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責任者たち

作者: 不労りング
掲載日:2026/03/10

私達の8人パーティが無残に敗走したのはほんの10分前。

森の中で強力な魔物の奇襲を受けて木こり小屋へ退避した時、私達は6人になっていた。

「こんな所で犠牲を出してしまうとは…」

我ながら聞くに耐えぬ苦い声。

傭兵はもともと自他の命を金融資産と見做す人種で、当然その高額な雇い金には冥土の土産の意味も込められている。

死んだ2人もそのつもりで参加していた。

だが…それでも命は命だ。

喪われたのはただひたすらに惜しい。

自分が指揮した結果だけになおさら…。

さらに険しい困難に満ちたここまでの旅路を乗り越えてきた仲間となれば、駄目押しにショックは大きくなった。

「もうひと勝負いくかい?」

塞ぎ込もうとした心を軽快にノックされる。

仲間のギャンブラーだ。

何事も最後に勝っていればいいという思想の奇抜な男で、今回の件も途中経過と割り切っているらしい。

再度死線に臨もうかと誘う彼の表情はいつもの爽やかな笑顔だった。

この顔には何度となく助けられている。

私は居座ろうと粘る後悔を咳払いで散らし、しばらく戻って来られぬよう思考で戸締まりした。

「まず小屋の中を調べよう」


結論から言うと、木こり小屋に篭城するのは無理があった。

中は無傷ながら放棄されて久しいようで埃が積もっており、健康被害の出なさそうな食料は1人が1週間過ごせる程度の缶詰めのみ。

つまり6人で分けたら1日持つかどうかの量である。

本来ならご馳走として人間の胃に迎えられたであろう肉類は漏れなくサンドワームのエサと化していた。

整頓された室内に加え、この貴族も躊躇う豪胆なフードロス…元の持ち主の転居先が街かあの世かは定かでないが、さぞかし無念であったろう。

「ここを使うにしても今日1日、それ以降は水と食料のあてが要るわね」

賢者が全員に聞こえるよう言葉で確認してくれる。

彼女からすれば考えるまでもない、勿論口に出すまでもない初手も初手だが、初手についていけない者へ伝える役を進んで買ってくれているのだ。

この気遣いがなかったら8人は魔物に襲われるまでもなく喧嘩別れしていたろう。

「周辺の地図は?」

私の質問に賢者が白く細い首を振った。

いくら賢くても無い物は出せない。

「探索し拠点化するか、いったん街へ戻るか…」

旅の食料はそれを運ぶ2人ごと失った。

足りない栄養を勇気で補えたなら勇者の面目躍如だったのだが、私はまだまだ至らない。

選択を迫られている。

「おぉい!!

責任はどうするんだぁ!?」

その時、選択肢が増えた。


「なんなんだよぉ、え?

勇者さまよぉ!!

失敗したのテメーのせいだろがよぉ!!

なーにしれっとリーダーヅラ続けてやんだぁあ!?」

傭兵の戦士だ。

雇用の際とモンスターの前ではもう少し気弱な印象だったのだが…。

「責任だよ責任!!

せ・き・に・ん!!

おいしい話でみんなを釣っといてできなかったんだから、それなりの態度ってもんがあるよなぁ!?」

「すまない…謝罪はする。

給金も割り増そう。

しかしその…おいしい話をした覚えは無いぞ?

世界を救うために為さねばならぬ事があると言っただけで…」

「はぁあん!?

世界救うのにおいしくないってお前っ…イカれてんのか!?

普通なんか見返りあると思うだろ常識的に考えて!!

サギだよサギ!!」

いまいち話が見えてこない。

不和は集団の旅につきもの…とはいえ、時間が圧死していくのを見過ごすわけにはいかん。

「何が望みだ?」

「土下座ぁ!!

決まってんだらぁ!!」

私はすぐさま額を床にあてがった。

恐怖で漏らした糞付きパンツを賢者に勝手に洗われた過去と比べれば恥のうちにも入らない。

「すみませんでした。

…さて、今後についてだが…」

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい。

まだだよまだ!!

そんなもんで済むわけねーだろ!!

2人死んでんだぞ2人!!」

「ではどうしろと」

「どっかにぶっ飛ぶマジックアイテムがあったろ。

危なっかしくて使えねえやつ。

あれ使えや。

上手くいけば最寄りの街に最速で着く。

下手すりゃ海か溶岩にドボン。

天の加護ってやつを試してみようぜ。

テメーはホンモノの勇者か試される形で責任を取り、勇者ならパーティは補給できる。

ただの嘘つき野郎ならついてく価値もねえ、解散だ」

「ふむ…悪くない。

それでいこう」

私が受け入れると、突然バカでかい化け猫がフシャーッと威嚇顔でこちらを見てきた…と思ったらそれは賢者だった。

毛を逆立てて眉吊り上げて大口開けて…冷静になろうと努めたらしい後も眉だけはそのままだ。

「バカッ…!

悪くないわけないでしょ!?

悪いわよ!

世界のどこに行くかわからないのよ!?

全くあてにならない!

あと、あなたが失敗した事をこっちはどうやって把握すればいいの!?」

「ううむ…」

「街からは片道3日ってとこだ!!

ガキじゃねえんだから、そのくらい待てるだろ?

3日以上経てばまあそういうこったと諦めりゃいい」

戦士が代わって答える。

賢者は無視して続けた。

「あと、天の加護なんて無いから!

教会がおこぼれに与ろうとしてるだけ!

もし天にワープを操作できる力があって人間に協力的なら、とっくに魔王を宇宙へ追放してるって!」

うむ…まあそれはそうだな。

賢者の言葉には一言一句納得しかない。

でも私は試すという戦士の言葉に魅かれていた。

自分は本当に勇者なのか…その疑問はそれこそ聖剣の如く誰にも抜けずこの胸に刺さり続けている。

ギャンブラーの影響も否定できない。

そして何より、もはやこうでもしなければこのパーティは崩壊するだろう。

「いつもすまんな」

マジックアイテムを取り出して謝る。

「死んだらその骨永遠にこき使うから」

女の子の顔で悪態づく賢者を見ているうちに、私の意識は途切れた。


「本当にやりやがった。

素人はどうしてこう遊びか全賭けの2択になっちまうかねえ」

「そういう嫌味は財布を出した時すぐに言ってやってくんない?」

「俺で止まるような奴が勇者なんてやるかよ」

勇者が消えてすぐ賢者とギャンブラーのやり取り。

別にこんな奴らと仲良しごっこなんざしたかねえが、むこうからあからさまに仲間外れをやられるのは気に食わねえ。

オレはすぐ割って入った。

「さあさあ!!

リーダーが消えちまったんだ、すぐに次のリーダーを決めなきゃならん。

そうだろ?」

「あんたがやれば?」

賢者の冷たい声。

腹の中もこのくらい冷たいのか?

いいねえ庇護欲がかき立てられる。

早くあっためてやりてえ。

氷の彫像を思わせる美形で見てるだけでもゾクゾクする。

世界中の宝を集めた美術館よりこいつのストリップのほうが集客力があると断言できるほどだ。

たまんねえぜ…!!

「オレはただの雇われだぜ?

そういうわけにはいかねえよ。

やっぱここは賢き者と書いて賢者さまが引っ張ってくのがいいんじゃねえか?

なあみんな?」

小屋を見回す。

賢者は紅一点だ。

あとは全部むさい男。

傭兵の戦士…オレと、傭兵の闘士、傭兵の商人。

ギャンブラー。

誰の肩書きにも知恵者を示す字はひとつも入ってない。

「一番頭がいいって言ってる奴が頭を使う。

当たり前だろ?

それが自称でもな…くくっ」

「そりゃそうだな」

意外にも賛意を表明したのはギャンブラーだけ。

他二人はオドオド周りを見るばかりで一言も発さない。

使えねえ!!

「じゃそーいうわけだから!!

頼むぜ賢いねーちゃん」

仕方なしに押し切りにいく。

ただ、傭兵らが黙ってたのがいい方向に転がった。

沈黙は反対でもなかったからだ。

「ふぅっ…わかったわ」

もともと女ってのはお偉くできてるもんだ。

上に立てて満更でもねえんだろう、賢者は割とあっさり受け入れた。

「じゃあ今後は天の加護とやらを信じてここで三日待つとして、探索の役割分担を決めましょう」

「おーっと違う違う、そうじゃねえだろ!?」

「は?」

おかしな事を言い出す前にオレが止めると、今度は冷たい目。

いいねいいねえ!!

前フリがきいてるよ…その目、すぐにとろけさせてやる!!

「いま探索するって決めたよな?

じゃーあ次に来るのは何だ?

責任だろ。

探索して失敗したらどう責任取ってくれんだ?

あん?

先にはっきりさせろよ」

「………………」

詰めると賢者はむしろ無表情になった。

まるで何も見えてないみたいに。

「どうしてほしいの?」

「ああ、てめえは何もしなくていい。

楽にしててくれりゃいいよ。

あとはオレたちで好きにする。

前と後ろと上で三人は相手できるから、一人は交代だな」

「私が従うとでも?」

「責任とりたかねえって?

じゃあリーダー失格だな。

潔く辞任して、無駄な時間使わせたぶん身体で返してもらおうか。

それが元リーダーの責任ってもんだ。

…おいてめえら何してる囲め!!

オレのおさがり使わせてもらおったってそうはいかねえぞ!!」

男どもに怒声を浴びせると闘士と商人は賢者のほうを見てゴクリと呑み、イスからのそのそ立ち上がった。

二人とも知っているのだ、この女がドスケベハレンチ淫者だって事を。

いや、そんなもん精通前のガキでも見りゃわかる。

賢者は露出狂だ。

デカ乳の谷間放り出して半ケツのミニスカで生足くねくねさせてる女が貞淑なわけない。

大気の魔力を取り込むためとか嘘八百並べたってごまかせるもんか。

さらに言えば、このパーティで壁の薄い安宿に泊まれば翌日には賢者が勇者の女で性豪である事は嫌でも認識せざるを得なくなる。

傭兵どもがその気になったのは、いつかは自分も…と思っていたのがオレだけではなかっただけの話だ。

「さっさといつもの避妊薬を飲んだほうがいいんじゃねえか?

出てきたガキが似てなかったら勇者さまが悲しむぜ。

まああの能天気なら気付かねえかもな!!」

じりじり包囲を狭めていく。

相変わらず賢者は無表情。

怖くて固まったか?

可愛いじゃないの。

「大穴狙いだな」

「そこまで使い込んでないわ」

…と思ったら、ギャンブラーとは普通に軽口を交わしていた。

そのギャンブラーはといえば早々に小屋の隅へ行って不参加を表明している。

まあいい、どうせおっぱじまれば寄ってくるさ。

そうでなきゃ男じゃない。

「おらあああ!!」

オレは吸い付いてくれと言わんばかりに突き出た乳めがけ正面から飛びかかった。

賢かろうがバカだろうが女は女だ、男に敵うはずもない…あっさり捕まえた。

予想以上に冷たい体だ。

細くて白くて…黒い炎のような瘴気に包まれた骸骨むきだしの体は…

「うわっ、おわあああああ!?!?」

オレが抱いたのは死神だった!!

やられた、召喚術だ…!!

こんなゼロ距離ゼロ時間で出せるなんて聞いてねえよ!!

「変わった好みね。

見ての通り肉穴は無いけど、口でならさせてあげてもいいわよ?」

賢者の言葉で死神がえっ!?と振り向いたが、オレの喉笛は掴まれたままだし大鎌はいつでもオレの中身を出せる位置にある。

脱出不可能だ。

「へへ、へへへ、へへへへへ…。

冗談、冗談だよ…。

なにマジになっちゃってんの?

ビビっちまったか?

ダッサw」

「……………」

「おい!!

冗談っつってんだろ放せよブス!!

クソブスがよお!!

殺すぞコラ!!」

死神は骨だけの腕でオレを爪先立ちさせ、ちっとも降ろしてくれない。

蹴りを入れても両手でひねっても鉄柱の如く揺るがない。

その間にも賢者はこちらを無視して闘士と商人を睨みつけ、二人を小屋の反対側まで威圧感だけで追いやっている。

マジで使えねえ!!

「だあああ降ろせ降ろせ降ろせ降ろせ降ろせ降ろせ降ろせ降ろせクソブスクソブスクソブスクソブスクソブスクソブスクソブッ……ゴホッゲホッ!!」

むせるまで叫んでも何も変わらない。

賢者は冷たくもない無の視線で見つめながら言った。

「ひとつ教えてくれない?

なんでそんな偉そうなの?」

「ああ!?」

賢とかけ離れたあまりにも愚かな質問が余計に怒りを燃え上がらせる。

「何をぬかしてんだクソアマ!!

それじゃまるでオレが偉くねえみてえじゃねえか…!!

人間はなあ、ただ在るだけで尊いんだよ!!

賢者なんてガリ勉になったってなんっっっっっの意味もねえんだよ!!

人間の偉さってのはそういうもんじゃねえんだから!!

そんな簡単な事もわかんねえのか!?

バカが!!

やっぱ女は女だな!!」

「だから、なんで在るだけで尊いの?」

「だから人間はそういうもんなんだよいちいち楯突くな!!

気持ちなんだよ!!

熱い心だ!!

ハートなんだ!!

人間は!!

やっぱり気持ちで決まるべきなんだよ!!

知識とか数字とか正解とか、理屈で決めるからこういうひでえ事する冷たい骸骨女がのさばるんだ!!

絶対おかしいだろこんなのよ!!」

「あんたが戦士でよかった」

「あ!?」

「だって同じ賢者からそんな話されたら人類に絶望するとこだもの。

力の差で決める魔王軍のほうがよっぽど道理に沿ってるわ」

「…てめえ…そりゃどういう意味だ!?」

「聞くに値しない与太話でよかったって事」

「……ぜってえ犯す……」

もっとめちゃくちゃにブチギレて今すぐオレの子を孕ませたい。

しかし体は疲れきっていた。

死神の死の力は触れているだけで生者を弱らせるのだ。

なんという理不尽だろう。

こんなクソエロ女がお高くとまって股を閉じてるってだけでもこの世の摂理に反してるのに、男のオレがいいようにされっぱなしだとは…。

正義もなにもあったもんじゃない。

女っていったら男に犯されてヒーヒー鳴いときゃいいんだよ…!!

その人間のあるべき正義を妨げる賢者は、まさしく魔王軍の道理に沿っていた。

「あーあくだらない」

賢者が少し熱のこもった悪態をつくと死神が消えた。

「もうこのパーティはダメだわ。

責任取って辞めるから。

じゃあね」

賢者はできるだけ省力化したい気持ちをあからさまに言葉数に出し、尻の肌色をぷりぷり見せつけながら出ていった。


「ほっ。

こりゃ面白くなってきやがった」

ザッザッと草を踏みしめる音が遠ざかっていくと、ギャンブラーがおかしな事を言った。

こいつはいつもそうだ…イカれたセリフしか言わない。

何が面白いってんだ?

いらつかせやがる!!

「次は俺がリーダーでいいかね?」

「…好きにしろよ」

なぜだかやる気満々のギャンブラーへヤケクソで返す。

闘士と商人は相変わらずのダンマリで、賛成多数によりリーダーが決定した。

「さーてそんじゃ荷物まとめて。

ほい缶詰め持って持って。

魔王退治に出発だー!」

そしてリーダーは躊躇なく旅立とうとした。

「は!?

おい待て!!

待てってんだコラ!!

待て!!

待て!!

待て!!

待てってこの…言う事聞けやぁ!!」

当然止めようとしたが捕まえられない。

かすりもしねえ…!!

特別チビでもガリでもないのに、死神のほうがまだ実体がある。

「おいどした。

リーダーについて来い」

小屋の外から顔だけ出し、玄関扉をノックしている。

うぜえ!!

どうせ捕まえられないのでそのまま問答するしかない。

「行かねえよ!!

行くわきゃねえだろ!!」

「なんでよ」

「魔王退治なんかするわきゃねえだろって!!」

「だからなんでよ?

魔王と戦うって契約で雇われたんだろ?

責任はどうした責任は」

「んなもん雇い主がどっかに消えた時点で無効だバカ!!

とにかくオレはこれ以上危ない目に会いたかねえの!!

自分の命がかかってんだぞ!?

平和なんかクソ喰らえだ!!」

「あ、あの…自分も同じ気持ちです…」

「私もです…聞いてた話と違う…いや説明義務を怠ってますよあなた達は…。

ここまで危ないと知っていたら仲間になんかなりませんでしたよ」

ギャンブラーが軽薄で話しやすいからか、旅がそれだけ嫌だからか、やっと闘士と商人がまともに口をきいた。

「おいおいそりゃ困るよ。

俺一人じゃオッズが下がっちまうだろ。

賭けがいのある博打が始まったと思ったらもう終わり?」

「…どういう意味だコラ」

「おっと…聞かなかった事にしてくれ。

なあ行こうぜ。

祝勝パレードでこのメンツが出たら大ウケ間違いなしだぞ」

「うるせえ!!

てめえはもうクビだ!!

責任とって缶詰め置いてけ!!」

怒鳴りつけてやった。

闘士と商人に至ってはもはや玄関を見てすらいない。

無言のリコール請求だった。

そのさまにギャンブラーはあっさり見切りをつけたようだ。

缶詰めを手近な木箱の上に置く。

「俺ぁ王様をでっちあげるのが仕事だがね、豚がブーブー鳴いて知らせたんじゃ台無しだよ」

「とっとと消えろ!!」

「じゃあな」

負け慣れてるんだろう。

全く気に病んだ様子もなく、爽やかに去っていった。


とうとう傭兵の三人だけになっちまったか。

それもいいだろう。

勇者どもが使えないのが悪い。

いっそせいせいした。

世界のためとか言っても、とどのつまりそれは他人のためだ。

尊い自分を他人のために使い倒そうだなんて狂人にゃ付き合いきれん気持ち悪い…。

命と金で価値観のワンツーフィニッシュ決めて三位以下が存在しない傭兵たちは、むしろ穏やかな雰囲気になっていく。

「あの人たちにも困ったものですな。

自分をハイポーションくらいにしか考えてない。

いつでも使い捨てる気でいる。

勇者さんのワープなんかまさにそれ。

常識が通用しないんですよ…」

商人の口数も一気に増えた。

こいつの仕入れ先はもっぱら死体で、当然手ずから死体を作る事もある。

商人とは名ばかりの金勘定できる山賊だ。

危険だが、それゆえに親近感もあった。

「…でっ、でも、これからどうする?

結局問題は何も解決してないぞ…」

闘士がオドオドと気を滅入らせてくる。

こいつも名ばかりである。

強い強い揺るぎない雇い主の下で、そいつのルールに従って毎日のルーティンを言われた通りこなしていたいサラリーマンに過ぎない。

違いは書類にハンコ押すか人間の頭に金槌叩きつけるか。

雇い主が立て続けに三人消えたので捨てられた子犬気分だろう。

「問題?

へっ、そんなもんねえよ。

あいつらの脅しさ」

ギャンブラーの置いていった缶詰めを回収しテーブルに開けると、現物主義の男たちはすぐ上機嫌になった。

「奴ら最初なんて言ってた?

今日1日以降はあてが要る、だぜ。

6人の時にだ。

それを3人で分けるんだから余裕も余裕よ。

メシは食いきれないくらいあるんだ、腹いっぱい食おうぜ!!」

オレたちは缶詰めパーティーを始めた。


翌日の昼。

食料が尽きた事に気付いた。

「どういうことだあ!?

なんでメシがねえ!?

どこに隠しやがったぶち殺すぞ!!」

「かっ隠してませんよ!

ほら!

気になるなら裸になりましょうか!?」

「聞いた事だけに答えろグズ!!

な・ん・でメシがねえんだ!?

おかしいだろがよ!!

隠してねえならあるはずだろがよ!!」

「食べきった、みたいですね…。

6人で節約して1日分ですから、3人だと2日分…贅沢したので1日半分かと…」

「少なっ…そんなわけあるか!!

あんだけ大量にあったのに…ちくしょう!!

てめえ商人だろ!!

なんで昨日のうちに計算しとかなかった!!」

「そっそんな馬鹿な計算しませんよ!!

1ゴールドだって発生しないのに…コスパもタイパもあったもんじゃない!!」

わけのわからねえ理屈ばかり並べてオレの邪魔しやがって…!!

ああぶち殺してえ!!

しかしここは我慢のしどころだ。

2人の腕前はほぼ互角…手を出しても旨味がないどころか逆に殺されかねん。

「ちっ、しょうがねえ。

となると探索に行くしかねえのか」

オレは木こり小屋の扉を開けて


ガオオオオオンッ………


…すぐに閉めた。

ヤツだ…キメラの雄叫び!!

昨日2人を秒殺しやがったモンスターの声だ!!

近くに来てる!!


ドシン………ドシン………


息を潜め固まっていると、小屋の周りを地響きがうろつき始めた。

体はネコ科のくせに肉球がまるで役立ってない。

すなわち、そのぐらい体重がある事を意味する。

数字の勘定より遥かに簡単かつ重要な戦士の計算は、オレたちの死という解をあっという間に導き出した。

何をどうやっても殺される…!!


バオッッッ


羽ばたきの音を最後に地響きが消えた。

どっか行きやがったか…?

「…な、なあ…今思ったんだけどさ…。

もしかして自分たちは、ここに閉じ込められたんじゃないか…?」

床へ這いつくばって頭を抱えてる闘士がまたオドオド滅入る話をしだした。

「は!?

バカだなてめえは!!

鍵なんかかかってねえよ!!」

「だってそうだろ?

ここまでどうやって来たんだ?

戦闘は全部と言っていいくらい勇者たちに任せっきりだった…。

自分たちは3人ともただの荷物持ちだ。

で…この森。

い…今のキメラも…もちろん他のモンスターも、全部…自分たちにどうにかできる相手じゃない。

…わかるか?

あんたも、自分も、商人も…自力じゃどうにもできない所へ連れてこられたんだ…!」

一気に血の気が引いた。

水でも汲みに行くか…なんて楽天的思考は、そのまま冷や汗になって頭から流れ出ていく。

腕で拭っていると闘士が足に縋り付いてきた。

「あんたが!!

あんたが勇者たちを追い出しちまうから…!!

あんたのせいだ!!

責任とれ!!」

「ふざけたことぬかすな!!

黙って見てただけの分際で何が責任だ!!

てめえの成り行きを全部他人任せにしといて失敗したら許さねえってか!?

旅は遊覧船じゃねえんだぞバカが!!

責任ってんなら、てめえは無能の責任をてめえで取れ甘ったれ!!」

「あんたがそれを言うのか!?」

「あたりめーだろオレは尊いんだぞ!!」

「まあまあまあまあ!

やめましょうよ!

殺し合ったってひとり占めできるものなんか無いんですよ!」

商人の仲裁でいくらか落ち着く。

得にならぬ争いを続けるほどの駆け出しが混ざっていないのは唯一の救いだった。

3人で床に座りなおす。

「………へへ、なあに心配いらねえよ。

もうちょい耐えてりゃ勇者が戻って来るさ。

天の加護ってやつでな…」

そうだ。

その通りなのだ。

自分で語りながら深く納得した。

オレたちは死なない。

そんな理不尽は絶対にあってはならない。

天がオレたちを見捨てるはずがないではないか。

なにしろ在るだけで尊いのだから。


私は意図せず帰郷を果たし、せっかくだからと実家へ顔見せに行ったら強引に一泊させられた。

そこから船と馬を惜しみなく使い本来の目的地の街に着くと、ギャンブラーは女遊び、賢者は魔法の勉強で時間を潰して待っていた。

合流し、急ぎ戻る。

「私だ、勇者だ。

…その資格は無さそうだが、一応元々勇者として旅していた者だ。

入るぞ」

3週間ぶりに木こり小屋の扉を開く。

開く前から察しはついていた通り中に傭兵たちはおらず、ただの屍があるだけだった。

「争った形跡なし…魔物に襲われた形跡なし…靴の泥も古い。

……何もしなかったのか……3人とも……」

「責任からは隠れられなかったのね」

干からびた遺体には蛆だけが蠢いていた。


「墓を建ててやろう」

私が思いつきで言うと即座にギャンブラーが止めた。

「簡単に言ってくれるなよ。

3人分の穴掘って埋めなおすなんてゴーレムを切り刻むより手間だぜ?

それをモンスターがうろつく森でやるなんてどう軽く見ても1日仕事だ。

こいつらを弔ってる間に10倍の死体が世界中に転がるぞ」

ごもっともである。

今は諦めるしかなさそうだ。

「しかし困ったな…パーティが3人だけになってしまった。

街へ戻って傭兵を募るしかないか…」

また私が思いつきで言うと即座に賢者が止めた。

「あのねえ、そろそろ学んでよ」

「えっ?」

賢者のあのねえが出た。

彼女が教え諭す時に発する口癖だ。

今後の成長を期待する子供相手の言い草である。

嫌なわけではないが戸惑ってしまった。

今?

このタイミングで?

「変だと思わなかった?

やたらスムーズに戻ってこれた事」

「言われてみれば…何の苦労も無かった」

「足手まといが居なかったからよ。

邪魔だったの、この3人。

最初に死んだ2人も合わせて5人全員。

キメラ1匹程度で撤退したのもこの3人を庇わなきゃいけなかったからなの。

みんなで力を合わせたいってあなたの志は美点だと思うし感心するけどねえ、固定観念に縛られるのは困るのよ。

世の中には居ないほうが上手くいく人間だって存在するの。

人間は多様なんだから」

「彼らを雇い入れた事自体間違いだったと?」

「荷物持ちにしかならなかったでしょ。

それもあいつらの世話分のね。

ペットを飼ってたようなものだわ。

臭くて汚くて役に立たなくて、主人を殺したり犯したりする獣を」

「俺はそんなのを連れ歩く自縛に惚れ込んだ部分もあるんで複雑だがね…。

ま、そろそろいいんじゃないの?

本気になっても」

「…私の指示が至らなかっただけではないのか?」

「だけではないけど、至らなかったのはその通り。

もっと強烈に絶対服従させるべきだったの。

舐めた口きいて逆らったら力でねじ伏せるべきだったの。

だって相手は獣なんだから。

あいつらが欲しがってるのは因果と責任っていう理屈でも人間世界の平和でもなく、食いたい時に食いたい物が食いたいように出てくる餌箱だったんだから。

獣がどんなルールで生きてると思う?

『自由に自分らしく食えないのはおかしい』よ。

人間のルールに従わないと痛めつけられるって躾をしなきゃいけなかったのよ」

「それは…危険な考え方ではないのか?

私の不完全さには誰より詳しいはずだろう?

私は失敗するんだ。

それに責任はどうなる?

力で回避すれば良かったのか?」

「ええ、まさしく。

失敗したらごめんなさいでよかったのよ。

どれだけ失敗しても堂々とリーダーを続けたほうが良かった。

『無能なこいつらにとって』ね。

無能はどんなに頑張っても、どんなに思い通り動けても、無能にできる一番大きな成果を大成功で得たとしても…それはあなたの大失敗未満のカスでしかないんだから。

あなたが本当に負うべきだった責任は、どんなに嫌がられても恨まれても呪われても、正しく善いほうへ無理矢理引きずっていく飼い主の責任だったのよ」

屍を見せつけるように手で示す。

確かにこの有様が彼らの大成功だとするなら反論の余地は無い。

しかし…。

「彼らとて…成長の可能性はあったのではないのか?」

「私達の根本は自己犠牲。

いくらこいつらが愚かでも、この世で最も尊いものを自分から捨てるほどじゃないわ。

まあ餌箱をぶちまける方法くらいは思いついたかもね」

賢者が首を振る。

賢くても無いものは出せない。

…………それでも…………。

「それでも私は、仲間とともにありたい…」

「何のために剣を握ったのか思い出して。

あなたは世界の運命より自分の気持ちのほうが大事だなんて言う蛙男じゃないでしょ?」

私の両手を両手で優しく包み、上目遣いで問う賢者。

懇願の顔だった。

徹夜をせがむ時よりもっと切実な。

「わかった…このまま行こう」

提案を受け入れ、3人で旅立つ。

正直に告白すると気持ちは晴れていない。

また大勢で旅をしたい…。

が、そんな甘ったれた事は言っていられなくなった。

魔王を倒してしまったからだ。

この後すぐ、何の苦労も無く。


憂鬱…とまではいかないが、心のどこかがいつでも曇っている。

世継ぎに恵まれなかった国を禅譲された私は后になった賢者、親衛隊長になったギャンブラーとともに国家運営に勤しみ、どうにか上出来と自賛できる状態にある。

しかしそれはあまり嬉しくなかった。

どんな大臣を登用しても、どれだけ会議を重ねても、政策を公募しても、全てが大成功に終わっても…それ以上の結果が后や親衛隊長のプランの妥協点で達成できてしまうからだ。

大臣たちは己の現状を人生のウイニングランとしか捉えていないらしく、他人のための成長は望めそうにない。

3年で第3王子を孕んだ后と王以上のハーレムを築かんとする親衛隊長は繰り返し独裁制への移行を進言してくる。

…なんなのだろう、これは。

私は多数の連帯こそ至高の価値と信じていたから、世界という多数のためにと剣を握ったのに…。

「どう思う?」

5つ並んだ墓へ問いかける。

吹きたいから吹く…それ以外何の意味も無い風の音が、生前の彼らのように流れていった。





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