善戦していたが、3年生相手には、一度も勝てなかった。

 というか、全学年含め、関東・北海道・青森・古都の4校しか本戦には出られず、日本の古流魔法の強さを証明。

 現代魔法には、まだまだ改良の余地あり。

 小川会長は、今年も『金剛不壊(こんごうふえ)』だけで優勝を飾っていた。

 あの人は、もういろいろと違う。

 古式系の名家が、小川家について調べていたが、上のように使える目を持った人物がいないようで、手がかりすら掴めていない。

 ただ、調べ方を変えたようで、禁忌とされた理由を考えている模様。

 そのうち、仮定が出てきそうだが、上のように、目がない以上、確実なことはわからない。





 選抜戦の閉会式では、驚くべきことになっていた。

「ねぇねぇ、ふゆみんが安倍刀治と離れてる。ってか、ふゆみんだけでこっちくるよ」

「本当ですね」

「心境の、変化?」

 古流の名家の動きは、上からの報告がないため、詳しいことは何も知らない。

 ただ、古式系の中で、パワーバランスの変化があったという話は聞いた。

 それに関することだとは推測可能。

 けれど、土御門家に関することは、私の担当外。

 よって、気にしない。

「みなさま、お久しぶりですね」

「本戦で戦ったばっかりだよ。まぁ、私達が勝ったけどね」

「私が無理を言って小川さんと戦いましたけど、やはり強いですね」

「いやー、でもふゆみん凄いから、大変だったよ」

 今回は、木葉さんが一人で土御門冬海さんと戦い、私と土御門春清さんが安倍刀治と戦った。

 木葉さんの戦いは、映像で見ただけですが、いつも通りの木葉さんでした。

 『氷鏡』という反射鏡をものともせず、一方的に戦い、勝ちました。

 木葉さんが敵という状況を考えなくてすむのは、何より。

 ちなみに、私の方は、相性がよかったのか、特筆すること、なし。

「それで、冬海、どうしたんだ?」

「古式様のお陰もあり、家の許可がでたので、お世話になった小川さん達には伝えておこうと思いまして」

 土御門冬海が土御門春清さんの隣へと移動。

 それに伴い、土御門春清さんの顔が赤く変化。

「冬海、こういうことは、俺から言うぞ。うちの長男、古都校の生徒会長をしている土御門四季がいるんだが、あの兄貴は古式家への入婿が決まっててな。安倍刀治とのこともあって、俺が家を継ぐことになった。それで、その……。冬海が、その……」

「土御門君、女々しい」

「く……。冬海が、俺の許嫁という扱いになった。そして、選抜戦の結果で、それが正式決定したんだよ」

「ほー、土御門君、やるねー」

「土御門、二人で散歩でもしてこい。俺達のことは気にするな」

「真木……」

「たっくん、苛ついたからって、視界から追い出しちゃ駄目だよ。それに、散歩ならまずは私と行こうよ」

 匠さんは、木葉さんがいるのに、他人の春は祝福しないよう。

 ただ、鉄也さんや黒田さんも、同意見のようで、そのまま二人はどこかへ行った。

 私自身、任務外のことなので、どうでもいい。





 選抜戦の後、学校は次期生徒会選挙の話でもちきり。

 ただ、慣習として、副会長がそのまま会長になるらしい。

 ときおり演説を目にするが、小川会長から受け継いだのか、黒さが見え隠れする。

 そのまま松尾副会長が会長になり、土御門さんが副会長になった。どうやら会長への道筋が出来ている模様。

 後は、選抜戦に出ていた他のチームから選出したようで、私達のチームからは出ていない。

 ただ、鉄也さんが、研究部の副部長に選ばれていた。

 基本的に、生徒会選挙を皮切りに、各部活や委員が代替わりするよう。

 そういった学校の中での変化はあるが、私に直接関係することはなく、アリシアさんの実力を計ることに集中できそう。





 その後を見ても、アリシアさんの能力には、目を見張るものがある。

 ただ、木葉さんという規格外の人がいるため、埋もれている。

 本人からすれば、目立ったせいで捜査官としての身分が明るみに出る危険性があるので、何とも難しい表情をしてた。

 私の報告を受けた上は、場合によってはアリシアさんを取り込むつもりでいる。

 そのための理由は、いくらでもあるので、こちら側が有利、らしい。

 最後に、匠さんと鉄也さんの技術者としての報告。

 こういう調査では、最初の接触にもっとも苦労。

 何故なら、上が目をつける生徒は、基本的に優秀な生徒なので、もとより多方面から様々な声がかけられる。

 そういったその他大勢に紛れてしまえば、調査は困難を極める。

 だからこそ、あのデバイスを拾った私は、強運。

 もっとも、あのデバイス次第では、声をかけないということもある。けれど、あれを見て声をかけないという選択肢は、ない。

 その後のテストでも、もともと使っていた実弾を使うデバイスの改悪した設計図を見せ、どう作るかを見る予定だった。その結果、私の要望を全てクリアし、要求以上の性能を持つデバイスが出来上がった。

 今では、上からの命令の際にも、プリズムスコープを使っている。

 後は、匠さんの翻訳者としての詳細を知ることが出来れば、私の任務も一つ終わる。

 ただ、そこが一番の問題。

 木葉さんのデバイスを見ることは無理。何か手立てを考える。





 クリスマスが近付いた。

 日本では、宗教的な意味合いは無視され、ある種のお祭りとして変化していた。

 こういうイベントを木葉さんが見逃すはずがなく、簡単なパーティーをすることになった。

 捜査官や翻訳者として収入を得ている人もいるが、基本的には高校生ということで、美味しいものを食べて騒ぐだけの予定。

 プレゼントを贈る人数が増える分にはかまわなかったけれど、プレゼント交換はしないと決まったため、それに従う。

 ちなみに、古流の土御門さん曰く、「俺達だって知り合いの誕生日くらい祝う。それに、記念日になってるんだから、気にする必要はない」とのこと。

 流石に、クリスマスについての議論をする気はなかったので、そういうことにしておいた。

 パーティーでは、終始木葉さんが楽しそうだったので、見ているこちらも楽しめた。

 ただ、その最中に匠さんに翻訳者としての腕前を見せてもらう約束を取り付けることに成功。

 木葉さんの許可が必要らしいけれど、元の魔法と翻訳後の魔法を見せてもらえることになった。

 これで、調査が進む。





 冬休みが近くなり、黒田さんが初詣という日本の習慣にみんなで行こうと言い出した。

 ただ、木葉さんが何故な不参加を貫く。

 残念ですが、無理強いをしても意味なし。

 ちなみに、土御門さんは実家で用事があるそうで、来ない。

 前日には、木葉さんの家に呼ばれているので、嫌な予感。





 初詣前日、つまり大晦日。

 木葉さんの家へ行くと、アリシアさんもいた。

 話を聞くと、どうやら他のみなさんも来るよう。

「さぁ、ニアっち、大人しくしよーねー」

 何とも不気味な笑顔。

 ただ、最近では慣れてしまったようで、対処も簡単。

 好きにさせればいい。

 そもそも、本気で嫌がることはしないので、安心。

「何を、するん、ですか?」

「んー、もちろん、和服にするんだよ」

「着物? 浴衣?」

「その違いは、知らない。だから、和服でいいんだよ」

 私とアリシアさんの二人を着替えさせている。

 どうやら、このために呼んだもよう。

 後は、初詣まで、遊ぶのが目的のよう。

「ニアさん、似合ってますね」

「ありが、とう。そう言う、アリシアさんも、似合って、る」

「二人共いい感じだよー」

 そんなやりとりを何度かした。

 上からの報告を受けていなければ、この家が古流の中心にいたはずの家とは思えない。

 それほど、古流独特の臭いなし。

 見れば見るほど、普通の家にしか、見えない。

 家を見回していると、玉梓前会長が何やらくつろいでいる。

 確か魔法大学への進学が決まっているとかで、受験勉強をする必要がないらしく、他の生徒の指導に駆り出されていると聞いた。

 あの人に指導される生徒は、かわいそう。

「マギリ、どうした?」

「いえ、同情、してました」

「そうかそうか。お前も同情される側になるか?」

 玉梓前会長の薄ら笑いが怖い。

 とりあえず、実行される前に、断るべき。

「やめて、おきます」

「そうか。まぁ、在学中は、いつでもこい。相手をしてやる」

 とりあえず、軽く頷く程度にしておきました。

 下手に言質を取られても困る。

 この人は、異質すぎる。

 しばらくして、近くの神社に出かける時間になった。

「ニア、忘れる前に渡しとくぞ。見たがってたやつだ。理由は聞かないけどな」

「ありが、とう」

 思ったよりも早く手に入った。

 けれど、匠さんは何かに気付きかけているよう。

 この後は、どうやら、二年参りというのをするらしい。

 けれど、やはり木葉さんはこない模様。

 道すがら、匠さんの元気が無いように見える。

 アリシアさんは、ここぞとばかりに話しかけてますが、反応が鈍い。

「鉄也さん、今日の、匠さんは、妙」

「ああ、木葉ちゃんがいないからな」

「あそこまで元気のない真木君は初めて見ました」

 どうやら黒田さんも驚いているよう。

「まぁ、匠も、木葉ちゃんの動きを見て、楽しんでるってことだよ。あ、俺はこの両手に花の状況を楽しんでるぜ」

 思い出したように褒められた。

 それなら、ここは、話に乗るべき。

「では、取り、合い」

 鉄也さんの腕にしがみつく。

「ニアさん、何してるんですか」

「取り、合い?」

「ニアちゃん一人じゃ取り合いにならないなー」

 鉄也さんが、黒田さんを横目で何度も見てる。

 黒田さんも、その視線に耐えられなくなったようで、反対側の腕に抱きつくかたちになった。

 ここから見る限り、顔が少し赤い。

「鉄也さん、木葉さんが、これない理由、知ってる?」

「んー、詳しくは知らないな。ただ、何かが狂うって言ってたぜ」

「そう、ですか」

 恐らく、神降しに関係があると推測。

 ただ、迂闊に口に出来ず、鉄也さんは、神降しについては詳しくしらないはず。

 これ以上の詮索は断念。

 この日は、初詣の後に、木葉さんの家で過ごすことになった。

 鉄也さんは、匠さんの家に泊まるようで、木葉さんの家には私達だけ。

 木葉さん曰く、女子会だそうで。





 木葉さんの家へ泊まった後、私は予定を消化するために、施設へと戻る。

 上から目を見せるよう言われており、すっぽかしていた。

 それと、まだ研修中の後輩が、会いたいと言っていると連絡を受けた。

 今は、関連施設の中でも、私のような魔眼所持者を集めている場所へ向かっている。

 ここは、いつきても変わらない。

 受付で身分証をかざし、中へ入る。

 これで、上にも連絡が行く。

 ただ、待っていたようで、随分と早いおでまし。

「ニア、早く来るよう言ってあったはずだが?」

 気怠そうな白衣の女性、この人が私達の保護者。

 言葉と同時に、魔力が走った。

「プロフェッサー・マギリ、ただ、いま」

「うむ、大事無いようで。見ればわかるが、一応検査は受けておくように。その後で、下のやつに顔を見せてやれ」

「わかった。それと、これ、匠さんの、データ」

 プロフェッサー・マギリがその目を使って何かを見た模様。ただ、どんな魔眼かは、誰も知らない。

「ああ、見ておく」

 そのまま検査に向かうが、担当者以外とはあわなかった。

 今日戻るのは知っているはず。

 恐らく、プロフェッサー・マギリが、検査が終わるまで待つよう言ったと予測。

 その証拠に、さっきから背後に気配を感じる。

 そして、検査が終わった後、居住区へ向かう。

「ニアねーおかえりー」

 何人かの声が重なって聞こえた。

 みんな元気そう。

「ただ、いま」

「ニアねーだー」

 ここでは、誰も目を隠さない。

 ここにいる子供の目には、魔法陣が描かれている。それが、普通。

 理由は、簡単。

 ここが、ワイズマンカンパニーの施設で、魔眼を研究する場所だから。

 集まった理由、集められた理由、それは、様々。

 でも、ここにいることを嘆く子はいない。

 ただ元気に過ごせる。

 それだけで十分。

「ニアねー、きょうは、とまってくの?」

「今日は、泊まる」

「やったー」

 この子達も、いずれはマホラックへの出向扱いで、捜査官になる。

 実力次第で、どのランクが与えられるか決まる。

 けれど、魔眼所持者は、その魔眼に適した戦い方さえ覚えれば、大抵は高ランクになる。

 ただ、同じ場所へ派遣されることはまずない。

 だから、たまに帰ってくると、大変。





 その日の夜、プロフェッサー・マギリに呼ばれた。

 みんなに引っ張られていたので、抜け出すのに苦労。

 そして、今、何とかプロフェッサー・マギリの部屋の前。

「失礼、します」

「ああ、ニアか、抜け出せたようで、何より」

「何の、用?」

 思い当たることがない。

 そもそも、プロフェッサー・マギリが呼び出すこと事態、珍しい。

「上からの連絡だ。小川木葉……いや、正確には小川姉妹だな。あの二人と、捜査官のアリシア・ジーニア、そして、技術科の真木匠と平賀鉄也。彼女らを、いずれはワイズマンカンパニーに迎え入れる。そのための下準備をしてもらいたい」

「小川玉梓前会長は、無謀」

「報告を見る限りは、そうだな。まぁ、現場を知らない連中の戯言だ。気にするな。とはいえ、ある程度は動かないと、面倒な横槍を入れられる。出来る限りでいい、今のチームメイトには声を賭けておいてくれ」

「了解」

 他のチームメイトも、恐らくは無理。

 だけど、必要な以上、しかたない。

 少し大変になりそう。





 三学期が始まり、チーム実習の内容がより深くなった。

 匠さんと、鉄也さんの説明はわかりやすい。

 この二人は、得意分野であれば、他の人とは桁違い。

 上は、将来的には確保したいと言っていた。

 ただ、本人達は興味がないようで、恐らく難航。

 ちなみに、小川玉梓前会長については、放置。

 あの人は、私の立場にすら気付いている節がある。だから、不用意には近付けない。

 プロフェッサー・マギリは、それをわかってくれているようで、無理はするなと言ってくれる。

 ただ、報告を上げる度に、匠さん達を確保しろという無言の圧力が増してくる。





 しばらくして、関東魔法高等学校の入学試験が近くなった。

 私には関係ないと思っていたら、土御門さんのチームメイトということで、入試の手伝いをすることになった。

 その時、気になる名前を見つけた。

 真木(まぎ)(つかさ)とフィーネ・ジーニア。

 写真はなかったけれど、恐らくは匠さんの妹とアリシアさんの妹。

 私の知っている捜査官の名はなかったので、関わりの少ない部署の捜査官が紛れ込んでいると予想。

 もしくは、フィーネ・ジーニアが捜査官になったか。

 真木司に関しては、匠さんに聞こうとしても、木葉さんがすぐに話を変えてしまうので、聞けずにいる。

 二人に興味はあるけれど、直接会う係ではないので、少し早いが入学式に期待するしかない。

 ただ、今のうちにある程度の区切りは付けておきたい。

 自らに課した期限は、一年の最終日、修了式の日。

 放課後に話す。

 これ以上引き伸ばせば、話す機会を失いそう。

 だから、これは絶対。





 そして、修了式。

 私は、匠さん達を呼び出した。

 土御門さんと黒田さんは呼んでいない。

 土御門さんは、古流の名家出身ということもあり、手が出しづらく、黒田さんの能力は、そこまで高いものではない。

 上も同じように考えている。

 私が空き教室で考えを整理しながら匠さん達を待っていると、扉が開く音が聞こえた。

「ニア、どうしたんだ?」

「みなさん、お揃い、ですか?」

「ちゃんと揃ってるよー」

 匠さんを先頭に、四人が入ってきた。

 木葉さんが二番目に入ったのに、全員が入ってから扉を閉めている。

 この人は、普段はふざけているけど、それが本気とは思えない。

 いや、違う。

 本気でふざけているけど、どこかがしっかりしてる。

「みなさんに、話が、あり、ます」

 四人を見回すと、全員が私の言葉の続きを待っている。

 私の雰囲気から、真面目な話だと悟っているよう。

 だから、私は続けた。

「まずは、これを、見て、ください」

 既に見慣れているようで、余計な疑問を挟まないよう。

 ただ、アリシアさんは、腑に落ちていないよう。

「ニアさんどういことですか。このランクは、そう簡単に取れるものでは……」

「簡単な、話。私は、ワイズマンカンパニーに、保護された、魔眼所持者。幼い、頃から、捜査官、として、教育、受けた」

「そういう部署があることは知っています。でも、Sランク捜査官って……」

「魔眼所持者は、それだけで、Aランク。後は、個々の、戦い方。他の、捜査官と、基準、違う」

 アリシアさんは、やはり納得がいかないよう。

 でも、これは本題じゃない。

「なぁアリシア。アリシアが何を気にしているかはわからねーが、ニアの話はそこじゃないはずだ。だから、まずは話を聞こうぜ」

 匠さんが助け舟をくれた。

 この人のこういうところはありがたい。

「話を、進める。私は、ワイズマンカンパニー側の、捜査官。というより、ワイズマンカンパニーの、所属。マホラックへは、出向。その、目的の、一つ。将来性のある、人材の、確認。ワイズマンカンパニーは、あなた達を、欲して、いる」

 それぞれが、私の言葉を飲み込んでいる。

 それぞれが、どう受け止めたのかは、不明。

 だけど、木葉さんは、私をじっと見つめている。

「ニアっち、私は、マホラックに興味ないっていったけど、それはワイズマンカンパニーも変わらないよ。私は魔法社会ってものに興味がないからね」

 木葉さんの回答は、予想の範囲。

 そもそも、木葉さんは実力を伸ばすというより、過ぎた力を制御するのを目的にしている。

 魔法社会の秩序を維持するといった、建前には、見向きもしない。

「これは、強制じゃ、ない。あくまでも、伝言」

「俺は、興味あるぜ。うちは代々しがない町工場みたいなことやってるけど、ワイズマンカンパニーって言えば、デバイス関連でも最先端だからな」

「俺は……」

 鉄也さんは、家よりも興味を優先した模様。これは、予想外。

 さらに、匠さんが迷っているようにみえるのも、予想外。

「鉄也さん、ありがとう。匠さん、急ぐ、必要、ない」

「ああ、すまない」

「ニアさん、何で私にも声をかけたんですか?」

「去年の、5月。連休前の、貸し。アリシアさんは、国連側の、捜査官ではなく、ワイズマンカンパニー側の、捜査官に、依頼、した」

 アリシアさんの妹、ジーニアスプロジェクトによって生み出された一人。

 国連側……イギリスに妹を戻せば、処分されるのは、明らか。

 だからこそ、ワイズマンカンパニー側に引き渡した。

 それ自体は、恐らく間違ってない。

 上も、ジーニアスプロジェクトのデータを得ることが出来た。

 だからこそ、ちゃんと預かっている。

「あの……理由を聞いたのに、いきなり強制ですか?」

 間違えた。

「上は、アリシアさんの、実力を、評価。働き、次第で、姉妹を、まとめて、引き込む」

「私だけ、選択権がないんですね」

「選択権は、ある。ただ、アリシアさんが、どうしたいか。それだけ」

 アリシアさんは、黙り込んだ。

 選択権はあると言った。けれど、ほとんどないようなもの。

 それは、上から話を聞いた時に思った。

 みなさん考えている。だから、この一言を言う。

「今、決める、必要、ない。猶予は、ある。ただ、ワイズマンカンパニーに、興味が、あれば、歓迎する。それ、だけ」

 無理強いはしない。それが、上の方針。

 例え、どんな選択肢だろうと、選ぶ余地は与える。

 実質的な選択肢ではなく、形式的な選択肢。

 どんな理由であれ、自らの意思で決めたという事実は、強い。

 この場は、解散する。

 後は、みなさんが考えること。

こんばんは


ええ、かなり時間がかかりました。

それに、もうちょっと続くと思っていましたが、1話で終わってしまいました。

これを3章と言っていいのか……


今回は趣向を変えて1人称となっております。

3人称が苦手とは言いましたが、1人称が得意とは言っていません!

それでは、今回もお付き合いいただき、ありがとうございました。

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