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「もうすぐ到着する頃かな」


 王城の中にある一室。

 王太子殿下の執務室に来ていたルークは、王太子であるアレンにそう言った。


「今日は迎えに行かなかったんだね?」


 アレンはからかうようにルークにそう言う。


「今日はモーリスト侯爵夫妻も来られるんだ。僕が行ったら親子水入らずの邪魔になるだけだろう?」


 ルークは少し拗ねたような表情でそう返答する。


「ああ、叔父上や叔母上はオリビアをとても可愛がっているからね。

 ルークに取られまいと牽制しているんだろうね」


 そう言ってアレンは笑っていた。


 アレンにとっては、モーリスト家は母親の実家であり、現侯爵は王妃である母の兄である。

 長男とは少し歳が離れていて、そんなに交流はなかったが、次男のヘンリーとは歳も近く、従兄弟という気安さで、よくルークと共に幼い頃は遊んでいた。

 ちなみにルークは、国王であるアレンの父の妹の息子なので、父方の従兄弟にあたる。

 そして、今回オリビアがモーリスト家の養女となったため、オリビアもまたアレンの従姉妹となる関係であった。


「全く……。いつもモーリスト侯爵様には、小僧呼ばわりされてるさ」


 と、ルークは愚痴りながらも楽しそうだ。


「しかし、ルークも過保護だよね。

 学園ではオリビアに有利になるように、オリビアの経緯を上手く情報操作したんだって?」


「人聞きの悪い。ありのままをみんなに伝えただけだよ。

 面白可笑しく噂をされて、オリビアが傷つくのは避けたかったからね」


 アレンの言葉にルークは反論した。


「それが過保護だってことに気付いてないのは重症だなぁ。

 まぁ、オリビアを傷つける者は私達の敵であることは間違いないけどね」


 そう言って笑うアレンもまた、オリビアには充分甘い。


「ああ、そうだね。そして、そのオリビアの最大の敵もまた今日ここにやってくる」


 ルークの言葉に、アレンは笑う。


「こちらの準備は万端だよ。

 今日で全ての事に決着がつきそうだ」


 アレンのその言葉に、ルークも大きく頷いた。


「そうあってほしい。オリビアの憂いはきちんと取り払わなくてはならないからね」


 そう言って、執務室のソファに座っていたルークが徐ろに立ち上がった。


「どうした?」


「そろそろオリビアが到着する頃だと思うから、出迎えに行ってくるよ」


 アレンにそう返答し、ルークは足早に執務室を出ていった。


「ククッ、まるで忠犬だな」


 残されたアレンはそう言って笑うが、ルークと入れ違いに部屋に入ってきたサファイアが、

「あら? アレンもよくわたくしを出迎えに来てくれてましたわよね?」

 と、言ったのを聞き、ばつの悪い顔をする。


「愛する者にとても尽くしたくなるのは、父方の血筋かな?」


 そう言って、アレンは笑いながらサファイアを迎え入れた。



 ****



 私たち、モーリスト家の家族を乗せた馬車が、王城の馬車止めに到着した。

 モーリストの義両親とヘンリーお義兄様、私が馬車を降りた時、ちょうど後ろに別の馬車が止まったので思わず振り返る。

 すると、その馬車から大きな罵声と共にルイーゼが降り立って来た。


「ちょっとお義姉様! お義姉様のくせに、あんな素敵な屋敷に暮らしてたの!? 許せないわ! 私もあそこに住みたいのに!」


 そう言うルイーゼに追随するように、ルードグラセフ伯爵とナタリーが馬車から降りてくる。


「これはこれは、モーリスト家の皆様お揃いで。

 ()()()がお世話になっているようで、ありがとうございます。

 近々お礼に伺いたいと思っていたところなんですよ」


 ルードグラセフ伯爵がニヤニヤしながら、モーリストの義両親にそう言ってきた。


「……どなたかな? 初対面で、貴族位が下の者から上の者に直接話しかけてはいけないことを知らないと? まさかとは思うが、そんな無礼に当たることする者が本当にいるとはね……」


 そう言った義父は、冷ややかな視線をルードグラセフ伯爵家の皆に送る。


「そちらのご令嬢は、さっき、何か仰いまして?

 ()()()()()()()に、まさか難癖を付けるような言葉を発するなんて事、なさいませんわよね?」


 そして負けじと義母も冷ややかにそう言った。


「なっ! その女はっ……」


 ルードグラセフ伯爵夫妻は顔を歪ませて悔しそうにするが、ここは王城のど真ん前。

 更に大声で叫ぼうとするルイーゼの口を抑え、罵声を浴びせ返したいところをグッと我慢して、作り笑顔で謝罪した。


「申し訳ございません。()()()()()()()に久しぶりに出会えた喜びで、つい気持ちが勇んでしまいました。

 改めて自己紹介をさせて頂きたく、ご許可を頂きたいのですが」


 珍しく殊勝な態度でそういう父を見て、ルイーゼは目を見開く。

 チラリと母ナタリーを見るが、母も首を横に振り、分が悪いと感じたルイーゼは、大人しく黙る事にした。


 (ルイーゼったら。大人しくしたのはいいけど、そんなに私を睨んでいたら、反省していないのが周りにバレバレよ?)


 私は心の中でそう呟く。

 案の定、義父も義母もルイーゼの視線を見て、更に不機嫌となったようだ。

 ヘンリーお義兄様は、私の前に立って、ルイーゼの視線から庇ってくれていた。


「申し訳ないが、そちらのご令嬢が()()()()を物凄い形相で睨んでいるのでね。挨拶は受け取れないよ」


「ええ、ごめんなさいね?

 ()()()()は心優しいので、そのような視線には耐えられないわ。

 さ、早くお城に入りましょう」


 義父と義母に守られながら、私がお城に入ろうとすると、中からルーク様が出てきた。


「モーリスト侯爵様、侯爵夫人、ご機嫌麗し……くはなさそうですね?

 何かありましたか?

 ヘンリー殿、オリビアは無事か?」


 そう言って、ルーク様は私の元に駆け寄って来た。


「ルーク殿、タイミングがいいな。

 ヘンリーと一緒にオリビアを中に連れて行ってくれ。

 私達は後で合流するよ」


 義父の言葉にルークが頷く。


「分かりました。

 さぁ、オリビア。入ろう」


「……はい」


 その場に義両親とルードグラセフ家の人達が残された状態の中、私は一足先に王城の中に入っていった。


 



 

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