表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/42

22



 ルイーゼは学園に通いながらも、未だに聖女の目の色を確認出来ずにいた。


 (全く、嫌になってしまうわ! 教室には近づけないし、休み時間や放課後はルーク様や、他の令嬢子息達が群がっているし! 出来れば一人になった時に突き飛ばして、転んだ拍子に眼鏡が外れたら、その時に確認しようと思っていたのに……)


 授業中にそんな事を考えていたルイーゼは、講師の説明にふいに顔を上げる。


「では、皆さん。明日は錬金術の初歩的な実施練習をして頂きます。

 身近な魔道具は全て錬金術で作られたものである事は、皆さんもご存知ですね。

 錬金術には才能の善し悪しはありますが、基礎さえ覚えていれば、身近にある魔道具をより便利に使えます。

 例えば火をつける魔道具があれば、さらに火力を増す事が出来るとかです。

 この実施練習は、学年合同練習となります。

 他クラスに迷惑をかけないよう、しっかりと頑張って下さいね」


 (錬金術の練習ですって!? しかも合同って事は、聖女のクラスも一緒って事よね!? もしかして近づくチャンスなんじゃない?)


 そう考えたルイーゼは、ニヤリと令嬢らしからぬ顔をしながら、講師の説明を聞いていた。


 

  ****


 

 「オリビア、明日は錬金術の合同実施練習だって?」


 食堂で一緒に昼食を摂っていたルーク様が、ふいにそう言ってきた。


「耳が早いですね。先程講師から説明を受けたばかりなんですが……」


 私は呆れたようにルーク様に返答する。一体、その情報網は何処まで張り巡らされているのだろう。


「ハハッ。そんな目で見るなって。

 錬金術は危険を伴う事はオリビアも知っているだろう? だから心配なんだよ」


 そう言って、ルーク様は私の顔を覗き込む。

 

 (いや、だから近いからっ!)


 思わず口に入れた食事でムセそうになる私を、ルーク様はニコニコしながら見ていた。


 (この確信犯! その整った顔を近づけたら私がこうなるの、知ってるくせに!)


 ぐぬぬっと唸る私を見て、さらに楽しそうに笑うルーク様を見ると、まぁいいかとなるから、私は相当ルーク様に弱い。


「気をつけますわ。初めて錬金術を扱うのは危険が伴うって、知ってますもの」


 私の返答にルーク様が満足げに頷いた。


「まぁ、でも明日は多分、錬金術の才能があるかどうかを確かめる為の練習だから、そんなに危険はないとは思うけどね」


「確かめる?」


 どういう事か分からず、私はルーク様を見ながら首を傾げる。


「その仕草、可愛いから他ではしないでね。

 確かめるっていうのは、まさに言葉通りだよ。

 錬金術の基礎である、物を変化させる事。

 魔鉱石を使うと、ある程度は誰もが錬金術を使えるから、魔鉱石を組合せながら、砂金から何か生み出せるかを見るんだよ」


 ルーク様は、サラリと私をときめかせる言葉を吐きながら説明する。

 おかげで説明の間中、私は顔を上げることが出来なかった。



 ****



 いよいよ、今日は錬金術の合同練習日。

 一学年の生徒たちは、学園内にある広い園庭に繰り出していた。


「それでは、今から錬金術の合同練習に入ります。

 本日は初めての実施という事で、皆さんに錬金術の才能がどの程度あるのかを把握する為、簡単なテストを行います。

 お手元に配られた魔鉱石と砂金を持って、等間隔を取ってください」


 園庭にて、クラス混合でバラバラと立っていた私たちは、適当に等間隔を取っていく。

 私の周りにいた仲良しクラスメイトの令嬢達も、

「では、また後ほど」

 と言って、間隔を空けて離れて行った。

 

 と、その時、割と近い距離に誰かが来たので振り向くと、そこにはルイーゼが立っていた。


 私はビックリして、間隔を空けるために離れるも、また近づいてくる。


「あの……。先生方の言う通りに間隔を空けて頂きたいのですが……」


 私がそういうも、ルイーゼは何処吹く風とばかりに、傍に寄ってきた。


「私、聖女様とお近付きになりたかったの。でも、いつも誰かが居て近づけなかったから。

 ようやくお話が出来る距離に近づけて、とても嬉しいわ!」


 そういうルイーゼを無碍にする事も出来ず、周りも、好意的に近寄ってきた令嬢を無闇に叱責する事も出来ないと、チラチラと気にしながら見ていた。


 私は小さくため息をこぼした後、

「後でお話致しましょう? 今は授業中ですので、もう少し間隔をお取りくださいませ」

 と伝える。


「はぁ~い。約束ですよ?」


 と、渋々といった様子でルイーゼは、ほんの少しだけ私と距離を置いた。



「では、皆様、授業で説明した事を思い出しながら始めてください。

 一番大切な事は、イメージです。

 イメージする事によって、錬金術は素晴らしい結果が生まれます。

 くれぐれも危険なイメージは慎むように。

 錬金が出来たら、近くにいる講師に報告して下さいね」


 講師の開始の合図で、それぞれが取り組む。

 初めての錬金術でみんなが四苦八苦している中、私は慣れた手付きで、砂金からプラチナのネックレスチェーンを作り出した。


「まぁ! オリビア様! なんて素晴らしい!」


 私の近くで作業を始めていた友人達が、こぞって私の作品を見て目を丸くする。


「まぁ! モーリスト侯爵令嬢は、治癒魔法だけでなく錬金術にも精通されているのですね。

 とても素晴らしい出来ですよ。

 砂金をプラチナに変えるなんて、そんな事が出来る錬金術師は、この国で何人いる事か……」


 近くに待機していた講師達も、私の作品を見て感嘆の言葉を零す。


 少しやり過ぎた感を感じ、私はいたたまれない気持ちになってしまった。


 (つい、商会の作業場にいる感覚で作ってしまった。

 プラチナに変えたのは、流石にやりすぎたよね?)


 きっと後で、ルーク様やヘンリーお義兄様に怒られるだろうなと考えていた時、隣の場所から大きな音と共に、爆発音が聞こえた。


「きゃあ!!」


 隣りで作業していたルイーゼの叫び声と共に、周囲からも

「痛いっ!」

「うわぁ!」

「「「きゃあ――!!」」」

 など、あちこちから苦痛の叫び声が聞こえた。

 と思ったら、私の顔にも何か鋭いものが飛んで来た。


「あっ!」


 その鋭い何かは、私の顔に勢いよくあたり、思わず倒れる。

 頬に痛みを感じると共に、トレードマークである私の瓶底メガネも、吹き飛ばされて砕け落ちた。


 


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ