20 オリビアの決意
王太子殿下は話の区切りのいい所で、私を見た。
「オリビア。君はどうしたい?
このままルードグラセフ伯爵家が没落してしまってもいいかい?」
王太子殿下の問いかけに、私は考える。
確かに今のルードグラセフ家は没落しても仕方がないと思う。
きっと父は、私利私欲の為に魔鉱山を私物化しているのだろう。
実際、私の母が亡くなってから、急に父の羽振りが良くなっていた。
そして王家には、報告書類を改竄して提出しているのだろう。
だから、そんな父は罰せられて当然だし、ナタリーも1枚噛んでいるだろうから、同罪だ。
しかし……。
あの伯爵領は、亡き母の実家だ。
亡き母や祖父母達、先祖代々が、魔鉱山と共にルードグラセフ伯爵領を守りながら、日々を過ごしてきた思い出の場所。
本来なら、私が成人した日に母より伯爵位を譲り受け、今度は私が全身全霊で守るはずだった場所だ。
それがこんな形で、あんな人達の手によって全て水の泡となるのは、正直悔しい。
「王太子殿下。あの魔鉱山を含め、ルードグラセフ伯爵領は、わたくしの亡き母や御先祖様が代々、王家より管理を任され全身全霊で守り抜いてきた場所です。そして、次は本来なら母の意思を継ぎ、わたくしが守らなければならなかった場所。
母が亡くなって以降、わたくしが成人するまでの間だけ代理で管理を任されただけの父や、その後妻、連れ子にいいようにされて、没落まで追い込まれている現状が何より我慢なりません」
私が正直な気持ちを話している間、王太子殿下やルーク様、ヘンリーお義兄様は、静かに私の話を聞いてくれていた。
「なので、これを機にわたくしがルードグラセフ伯爵を継ぎ、母や御先祖様同様にあの場所を守り、魔鉱山を管理させて頂いてもよろしいでしょうか?」
私の答えを予測していたように、王太子殿下は軽く笑い、ルーク様は「やっぱりな……」と天を仰いでいる。
「予想どおりの答えだよ、オリビア。
君ならそういうと思った。
でもねオリビア。治癒魔法を発現した君を、あの辺境の地に戻すのは王家としては容認出来ないんだ。
君の力を利用しようとする輩は、それほど沢山いるからね」
王太子殿下の説明に、私はハッとする。
そうだ。治癒魔法が使えるのは、現在は私一人。それに、最近では錬金術も扱えるようになり、私の力を狙っている人は少なくないらしい。
実際、今も王家より私には影が付けられており、守られている身なのだ。
こんな状況では、領地を守るどころか迷惑をかけてしまう。
自分の不甲斐なさに落ち込んでいると、ルーク様が声を掛けてくれた。
「オリビア。自分一人で責任を負う必要はないんだよ?
君の力になりたいと思うから、こうしてアレンも来てくれた。
きっと、君の新しい家族であるモーリスト家のみんなも、君に協力してくれるはずだ」
その言葉に、ヘンリーお義兄様も同意する。
「勿論だ! オリビアの憂いを取り除くためにできる限りの事はするよ!
きっと父上や母上、兄上達も協力してくれるさ!」
「お義兄様……。ありがとうございます。そして、王太子殿下、ルーク様もお心遣い、感謝致します」
私は皆の優しさに感謝する。
「さて、ではオリビアの意を汲んで、取り敢えずはあの者達から、伯爵位をオリビアに取り戻そう。
そうすればルードグラセフ伯爵家は、あの者達とは無関係となり、共倒れする事はないからね。
しかしオリビアはまだ未成年であり、その後も領地に戻るのは難しい。
そこで、あの伯爵領と魔鉱山の管理を任せるに値する人物を、オリビアの後見人として新たに選定しようと思う」
「オリビア、君の母君が大切にしていた場所は、ちゃんと僕達で守るよ。
だから安心して。
罰せられるのはアイツらだけで充分だ」
王太子殿下のお言葉に続いて、ルーク様も優しく私に言う。
「皆様、ありがとうございます。
よろしくお願い致します」
私は立ち上がり、心からのカーテシーをしながら、感謝の意を唱えた。




