― Human eater ―
「で、何処に居るんだ。その『人喰らい』とやらは」
「ん~~。こっち!」
「……今、適当に決めただろ」
「だってどっちでも同じじゃん」
セラグとレウリアが森に入ってから約1時間。
完全に陽が沈み暗くなった森は天然の迷路と化し、視界を奪い方向感覚を迷わせる。
そして、その森の中で、2人は完全に迷子になっていた。
「大体、明日の昼でも良かったんじゃないのか?」
「だーめ! 今すぐじゃなきゃ!!」
「……根拠は?」
「今すぐに行きたいから!」
「そうか。まともな答えを期待した俺が馬鹿だった」
森を率先して小走りに進むレウリアと溜息をつきつつ追いかけるセラグ。
だが、森の起伏のある地面や、闇で見えにくくなっている障害物等が、確実に2人の体力を奪っていく。
「うーん、この辺だと思うんだけどなー」
「……何がだ」
「いやだから『人喰らい』が居るのはこっちじゃな――ってアレ!?」
「ん? ……森が、途切れた?」
だが、セラグの口数が減り始めた頃、急に視界が開けた。
森の中にある、広場の様な場所に出たのだ。
それまでは鬱蒼とした森だったのにも関わらず、まるで木が避けているかのように一定の線から先には植物が生えていない。
一応、剥き出しになった地面には微かに雑草が生えているが、それも申し訳程度だ。
「先に出て行った『人喰らい』討伐隊のキャンプ跡か?」
セラグがそう予想するが、果たしてキャンプ目的程度でここまで草を刈る必要があるだろうか。
セラグ自身もそこまで自信は無いらしく、疑問形だ。
「違うと思うなー……誰か住んでるとか?」
「それは無いと思うが……ん?」
その広場の中央に、古い屋敷が建っていた。
夜の闇で全体は見えないが、酷く蔦が絡まっている事や色褪せているが茶色のレンガで出来ている事から立派な建物であったことが窺える。
人の住んでいる気配は無く、当然窓に光も無い。
手前にある門は、中途半端に開いたままになっている。
「この魔力……。どうやら、ビンゴだな」
「え? なになに!? 見つかった!?」
「ああ、お出ましの様だ」
暗がりの中に佇む門の隙間から、謎の影が突進してきた。
「ふぇっ!?」
「ちっ……!」
セラグが左手の荷物を投げ捨てレウリアを押し倒すように右に避ける。
突進を外したその人物は、そのまま地面を転がるように減速した。
避けた後、セラグがすぐに無事を確認する。
「大丈夫か?」
「んー、私は大丈夫。けど、ご飯がー……」
レウリアが空を指す。
その先には、1ヶ月分の食料が入った袋が宙に浮いていた。
「おいおい、アレは割と金をかけて買い込んだ食料なんだぞ……」
だが、その声も空しく荷物は夜の森へと消えて行った。
唖然とした表情でショックを受けているレウリアをよそに、セラグが突進をかけてきた人物へと声をかける。
「まったく……随分な登場だな、『人喰らい』!」
突進してきたのは、ボロ布を着た小さな人物だった。
1枚の布を無理矢理纏っているような服から、土に汚れた裸足が見え隠れしている。
頭にも布が掛かっていて、暗い夜の中、顔は良く見えない。が、漂っている血の匂いから、『人喰らい』だと推測できる。
セラグがすぐに立ち上がり、その人物へと声をかける。
「『人喰らい』か?」
「……ぅん」
小さな、掠れた声がボロ布の下から聞こえる。
どうやら、言葉は話せるらしい。
「で、俺達はお前に“喰われる”のか? そこに転がってる肉片なら幾らでもやるが」
セラグが、探るように再び問う。
「……貴方の、命、貰う」
「そうか。ならば、しかたない。相手しよう」
ボロ布の人物が『人喰らい』だと認識したセラグが、先程の突進を避けた際に吹っ飛んだアタッシュケースを拾い上げ、その中から一冊の本を取りだそうとする。
「『人喰らい』は殺人の魔導書。ならば――」
「がぁぁああああ!! 助けてくれっ!!!!」
「――!?」
不意に門の暗がりから悲鳴のような助けを呼ぶ声が聞こえる。
セラグは一瞬体を強張らせ暗がりへと声を向ける。
「誰だ?」
「私だっ! アドネ・マルティノンだっ!!」
「……何?」
見ると、門に倒れ掛かりながら、アドネが立っている。
その右足は膝から下が既に無く、傷口からボタボタと血が流れている。
「まだ生きてたんだー」
レウリアが緊張感の無い声で言う。
「黙れっ! さっさと私を助けろウスノロどもがっ!」
アドネが激昂するが、しかしこの場に居る3人は微動だにしない。
「……何事かと思えば。死にぞこないはそこで黙っていろ」
「何をっ……!」
「そーそー、これから決闘が始まるんだからー。静かにしてないと駄目だよん?」
「貴様等っ……!」
と、アドネがその脇に抱えていた本を開き、そのページに手を押し当てて叫ぶ。
「全員燃えてしまえっ! 『灯竜の鎮魂火』!」
その言葉に応じるかのように、本自体が発火した。
そして、燃え上がった炎はすぐに巨大化し、竜の形へと変化する。
炎で出来た竜は、大口を開け回転しながら周囲を焼き焦がす。
「はっはっは! これでどうだ!」
「……まったく、邪魔をするなと言っているだろうが」
「…………熱い」
「あははは、凄いなー炎の竜だー」
が、しかしこの場に居る3人は平然と立っていた。
「な、何故だ!? 何故炎に呑まれて無事だっ!」
アドネが再び激昂するも、やはり3人とも微動だにしない。
「『水遁火中』。第二代写本。どんな火炎をも無効化する水の書だ」
「…………火、不味い」
「んー、私にはそういうのは効かないかなー」
「……こんのっ! 化け物どもがっ!!」
自身の創りだした炎が、簡単にあしらわれた事に唖然とするアドネ。
「おい、そこのお前! 大体この本を寄越したのはお前だろうが! 全然効かないではないか! 先程から何度この炎を受けても、『人喰らい』は火傷1つ無いぞ!」
「――ふむ、確かに。これは予想以上の代物かもしれんな」
アドネの怒声を聞き流しつつ、セラグが改めて『人喰らい』へと向き直る。
ボロ布で出来たフードが、炎で出来た風に捲られたらしく、今度は顔が見えていた。
どうやら、『人喰らい』は少女だったらしい。将来はかなりの美女となるだろう顔と金髪が、ボロ布から除いていた。
だが、汚れたボロ布や血だらけの頬、虚ろな紅い目が全てを台無しにしている。
「……火、食べ難い。君、食べる」
「断る」
「……いただきます」
「問答無用なら聞いてみる意味ないんじゃいかなーって思ってみたり」
レウリアのツッコミを無視し、『人喰らい』はボロ布の中から、1冊の本を取り出す。
表紙は赤黒く生々しい臓物の様な物で出来ていて、何やら黒いインクで表題らしきものが書かれている。
背表紙にはまるで口の様に牙が並び、その隙間から血が滴っている。
小口から覗くページも、赤く血に染まっていて白い部分を探す方が難しい。
「――それはっ!?」
そして、その本を見た瞬間、セラグの表情が変わった。
「なになに? 有名な魔導書ー?」
レウリアが呑気に聞くと、セラグはゆっくりと、喜びを噛み締めるように答えた。
「『屍食教典儀』――1572年に書かれた禁書。後にクトゥルフ神話にて引用され、魔導書に染められた1冊だ」
「染められた――って元の危険な知識が書かれただけの唯の本だったのが、魔導師によって魔導書に書き換えられちゃった、って本だよね?」
「書き換えた、というと語弊があるがな。基本的にはそうだ」
人差し指をこめかみに当てつつ、思い出しながら言ったレウリアの知識に、セラグが肯定する。
「あれ? けどさ、染められたって事は……もしかして原本かも?」
「ああ。アレは間違いなく、『屍食教典儀』の原本だ。よもやこんな所で見つかるとはな」
言葉の端々に喜びを滲ませつつ、セラグが言う。
どうやら、魔導書の原本に出会えたことが、相当に嬉しいらしい。
もし『人喰らい』が本を開き、ページを捲っていなかったら『屍食教典儀』を力尽くで奪っていただろう。
だが、目の前の本が原本だと知って、反応したのはセラグだけでなかった。
「――じゃあ、もしかして?」
期待するような、甘い声でレウリアがセラグに問う。
「――蒐集する。本に戻れ、レウリア」
そのセラグの言葉を聞いた瞬間、レウリアが俯き、顔を陰らせる。
「やったやったやったぁ! 久しぶりに戻りたいと思ってたんだよー」
そして、次に顔を上げた時、その頬は上気し顔には満面の笑みが広がっていた。
それは、まるで狂喜と呼ぶべき恍惚とした表情で、レウリアの口が三日月に歪む。
「さぁ、いくぞ。レウリア」
そのレウリアを見て少々冷静になったらしいセラグは、右手を突き出し何もない空中へと翳す。
さらに、そのセラグの前に、レウリアが跪くように座り込む。
そして、次の瞬間、レウリアの体が粒子の様に崩れ始めた。
目に見えぬほど細かい粒となって、頭から順番に空中へと溶けていく。
だが、その粒子は意志を持つかのようにセラグの右手へと集まり、新しい何かを形作っていく。
そして、10秒後。レウリアは――本として、セラグに握られていた。
「……本?」
驚きつつも、『屍食教典儀』を捲るのを辞めない『人喰らい』が、セラグへとその目を向ける。
だが、それを気にせずセラグはレウリアだった本を右手で掲げ、命令の様に呟いた。
「強欲の罪を背負いし堕天の徒よ。その限りなき英知を此処に記せ。第一文庫、解放せよ。『叡智の蔵』」
その声に呼応し、『叡智の蔵』と呼ばれたレウリアだった本は震えだす。
そして、何者かに開かれるかのように勝手にページが開き、――その見開きの喉布から、本が飛び出した。
1冊目が出切ると、まるで堰を切ったかのように次々と本が現れ、大量の本がその本から出現する。
中にはその本よりも明らかに大きな本や、棘の様な装飾のある本もあるが、それすらも気にせずその本は本を吐き出し続ける。
さらに、それらの本は地面に落ちるでもなく、腰辺りの高さで何かに吊られるかのように浮き、セラグの周りをゆっくりと回り始めた。
そして、数秒と経たずしてセラグの周りに数百冊の本が集まり、まるで土星の環の様に、多種多様な本で出来た環が浮かんでいた。
「……!?」
今度は本当に心の底から驚いたらしい『人喰らい』は、ページを捲る手を止めセラグへと問う。
「一体、何?」
だが、セラグはその疑問を無視し、言葉を紡ぐ。まるで魔術師の詠唱の様な、言葉を。
「かつて、名も無き叡智を司る天使が居た」
「その天使はその役目のため、この世の全てを知ろうとした」
「人の世を覗き神の識を読み全てを欲した」
「そして知識を欲しすぎた故に「強欲」の罪で地に堕ちた」
「だが、その天使はそれでも知識を求め続けた。地に消えゆくその身を蔵に宿して」
「――故に、反転の天使、堕天使をその名に冠す巨大書架、その名も――――『叡智の蔵』」
「――!?」
「ありとあらゆる本を保存する、蔵だ。『叡智の蔵』とは。現在は531441冊の蔵書が保存されている」
不意に、セラグは周りに浮いている本の中から1冊を掴み、ページを捲る。
「そして、無論蒐集するのは普通の本だけでは無い。例えば、魔導書の原本等も含まれる――」
紺色に金縁の表紙には、砕かれた骨の様な小さな白い欠片を寄せ集めて作られたクロウリーの六芒星が描かれ、その下にPerduraboと小さく書かれている。
背表紙には金文字で『汝の意志するところを行え。これこそ<法>の全てとならん』と書かれている。
一見、普通のハードカバーに見えるが、捲られたページには複雑な魔術陣や悪魔の使役に関する情報が記されている。
この本こそ、世界一有名と言っても過言ではないアレイスター・クロウリーの記した魔導書である。
「己が名を聞け、存在せし善悪の魔よ。ソロモンの名においてその身を此処に、召喚する。七十二柱全天覆え」
「…………っ! 『屍食教典儀』!」
詠唱を阻止しようと、少女はページの詠唱を中断し、『屍食教典儀』の背表紙を開き、巨大な口をセラグへと向ける。
だが、その口がセラグを喰らう前に、セラグに周りに浮いた魔導書達が、その口を邪魔する。
1つ1つに禁じられた叡智の記された魔導書が、その魔力を使って互いに補い合う防御壁を形成しているのだ。
「その程度では効かん。それに、何度も魔導書を使っては精神が持たん。相当に着かれている今の状態ではコレは喰えんさ。さて……終いだ」
「『ソロモンの小さき鍵』」
そして、セラグが魔導書の名を呼んだ瞬間、周囲から幾百幾千幾万の悪魔たちが召喚される。
ありとあらゆる、この世に存在し得る異形を纏って。
その悪魔達は、雪崩れ込むように少女へと殺到し、物量で少女を攻める。
少女も『屍食教典儀』の口で応戦するが、奮闘むなしく地面へと膝をつく。
そして、少女の手から、『屍食教典儀』が離れた。
「……これが、『屍食教典儀』か」
『ソロモンの小さき鍵』を右手に持ったままのセラグが、落ちた『屍食教典儀』を拾い上げる。
そして、『叡智の蔵』のページを開き、その見開きを『屍食教典儀』に押し付けた。
すると、『屍食教典儀』が吸い込まれるように『叡智の蔵』の喉布へと消えた。
「蒐集、完了」
そう満足気に言ったセラグに呼応するかのように、新しい1冊を保存し蔵書数531442冊となった『叡智の蔵』は、音をたててページを捲った。
「お前らもさっさと帰れ」
と、今度は冷めた口調で周囲に溢れている悪魔達に、命令する。
“えー”だの“めんどー”だの“何のために呼んだんだよ”だの“見栄っ張りだからじゃね”等と言った思念を撒き散らしつつ、悪魔達も暗闇の中へと帰っていく。
同時に、セラグの周りに浮いていた魔導書群も『叡智の蔵』に吸い込まれ、『ソロモンの小さき鍵』を最後に収納して『叡智の蔵』はページを閉じた。
そして、また細かい粒子へと崩れ、セラグの足元に姿を再構成する。
「……また、姿を変えたのか」
「良いじゃん。前のは動きにくいんだもん」
再構成されたレウリアはブルーのパーカーにホットパンツという前とは正反対の服装に変わっていた。
外見年齢も弄ったらしく、前よりも少し大人らしくなっている。
「さて、帰るか」
「おいっ! 待てぇっ!」
と、アタッシュケースを拾って帰ろうとしたセラグとレウリアに、後ろから悲鳴のような声がかかる。
「ん……? ああ、そういえば居たな」
セラグが後ろの声の主、アドネの存在に気が付き、そちらへ歩いていく。
「そっかそっか。結局生き残ったのかー、運が良いんだねー」
外見年齢は変化しても、中身は変わらないらしいレウリアが、アドネへ向き返る。
「さっさと助けろっ! 木偶の坊どもが!」
「……五月蠅い。黙――」
アドネを無視してセラグは歩き出そうとしたが、アドネの足元に散らばる何かがその何処か達観したような目に止まった。
紅い革の様な板と、羊皮紙の紙片。そしていくつかの白い欠片。
「お前、それはなんだ!」
「……これか? 使い物にならん紙屑を本物の紙屑へと変えてやったのだ! こんな物、今すぐ消えてしまえばいい!!」
「魔導書が如何なるものかわかっているのか!?」
「知らぬわ! 紛い物の事などな!」
「貴様……っ!」
珍しくその顔を怒りに染めているセラグが、アタッシュケースから1冊の本を取り出す。
「丁度良い。その足、血が止まら無いのだろう? 治療してやる」
「は……? そうかそうかやっと助ける気になったか――」
それは、目の前で紙屑と化した本と、瓜二つな1冊だった。
「『灯竜の鎮魂火』第三代写本。貴様にはこの炎をくれてやる!」
セラグが新しい『灯竜の鎮魂火』の適当なページを開いて、手を押し付ける。
そして、それに呼応して出てきた炎の竜に、セラグが命じる。
「深淵に住まいし獄炎の竜よ。その身を矢として全てを灰の欠片と化せ」
「がぁぁぁああああああああああ!!?」
命令に従った炎の竜がアドネの右足を焼き、傷口を焦がす。
「止血をしてやったぞ。喜べ」
「うわぁー……、相当怒ってるねーセラグ。鬼畜っぷりが半端ないよ」
「知らん。この屑にはこれぐらいがお似合いだ。本を侮辱した事を後悔しろ」
『灯竜の鎮魂火』を再びアタッシュケースへと戻し、そのまま今度は新しい本を取り出した。
緑の風をモチーフとした表紙の、薄い本だ。
そして、その本を開き、ページに手を押し当てる。
「『強制帰宅命』。疾風よ。その身を安寧の地へと送り届けよ」
名前を呼ばれ、呼応するように『強制帰宅命』が光り、何処からともなく突風が現れアドネの体を吹き飛ばす。
「なああああぁぁぁぁぁぁ………」
「さて、俺達も帰るぞ。……レウリア?」
アドネへ十分に怒りを発散して、少々落ち着いたらしいセラグが『強制帰宅命』をアタッシュケースに仕舞い、レウリアの方へ声をかける。
レウリアの方は、怒ったセラグから早々に逃げ出して地面にしゃがみ込んでいた。
「ねぇ、セラグ。コレ何?」
「……何だそれは?」
「んー、何か拾っちゃった。そこに落ちてたから」
レウリアの右手に何かが乗っている。
赤に染まった、茶色の拳大の何か。
「パン、か? 随分と血にまみれているが……」
「ふーん……じゃぁ、食べられないか。なんかね、この辺に落ちてたから」
「そればかりは何もわからないが……――っ!?」
と、立っていたセラグに向かって黒い影が突進してくる。
ボロ布を被った、赤い眼の少女――
「『人喰らい』!? 魔導書を何度も使っておいてまだ動くか!?」
「……かえせっ!」
「くっ……!」
咄嗟に防御姿勢をったセラグを飛び越え、レウリアへと飛びかかる『人喰らい』。
レウリアが茫然としている間に突撃し――そしてそのまま通り過ぎた。
手に持っていた赤く染まったパンを掻っ攫って。
「あーっ! パンがー!」
そして、パンをひったくった『人喰らい』は猛然と走り去っていった。
未だ暗い森の奥へ。
「一体何なんだ……」
「うぅー……」
セラグはもちろん、どうやらレウリアにも怪我は無い。
最後の力を振り絞った攻撃、の筈なのだが。
「私のー……パンー……」
レウリアの方は、見つけた物をいきなりとられてご立腹の様だが。
「……まったく。そこまでしょげるな」
「…………」
セラグが、面倒そうに溜息を吐く。
テンションの低いレウリアなど、そうそう見れるものでもない。
最も、かといってあのパンを取り返すのは不可能だが。
「はぁ……なら、代わりのパンを町で買ってやる。それでいいだろ?」
「ホント!?」
レウリアが目を輝かせる。
「…………お前の感性は本当に分からん。地面に落ちているものは食うなよ」
「どんな物でも私が拾った物だもん!」
「そうかい。ほら、パン買に街に帰るぞ」
「りょーかい!」
軽快なスキップとゆっくりとした足音が、夜が明け太陽が差し込んできた朝の森に何時までも響いていた。