チーム結成
私立関東魔法高等学校では、夏に行われる日本魔法高等学校合同新人戦に出場するチームを決めるためのルールが公表された。
来週から、成績上位チーム同士で模擬戦を行い、その結果により、出場チームを決定する。
そして、模擬戦に参加するための基準が公表され、期限が来週中と決められた。
その影響か、多くのチームの統廃合がさらに加速し始めている。
「なぁ、真木、後一人入れるだろ。俺を入れてくれ」
「技術科を四人って意味がわからないが?」
一チーム七人と決まっており、それはワイズマンカンパニーの創設者である七人の天才に倣ったと言われている。
だが、匠と鉄也という技術科上位が二人おり、静江も平均を上回る位置にいるので、これ以上技術科の生徒を入れる必要はない。
「匠も大変だな」
「玉姉が俺達が新人戦に興味ないのを撤回したって公表したせいだ」
匠は、この日だけで、一年生の半数近くから話しかけられていた。
この日のチーム実習が始まる前、木葉が疲れきった顔をしていた。
「木葉、何人だ?」
「数えるのに疲れた」
「そうか、俺もだ」
木葉だけでなく、匠も疲れきった顔をしている。
そして、二人が話していても、周囲からの視線を感じていた。
先程までと違い、二人揃っているからこそ狙い目だと考えている生徒もいる。
二人がこの視線から逃れるために実習が始まるのを待っていると、一人の生徒の足音が聞こえてきたため、嫌な予感を感じていた。
「小川、真木、話がある」
「土御門君、何か用?」
「俺にもか?」
二人の返事に対し、土御門が深く息を吸い、気合を入れなおした。
「今日の実習で俺と勝負しろ。そして、俺が勝てば、チームに入れろ」
「負けたら?」
「二度とお前達には関わらない」
二人は奇妙なものを見た。
自信過剰な人物が何かを賭けた勝負を言い出す場合、負けないから考える必要はない、というものだ。けれど、土御門は負けた時の条件を自ら提示した。
そして、その言葉が、木葉の嗜虐心に火を点けた。
「そう、そうくるんだ。でも、私達の得がちょっと少ないね。土御門君が勝ったら、土御門君のチームに入ってあげる。土御門君が勝てなければ、私に絶対服従。これでどう?」
「……それでいい」
木葉が浮かべた挑発的な笑みを見て、匠はその笑みに既視感を覚えた。
そして、一つの事柄が頭をよぎる。
普段がどうであれ、やっぱり玉姉の妹だ。
匠は、そう結論付けた。
「木葉、アリシア達に確認しとけよ」
「そうだね、たっくんお願い。それで、内容をどうしようか? もしかして、決めてある?」
匠はその場を静かに外れ、鉄也達の元へ向かおうとするが、すでに匠の背後にいたため、少し驚くだけだった。
「それで、どうだ?」
「どうって言っても、こんなにノリノリの木葉ちゃんを止めろと?」
「二人共、のんびりしてないで止めてください」
アリシアは、慌てているが、アリシア以外が慌てていないため、一人浮いていた。
「木葉さん、負け、ない」
「前の模擬戦では勝ってましたよね」
「それに、木葉が言い出したんだ。何か考えがあるんだろ」
「匠さん、わかるんですか?」
「いや、全然。だって、木葉って考えて行動するのと、考えなしに行動する時の区別がつかねーんだよ」
匠はアリシアの問に対して首を振りながら言い返した。
そこから、諦めが感じ取れる。
「それで、土御門君、内容は? まさか、前と同じなんて言わないよね」
木葉は、さらに挑発するように声をかける。
それに対し、土御門は何かに耐えているようだ。
「お、おが、わ、その程度で、せ、生徒会長の下に、ついている俺が、ど、動揺すると思ったのか」
「そういうことにしといてあげるから、早く決めてよ。授業始まるんだから」
「なぁ、小川会長の下についたのに、煽り耐性低いな……」
「玉姉の下にいて、煽り耐性なんてつかねーよ。あれは教育じゃなくて楽しんでやってるだけだからな」
土御門が匠達を睨みつけるが、二人はそれに動じることはなかった。
「俺は一度お前に負けた。だからこそ、同じルールでお前に勝負を挑む。それに新人戦のバトルウィークも遭遇戦という形式だが、やることは普通の模擬戦と変わるまい」
「はぁ、同じ形式ね。土御門君はそれでいいかもしれないけど、一度勝った相手に同じ形式ってのは、つまらないよ」
木葉はため息混じりに吐き捨てた。
「賭けの内容は飲んだんだ。勝負の内容は飲め」
「まぁ、いいよ、それで。じゃあ先生に交渉よろしく」
「ああ」
土御門は一人で実習を担当する教師の元へ向かった。
その足取りから自信が見て取れるが、木葉はそれに動じることなく振り向く。
「さて、いいよね」
「いや、今更何も言えないだろ」
「木葉、負けたらどうするんですか」
アリシアだけは責めるように言うが、それでも木葉は揺らがない。
「アリっちは私が負けると思ってるの?」
「何事も絶対じゃありません」
「それ、負けるって思ってないってことじゃん。なら、大丈夫だよ」
アリシアはそれ以上何も言うことが出来ずにいる。
確かに、負けるとは思っていない。けれど、勝つと言い切ることも出来ないが、それを言葉に出来なかった。
「待たせたな。蘆屋先生が快諾してくれた」
「そ、じゃあ始める?」
「さて、みなさん、今日は実習の前に、一つ模擬戦を行います。知っての通り、新人戦の種目であるバトルウィークは、遭遇戦です。そのため、同じタイミングで始まる模擬戦とは少し違いますが、それに近い形態をしているので、みなさんならどうするか、それを考えながら見てください。それでは二人共前へ」
木葉の言葉を遮るタイミングで蘆屋が授業の開始を宣言した。
この組み合わせにつまらなそうな反応を示す生徒もいるが、実力のある生徒同士には違いないため、大半は興味を示している。
「さて、土御門君、二度目になるけど、ポイントは大丈夫?」
木葉は一度目と同じ挑発を口にした。
だが、土御門は余裕を持ってその言葉に返す。
「俺は古流魔法に拘っていた。だが、お前は現代魔法と古流魔法、その二つを使うことで俺に勝った。だからこそ、俺は敗北から学んだ」
そう言いながら、土御門はPDA型のデバイスを取り出した。
「小川木葉、お前を倒すには、十分だ」
「あっそ、なら、私から言うことはないよ」
蘆屋が準備の整った二人を見比べた。
「始め」
その言葉と共に、木葉はPDA型のデバイスに魔力を流し込む。そして。
「『スタート:炎夢』」
「『スタート:火炎陣』」
二人は魔法を音声発動させるために、同時に言葉を発した。
木葉のデバイスは、流し込まれた魔力を吸い、魔法の処理を開始したのに対し、土御門のデバイスは、土御門から魔力を吸い始めた。
そして、木葉のデバイスが、先に処理を完了する。
それと同時に土御門を炎の幻術が襲う。
「同じ手を……」
土御門は一度受けた魔法だからこそ、その炎による痛みで気を失うことはなかった。
だが、同じタイミングで魔法を言葉を発したにも関わらず、木葉の魔法が先に起動したことに動揺したせいで、土御門の魔法に影響を及ぼし、あらぬ方向へとそれた。
「『スタート:水陣』」
木葉は、デバイスに魔力を流し込んだ状態で言葉を発することで、魔法の高速発動させている。
だが、土御門は、デバイスに魔力を吸わせているため、無意識の抵抗が働き、魔力を吸うという過程での遅延が生じていた。
木葉のデバイスが起動処理を完了し、魔法を発動させる。
炎に焼かれる痛みを感じている土御門の周囲から、水が噴き出し、それが塊となって土御門を襲った。
「なぜだ、幻術だとわかっているのに」
土御門は、目に見える幻術に惑わされ、木葉の次の手に気付いていない。
そのまま土御門は、木葉の魔法に対し無防備な姿を晒し、水に押しつぶされた。
「土御門君、それは翻訳魔法だよ。つまり、古流独特の癖があるのに、何でわからないの?」
意識を朦朧とさせている土御門に、木葉の言葉は自然と入り込んだ。
古流独特の癖、土御門は、無意識下でその意味を考えた。
土御門は古流魔法に対して、この関東校の中では絶対の自信を持っている。
そんな自分にわからないはずがない。
土御門は、そんな根拠の無い自信を元に、意識下・無意識下を問わず考えた。
そして、ゆっくりと立ち上がりながら、木葉の炎に揺られていない影が視界に映る。
その瞬間、自信を蝕む炎の痛みが消えた。
「解き方の決まった幻術……」
「あー、これが初期設定になってたんだった」
炎夢という魔法は、炎に揺られていない影を見つめることで、その効力を失う。けれど、幻術を見破るという前提が崩れなければ、幻術を解くための方法は変えられる。
ただ、それには手間がかかるため、木葉は初期設定のまま、『炎夢』を使っていた。
木葉のわざとらしい呟きに対し、土御門は耳を貸さずに次の一手を考える。
「急々如律令、『スタート:雷撃』」
土御門は、服の下に持っていた呪符をばら撒き、それと同時にデバイスを使い魔法を発動させる。
「『スタート:水花』」
木葉はデバイスに流しこむ魔力に少し細工をした。
土御門の呪符と魔法が同時に襲いかかるが、木葉が襲われる直前に魔法が発動し、空中にいくつもの水の花が咲いた。
それは、呪符を包み込むことで潰し、『雷撃』は受けるが、最後の純水の層を貫通出来ず、無残に散っていく。
「現代魔法は、これが便利だよね。『炎夢』の調整は面倒だけど、層を一つ純水にするくらいなら、すぐだから」
「……小川、一つ答えろ。お前、本気じゃないな」
土御門はこれまでのやりとりを思い起こし、一つの結論に至る。
それに対する木葉の答えは、残酷だった。
「当たり前だよ」
ただその一言。
それが土御門の心を抉る。
「なぜだ!」
「そもそも、模擬戦っていうだけで、手数の大半を縛られるんだよ。それに、古流魔法の術者なんでしょ。なのに、君は基礎的な魔力操作すら出来てない。そんな相手に本気を出せっていうの?」
「魔力操作……だと?」
「まず、魔力の圧力によるライン確保。これが出来ないのは、前の実習でわかってる。それに、魔法発動時には、魔力吸収をデバイスに任せきってる。その時点で、私に勝てるはずないよ。現代魔法を使おうと考えたのは評価するけど。使われてるようじゃ、ただの雑魚って言うんだよ」
土御門は木葉の言葉の意味がわからなかった。
それを察した木葉は、無慈悲に告げる。
「どうする? 次の一手で、終わらせるけど」
木葉はデバイスを持った手を突き出すと、わかりやすいように魔力を流し込んだ。
これで何もわからなければ、もう関わることはない。
そう考えてのことだ。
「『スター――』」
「起動前のデバイスに、魔力が……」
土御門の言葉を聞き、木葉は動きを止めた。
土御門がようやく理解した。
だからこそ、方針を変える。
「ねぇ、土御門君、強くなりたい?」
「当たり前だ」
「そう、じゃあ、一つ聞くけど、君、土御門家の何番目の子供? そもそも、どの土御門家?」
古流魔法の名家である土御門家には、何人もの子供がいる。
そして、歴史ある名家であるため、土御門家では、何事にも長男が優先される。たとえ、それが分家であろうとも。
そして、土御門は苦虫を噛み潰したような顔をしながら答えた。
「分家の一つ、それに三男だ。長男なら、関東校には送られない」
「だよね。関東校は、どこの家の影響も少なくて、古流の名家の間では中立地帯みないなものだからね」
京都にある古都校や、青森にある東北校は、古流の名家の影響力が強いことで有名になっており、各家の長男は、地元に通い、他の子供は別の地方に送られることが多い。
土御門春清も、土御門の人間ではあるが、長男ではないため、関東校に送られている。
「だが、俺は古流の術者として、十分な力を持っている」
「じゃあ、何で負けたくらいで現代魔法を使い始めたの? 術者としては十分な力があっても、それだけなんでしょ」
「そんなことは……」
土御門は言い返そうとした。だが、何も言い返せなかった。
「さて、周りも飽きてるから、一つ教えてあげよう。まったく、玉姉の下にいて、気付けないとはね。私は、土御門君が勝てるか、勝てないかって言ったんだよ。つまり、私にとって、引き分けは勝ちなんだよ」
勝ち誇ったように言う木葉に対し、空気が凍りついた。
数人は気付いていたようだが、周囲にいる大多数は気付いていない。その中には、当然、土御門も含まれる。
「待て、ふざけるな。どういうことだ」
「いや、言ったままの意味だよ。ちなみに、玉姉がよく使うから、気を付けてね」
「……」
「その顔は、心当たりがあるんだね」
木葉は土御門の反応を見て、図星を突いた。
そして、それが真実だと、誰しもが理解する。
「お前、見てたのか!」
「いや、土御門君、今までの犠牲者と同じ顔してるから」
周囲からも当然だという声が聞こえた。
中には、土御門に対して同情する声すら聞こえる。
「だが、俺が勝てば――」
「勝てるのかな? 『スタート:火仙龍』」
木葉は、土御門の言葉を遮るように魔法を起動した。
そして、炎の龍が木葉を包み込むように鎮座する。
「さて、どうする? 君に、これを防げるのかな?」
木葉はとぐろを巻く龍を意のままに操る。
その姿に、土御門は力の違いを感じ取り焦っていた。
けれど、負けじと手持ちの魔法を確認し、対抗する手段を模索する。
「『ス、スター……』」
木葉の操る炎の龍がその顎を開き、土御門を威嚇する。
「やるなら、やるよ」
木葉は首を傾げ、微笑みながら言うが、その表情と言動が一致じておらず、土御門に言い知れぬ恐怖を与える。
土御門は、この状況を打破することが出来ないと判断し、それを行動で示す。
「俺の負けだ」
両手を上げながら告げる。
だが、その顔には悔しさが滲み出ていた。
「あっけないね。先生、終わったんで、授業始めてください」
木葉は土御門へと近付き、首根っこを掴むようにして引きずり始めた。
木葉が向かう先には、匠達がいる。
「拾ったよ」
「捨ててこい」
匠は即答した。
だが、言い方はどうあれ、木葉以外の全員がそう思っている。
「小川、俺をどうするんだ?」
「ん? 玉姉に、新人戦に選ばれるようにしろって言われたからね。土御門君、このチームに入って、協力しなさい。拒否権は、ないよ」
土御門は目を見開き木葉を見つめた。
その瞳は、木葉の発言を信じられないという考えが見て取れる。
だが、木葉は土御門を無視した。
「だって、古都校の生徒会長は、玉姉に勝つために作戦を考えているなら、そうとうな練習をしているはずだよ。そんで、一年生もそれに加わってる可能性がるんだから、古流の関係者である土御門君がいた方が、便利だよ」
「んー、まぁ、木葉に絶対服従だから、面倒はないか」
「匠さん、そんなこといいんですか!」
アリシアは声を荒らげているが、匠は既に諦めているため、まともに取り合おうとしない。
さらに、他の三人も、異論がないようで口を挟む様子がなかった。
「チームが満員になれば、入れろっていうやつもいなくなるし、成績では問題ないだろ。後は、こいつしだいだ」
「はぁ、わかりました。言い返せそうにないので、諦めます」
「さて、まずは、しずっちに謝罪だね。魔力操作が上手く出来ないのに、怒鳴りつけて困らせたんだから」
匠達の方が一段落すると、木葉が土御門に向けて言い放つ。
木葉の中では、静江と土御門のいざこざが、最初に解決すべきことだった。
「黒田」
「はい」
「俺の未熟さを――」
「グチグチ言うな。ちゃんと目を見てごめんなさいでしょ」
木葉が、言い訳を始めようとした土御門を遮り、言い放った。
土御門はそれに驚いているが、静江の方へ向き直り、目を見つめた。
「すまん」
「いえ、いいんです。土御門君のお陰で、このチームに入れましたから」
静江は笑いながら許した。
だが、土御門の方が、納得をしていない。
それは、誰から見ても明らかだ。
「小川、俺を鍛えてくれ。そして、必ずお前に勝つ」
「やだよ、めんどくさい」
真面目に告げた土御門に対し、木葉は投げやりに答えた。
けれど、すぐに真面目な顔をして、土御門に告げる。
「私は協力するだけ。鍛えるのは、土御門君自身だよ。自分で強くなろうとしないと、強くなれないんだから」
「鍛えるのは、俺自身……」
土御門は、木葉の言葉をそっと繰り返えす。
その姿は、その言葉を心に刻んでいるようだ。
「さて、そこまでにして、課題だぜ。今回は、土御門が組んでたチームと合同だから、大急ぎだ」
いつの間にか姿を消していた鉄也が、土御門のチームメンバーと、課題のデバイスを持って現れた。
授業の始めに模擬戦をしたが、課題があることには変わりない。
「さて、始めるか。あ、土御門、後で詳細は送るけど、放課後集合な」
匠はそれだけいうと鉄也と共に課題に取り掛かった。
屋外ということもあり、分解をすることはないが、多くの設定を手動で行う必要があり、時間的猶予はあまりない。
そのため、何か言いたそうにしている土御門は、そのまま放置された。
放課後、匠達が集まると、そのまま帰路につき、学校付近のカフェに寄ることにした。
七人という大所帯になったため、自然と男女で別れて歩いているが、匠と鉄也の会話に、土御門は混ざろうとせず、これからのことに対して、不安を抱いている。
そんな土御門の不安を解消しようと、匠達も話を振るが、不安のせいでろくな返事が帰ってこなかった。
そして、カフェに到着し、席に着くと、木葉は全員に話を始める。
「さてさて、注文決めながら、耳だけ貸してね。まずは、今日からチームメイトになった土御門君です。はい、拍手した気になって」
木葉は、拍手をすると周りに迷惑になると考え、拍手をした気になった。
だが、土御門を除く五人は、その意味を理解せず、ただ、木葉の言うことだからと、深くは気に留めずにいる。
「それじゃあ、土御門君が使える魔法は、言える範囲か使っていい範囲でいいから、教えてね。それで、しずっち、魔力操作ってどんくらい出来る?」
「え、あの、私は具体的なことは……」
「まぁ、しょうがないね。しずっちも、言える範囲か使える範囲でいいから、使える魔法をたっくんに教えといてね」
「待て、何で俺なんだ」
匠は、木葉が自身に面倒なことを押し付けようとしていると考え、すぐに割り込む。
けれど、木葉は微笑みながら言い返す。
「だって、たっくんが作戦参謀兼リーダーでしょ。それに、デバイスのプログラム面は、たっくんが把握するべきだから、知ってなきゃ」
「木葉、チーム申請の段階で、リーダーは木葉になってるぞ。魔法科の生徒がリーダーになるのが慣習だからな。それと、デバイスのソフト面を俺に任せるなら、聞く必要あるが、それは二人次第だ」
「じゃあリーダー権限で、作戦参謀に任命します」
木葉は、申請を匠に任せていたため、自身がリーダーだということを知らなかった。けれど、それに対して文句を言う前に、全てを匠に押し付ける。
匠も、木葉がリーダーだということに文句を言わなかったため、その程度の苦労は、引き受けることにした。
「はいよ。それじゃあ、注文したら、話の続きな」
全員がメニューを見ていないため、注文が決まったと判断し、匠が店員を呼んだ。
そして、思い思いの注文をした後、話を再開する。
「さて、魔力操作だね。土御門君、現代魔法を使っていくなら、覚えた方が、役に立つよ。古流魔法で生きていくなら、必須だよ」
「だが、今までそんなもの、必要としなかったぞ」
「そこが不思議だよね。まぁ、魔法陣を描く時に質のいい道具しか使ってなかったんだろうけど」
木葉の発言に対し、土御門は図星を突かれた顔をしている。
土御門の実家は、分家であっても、古流魔法の名門なので、家に伝わる道具は良い物ばかりだ。
それを使って書かれた魔法陣には、魔力の流れを阻害する不純物が含まれているはずがなく、それに慣れきっている土御門には、小手先の技法を学ぶ機会がなかった。
「とりあえず、土御門君としずっちには、そういう技術を習得してもらうからね。それと、土御門君、盗める限り、古都校の情報、盗んできてね」
「待て、流石にそれは出来ないぞ」
「何で?」
木葉の疑問に対し、土御門はすぐに反論出来ずにいる。
そもそも、木葉が土御門をチームに入れようとした理由は、古都校の情報を得るためであり、それが出来ないとなると、土御門を入れる理由がなくなってしまう。
それは、土御門としても困ることだ。
だが、そんあ土御門に対して、助け舟が出された。
「まぁ待て、木葉。土御門、お前、今こっちに住んでるんだろ。一人暮らしか?」
「……ああ、土御門家が、子供を関東校に通わせる時に使う家があって、そこに住んでいる。使用人もいるが、今通っているのは、俺だけだ」
「なら、古都校の情報を手に入れるのは難しいだろ。そもそも、新人戦の出場チームすら決まってないんだ。まずは、それが先だ」
「む、たっくんがそういうなら。じゃあ、二人の特訓を優先するから、心しておくように」
木葉が締めくくり、真面目な話が終わった。
後は、他愛のない話が始まるが、やはり土御門は居心地が悪いようで、上手く話に混ざることが出来ずにいる。




