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「えっ!?」
私は、ルーク様の言葉にびっくりして、思わずルーク様の顔を凝視する。
「ふふ。オリビアは本当に分かりやすいな。
あのね、オリビアにちゃんと説明しないといけない事があったんだ。
でも、これはとても大切な事で、秘匿すべき内容だから、知っている人間も限られている。
今、ここで話すのは避けたいから、取り敢えず母屋に戻って、モーリスト侯爵夫妻に伝えよう」
ルーク様のその言葉で疑問と、義両親にも治癒魔法が弱まっている事が知られるという、不安な気持ちが入り交じる。
「大丈夫。オリビアの思っているような事はないからね?
みんな、オリビアを大切に思っているんだよ?
僕を信じて任せてくれない?」
ルーク様はそう言って、私を安心させてくれた。
そして、いつもの『僕に任せて』の言葉を聞き、そんな言葉に甘えていた自分を恥じる。
「ルーク様の事はいつも信じております。
でも、自分の事ですもの。ちゃんと自分で向き合えるようになりたいんです。
義両親には、自分から話させてもらえませんか?」
私の言葉に、ルーク様は嬉しそうに頷いた。
「分かった。でも、僕は何があってもオリビアの一番の味方である事は忘れないでね」
茶目っ気たっぷりに、そう言ってくれたルーク様に勇気を貰った私は、義両親に治癒魔法の力の事を話すために、ルーク様と共に母屋に戻っていった。
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「お嬢様!」
母屋に戻ると、私の傍付きのリーネが駆けつけてくる。
「どうしたの? リーネ」
「どうしたも何もありませんよ。四阿に行くと言ってから2時間も戻られないのですもの!
迎えに行こうとした時に、ルーク様が来られたのでお任せ致しましたが、とても心配したんですよ。
今度からは私も付いていきますからね!」
リーネはプンプン怒りながらそう言っていた。
「ごめんね、心配かけて。考え事していたら、結構な時間が経ってたのよね。
今度から気をつけるわ」
私は、幼い頃からお世話になっていたリーネには頭が上がらない。
そして、今回、元家族から受けた虐待の数々の証言をしてくれたのも、リーネだ。そして、リーネのツテを使って、過去に伯爵家を辞めていった使用人たちや、今なお残っている昔からの使用人の人達にも声をかけてくれて、証言してもらえた。
その働きがあったからこそ、虐待とお家乗っ取りの罪を証明出来たのだ。
私はリーネに、何か恩返しがしたくて義両親に相談したところ、義両親もリーネの働きに酬いたいと、親戚に預けていた年の離れた弟をこちらに引き取って、兄弟で住めるようにしてくれた。
私自身が何かするには、まだまだ力が無さすぎる。
私からのお礼は、出世払いにしてと言ったら、それを聞いていた義両親やヘンリーお義兄様、ルーク様まで来ていて、みんなに大笑いされたのは記憶に新しい。
「リーネ、お義父さまとお義母さまはいらっしゃるかしら?」
「奥様でしたら、先程お茶会からお戻りになられました。
旦那様は登城されていらっしゃいますが、もう少ししたらお戻りになられるかと」
リーネの返答を聞いて、先にお義母さまにお話がある事を伝えてもらった。
やはり、お義父さまがお戻りになってから、揃って話を聞くという事で、お義父さまのお戻りを待ってから、内々で話す事にした。
暫くして、お義父さまがお戻りになり、夕食の後に談話室にて人払いをしてから、話す事となった。
夕食の後、談話室に集まったのは、義両親と、ヘンリーお義兄様、ルーク様と私だ。
人払いしたのを確認後、私は義両親とヘンリーお義兄様に向き直り、話す事にした。
「お義父さま、お義母さま、ヘンリーお義兄様。お話ししたい事があります。
実は……私の治癒魔法なのですが、最近力が弱まって来ている事を感じるのです。
申し訳ごさいません、私のこの力で皆様のお役に立ちたかったのですが、皆様に酬いることすら出来そうにありません……」
皆の視線が怖くて、顔を上げられない。
私は必死で下を向きながら、そう伝えた。
「「「 …… 」」」
(あぁ、やっぱりガッカリしてる……。
言葉も出ないくらいにショックなのね……。もう、ここには居られないのかな……)
そんな思いが頭の中を駆け巡った。