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?月4日
今日はバイトが早く終わる日で、三時頃に俺は家路に着こうとしていた。三時だというのに、やっぱり彼女はそこに居た。しかも今日は座ってフワフワと漂う煙草の煙を見つめていた。 いつ見てもそう思っていたが、目が死んでるような気がする。今、自分のイヤホンからは、尾崎の『I love you』が流れている。今日は「ウォークマンで聞こえなかったので通り過ぎてしまった」作戦を実行しているのだ。なぜなら、さすがに三日連続呼び止められているので、どうせまた呼び止められるだろうとたかをくくっているからだ。
しかし、彼女は呼び止めようとしてこない。逆に不安になった俺は彼女の方をみてみた。すると、彼女とばっちり目が合ってしまった・・・・・・。
なんとなく気まずくなり俺は彼女の目の前で自転車を止めた。すると彼女は俺を見上げる。
「今日もお疲れ様」
何処となく目はうつろだ。僕を見ている様で見ていない様な感じだ。
「お前酔ってるのか?」
「うん、そだよー」
彼女の返事は単調でどことなく明るかった。
「じゃぁ、家に帰れよ」
「別に帰ったって面白く無いもん」
「じゃあさー・・・」
俺が話し終わる前に彼女は空を見上げてこう言った。
「何か疲れた」
「何に?」
「人生に」
「・・・・・・そう」
曖昧な返事しか出来ない
「死にたくなる時って無い?」
「ある、普通に沢山」
即答出来る。どんな時に死にたくなるかもはっきり言える。
「じゃあ何で死なないの?」
「怖いから。痛いから。生きていれば何かいいことあるから」
「・・・・・・」
「まあな。昔さ、昔っても俺が高校三年だった時さ、俺本気で死のうと思った事があってさ・・・・・・自暴自棄になって、無理している自分に疲れて、暴れまわって、関係ない人に切れて、自分が生きている世界に絶望して、それで・・・。でもな『死のう』って考えても、死んだらどうなるか考えるとすっごい怖くなって。弱い自分が情けなくて、泣きたくなって。大声で泣いて。いろんな人に泣きついて。そしたらさ」
「・・・・・・そしたら?」
「思いっきり殴られた」
「誰に?」
「仲良かったクラスの女子なんだけどさ。なんか、俺のこと好きだったらしいんだけどさ。思いっきり殴られたよ」
「何で?」
「そいつがな、『ツラいのはアンタだけじゃ無いんだ!!』って言ってさ。俺の弱虫みたいな行動がむかついたんだろ。まぁ、そりゃそうだよな。惚れた男が情けない男だったなんて知ったときにはショックだっただろうな」
「・・・・・・」
「そしてその人と話してたらなんか楽になった。開き直ったって言うのかな?一度死のうと思ったんだったら、何でもできるような気がしてさ。」
俺は少し空を見上げてこう続けた。
「仕方無い。うまくいかないのは仕方ない、そう思う事にした。仕方無い。人間いつかは死ぬんだし、どうせいつかは死ぬんだったら、あえてその部分で自分が積極的になる必要はないしね。」
「なにそれ?人生を諦めてるんじゃない?」
「そうかもね・・・けどな、そう思うと案外楽になった。生きることは重荷じゃ無い。死んでしまうのは仕方無い。過去を何時までも引きずってたって仕方ない。だから、今を生きる。」
「・・・・・・」
「それだけだ」
「で?その後はどうなったの?」
「こうなった」
「良いことなのそれ?」
「ん〜まぁ、生きてるけど、人生に目標なんてないし」
「そうだったんだ」
「仕事もダルいし、上辺だけの付き合いをするつもりなんかサラサラねぇし、親友とか友達って呼べるのもほとんどいねえ。社会一般で言う成功の一つの部分さえ、俺は手に入れることはできてないよ。けどさ、それでも結構充実して生きていけてるんだぜ。」
ずっと空を眺めている彼女の隣に座った。
「まだ死にたいと思うか?」
「いいわ。あなたの言うとおり頑張ってみる」
「そ、じゃあ。」
立ち上がり、チャリに跨って自転車を漕いだ。