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1ー⑦

 水面に広がった餌に魚たちが群がり、小さな口で啄んでゆく。魚群の間をすり抜け水底へと零れ落ちた餌を、口元にヒゲの生えた三角形の魚と真っ赤なエビが取り合う様子が見受けられた。


「やっぱり可愛いですね、この魚たち」


「だろう?特にこの、底を這うように泳いでいるのはコリドラス・ステルバイというんだが、観賞魚の中でもアイドル的人気を誇る魚なのさ」


 水槽という小さな箱の中に造られた生態系。 そこには確かに小規模ながらも生命の営みが繰り広げられていた。


「あの、赤比さん……」


 唯が申し訳なさそうに口を開く。


「あたしの勘違いでココに連れて来ちゃったのは、ホントにゴメン。 でもさ、ちょっとでもアクアリウムの魅力を赤比さんに知ってもらえたら嬉しいかな~……って」


「遠藤さん……」


 礼の心は少し揺らいでいた。 中学時代に入っていたからという理由で入ろうと思っていた吹奏楽部だが、今はアクアリウムの世界にも少し惹かれつつあるからだ。


「本音を言うと、貴女にも入部して欲しいわ。 この学校では部員が5人以上いないと部活 動は存続出来ないから」


と、志麻、それに光青が続ける。


「無理強いをするのは我が部の信条に反するからね。キミはブラスバンドの方に入りたいと言っていたしな」


果たして、自分が入りたい部活はどちらであろうか。多少の経験があるから、程度な理由の吹奏楽部と、新たな世界へと扉を開きかけている水槽学部……しかし後者を選ぶにあたり、礼には一つ懸念があった。


「少し、考えさせてください」


「何をだね?」


「いくら小さな魚でも、命のある生き物じゃないですか。生き物を飼うのって命を預かるわけですから、私には少し荷が重いというか……」


 礼はこれまでの15年間、生き物を飼育した経験が無かった。故にアクアリウムという趣味に対し、些かのハードルが存在するのだ。


「優しい子やねぇ、赤比ちゃんは……」


 と、言ったさくらの手にはいつの間にか透明な小瓶が抱えられていた。容量1リットルにも満たないその中には水と、よく見れば小さな魚と水草が一本入っていた。


「この魚はアカヒレゆうてねぇ、えらい丈夫な魚なんよ」


「水草の方はマツモね。根を張らないから水の中を漂わせておくだけで成長するわ」


 さくらと志麻が言う。アカヒレは中国及びベトナム原産の小さなコイ科の魚であり、その名の通り鰭が赤い。さくらの言う通り非常に丈夫で、しかも安価なため初心者向けの入門魚として飼われる事が多い。


「赤比ちゃん、明日と明後日は土日でしょ?その2日間、このアカヒレを家でうてみんさい」


 と、さくらが無茶苦茶気味な事を言い始めるも、光青が続く。


「成る程、そのアカヒレを飼ってみて魚を飼う自信を付けさせるというわけだな?赤比くん、そのアカヒレを生かしたまま月曜日にここへ連れて来たまえ。そうすれば、君は魚を飼う資格は充分あると言えるぞ!」


「赤比さん、解んない事あったら遠慮なくあたしに聞いてよ。そうだ!連絡先交換しとこ?」


 と、唯。


「そのアカヒレ、ロングフィンタイプじゃない。長い鰭が赤比さんのリボンとそっくりね」


 志麻が言うとおり、小柄な体躯に赤いリボンを着けた礼とアカヒレは似ていた。そう聞くと、途端にこの魚に親近感が湧く。


「……わかりました!やってみます!!」


 礼は瓶の蓋をしっかりと締め、それをリュックに仕舞った。


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