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「な、何を言っているんだ? オリビア、お前は思い違いをしているだろ?

 お前は素直でよく親の言う事を聞く娘だったじゃないか。

 私達は上手くやっていただろう?」


 そう言って、ルードグラセフ伯爵は私に、頷くように目で訴えてくる。

 以前の私なら、その目を見ただけで言う通りにしただろう。

 仮にも父親という存在に、かすかな希望を持っていたから。

 でも、今の私は前世の私に引きずられているようだ。

 この人の事を父とは全く思わない。

 先程自分で言った事は、全て前世の記憶が戻る前に起こった出来事の数々。

 もし前世の記憶がもっと早くに戻って居たなら、あんなに従順ではいられなかっただろう。


 ナタリーもルイーゼも、早く訂正しろとばかりに睨み付けてくる。

 でもそれは、私に対するいつもの態度だから、周りに余計に不信感を仰いでいるとは、二人には気付きもしないだろう。


 私の隣では、心配そうに私を見ている 頼もしい味方が二人も傍に居てくれる。

 国王陛下や、王妃様。王太子夫妻や、義両親も黙って私の事を見守ってくれている。

 そう思うと、安心してあの人たちに立ち向かえる勇気が改めて湧いてきた。

 

「思い違いではありません。全て真実である事は、ご自分達が一番よく分かっていらっしゃるでしょう?

 それに、ここでそのような意味のない押し問答をするつもりはありませんわ」


 三人を見据えるようにそう言った私を、信じられないものを見るようにルードグラセフ伯は凝視していた。



 (何だ? こいつは本当にあのオリビアなのか? どうしてこいつは、私に逆らえるのだ?

 いつも私をおびえるような目で見ていたあの娘とは、到底思えない)


 ルードグラセフ伯爵はそんな事を考えながらも、ここでこの話を長引かせるのも得策では無いと話を切りかえる事にした。


「娘にそのように思われていたのは、とても悲しい事だよ。

 とにかくお前が無事であっただけで、私は満足だ。

 ゆっくりとこれから時間をかけて、私達の気持ちを受け入れてくれたら、それでいい。

 国王陛下、まずは娘との再会の場を与えて頂き、誠に感謝いたします」


 ルードグラセフ伯爵はそう言って、話を国王陛下に返す。

 国王陛下が、それを受けて私をチラリと見たので、一旦陛下にこの場をお任せするつもりで会釈した。


「行方不明の娘が当代の聖女と呼ばれるオリビアであったとは、伯爵代理もさぞ鼻が高いであろう」


 国王陛下が私の会釈を受けて、ルードグラセフ伯爵にそう言った。


「……お言葉でございますが。

 先程より、わたくしめの事を伯爵()()と呼ばれているようですが……。

 わたくしは前妻亡き後、ルードグラセフ伯爵として、伯爵領の発展に勤しんでまいりました。

 申請も届けておりますゆえ、ご存知のはずでは?」


 ルードグラセフ伯爵のその言葉に、斜め後ろに立っていたナタリーも気を取り直して、大きく頷いている。


「ふむ……。確かにそなたは、ルードグラセフ女伯亡き後は、魔鉱山の管理と魔鉱石の販売について、力を入れてきたようだな。

 その頃より、少しずつ流通価格と業務報告との差異が生じてきていたようだ」


 陛下は、近くに待機していたルーク様の父である、スノーメル侯爵様に合図を送る。

 宰相であるスノーメル侯爵様は、書類を片手に、私達の前に出てきた。


「ここからは私が説明致しましょう。

 魔鉱石の適正な流通価格に、バラつきに気付き始めたのは、おおよそ4,5年程前からになります。

 初めは国で確認するのが難しい程の極わずかな差異でした。

 しかし、少しずつ異変に気付いた業者や商会のもの達、それらを取り纏めている貴族達より、国に問い合わせが来るようになりまして。

 しかし、王都より随分と離れた辺境の地であり、その管理をするはずの正統な後継者は、まだ年端もいかない子供。

 代理で伯爵の仕事を任されている子供の父親に、どのような管理体制を取っているのかを聞く為に、調査団を約二年前にルードグラセフ伯爵領に派遣したのです」


 宰相様の説明に、ルードグラセフ伯爵とナタリーは、顔を強ばらせた。


「ちょ、ちょっとお待ちください!

 我が領地で採れる魔鉱石の流通価格の変化に、何故、国を取り仕切られている方々がお調べになるのですか?

 それは、越権行為ではないでしょうか!?

 それに、二年前、我が領に調査団など来られた覚えはありません!」


 伯爵は慌てて宰相様に問うた。

 その問いに、宰相様はじめ、それを聞いていたこの場にいる全ての者(ルードグラセフ伯爵親子以外)は、何を言っているのかと、怪訝な顔で伯爵を見る。


「貴方こそ、何を言っているのだ?

 ルードグラセフ伯爵家は代々、魔鉱山とそこで採れる魔鉱石の管理を任されているだけに過ぎず、正当な持ち主は国、ひいては代々の国王陛下が引き継がれているのだよ。

 毎年採れる魔鉱石の量を報告書で確認し、その年の適正価格を、王族の方々がお決めになり、国内と周辺諸国にも流通される。

 あくまでルードグラセフ伯爵家は、管理を任されているに過ぎず、それ以上の権限は持っていない。

 そんな事も知らずに代理伯爵をやっていたのか?」


 宰相様が伯爵の質問に対し、呆れた口調でそう説明した。

 そして、話を再開させる。


「では、話を戻しましょう。

 二年前に調査団をルードグラセフ領に派遣したおり、調査団の長であったアレン・マーリゼイン王太子殿下と、その補佐には、我が息子ルーク・スノーメルも同行しておりました。

 そして、伯爵家に寄る前に、魔鉱山の様子を確認する目的で魔鉱山を訪れた先、偶然に瀕死の状態であった、当時オリビア嬢に出会ったそうです。

 その際、魔鉱山からの急な落石があり、王太子殿下が落石により瀕死の重体にあった時に、治癒魔法を発現したオリビア嬢に命を助けられました。

 その後、我々はオリビア嬢を保護し、それまでの経緯と、ルードグラセフ伯爵領の状況などをオリビア嬢より聴取し、その裏取りを行なったのです。

 ですから、伯爵家に寄る必要も無かった」


 宰相様の最後の一言は、先程の伯爵の質問への答えとばかりに、伯爵を見据えて発していた。

 伯爵は、自分達の魔鉱山と思い込んでいたため、それが国のものであり、自由に扱う事が許されていなかった事実に呆然としていた。


 


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