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「はぁ!? ふざけるな!
お前に何の権限があってそんな事を言っている!
お前はすでにルードグラセフ家を離れて、モーリスト侯爵家に養子に行ったのだろう!
そうでなくても、ルードグラセフ伯爵位は、二年前にお前が家を出た時に、この私に変更手続きをしてるんだ!
私こそが正統なルードグラセフ伯爵なんだぞ!」
元父はそう言って私に叫んだあと、陛下に向き直った。
「陛下。改めて申し上げます。
わたくしは、オリビアが家を出て行方不明になった後、伯爵位の変更手続きを国に提出して、受理されているのです。
ですから、わたくしは二年前より代理ではなく、れっきとしたルードグラセフ家の当主であり、伯爵位を賜っております」
激高しそうな程の怒りを、必死で抑えながら元父は陛下にそう進言した。
陛下は、そんな元父を無表情で見た後、宰相様より書類を受け取って確認している。
「確かに二年前に、ルードグラセフ伯爵位をオリビア・ルードグラセフから、カーター・ルードグラセフへと変更申請がされて、申請書類を受け取っている」
そう言って陛下は、手元の書類を私たちにも見えるように、表面をこちらに向けられた。
「しかし、申請は受理されていない」
陛下はそう言って、元父を見た。
「我々はオリビアを保護していたと先程も伝えたであろう?
そんな最中、保護して間もない期間に、変更手続きの書類が提出されれば、その真偽を調べるのは当然の事だ」
「え?」
元父は、陛下のその言葉に、あきらかに狼狽えた。
「なんだ。申請すれば簡単に受理されたとでも思っていたか? それでなくとも、未成年の代理の者が勝手に名義変更が出来ないように、国としては色々な審査を設けておるのだ。誰かのように、本人が未成年な事をいい事に、地位や財産を騙し取るような不届きな者がおるからな。そういった者を守るための措置を取るのは国として当然であろう?」
陛下のその言葉に、元父は顔色をなくす。
「しかも今回の場合、その対象が、国として保護すべき治癒魔法の使い手である。保護対象者が未成年であり、本来なら守る立場にある親から逃げてきたとあれば、色々と調査もするわ。そして本来ならば養子縁組に親の同意を得るところを、特別措置として国の長である余が許可を出し、モーリスト侯爵家に養子縁組を行っている。そして、この特別措置の中には、本来引き継ぐ予定のルードグラセフ家の爵位も、そのままオリビアが所持できるようにしてあったのだ」
陛下の説明に、今度は元父ではなく、色々と我慢しきれなかったナタリーが発言してきた。
「国王陛下様、カーター・ルードグラセフの妻のナタリー・ルードグラセフでございます。どうか発言をお許しくださいませ」
「……申してみよ」
ナタリーの発言に、陛下が許可を出した。
「ありがとうございます。
まず、わたくし達は、行方不明になったオリビアの事を、とても心配しておりました。
あの当時のオリビアは、自己の過失にて身体に酷い火傷を負っておりました。その身体で家を出ていったので、わたくし共も心配で方方を探したのですが、見当たらず……。
運良く王太子殿下を始めとする方々に助けられていたのですね。
しかし、それを知らなかったわたくし共も、領地経営の為に仕方なく、変更申請を行なったのです。
保護して頂いて、とても感謝致しております。
ですが、何故すぐにわたくし共にご連絡頂けなかったのでしょうか?
オリビアさんの言葉だけでなく、双方の話を聞いて頂けたなら、こんな事にはならなかったのではないかと思うのです」
ナタリーの言葉に、陛下は一考した。
「確かに、そなたの言う事も、最もだ。本来ならば、すぐにでも保護者に伝えるべき事。
しかしな、我々もオリビアの言葉だけを信じた訳ではない。
ちゃんと当時の状況をよく知る、第三者からの証言も取った上で、オリビアは実家に戻さず、信頼に値する者の家に預ける事を決めたのだ。
それからは先程説明した通りだ。
色々な証言を集め、審議した結果、改めてオリビアをルードグラセフ伯爵家の当主と認め、その権利を使う事を余が認めた」
その言葉に、元父が陛下に尋ねた。
「その第三者とは、一体誰ですか!?
我々の家族の事を、よく知らない他者のものの適当な証言を信じてもらっては困ります!
それに、いくら治癒魔法が発現したからといって、親に黙って娘を保護するのは、人の道理に反するのでは無いでしょうか!?
オリビアはまだ15歳です!
オリビアの代わりに領地経営をする者は、父である私以外にいるとは思えません!
先程のオリビアが言った、ルードグラセフ家からの除籍と、伯爵代理の権利の取り上げ撤回を求めます!」
そう元父はみんなに聞こえるように、大声で叫んだ。




