日記帳 二日目
?月2日
だるいバイトをクリアして、自分の話しかしない店長の話を聞き流し、当たり前の様に今日も家路に着こうとペダルを漕いだ。そして昨日と同じ様な恰好をした女が昨日と同じ姿勢でそこに居た。帰る道はここしか無いもんな・・・今日は目を合わせないようにその道をさっさと通ろうとした。しかし、大きく溜め息一つしたかと思うと、その女は当たり前の様に声を掛けて来た。
「火貸してくんない?」
昨日と全く同じセリフ。僕は昨日と同じマッチ箱を彼女に渡し、火を付け終わるのを待った。ところがなかなかマッチ箱は返って来ない。別に返して欲しいわけでもないが、こんな女に奪われたと思うとなんかむかつく。
「返してくれ」
「これ頂戴」
彼女はマッチ箱をシャカシャカと僕の前で鳴らしている。諦めた方がはやいな。そう思って、ペダルを漕ぎ始めたがやっぱり後ろから声が掛かる。
「何?」
「いつも、ウォークマンつけてるけど何聞いてんの?」
「尾崎」
「尾崎?」
「尾崎豊」
「・・・誰?」
おもむろに鞄の中からアルバムを取り出して、彼女に見せた。
「・・・これが尾崎豊?」
「そう」
「アルバム?」
「そう」
「・・・貸して」
「やだ」
「何で?」
「何で見知らぬ人間に貸さなきゃならないんだよ」
彼女は少し僕の方を睨むと彼女は僕の顔をジッと見た。
「何?」
「鈴木 絵里。19歳。仕事は夜の仕事。家族は親父と弟と妹。現在はこの工場街にある寮に住んでます。はい、貸して。」
「何が貸してだよ」
「これで赤の他人じゃ無くなったじゃない。もうこれだけ話したんだから知り合いよ。」
なんなんだこの自己中で自分勝手な人間は。かまっているのが本当に面倒くさくなってきた。自己中だから俺のことなんかまったく考えずに・・・こいつは。
「だから早く貸して。」
「やだ。」
「何?まだ私のこと知りたいの?」
「誰もそんなこと聞いて無い」
何かグダグダな会話になって来たな。なんかもうどうでもよくなってきた。
「もうわかったわ、これ貸すよ。」
「本当に?」
「ああ」
「ついでにさ・・・」
はぁ?まだ何か求めるのか?
「何?」
「煙草頂戴」
「ない。あと、煙草はできるだけ吸うな。」
そう彼女に言い残すと、僕はペダルを漕いだ。