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4 最低の家族



「この家を出て行くだと!?」


 私は今、父と対面していた。

 火傷を負ってから、10日が経過していたが、その間一度も会っていなかった父。

 ガーゼと包帯だらけの私を見て、顔を顰めているが、きっと見苦しいからだろう。


「そんな身体でこの家から出て、どうやって生きていくつもりだ?」


 父は椅子に座って、ふんぞり返りながらそう聞いてきた。

 あら意外。一応心配してくれている?


「そんな身体のお前を追い出したなんて噂が広まったら、こっちがいい迷惑だ!  

 出て行くなら、お前はうちの名前を名乗るな!

 社交界では、うちの長女は病弱で寝込んでいる事になっているからな!」


 はい、前言撤回。

 なんだ。出て行く理由を色々考えていたなんて、私はなんて無駄なことをしてたんだろう。

 この人たちにとって、理由なんて些細な事。私が居なくなるという事実さえあれば良かったのよね。


「分かりました。家名は名乗りません。お父様にご迷惑はおかけ致しません。

 なので、この家を出ていくことをお許しください」


 私がそう言うと、父はニヤリと、鼻先で笑った。


「ふん、大方クビにしたメイドを頼るつもりなんだろうが、紹介状も持っていない女の行く末など知れている。

 もし運良く出会えたとしても、きっとあいつはお前を恨んでいるだろうよ!

 でも、自分から言い出した事なんだ。今すぐこの家から出ていくがいい。

 出ていくからには戻ってくる場所は無いと思えよ!」


 父はそう言って、私を強制的に下がらせた。

 ここは伯爵家の執務室。

 本来なら実母の使用していた部屋であり、言わば私の将来引き継ぐはずだった部屋。

 そこで父はふんぞり返りながら、私を見下し、実娘を切り捨てたのだ。

 この事は絶対に忘れない。

 前世の記憶が戻った今、そして、今すぐにでも全身の熱傷が綺麗に治せそうなほどの力を持った今の私なら、この家を出ても何とか出来るはず。

 ここからのスタートだ。

 リーネを探し、この現状を覆してみせる。

 そして、最終目標は父から、義母や義妹から、実母の思い出の詰まったこの伯爵家、ルードグラセフ伯爵家を取り戻す。


「今までお世話になりました。

 では、失礼致します」


 お世話になった記憶はないけれど、建前は必要なので、そう言っておく。


「あぁ。

 あ、お前! その髪色とその目は外に出ても隠しておけよ!

 眼鏡は絶対に外すな! 分かったな!」


「かしこまりました」


 どこまでも保身に走る父。

 今なら分かる。

 この髪色と目の色は、亡き母から受け継いだもの。

 言わば、ルードグラセフ伯爵家の証の色だ。

 

 そして、今まで反抗したことのない私が、父の言いつけを破るとは考えもしていないのは僥倖だ。

 疑われずにこの家を出してもらえる。


 執務室を出たあと、すぐに私は、予め荷物をいれたショルダーバッグを、首から下げて出て行こうとした。


「あら? お義姉様。私やお母様に挨拶もなしに何処へ行こうとしているのかしら?」


 ああ、見つかってしまった。

 出来れば、義母や義妹とは顔を合わせずに出て行きたかった。

 この2人に絡まれたくなかったから、父に告げた後に時間を置かずに出て行こうとしたのに。


「この家を出ていく事になりました。すぐにとの父の言葉に従って、今すぐ出ていきます事をお許しくださいませ」


 何だかこの二人には、嘘でも世話になったなど言いたくなかった。


「まぁ! お母様、聞いた? この無様な身体で出て行くんですって!

 大方、解雇したリーネとかいうメイドを頼るつもりなのよ」


「……その娘もいい迷惑ですわね。こんなのに執拗に付き纏われるだなんて」


 そしてお義母様、もとい、ナタリー様(もうお義母様とも呼びたくない)は、私をまじまじと眺め、首にかけていたショルダーバッグに目を付ける。


「そのカバンに入っているものは何なの? お前は何も持っていなかったはず。

 まさか、この家のものを持ち出そうとしているのかしら?

 とんだ泥棒がいたものね。

 誰か! あの子のカバンの中身を調べてちょうだい!」


「え!? 何も盗んでおりません!

 これは元々私の持ち物だった物ばかりです!」


 咄嗟にそう叫ぶが、ナタリー(もう様も要らない)の言いつけにて、使用人の一人が近づいてきて、勢いよく私の首からカバンを引っ張り取った。

 

 その勢いで私は倒れるも、両手で身体を支える事も出来ず、そのまま前に倒れて顔面を打つ。

 その拍子にいつも掛けていた眼鏡が壊れ、眼鏡の破片で顔じゅうが血だらけとなり、咄嗟に目を閉じていたが瞼にも破片が刺さり、痛くて目が開けられない状態となった。


「ああああー!」


 痛くて咄嗟に大声を出すと、その声に執務室に居た父まで出てきたようだ。


「お前たち! 何をしている!」


 父は、無様に顔から倒れて、前面を強打して倒れている私を見て、驚いて叫んだ。


「眼鏡が! 壊れているじゃないか!」


 いやいや、そこは顔中傷だらけの娘に反応して下さい。


 そんな事を思っている私を無視して、

「目は開けられるのか!?」

 と聞いてきたので、

「いえ……痛くて開けられません」

 と返答した。


「あ、ああ。そうか。

 おい、代わりの眼鏡を持ってこい!

 一体、なぜこんな事になっているんだ!?」


 執事に代わりの眼鏡を取りに行かせた(代わりまで作ってたのか!)後、その場に居たナタリーに聞いていた。

 

 

「あら。わたくし達に挨拶もなしに出て行こうとした失礼な娘に教育したまでですわ。

 それに、何も持ってないはずのこの娘が、何を持って出て行こうとしたのか気になりましたの。

 もしや、伯爵家の物を勝手に持ち出したかも知れませんでしょ?」


「そうよ、お父様! お義姉様が盗みを働いたかもしれないのをわたくし達が止めたのよ!

 さぁ! 早くカバンの中身を確認して!」


 ナタリーに続いて発言したルイーゼが、私からカバンを引ったくった使用人に、そう命令している。

 その使用人は、私が血だらけで倒れているのに驚いて固まっていたが、その命令にハッとした様子でカバンを逆さにして、中身を床にぶちまけた。


「何これ。少しの着替えとガラクタばかりじゃない。

 ふふっ、そうよね。お義姉様が何かいい物を持ってるはずないものね。

 今まで持っていたお義姉様のアクセサリーや宝石は、全部私が貰っちゃったものね」


 そう言ってルイーゼが笑っている。

 私は何とか身体を起こし、血が目の中に入ってよく見えないが、それでも何とか手探りで荷物をかき集め、カバンに入れ直した。


「え? ちょっと待って?

 お義姉様、それは何なのかしら!?」


 ルイーゼの目を留めたのは、小さなネックレス。

 それはお母様の形見であり、唯一隠し通して持っていた魔鉱石で作られたネックレスだった。



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