日記帳
一生に一度だけ日記をつけた一ヶ月
?月1日
僕はフリーターです。しかもどんなことも中途半端でやめてしまったろくでもない人です。僕には何がしたいとか何になりたいとか、そんな悩みがありません。つまり漠然とした夢や希望なんていう物は僕の心の中には存在しないのです。ただ淡々と何と無しに生きて、何と無く死んで行く、そう言う人間何だろうなと漠然と考えているのです。深夜バイトの仕事も終り、ガタがきだしたシルバーの古い自転車を乗っていた時に、僕はある出会いをしました。このちょうど夜も明けようかという微妙な光が漂う街中にその子は居ました。
時間は六時を少し過ぎた頃で、まだ人通りも少なく、工場街が多いこの街は、田舎と言うほどでも無いけれど、都会と言えば間違い無く違うと言える街です。しかも、場所は一帯が工場地帯で、そんな子がそこに居るのは少し場違いな感じがしました。
僕はその子を少し珍しそうに見ていました。そのせいかも知れませんが、その子もジッと僕を見て、通り過ぎる瞬間には、ジッとお互いが目を合わせあいました。
通り過ぎる瞬間に、嫌な匂いがしました。この匂いはどこかの安いきつい匂いの香水だと思いました。
『ちょっと待って』
この時に無視すれば良かったのです。反応さえしなければ何も起こらなかったのです。後になって後悔するハメになると知っていたなら・・・この時の僕は素直にこの子の言うことを聞いてしまったのです。
「何ですか?」
正直な感想を言うと、彼女に対して良い印象は持てませんでした。それは、あまり人付き合いが苦手、と言うより嫌いな僕だからかも知れません。もしくは、こんな夜に出歩く女性に偏見を持っていたのかもしれません。
「火持って無い?」
「無い」
当たり前の様に言う女と当たり前の様に答える僕。何か少し変な感じがしました。タバコという存在を心から嫌う人間。それが僕です。そして、偏見を持ってしまった僕の心には、この女性と関わりたくないという気持ちもかなり増え広がっていたのです。
「じゃあ煙草を吸えないじゃない?」
知ったことかよ、何でこう初対面の人間にズカズカと物を抜かせるのか。僕はこう思いながら、ソソクサと立ち去ろうとしました。その時、ポケットにマッチが入っている事を思い出しました。なにかのおまけでもらったのですが、何のおまけだったかは覚えていません。なんとなくポケットに手を入れ、まだ一度も開けていないマッチが入った箱を彼女に渡しました。彼女は「ありがとう」も言わずにマッチを受け取り、当たり前の様に煙草を吸い始めました。
「・・・・・・」
何も言わずにあまったマッチを返して来る彼女。それを受け取り、またチャリンコに跨って、家路に着こうとしましたがまたも声がかかりました。
「何?」
いい加減ウザイ。そう思ってしまった。夜勤明けの朝6時にこんなに人と話したことは今までない。シンドイし、ダルいし、おまけに眠たいのだ俺は!それなのに、何でこんな訳の分からん奴と喋らにゃならんのだ。
「アンタさ〜あそこのセブンで働いてる人間だよね?」
なんで知ってるのかと少し驚きながら、シンドクてダルくて眠たい俺は、早く話を切り上げれるように、無愛想に話した。
「だから何?」
「つうかさ、その喋り何とかならないの?聞いてるこっちがムカつくんだけど」
言うにことかいてそれかよ。何なんだよこの女。
「そりゃ悪かったな」
棒読みでそう答え、いいかげん呆れていた俺はペダルを漕ぎ出す。
「ちょっと待って・・・」
「はぁ?何だよ?」
ケンカふっかけて来てんのか、コイツは?そう思った。
「ちょっと暇だからさ、ここに居て来んない?友達来るまで」
「嫌です!」
その後もう一度呼び止められたような気がしたが、気にせずペダルを漕ぎ出し、後ろを振り返えらずに家に帰った。
これが一日目の出来事である。