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「あの商会での事は、些細な事にございます。

 些か血気盛んな若者たちには、大人の対応をお見せしたまで。

 それとは関係なく、私は魔鉱石の販路について、見直しが必要と考えた上で取り引き先を再選考したのです。

 魔鉱石の需要は高まるばかりですが、採れる量は限られておりますゆえ」


 カーターは堂々とそう言った。


 (ここには、大勢の貴族達がいるから、こう言っておけば、限られた魔鉱石を優先的に手に入れる為に、直接私と取り引きをしたがる者が出てくるだろう。

 あとは、その者たちがどれ程の金を積むことが出来るかだな。

 歴代のルードグラセフの者たちは、本当に馬鹿揃いだな。特に、いつも澄ました顔で、私を見下してきたあの女! 

 あいつは宝の持ち腐れだったんだ。

 魔鉱石のような金の成る木を上手く利用せず、安く卸していたんだからな!

 おかげで細々とした生活を送る羽目になっていたんだ!

 伯爵位だから贅沢三昧出来ると思っていたのに、当てが外れたと後悔したわ!

 しかもあの女は、伯爵位をオリビアに継がせようとしていたけど、結局は毛嫌いしていた私が、その地位を手に入れてやった。

 さぞ草葉の陰から、悔しそうに見ているだろうな)


 目の前で、国王陛下始め、王族達に一番近しい場所に立って、こちらを見ている、あの女そっくりに育ったオリビアを見て、カーターはそんな事を思い返していた。



「ほぅ……。再選考とはな。

 そんな権限をルードグラセフ伯爵に持たせた覚えはないがな」


 国王陛下はそう言って、カーターを睨め付ける。


「しかし、随分とここ数年、好き勝手に動いたと見える。

 お前たち親子の格好からして、よほど潤った生活を送っているのだろうな」


 そう言って国王陛下は、カーターの隣りに立っていたナタリーとルイーゼに目を向けた。


「連れのもの達は、とても華美な装いをしておるな?

 これから何処かのパーティにでも参加するのかな?

 王妃よりも多くの装飾品を身に付けておる。

 しかも、どれも高価な宝石の数々だ」


 国王陛下にそう言わしめるには十分な程、ナタリーとルイーゼは着飾って王城に来ていた。


 王城に上がる際には、TPOに合わせた装いというものが貴族の間で暗黙の了解となっている。

 まして、自分より位の高い者より華美になり過ぎないように、気を配るのは貴族として当たり前の嗜みだ。

 その理を弁えず、観光気分で、いつものように豪華に着飾ってやってきたルイーゼ母娘は、ここに集まっている全ての人から失笑されていたが、それにも気付いてなかったらしい。

 国王陛下に言われて、初めて周囲の視線の意味を知ったナタリーが、屈辱に顔を真っ赤にする。

 その様子を見たカーターは、何やら分が悪いと感じ始めていた。


「家の者が陛下のご気分を害した様で、大変失礼致しました。

 この二人はすぐにでもこの場から下がらせますので、どうぞご容赦のほどをお願い致します」


 そう言って、ナタリーとルイーゼを大広間から辞するように言おうとしたカーターを、陛下が止めた。


「何を勝手に辞そうとしているのだ?

 せっかくだから、最後まで居るといいぞ。

 初めての登城にて、頑張って着飾って来たのであろう?

 なぁ、ルードグラセフ()()伯爵夫人?」


 国王陛下はそう言って、ナタリーを見る。


 ()()と言われ、返答に困るナタリーと、先程から意味が分からず首を傾げているルイーゼの反応は対照的であった。


 (くそっ! さっきから陛下は代理代理と、何が言いたいんだ!

 オリビアが行方不明になった時点で、国には申請を出して、正式に私が伯爵を継いだのだぞ!)


 そう考えながら、ついオリビアを見る。

 オリビアは相変わらず、何も言わずに王族の近しい場所からこちらをジッと見つめていた。


 そのカーターの視線に気付いた陛下が、面白そうにカーターに語りかける。


「どうした? ここにいるオリビア・モーリスト侯爵令嬢が気になるのか?」


 陛下にそう言われ、ハッとしたカーターは、これは好機ではないかと気付く。


 (聖女と呼ばれているあの娘が、私の実の娘だと知ったら、ここに居る者たちは、私たちを馬鹿には出来ないのではないか?

 陛下はご存知なのだろうか?

 もし、知らないのであれば、これはこの雰囲気を一変出来るかも知れないぞ!)


「陛下の御前にて控えさせて頂いておりましたが……。

 実は、オリビア・モーリスト侯爵令嬢は、私が二年間探し続けていた私の愛娘、オリビア・ルードグラセフであった事が、先日判明したのです」


 そのカーターの言葉に、周囲がざわついた。

 カーターは、心の中でほくそ笑むと、とても嬉しそうな笑顔を作り、オリビアに話しかける。


「ずっと探していたんだよ、オリビア。お前に元気で出会えた事が、父は何より嬉しいのだ。

 何故すぐに連絡をくれなかったんだ?

 お前が家を出てから、私は心配で心配で仕方がなかったんだ。

 さぁ、オリビア。もっと近くでこの父に、元気な顔を見せてくれないか?」


 そう言ってカーターは、オリビアの方に1歩足を進める。


 オリビアは、陛下の方に向き直り、

「陛下、わたくしに任せてもらっても?」

 と問うた。


 オリビアの言葉に、陛下がニヤリとしながら頷いた事を確認したオリビアは、改めてカーターに向き直り、ハッキリとした声で言った。


「ストップ! それ以上は近寄らないで下さいませ?

 カーター・ルードグラセフ伯爵()()


 オリビアの言葉は大きくもないが、それでもハッキリとした言葉にて、大広間中にしっかりと響き渡った。

 それは、強い意志で、ハッキリとした拒絶であり、カーターにとっては、初めて見る娘の姿であった。



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