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あれからまた数ヶ月が立ち、日に日に私の治癒魔法の力は弱まっていて、国は私の力が無くなったと発表した。
それにより、私は王族の庇護が解かれ、比較的自由の身になった。
学園でも、私の力が無くなったことを改めて伝えられたが、それにより態度を変える人もなく、穏やかな学園生活が送られている。
そして、もうすぐ学年末を迎え、3年生であったルーク様は学園を卒業する。
学園内でも、ずっと傍についてくれていたルーク様が居なくなると思うと、少し心細いが、いつまでも頼ってはいられない。
「僕が卒業したら、寂しい?」
私と一緒に学園の食堂で昼食を摂っていたルーク様が、ふいにそう聞いてきた。
「それはもちろん寂しいですよ? いつも私のそばに居てくれて、私を守ってくれていましたから。
本当に感謝しているんです。
ルーク様は学園を卒業後、宰相であるお父様の補佐をされるのですよね?」
てっきり王宮錬金術師として、その力を発揮されるとばかり思っていた私だが、意外にもお父上の仕事の補佐をすると聞いたのだ。
「うん、そうだよ。次期国王となるアレンの力になりたいからね。
錬金術は、趣味で片手間にやろうかなって思ってる」
片手間……。
この才能を欲しがる錬金術師は、大勢いるだろうに、その人達が知ったら悔しがるだろうなと私は感じた。
「オリビアは錬金術、続けるんだろ?」
ルーク様の言葉に、私は頷く。
ヘンリーお義兄様の立ち上げた商会にて、前世の記憶を頼りに、あれからも色んな商品を開発していた私は、治癒魔法が弱まっていくとは逆に、錬金術の力が増していた。
その力を活用して、最近では移動手段に車を作ろうと頑張っている。
やはり、前世で移動手段が色々整っていた記憶がある私としては、いつまでも馬車を使うのは、辛いものがあったのだ。
「君が錬金術を頑張ってくれているから、僕はそれを上手く市場に流通させて、国をより一層豊かになるよう手助けしていきたいんだ。
国が豊かになれば、少しでも辛い思いをしている人達を助けられるでしょ?」
ルーク様は穏やかにそう話す。
私は、治癒魔法の発現条件を聞いてからずっと、何か出来ないかと考えていた。
前世でも虐待を受けている子供達は一定数いたが、虐待防止の為の措置が色々あったはず。
それらの記憶を元に、この世界でも治癒魔法が発現した環境の改善がしたいと思い、国王陛下やアレン王太子殿下に申し出ていた。
陛下やアレン王太子殿下は、私の気持ちを汲んで下さり、孤児院の設立や、家庭環境により辛い思いをしている子供達の逃げ場として、児童相談所を各所に設けたりする事も提案したりとしている内に、どうやら一緒に協力をしてくれていたルーク様が、政治の世界に目覚めてしまったようだ。
「ルーク様なら、とても立派な宰相様になれると思いますよ」
笑顔でそう言った私に、
「君が一生僕の傍に居てくれたら、もっと頑張れるよ」
と言ったルーク様の小声は、聞こえなかった。
****
やがてルーク様達の卒業式を迎え、ルーク様は卒業生代表として、壇上で答辞を述べる。
その姿を見ると、一年前に同じように、ルーク様が在校生代表として祝辞を述べていた様子が思い出され、色々と感傷的になる。
この一年、本当に色々あり過ぎた。
なんといっても、私の元家族が裁かれ、念願のルードグラセフ伯爵領を取り戻せた事が一番大きい。
私はモーリスト侯爵家の養女であるが、ルードグラセフ伯爵家の当主でもある。
しかし私はまだ未成年の学生の身。
なので、領地を代わりに維持してもらう代理人が必要であった。
今まで代理人としていた元父が裁かれた事により、その選定には国王陛下らは頭を悩ませたそうだが、結局は、まさかのヘンリーお義兄様が引き受けて下さったのだ。
シークレット商会の会長であったヘンリーお義兄様は、その会長職を私に預け、私の代わりにルードグラセフ伯爵領に向かわれた。
私はビックリして、引き止めたが、
「いいんだよ。領地経営も楽しそうだ。これでも僕は商会長だったからね、物を見る目は確かだよ?
ルードグラセフ伯爵領で採れる魔鉱石の鑑定が出来るなんて、最高だよ!」
と、笑顔で出発した。
見送りの時、ルーク様に何か言っていたが、私には聞こえなかったが。
隣りに立って見送りをしていた義母が
「ルーク君に敵わないからって、報われない道を選んだのねぇ」
と呟いたので、首を傾げたら、
「貴女も罪よねぇ」
と義母は笑っていた。
本当によく分からない会話だったので、今も疑問に思っている。
無事卒業式が終わり、ルーク様と最後の一日を共に下校する約束をしていた私は、すぐさまルーク様の元に駆け寄った。
「ルーク様、ご卒業おめでとうございます」
予め準備していた花束を渡しながら、そう伝える。
「ありがとう、オリビア。一足先に卒業するけど、今後も僕達の仲は変わらないからね?」
笑顔でそう言ったルーク様に、笑ってしまった。
ルーク様はいつも、私の気持ちを察して私を安心させてくれる。
(本当に敵わないな)
ルーク様の私への気持ちには、流石に気付いている。
そして、私のルーク様への気持ちも……。
「オリビア、この後少し、僕に時間をくれるかい?」
ルーク様のその言葉に、私は二つ返事で即答した。




