8 ルイーゼとの再会
入園式が終わると、クラス分けが予めされていたため、振り分けられた教室にそれぞれ向かう。
私はもちろん、ルイーゼの存在に気づいていた。
(あの子、随分と私の事を見ていたわね。
でも、私があの子の義姉だとは気付いていないはず。
今は家名も違うし、何より自毛を表に出しているもの。
あの子は昔から私の髪の毛の色を、泥んこ色だと馬鹿にしていたから、きっと私の本来の髪色も覚えていない……。
私には好都合だわ。
まだ、気づかせるには早いもの……)
そして私は思う。
家を出たからこそ、この学び舎に通う事が出来たのだ。
私は、本来はルードグラセフ家の娘として、この学園に通うはずであった。
しかし、あの頃の扱いを考えれば、私が家にいたとしても、ルードグラセフ家の娘として、家名を背負って学園に通うのはルイーゼになっていただろう。
(瀕死の状態で家を出て正解だった。
そりゃ、すでに治癒魔法の力は発現されていたけれど、自分で自分を治すにはやはり限界はあったもの。
それに、家を出たから私の未来の道が拓けた。
今や聖女様呼びをされるまでになるなんて、あの頃の私には想像もつかなかったわ)
そんな事を考えながら、教室で静かに教師の今後の説明を聞く。
幸い、ルイーゼとは別のクラスになった。
というか、あの方が、そのように采配してくださったのだろう。
本当に有難いわ。
ルイーゼを見ると、どうしても反射的に怯んでしまう自分がいるもの。
そんな事を考えていると、本日は説明だけで解散となった。
私は席から立ち上がり、帰り支度をして教室を出る。
「モーリスト侯爵令嬢、ごきげんよう」
「聖女様、お気をつけて」
「同じクラスで光栄ですわ。今後ともよろしくお願い致します」
などなど、クラスメートが次々に話しかけてくれる。
私は、そつ無く対応しながら、迎えの馬車が来ている馬車乗り場を目指し、歩きながら先程の自分を振り返った。
確かにまだルイーゼを見るとひるんでしまう自分がいる。
でも、今後の事を考えると、今までみたいにあの人達に、気持ちで負けていては駄目よね……。
そう思って立ち止まり、大きく深呼吸をしながら、自分自身を奮い起こす。
「こんな所で立ち止まって、何してるんだ?」
その時、突然後ろから、そう声が掛かった。
「ルーク様……」
そこには先程、入園式で私をエスコートしてくれた生徒会長のルーク様が、壁にもたれてこちらを見ていた。
「ルーク様こそ、何故そんな所に立っているのです?」
「そりゃ、君を待っていたからだよ。
なのに君は気付きもせずに、行ってしまおうとするんだからね」
ルーク様はそう言って、私が持っていたショルダーバッグに手をかける。
「貸して。持ってあげるよ」
「え? 別に大丈夫ですよ? 今日は殆ど何も入ってないもの」
そう断るが、ルーク様はニッコリと笑って、甘い視線をよこす。
「君ごと持ってあげてもいいんだけど?」
そう言ったルーク様にビックリして、慌ててショルダーバッグを渡した。
「ふっ……残念」
そう言って、ショルダーバッグを受け取り、隣りを歩き出す。
「送るよ。聖女様に何かあったら大変だからね」
「その聖女様っていうの、やめて欲しいです。私はただ治癒魔法が使えるだけなのですよ?」
「その治癒魔法に、この国の王太子殿下が助けられたんだ。
君に出会わなかったら殿下は危なかった。
君の功績はとても凄いことなんだよ?
それに、治癒魔法は今はこの国では、君にしか使えない。
聖女様の称号は、君にしか当てはまらないんだよ」
そう言って、ルーク様は手を差し伸べてくる。
「それでは改めて。
馬車までエスコートさせて下さい、オリビア・モーリスト侯爵令嬢」
かくして私は、ルーク様にまたしてもエスコートされながら、馬車乗り場に向かい、周りからは黄色い悲鳴や、羨望の眼差しを一気に受けた。
そして、その様子をルイーゼが凝視していた事には気付かなかった。