表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

日記帳 二日目

?月2日


 だるいバイトをクリアして、自分の話しかしない店長の話を聞き流し、当たり前の様に今日も家路に着こうとペダルを漕いだ。そして昨日と同じ様な恰好をした女が昨日と同じ姿勢でそこに居た。帰る道はここしか無いもんな・・・今日は目を合わせないようにその道をさっさと通ろうとした。しかし、大きく溜め息一つしたかと思うと、その女は当たり前の様に声を掛けて来た。

「火貸してくんない?」

 昨日と全く同じセリフ。僕は昨日と同じマッチ箱を彼女に渡し、火を付け終わるのを待った。ところがなかなかマッチ箱は返って来ない。別に返して欲しいわけでもないが、こんな女に奪われたと思うとなんかむかつく。

「返してくれ」

「これ頂戴」

 彼女はマッチ箱をシャカシャカと僕の前で鳴らしている。諦めた方がはやいな。そう思って、ペダルを漕ぎ始めたがやっぱり後ろから声が掛かる。

「何?」

「いつも、ウォークマンつけてるけど何聞いてんの?」

「尾崎」

「尾崎?」

「尾崎豊」

「・・・誰?」

 おもむろに鞄の中からアルバムを取り出して、彼女に見せた。

「・・・これが尾崎豊?」

「そう」

「アルバム?」

「そう」

「・・・貸して」

「やだ」

「何で?」

「何で見知らぬ人間に貸さなきゃならないんだよ」

 彼女は少し僕の方を睨むと彼女は僕の顔をジッと見た。

「何?」

「鈴木 絵里。19歳。仕事は夜の仕事。家族は親父と弟と妹。現在はこの工場街にある寮に住んでます。はい、貸して。」

「何が貸してだよ」

「これで赤の他人じゃ無くなったじゃない。もうこれだけ話したんだから知り合いよ。」

 なんなんだこの自己中で自分勝手な人間は。かまっているのが本当に面倒くさくなってきた。自己中だから俺のことなんかまったく考えずに・・・こいつは。

「だから早く貸して。」

「やだ。」

「何?まだ私のこと知りたいの?」

「誰もそんなこと聞いて無い」

 何かグダグダな会話になって来たな。なんかもうどうでもよくなってきた。

「もうわかったわ、これ貸すよ。」

「本当に?」

「ああ」

「ついでにさ・・・」

 はぁ?まだ何か求めるのか?

「何?」

「煙草頂戴」

「ない。あと、煙草はできるだけ吸うな。」

 そう彼女に言い残すと、僕はペダルを漕いだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ