第7話 実は優秀なお姉さん
火曜日の夜。ここ何日か、大好きなお酒を控えて夜なべでメニューのデザインを作成していた澪さん。どうやら完成したのか、にこやかに近づいてきた。
「湊くん、メニューできたから確認してみてね」
そう言って笑顔でA4サイズのプリントを数枚渡してきた。
内容を確認してみると、ふんわりと優しいフォントにお洒落な装飾、視線の動線も意識したであろう優秀なレイアウト。
自信があるとは言っていたけど、これは正直、期待以上だった。
「すごい! 澪さん見直したっす! こんなに上手に出来るなんて思ってなかった!」
「えへ、ありがとう! ……ん? 見直したってことは、今まで見下してた?」
ジト目で俺を睨んでくる澪さん。ポンコツなのに妙なところで鋭いな。
「そんなこと無いっす。 言葉のアヤっす。 それよりこっちは素人の仕事じゃないっすね。もしかして本職はこっち?」
「なんか一々ひっかかるなあ。そうだよ、元はWEBデザイナーの仕事をしていたの。ブラックすぎて過労で倒れちゃったんだけどねー」
ブラック企業に勤めていたのか。そりゃ何かと病むかもなあ……。
「色々大変だったんすね。でも、このメニューすごい!可愛いイラストもあるし、絵も上手なんすね~」
彼女は嬉しそうにもじもじしている。頬は明るみ、その姿はご褒美を貰った子どものようだった。
「なんかそう言って認めてくれるの嬉しいな~。好きなことが褒められて役に立つのって充実感あるね! 修正箇所とか必要だったら言ってね」
ごきげんな様子で部屋に戻った澪さん。毎日夜遅くまで頑張ってたんだな~。
よし、明日は休みだし、たまには晩酌に誘ってみようかな。
「澪さん、久々の晩酌はどうすか? 俺、おつまみ作りますよ」
澪さんがぱあっと明るい顔になる。いつも陰の雰囲気が強いだけに、喜ぶ姿は、まるでスポットライトが当たったような眩しさだった。
「湊くんから誘ってくれるの嬉しいな~。毎度やらかしてるから嫌になっちゃったかなって思ってたんだ」
「全然いやじゃないっすよ。なんだかんだいつも楽しいっす。さ、食べたいのあったら何でも作りますよ!」
「なんでも! ? じゃあ唐揚げ! ビールに唐揚げって最高だよね!」
「そうきたかあ……。なんでもって言ったからね。よっしゃ!たっぷり揚げちゃいましょう! 」
こんな夜更けにからあげなんて背徳もいいところだけど、嬉しそうなので良しだろう。
冷凍してある鶏もも肉と、ついでにゲソ揚げもやろう。おつまみに出来そうな食材は、澪さんのためにしっかり下味をつけてからストックしてある。冷凍枝豆もあれば彩りよくなるな。あとは冷やしトマトのスライスで、結構豪華な宴会メニューになった。
明日は定休日で、澪さんを美容室に連れて行く約束をしている。わりと本気で嫌がってたから、少しでもテンション上げてもらおう。
――ジョワーー! パチパチッ……。
唐揚げの揚げる音はやっぱり良いなあ。晩ごはんを食べてから4時間ほどか。小腹を埋めるにはやや重たいけど、この生姜とニンニクの効いた鶏肉の揚がる香ばしい香り! たまらなく食欲をそそる。
「澪さん準備できましたー!」
部屋から出てきた澪さんが、ちょっとお洒落な服装に着替えていた。
「どうかな? 可愛い男の子との飲み会だから、ちょっと着替えてみたの」
淡いラベンダーのオフショルのゆるニットに清楚な白いロングスカート。前髪はアップに髪留めで抑えて、確実にいつもにも増して綺麗だった。
意外なイメチェンにちょっと、いや、かなり驚いた。
「澪さんめっちゃ可愛いっす! そんな服も持ってたんすね。やっぱ美人だなあ」
「でしょ! もっと褒めていんだよ! 言ってくれる人いないんだからそういう言葉に飢えてるの。さあもっと!」
……しゃべらなければ。と、注意書きが必要だった。
残念さをきっちりキープしてるところが澪さんらしかった。
「じゃあ、メニュー完成記念っすね! かんぱーい!」
「明日は美容室でもっと綺麗になる澪さんにかんぱーい」
ぐいっと飲み干した後に、ちょっとぶすっとする澪さん。
「……やっぱ美容室いかなきゃだめ? もう十分綺麗になったでしょ? まだ満足できないの?」
上目遣いに俺を覗き見る澪さん。それは反則だ。
「美容室舐めちゃだめっす。ビフォー・アフター撮っておきましょうね。いかに今までが駄目すぎたか分かるっす」
「ようは今は駄目ってことか。湊くんは辛口だよね~」
ぶーぶー言いながらも、美味しそうに唐揚げを頬張る澪さんがとても可愛らしい。俺もアルコールが入ったせいか、やたらとドキドキしている。
「ホントこの唐揚げ美味しいね。ジューシーで味付けも完璧! こりゃ1唐揚げ1本ペースで飲めるね!」
「あまり飲み過ぎると明日出かけられなくなるから。ほどほどにね」
「はーい。ゲソ揚げも美味しいし、彩りも豊かだし、湊くんがいてくれて良かった! ――私ってホントついてるな~。なんかさ、ラノベになりそうだよね! タイトルは『ずぶ濡れの奴隷を拾ったらメシウマイケメンショタでした』みたいな感じでどうかな!」
「ぶっ! ゲホッ! ゲホッ……。奴隷って……。澪さんそういうところがダメダメっす。それにショタって言われると傷つくっす」
「えー! 可愛いのに。ねえねえ、湊くん身長いくつあるの?」
ほんっと男心をゴリゴリ削りにくるな……。
「……155cmっす」
「あはっ! 私より20cm低いんだね! ホント可愛いすぎ!」
そういって無邪気にギュッと俺に抱きついてくる。
普段であれば照れるところだろう。だが、彼女は俺のもっとも気にしている低身長と子供っぽさをたっぷりとイジってきたのだ。我慢にも限度がある。
(……やばい、ちょっとキレそう。)
「……澪さん、ちょっと待ってるっす」
自分の部屋に戻って一度深呼吸をする。
(1…2…3…4…5…6)
頭の中で数字を数える。アンガーマネジメントというやつだ。
(ちくしょう、人の気も知らないで、さんざんからかいやがって。よし、見てろよ……。)
唯一の所持品であるボストンバッグに仕舞ってあった、とっておきの服とポーチを取り出す。
(これで目に物言わせてやる……)
数分後。
鏡を見て自分の姿に満足する。よし、俺は今日も可愛い。
部屋から戻ってきた俺の姿を見て、澪さんは目が点になっていた。
「え、あれ……? 湊、くん?」
二の句のつけない様子の澪さん。そりゃそうだろう。部屋に突然美少女が現れたのだから。
黒のミニスカートにピンクのフリルブラウス。パットを入れたブラをつけて、小悪魔系の可愛らしい化粧を施す。ツケマにウィッグを付けて、完璧な美少女に変身した。
澪さんの隣に座ってぴたっと体を寄せてみる。澪さんはハアハアしすぎて過呼吸になってしまいそうだった。
「み、湊ちゃんっ!? 可愛すぎる……。なに? 天使? お金、お財布どこっ!? お布施、お布施をしないと!!」
「澪お姉ちゃん、可愛いの好きなんだよね? でも意地悪を言う澪お姉ちゃんは嫌いだな」
「ああ、ごめんなさい! お姉ちゃんが悪かったわ! 許して!」
元来、あまり声の低くない俺のハイトーンボイスは女の子っぽさを演出するのに十分だった。
「ふふ、澪お姉ちゃんのざーこ♡ だめにんげん♡」
「はうっ! ありがとうございます!」
澪さんは心からの感謝を述べ、ひっくり返ってしまった。
やっぱり思った通り、彼女はショタっ子大好きお姉ちゃん。さらに俺は、小悪魔毒舌男の娘と属性てんこもりだ。相当効いたようだな。
ざーこ♡




