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2 前世の記憶



「あれ? ここは何処?」


 ふいに目が覚めた時、いつもと違う違和感に気付いて、つい、そう独り言を言ってしまった。


「いたっ!」


 身体を起こそうとベッドに手をついた時、激しい痛みに襲われる。


「え? なんで?」


 確か、昨日は仕事が終わって、家で携帯ゲームをしながらお酒を飲んで……。

 気分よく、コタツでうたた寝していたはずなのに。


 身体のあちこちに響いてくる痛みを我慢しながら、ゆっくりと身体を起こして周りを見回す。


 そこはベッドと机、小さなタンスしか置かれていない小さな小部屋。

 でも、何故かとても知っている気がした。


「あ! お嬢様! 気が付かれたのですね! 良かった! 痛みはどうですか? お腹すきません? 喉は渇いていませんか?」


「リーネ……」


 何故か目の前にいる外国人風の人の名前が、すんなりと口から出てきた。

 私はこの人を知っている。

 そして……

 壁に掛けられてある小さな鏡に映った、あちこちに包帯や、ガーゼが貼られた瓶底メガネの小中学生くらいの女の子。


 これが今の私だ。


 ああ、そうか。

 これが所謂、異世界転生。

 日本人アラサー女が、今や異世界の13歳の女の子に転生してしまっていた。

 そして、それと同時にオリビアとしての記憶も思い出す。

 ここは私の部屋だ。

 そしてあの時、私は暖炉に向かって倒れ込んで……。

 


「リーネ、私、どうなってるの?」


 リーネにそう尋ねると、リーネはとても悲しそうにあの後の事を教えてくれる。


「ルイーゼお嬢様が、オリビアお嬢様を押したから火傷したと何度言っても聞き入れてもらえず……。

 結局オリビアお嬢様が勝手につまづいて暖炉に向かって転んだだけとされまして……。

 一応旦那様がお医者様をお呼びして下さいまして、簡単な治療はして頂けましたが、右手はもう動かないだろうと……。」


 幸い、咄嗟に左手で暖炉の縁を掴み、薪をくべていた右腕はがっつり暖炉の中に入ったが、暖炉の中で手をついて上半身が暖炉に倒れ込むのを防いだ為、上半身は顔や肩など、所々に小さな火傷と、髪の毛が少し焦げた程度だった。

 しかし右腕と、暖炉の縁を掴んだ左手の火傷は、酷いものだった。

 痛みがこの程度ですんでいるのは、きっと鎮痛剤でも投与されたのだろう。


 

 なるほど。

 私の過失にされたわけだ。

 せっかく前世の記憶が戻ったのに、重篤な火傷を負った身体では長くない。

 この世界の医療は、現代日本ほど進んではいない。

 魔法がある世界だけど、魔法が使える人はほんのひと握りで、しかもそのほとんどが王都にいる。

 そのひと握りの魔法使いの中でも、治癒魔法が扱える人など、いるかどうかさえ怪しい。


「詰んだ……」


「え?」


 そう結論に達して、思わず漏らした言葉にリーネが反応する。


「あ、なんでもないの。

 喉が渇いたわ。お水貰ってもいいかしら?」


 リーネにそう頼むと、リーネは嬉しそうに持ってきますと、部屋を出ていった。


 1人になった私は、またベッドにゆっくりと横になる。

 右腕と左掌からは刺すような痛みがじわじわと感じている。

 


「魔法か―。転生したならチート能力で治せないかな……」


 そう思って、ベッドに臥床したまま、ゆっくりと身体の中の魔力を感じてみた。


 すると身体の中に、今まで感じた事のない暖かな気を感じて……。


「え? マジで?」


 身体中を何かが駆け巡ると共に、右腕や左掌の痛みが少しずつ軽減されていく。


「お嬢様、入りますね」


 そんな時、ドアのノックと共にリーネの声が聞こえた。


「どうぞ」

 

 私は力を止めて、リーネに返事をする。

 今はまだダメだ。治してはいけない。

 もし、今火傷を治してしまったら、この力があの家族に知られてしまう。

 そうなれば、いいように利用されるか、妬ましさでより一層虐げられ、悪魔付きとか言われて殺されてしまいそう。


 隠し続けながら、何とかこの家を出る方法を考えなければ。


「お嬢様、お水をお持ちしました。

 私がコップを支えますから、どうぞお飲みくださいね」


 リーネ。心配かけてごめんね。

 今はまだ、貴女にも言えないわ。


「ありがとう、ごめんねリーネ」


 そんな気持ちでリーネについ謝ってしまう。


「そんな! お嬢様は何も悪くありませんのに、謝らないで下さい!

 そばに居ながらお嬢様を助けられなかった私こそ、本当に申し訳ございませんでした」


 リーネは泣き出しそうな表情で、そう言ってくれた。


「お水、飲ませて」


「は、はい!」


 私は心の中でリーネに再度謝りながら、そう声をかける。


 リーネにお水を飲ませてもらってから、一先ずリーネには下がってもらった。

 リーネは渋っていたが、まずは1人になりたい。


「ではお嬢様、隣りの部屋に居ますので、何かあったら大声で呼んでください」


「ええ、分かったわ。ありがとう、リーネ」


 この部屋の隣りがリーネの部屋にあたる。

 私が幼い頃に使っていた本邸の私室は、あの義母によって追い出され、今は従業員用の別棟に追いやられていた。

 


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