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 いよいよ、ルードグラセフ伯爵が王城に呼び出された日がやって来た。


 (全く! 何故私がこんな事で呼び出されなければならんのだ!

 魔鉱石が欲しければ、あいつらが素直に謝りにくればいいものを、王族達に頼るなど高位貴族と言っても、大した事ないな!

 まぁいい。これを機に私の陞爵をしてもらえるよう、国王様に話してみるか)


 ルードグラセフ伯爵は馬車の中でそう考えている時、前に座っているルイーゼが嬉しそうに言った。


「お父様! お城にご招待されるだなんて凄いわ! まさかお城まで行けるなんて、王都に出てくるまで、全く思わなかったもの!」


 そう興奮して話すルイーゼの隣りで、母のナタリーも頷いている。


「きっと王様も、旦那様の味方をされるわ。良質な魔鉱石が取れるのは、我が領地をおいて他には有り得ませんもの」


 この二人は、王城からの呼び出しが来たとの事を知って、観光気分で付いてきていた。


「お前たち、中では大人しくしているんだぞ。特にルイーゼ!

 お前は今は停学中なんだ!

 くれぐれも目立った行動はするなよ!

 全く……勝手に我が家の大切な最上級魔鉱石を持ち出して、問題を起こすなんて……」


 先日ルイーゼが起こした事故により、多数の他家からの苦情が届いたばかりだ。

 幸い、オリビアによってすぐに怪我人は完治し、慰謝料請求まではなかったが、それでも魔鉱石の取り扱いに苦言を言われていた。


 (ルイーゼのせいで、魔鉱石の取り扱いについて、さらに国王様から厳しく言われそうだ。

 しかし、あの事故のおかげで、最近王都を賑わしていた聖女があのオリビアだと知れた事は僥倖だった。

 今回、不利な状況に陥りそうになったら、オリビアを話の盾にするのもいいかもしれない。

 あの聖女が私の娘だと主張するいい機会でもある。

 そうなれば我が家の地位は磐石なものになり、どの家も我が家に文句など言えなくなるだろうさ)


 伯爵がそんな事を考えていた時、ルイーゼが、馬車窓から外を見て、あっと叫ぶ。


「あ! あの白い素敵な屋敷! お父様! 私、ああいう屋敷に住みたいのよ! 一体どなたの屋敷なのかしら」


 それはルイーゼ達が初めて王都に出てきた日、新しいタウンハウスに胸をときめかせていたルイーゼが、一目見て気に入っていた屋敷だった。


「ルイーゼは、本当にこのお屋敷がお気に入りなのね。

 この辺りだと、侯爵家や公爵家の方々のお屋敷ではないかしら?」


 そんな事を話しながら、その屋敷の門の前に差しかかろうとしていた時、屋敷の門から、丁度馬車が出ようとしていた。


「あ」


 ルイーゼが目を見開いて、そこから出てくる馬車を見る。


「どうしたの、ルイーゼ?」


 ナタリーがルイーゼに問うと、ルイーゼが顔を歪ませながら叫んだ。


「あの馬車! オリビアお義姉様の馬車よ! 学園で何度も見たもの!

 あれはお義姉様が学園に乗ってきていた馬車なの!

 何なの!? お義姉様のくせに、こんないい屋敷に住んでいるなんて!」


 そのルイーゼの言葉に、ナタリーも顔を顰める。


「ああ……ならば、ここはモーリスト侯爵家の屋敷なのね。

 しかしあの小娘。まさか生きて聖女とまで呼ばれているだなんて……。

 どうやってあの力を得たのかしら?

 悪魔と契約でもしたのではないの?」


 ナタリーは、そう言って頑なにオリビアを否定している。


 (此奴ら……。あの娘の利用価値を分かっていないのか?

 あの娘さえいれば、どんな高位貴族、もしくは王族でさえ、ひれ伏してくる事もあり得ると言うのに……。

 今やあの娘は侯爵家の者になっているから、ルードグラセフ伯爵領を引き継ぐ事もあるまい。

 その上で、私があの娘の本当の父親だと公表すれば、皆の私を見る目も変わってくるというもの。

 ただの邪魔者だと思っていたが、ようやく私の役に立つ時がきたようだな)


 先日、ルイーゼが事故を起こして学園から呼び出された日に発覚した事実。

 聖女がまさかのオリビアだと知った時には、一瞬焦ったが、よくよく考えれば、とても利用価値があったのに伯爵は気付いたのだ。


 (まさかあの娘から、私たちに虐げられていたなどと他言する勇気もあるまい。

 オリビアとの再会を最大に演出して、親子アピールをすれば、聖女の生家として多大な利益をもたらすだろう)


 自分達の前を走るオリビアの馬車を見ながら、ルードグラセフ伯爵はそんな事を考えていた。


 

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