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 元父の叫びに、フツフツと怒りが湧いてくる。

 先程は代理ではないと言い張ったその口で、分が悪くなると今度は父親面の挙句、代理に戻せと言う。

 この人には、羞恥心というものがないのだろうか?

 筋道を立てながら、少しでも挽回しようとしたナタリーの方が、よっぽど出来る人間な気がする。

 まぁ、だから、元父を手のひらで転がして上手く扱っていたのだろうけれど……。


 もう、いい加減このやり取りに嫌気が差してきた私は、もう一度、元父と対峙しようかと口を開きかけた時、隣にいたルーク様が、人差し指を口に当てて黙る仕草をした。


「オリビア。ここで君が何かを言っても相手には響かないし、周りの君を見る目も変わってくるかもしれない。

 ここは僕に任せて」


 諭すように、それでいて守るようにそう言ってくれるルーク様に、私はドキリとする。

 反対側に立っていたヘンリーお義兄様も、頷いて、

「ここは、ルークに任せよう」

 と、私を宥めるように言ってきた。


「……ルーク様、よろしくお願いします」


 私がそう言うと、ルーク様は最上級の笑顔で私を見る。


「うん、任されました。

 オリビアはここで大人しく待っていてね」


 そういうと、一歩前に出て陛下に発言の許可を取った。


 (はぁ~! だから、その笑顔と優しさはダメだってば!

 こんな所で火照った顔なんか、してられないんだからねっ!)


 そんな思いで俯いた私を見て、ルーク様は微かに笑った。

 


「カーター・ルードグラセフ伯爵代理。いや、もうただのカーターになるのか。

 では、カーター。さっきから都合のいい事ばかり言っているが、国の宝である魔鉱石を私欲の為に売り捌いた貴方は、もはや罪人なのだよ?

 その罪人が一領主の代理など、出来るはずもない。

 ましては国の保護対象である、治癒魔法の使い手のオリビアの代理など、以ての外だ。

 この場より貴方がたは、ルードグラセフ家から除籍された。

 言わば平民となったと自覚されよ。

 平民となった貴方達が罪人でもあるのなら、それは相当な刑罰が下される。

 まずは、これからの自分たちの行く末を案ずるべきだね」


 ルーク様は私に見せた表情を、スっと引っ込めると、冷静でそれでいて鋭い眼差しを元父に向けなが らつ、そう言った。

 そして、そのルーク様に続いて陛下が指示を出す。


「 罪状は魔鉱石による横領、身分詐称、そして虐待だ。

 カーターとナタリーを捕えよ」


 陛下の言葉に、待機していた衛兵達が動き出す。

 そして、あっという間に二人を拘束した。


「なっ!? お待ちください!

 私たちは知らなかったのです!

 それに虐待だなんて!

 離せ! 私はそのような罪、認めません!」


 元父がそう叫んだが、聞き入れてもらえず、連行されて行く。

 ナタリーもまた、青ざめた顔で連行されそうになった時、ふいに私を見た。


「お前! お前のせいで、私達がこんな目に!

 何故あの時に死んでなかったのよ!

 邪魔で邪魔で仕方ない所がお前の母親そっくり!」


 そう叫んで、衛兵を振り払って私の所へ来ようとしたが、衛兵に再度取り押さえられてしまった。

 そして再び、連行されていく。

 その様子を真っ青な顔色をしながら、ルイーゼが見ていた。


「オリビア、聞かなくていい」


 ルーク様はナタリーが叫んだ途端に、私の耳を両手で塞いでくれていた。

 だからなのか、私はナタリーの言葉を受けても、それほど傷つかずに済んだのかもしれない。

 


「さて、残された娘についてだが。

 オリビア、お前はどうしたい?」


 陛下にそう問われ、オリビアは即答した。


「ルイーゼに奪われた母の遺品の数々を返してもらいたいです。

 その後のご判断は、陛下にご相談させていただきたく存じます」


 ルイーゼ自身は魔鉱石の流通に携わっておらず、罪人として捕えられる事はない。

 家を出る前に私に大火傷を負わせたが、今の私は、治癒魔法で完全に火傷を治しており、火傷の痕すら残っていないので、今更それを証明する事も難しい。

 しかし、ルイーゼには長年に渡り、母の思い出の品の数々や、大切にしていた物を奪われ続けていた。

 今、どれ程残っているかは分からないけど、少しでも返して欲しい。

 もしもそれらを大切に保管してくれているなら、陛下にお願いして、平民として生きていけるだけの環境を手助けしたいと考えていた。


「ルイーゼ、私から奪っていった亡き母の物、全て返してちょうだい」


 私がルイーゼにそう言うと、ルイーゼは途端に私を見て顔を歪ませる。


「ぜ、全部だなんて、あるわけないでしょ!? 古そうなものは捨てたわ!

 それより、私はこれからどうなるの!? まさか、本当に私達を追い出す気!?

 そんな事しないわよね!? お義姉様!」


 ルイーゼは私を見て、そう叫んだ。


「ルードグラセフ家からの除籍は決定事項よ。

 でも、返してくれたら、貴女が成人するまでの間は手助けするつもりでいるわ。

 全てはなくても、私が家を出る直前に私から奪った、魔鉱石のペンダントだけでも返してほしいの。

 あれは、代々母から子に受け継いできた、ルードグラセフ伯爵家の家宝なの」


 その言葉に、ルイーゼは目を泳がせる。


「ルイーゼ?」


 私はルイーゼの仕草に一抹の不安を覚えた。


「な、ないわ」


「え?」


 まさか、それまでも捨てたのかと、信じられない思いで私はルイーゼを見る。

 ルイーゼは私の視線を受けて、観念したように叫んだ。


「ないのよ! あのペンダントに付いていた魔鉱石!

 学園であの爆発を起こした時に使った魔鉱石が、それなの!

 あれが最高級品の魔鉱石だと知って、お父様に保管されていたけれど、私はあの授業で使いたくて、勝手に持ち出したから……」


 ルイーゼのその言葉に、私は呆然とした。

 代々受け継がれてきたルードグラセフ家の家宝で、まさかあの事故を引き起こしていただなんて……。


 あまりのショックに、足がふらつきそうになった私を、ルーク様が後ろから受け止めて支えてくれる。


「大丈夫か? オリビア」


 そっと耳元で囁かれたルーク様の声に、ハッとし、気を落ち着かせる事が出来た。


 (まだ、気を抜いてはいられない。

 ちゃんと最後まで見届けないと)


 そう思いなおし、気をしっかりと持ち直す。


「ありがとうございます、ルーク様。

 私は大丈夫です」


 そう言って、私は陛下に向き直った。


「陛下、元義妹の今後については、陛下にお任せしてもよろしいでしょうか?」


「……そうしよう」

 

 私の言葉に陛下は軽く頷いた。


「その娘を連れて行け」


 陛下は衛兵にそう命じ、ルイーゼも部屋から出される。

 ルイーゼは縋るような目で私を見ていたが、その視線に答えることは出来なかった。


 

 

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