prologue...
夜、会社で疲れた帰り道。
ふといつもより一本手前で、角を曲がってみる。
すると辺りを優しく照らすカフェを見つけて。ふらふらとドアを開けて———
「……いらっしゃいませ、喫茶little flowerへようこそ」
にこり、と微笑むマスターがみえた。
ああ、今日は疲れたし、最近頑張ってる自分にご褒美もいいかもしれない。
どこのテーブルに座ろうかときょろきょろしていれば、目を細めたままのマスターが彼の前のカウンターを指すものだからそこにいくしかない。
こんな時間だというのに意外にも店の中にはそれなりに客がいて、皆とても幸せそうに、でも静かに談笑していた。
そそくさとカウンターに座る。
「…何になさいますか?うちは喫茶といってもコーヒーは扱っていなくて、紅茶のみなのですが…」
「えっええと…」
「新しい人ね、そこって実は貴方みたいな人の特等席なのよ」
突然隣から声が聞こえて驚く。
「ねえ、こんなカチコチなんだからこれは絶対詳しくない人でしょ。マスターが適当に出してあげたら?」
左隣に座る、スーツ姿の女性。ふんわりと大人の笑顔が助け舟を出してくれた。
「それでも宜しいですか?……では、あまり夜に差し支えると大変ですからミルクティーで…茶葉はウバにしましょうか」
こくこくと頷いた自分にまた目を細めると、彼は目の前で作り始めた。
ふわふわと漂う、嗅いだことはあるけれど何時もの安っぽい物とはどこか違う香りが彼の周りできらきらしているようで。
すっかりじーっと手元を見つめて止まっていれば、隣からまたくすくすと聞こえた。
「そうそう、私も初めて来た時はそうなってたなー。マスターの紅茶はほんとに美味しいから!ここにいる人皆、そうやってリピーターになってるのよ」
確かに匂いだけでも美味しそう。そうなんですか、と大きく頷いて話を聞く自分に、今度は隣の彼女も、そして紅茶が出来上がってそれを差し出すマスターも、微笑んで自分が飲むのを待っていた。
頂きます、とカップをとる。
白く繊細なそれに、またさっきのストレートティーの香りとは違うもっとふわふわしたミルクティーの香りがする。
「……美味しい」
つい出た言葉に、周りの人が皆にこにこしたのが顔を上げずとも分かった。
紅茶なんて、最近じゃ忙しすぎてペットボトルしか飲んだ記憶がない。
また一口飲んで、決めた。
今度は、飲んでみたい紅茶をちょっと調べてきてみよう。マスターの後ろの天井まで届く棚を見る限り、きっとどんな種類でもあるはずだ。
それとマスターおまかせも。お願いしてみよう。
そう考えると、なんだかうきうきしてきた。また飲みたい。仕事も頑張って、また来よう。
「…ここは夜カフェなので19時から2時まで開いています。また是非お越し下さいね」
思考を読んだかのようににこ、と告げられた。もちろん。
「……また、お邪魔します!」
疲れてドアを開いたのが嘘のように、帰りのドアを開いた時にはすっかり笑顔だった。
これはリトルフラワーに来る大体のお客様の馴れ初めのようなものなので、
プロローグに関しては”自分”は男女どっちともとれるようにしています。