表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/42

5 家を出る



「こんなもの、まだ持ってたなんて!

 それを渡しなさい!」


「痛いっ!」

 

 ルイーゼは力ずくで私の手からネックレスをむしり取る。

 元々熱傷のせいで力が入らず、そっと持っていたために、呆気なく奪い取られ、しかも力ずくで奪うから、両手に激しい痛みを伴った。


「お義姉様が生意気にこんな物持ってるからいけないのよ。

 これも私が貰ってあげるわね」


 そう言ってから、そのネックレスをナタリーや父に見せている。


「返して下さい。

 それは亡き母の唯一の形見の品です。

 それに、それは宝石ではなくて、この伯爵領で取れる魔鉱石を使ったもの。

 ルイーゼには、珍しくも何ともないでしょう?」


 そう言った私に、ナタリーは一喝する。


「お黙りなさい! ルイーゼが気に入ったのなら、素直に渡せばいいのよ!

 お前に与奪権などないのよ!」


 ナタリーはそう言って、父に甘えた声を出す。


「ねぇ、貴方。

 この娘はここから出て行くのでしょう?

 ならば、伯爵家のものは全て置いて出て行ってもらえばいいわ。そうでしょう?」


 父はナタリーに、しなだれかかられ、満更でもない様子でニヤついている。


「ああ、そうだな。

 しかし、カバンは渡してあげなさい。

 あんなゴミのような物を置いていかれても、焼く手間が増えるだけだからな」


 その父の言葉に、ナタリーは少し不満げだったが、それでも中身を確認し、最後に形見の品まで奪い取れた事に満足したのだろう。


「……そうですわね。持たざる者に施しを与えるのも貴族の嗜みというものですわね」


 そう言って矛先を収めたようだ。


 亡き母の形見の品まで奪っておいて、どの口がそれを言うのか!


「ああ、もういいわ。そのカバンを持って早く出ていきなさい。

 お前たち、その娘が汚した床を綺麗に拭いておいてちょうだい。

 血生臭くて嫌だわ」


 そうして私はろくに手当もないまま、屋敷から放り出された。


 

「はぁ……最悪。

 こうなりそうだから、父に許可を取った後にすぐに出て行こうとしたのに。

 執務室からの情報がすでに漏れていたなんて、父は疑問に思わなかったのかしら……」


 あの前のめりに倒れたら後、こっそり治癒魔法を使ったから、見た目ほど痛みはない。

 しかし、見た目は血だらけの包帯を巻いたグロテスクな女。


「これは野盗にすら狙われそうにないよね……」


 そしてここは伯爵領。


 領民に伯爵家の内情が知られ、へたに私を助けようものなら、領民達に迷惑がかかるかも知れない。


 ここルードグラセフ伯爵領は、王都より北に面しており、寒さの厳しい地域であった。

 その為、土地もやせ細り農作物は育ちにくい。

 そんな中、この領地を支える魔鉱石の採れる魔鉱山が、唯一の収入源であった。


 魔鉱石は、その石自体に魔力を含んでいるため、魔鉱石を利用したランプや、調理器具など、あらゆる生活必需品には欠かせない石。

 魔力が少ない人たちにとっては、無くてはならない品物であるため、魔鉱石の流通を独占している伯爵領は、羽振りが良い。


 そして、領民達はこの魔鉱石の取れる山に、何らかの形で関わりながら生活をしている。


 その恩恵を私のせいで受けられなくなれば、領民達に合わす顔がない。


「領民達にも助けは求められない。

 山越えして、まずは他の領地に行ってから、今後の予定を考えないと……」


 私はなるべく人目に付かないように、領地の外れを目指して歩く。

 途中の川で、顔についている血を洗い流したが、服に着いた血までは洗い流せなかった。

 そして、父から押し付けるように渡された瓶底メガネを装着する。


「今はまだ伯爵家の血筋だと誰にも知られる訳にはいかないもの。

 ある意味、父と意見が合うのは不本意だけどね……」


 そうして、よく前が見えない眼鏡を装着しながら、また歩き始めた。


 どのくらい歩いたのだろう。

 ようやく、魔鉱山の麓まで辿り着く。


「この山を越えれば、隣の領地に着くはず。

 取り敢えずはそこを拠点と出来れば……」


 そう考えながら、また歩き始めた時、ふいに身体の力がなくなって、ふらついてきた。


 あれ? 何だか目の前が真っ暗になっていく。

 もしかして、血を流しすぎて貧血を起こしたのかしら?

 ちょっと無理しすぎたのかも……。


 そう思いながら、ゆらりと身体が後ろに倒れそうになる。


 あぁ、本当に今日はよく倒れる日だ。

 私、ちゃんと生きていけるかしら……。



「危ない!」



 何処か遠くでそんな声が聞こえたが、私はその声に反応する事も出来ずに、そのまま気を失ってしまった。

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ