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ルーク様が連れてきてくれたのは、王都が一望出来る小高い丘だった。
「凄い……こんな場所があったなんて」
そこから景色を眺めていた私は、つい心の声が零れてしまうほど、王都全体が見渡せる。その中でも一際大きく荘厳な建物が王城だ。
つい、モーリスト家の家は何処かなと、探してしまう。
景色に夢中になっていた私の隣で、私の様子を見てルーク様はクスリと笑った。
「気に入ってくれたようで何よりだ。
ここはね、アレンと昔から、何かを決心する時に訪れた場所なんだ。
あの頃はまだ、僕は王宮の錬金術師になる気でいたから、そこからアレンを手助けすると決めていたんだけど、宰相の道を選ぶと決めてからまだここには来てなかったからね。その決心を新たに誓おうとずっと、来たかったんだ。だから今日来ることにしたんだ」
そう話すルーク様は晴れやかな表情をしている。
私は納得しながら、その風景を眺めていた。
きっと、ルーク様やアレン王太子殿下は、王都を一望しながら、ここを守ろうと決意していたんだなぁと、素直に感動した。
「それにね」
ルーク様はふいに私を見て、そう話を切り出す。
「今日は別の決意もしに、ここにやってきたんだ」
「別の決意?」
何だろうと首を傾げる。
「あ、それ。前にも言ったけど可愛いから絶対に僕以外の前ではしないでね。
って、それを言いたかったわけではなくて……」
と言いながら、珍しくルーク様は俯きながら手を口元に当てて、言い淀んでいる。
そして、決心したように顔を上げて、しっかりと私を見た。
「オリビア・モーリスト侯爵令嬢。
貴女に想い人がいる事は知っています。
それでも、僕は貴女をとても大切に想っています。
貴女が好きだ。
どうか、僕の手を取って、僕と結婚して下さい!」
そう言って、頭を下げながら手を私に差し出す。
しかし私は混乱していた。
(私に想い人? ルーク様は誰の事を言っているの?)
「あの……ルーク様?」
私が声を掛けるも、ルーク様は手を差し出したまま動かない。
「あの……私に想い人がいるって、誰の事です?」
私の言葉に、辛そうな表情をしながらルーク様は言った。
「ヘンリー殿。君の代わりに君の領地に行ったヘンリー殿だ。
君は卒業後にあの領地に帰るつもりなんだと聞いた。
あの地でヘンリー殿と結婚して、一緒に領地経営をしながら、錬金術師として商会を盛り立てていくんだろう?
でも、どうしても僕は諦めきれなくて……。
だからダメ元で君に求婚しようと思ったんだ」
悲壮な表情でそう話すルーク様に、私は更に混乱した。
「ま、待ってください! ヘンリーお義兄様は、私の義兄ですよ? 結婚なんか出来るわけないじゃないですか!」
「いや、君達は血の繋がりはないんだ。出来るだろう?」
「出来る出来ないは別として、私はヘンリーお義兄様を異性として見た事はありません!
私がいつも意識しているのは、ルーク様で……?!」
そこまで言って、慌てて口を噤む。
勢いで言うことではなかったのに、ついルーク様がバカな事を言うから、その流れで言ってしまった。
「オリビア……今、なんて?」
ルーク様は放心したような表情で、私にそう聞いてきた。
私は決心して、自分の気持ちを話す事に決めた。
「私が異性として意識しているのは、ずっと前からルーク様だけです。
でもルーク様は筆頭公爵家の次期公爵様で、全てにおいて完璧な方なので、私なんか釣り合わないと、ずっと気持ちに蓋をしてきました。
でも、ずっと私の傍に居てくれて、私の気持ちを大切にしてくれる、そんなルーク様の事が諦められなくて……。
私もルーク様の事、大好きです」
そう言った途端、私はルーク様に抱きしめられていた。
「ありがとう、オリビア。
本当にありがとう。
改めて言うね? オリビア嬢、僕と結婚して下さい」
そう言ったルーク様の声が、微かに震えている。
その声で顔を覗き込もうとするが、抱きしめられたままの態勢なので、それは叶わなかった。
「……はい、喜んで」
そして、抱きしめられながらの求婚に、私は目眩すら覚えるほど幸せを感じながら、そう返答した。