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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

魔王討伐の後で結婚してくれると言っていたのに

作者: 氷桜 零
掲載日:2026/03/02


魔術師イヴリンが、弱った魔王を魔法の鎖で縛る。


「カイトっ!今よ!」


「ああ!これで終わりだ、魔王!」


勇者カイトが光を帯びた剣を振り上げる。

勢いをつけた剣が、魔王の心臓を的確に貫いた。

何度か痙攣した魔王は、そのまま力を抜いた。


カイトが剣を抜き、振り上げる。


「魔王討伐を達成したぞ!」


「やっとだな。」


「ええ、念願が叶ったわ。」


「長かったけど、なんとか成し遂げたね。」


勇者の仲間たちが、口々に労り、祝いの声を掛け合った。

みんな疲労感が強かったが、それ以上に達成感が強かった。


魔王討伐の証明として、魔王のツノを切り取って持って帰ることになった。



魔王討伐を成し遂げたことは、道中で話を広めた。

人々は喜んだ。

これで魔族による襲撃もなくなる。

安心して暮らすことができるのだから。


王都に戻ると、王都中がお祝い騒ぎで、住民たちに囲まれた。

あまりに人が多すぎて動けずに困っていると、王家が馬車を迎えに寄越してくれた。

お祝いしてくれるのは嬉しいが、さすがにここまでやられると困る。


王城に入ると、城中の人々も口々にお祝いの言葉を投げかけてくれる。

それを見ると、やっと帰ってこられたのだと、全て終わったのだと実感が湧いてきた。

勇者一行は笑顔で礼を述べながら、人々の輪を抜けた。


国王に挨拶をすると、玉座を降りて勇者の手を握ってまで、感謝を伝えられた。

そこまで感謝されると、必死になって戦った甲斐があると言うものだ。


夕方からは、盛大なパーティを開いてくれた。

王都中の貴族が集まり、みんな勇者一行に声をかけてくれる。

彼らの顔は、一様に明るかった。


そんな賑やかなパーティで、勇者が重大な発表をするという。

勇者にみんなの視線が集まると、彼は緩んだ口を開いた。


「この度、聖女カリーナと結婚することにしました。魔王討伐の旅で彼女の強さに惹かれて、彼女からも返事をもらいました!」


ワァァァァ


魔王討伐に、立役者である勇者と聖女の結婚。

喜ばないはずがなかった。

ただ1人を除いて。


イヴリンは、お祝いムードのパーティから抜け出し、夜の街を歩いていく。


「どうして……私と結婚してくれるって、旅が終わったら結婚しようって、言ってくれたのに……全部嘘だったの!?」


国中がお祝いで賑やかな中、イヴリンはただ1人暗闇で慟哭していた。

信じていた勇者と、友人だと思っていた聖女に裏切られて、絶望に打ちひしがれていた。


そして、唐突に思い至った。

全部が無駄だったのだと。

私のしたことは、全て意味がなかったのだと。


それなら、もういい。

何もかも、どうでもいい……


イヴリンは真っ暗な夜道をふらふらと歩きながら、夜の闇に消えていった。





1年後、悪い意味で国中を騒がせる事態が起こった。

魔王が復活したのだと言う知らせが広がった。

魔王自身から、国に宣戦布告があったのだ。

それも国中に幻影を流して。


国は勇者一行を招集し、ことの次第を問い詰めた。

魔王は倒したのではなかったのかと。


勇者は答えた。

倒したのは間違いない。

だが復活したのなら、また倒せばいいと。


国王はその言葉を信じ、勇者一行を送り出した。

だがその一行には、かつて同行していた魔術師のイヴリンはいない。

彼女は行方がわからなくなっていたのだ。

別の魔術師を仲間に加え、再び魔王討伐の旅に出ることになった。


魔王復活の知らせで、人々は勇者一行に不信を抱いていた。

本当に倒したのか、倒せるのかと。

その視線は、勇者一行の精神を削るものだった。


だが、彼らは挫けなかった。

一度倒せたのだから、魔王を倒すことはできる。

今度こそ復活できないように倒すつもりだ。


勇者一行は、1年ぶりになる魔王城に踏み込んだ。

以前は魔族が一斉に襲ってきたのだが、今回は魔族はいなかった。

だから、前回よりも楽に魔王の元に辿り着くことができた。

魔王の隣にマントを被った魔族がいたが、関係ない。


「魔王!今度こそ、復活できないように倒してやる!」


剣を引き抜いた勇者は、みんなを鼓舞するためにそう言った。


「はははっ!それは、無理だな。お前たち、気づいていないのか?」


「何を……っ!?あ……ぐっ……」


勇者一行は、足元から崩れ落ちた。

指先一つ動かせず、床に倒れ込んでしまったのだ。

唯一まともに動くのは目だけ。

その目で、魔王を睨みつけた。


「毒ですよ。神経毒。とてもよく効くでしょう?私の毒は。」


マントのフードを脱いだその女の顔は、勇者一行にとってよく知った顔だった。


「イ……ヴ……」


「ええ、そうです。イヴリンです。お久しぶりですね。裏切り者の勇者と聖女?」


「……ちが……そ……な……て……」


「そんなつもりはなかったって?どの口がっ!」


聖女の言い訳をイヴリンは吐き捨てた。

何を言われようとも、裏切られたのは間違いない。

言い訳なんかいらない。

ただ、苦しんで死んでくれればいい。


「私は世界に絶望した。だから、壊してしまおうと思ったの。だから魔王を、魔族を復活させた。」


「そして我は闇に染まった美しいイヴリンを妻に迎えることにしたのだ。」


魔王はイヴリンを見ながら、うっそりと微笑んだ。


「さあ、これでお別れです。精々、殺してきた魔族に嬲られて、苦しんで死んでくださいね?さようなら。」


イヴリンは、仄暗く底が見えない闇を写した目で、勇者一行を見つめた。

そして魔術を発動させて、怒り狂った魔族の巣窟に案内した。


「これで、気は済んだか?」


魔王誘われるがまま、膝の上に乗った。


「少しね。でも、これからも人間たちの絶望と悲鳴を聞かせてくれるのでしょう?あなた。」


「ああ、もちろんだとも。我が愛しい妻よ。ここに我らの楽園を築こうではないか。」


「ふふっ。楽しみね。この子もきっと喜んでくれるわ。」


イヴリンは、優しく愛おしげに自らの腹を撫でたのだった。






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