表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/42

19 ルードグラセフ伯爵の画策




「え? 魔鉱石が手に入らなくなった!?」


 ルイーゼ達が店に来てから、一週間が過ぎた頃……。


 ヘンリーは、仕入れ担当の者から、いつも定期的に購入していた魔鉱石を扱っている業者が、急に取引を取り消してきたと報告を受けた。


「何故だ? 魔鉱石が品薄になっているとは聞いていないが?」


 ヘンリーの問いに、仕入れ担当が困ったように話す。


「業者の話では、急にうちにだけ魔鉱石を下ろさないようにと、上から指示が出たらしいです。

 魔鉱石が手に入らないと、うちの商品に大ダメージが出ますよ」


 困ったように仕入れ担当が、そう話す。


「上の者の指示? おかしいな……」


 ヘンリーは考え込み、確認する為に家に戻る。

 家に戻ると、ルークと共に、王太子殿下が来訪していると聞き、慌てて応接室にて挨拶をしに行った。


「やぁ、ヘンリー。久しぶりだね」


 ノックの返事にて部屋に入ったヘンリーは、王太子殿下に声を掛けられて、臣下の礼を取る。


「アレン王太子殿下におかれましては……」


「ああ、そんな堅苦しい挨拶はいらないよ。こちらが君の家にお邪魔させてもらっている身だしね」


 気さくな感じで、ヘンリーにそう話す。


「ありがとうございます。

 それで、アレン王太子殿下は、本日はどのような? 父に何か御用でしょうか?」


「ハハッ。宰相に用があれば城で話すさ。今日は我が命の恩人のご機嫌伺いに来たんだよ。

 それに君にも聞きたいことがあってね」


 アレン王太子殿下は楽しそうにそう話す。


「私に聞きたいことですか?」


 ヘンリーがそう問うと、ルークが間に入ってくる。


「ヘンリー殿。もうすぐオリビアも来る。その時に一緒に話そう」


 そうルークが言った時、部屋のドアにノックと共にオリビアの来室が告げられた。



 ****



「やぁ、オリビア。久しいね。元気だったかい?」


 アレン王太子殿下に声を掛けられた私は、拙いカーテシーにて応じた。


「お久しぶりでございます。アレン王太子殿下におかれましては……」


「ハハッ。うん、それもういいからさ。さっ、オリビア、座って話そう?」


 気さくにそうアレン王太子殿下に言われ、私はおずおずとヘンリーお義兄様の隣りに座った。


「僕の隣で良かったのに……」


 ルーク様がボソッとそう言うのを、恥ずかしくて聞こえないフリをする。

 いや、配置的にも変でしょ? ルーク様は既に殿下の隣に座ってるじゃない。

 


「相変わらずだな君たちは。

 オリビア、学園はどうだい? 商会でも才能を遺憾無く発揮していると聞いているよ。君の才能には本当に驚かされる一方だよ。

 今回の新作の守護魔法付与のアクセサリーと拡張バッグは、サファイアも大層喜んでいてね。ぜひ君をお茶に誘いたいと常々言っているんだ。

 また、城でサファイアのお茶会に参加してくれないかな?」


「勿体ないお言葉でございます。わたくしでよければ、ぜひ参加させて頂きますわ」


 アレン王太子殿下のお誘いに、私は快く返答する。


「うん、サファイアにも伝えとく。きっとすぐにでも誘いの手紙が届くと思うよ。

 しかし、君は家でもその眼鏡をかけてるのかい?

 せっかくの綺麗な翠碧色の瞳が隠されているのは残念だな」


 そう言って、アレン王太子殿下は優しく微笑まれた。


 アレン王太子殿下には、二年前にルードグラセフ領で出会って以来、本当に良くしてもらっている。

 もちろん、私の治癒魔法の力で命が助かったというのもあるが、アレン王太子殿下の伴侶であるサファイア王太子妃殿下にも、本当に感謝され、色々と夫婦で気にかけて下さるのだ。

 今年学園に入園した際には、ルイーゼと会わないようにクラスを別に配慮してくれたのも、この御二方の気遣いだと思っていた。


「そうですね、何処に目があるか分からないので用心の為にかけていたのですが、今となってはトレードマークのようになってしまっていて……。

 でも、本来の自分を隠すのも潮時だと思っております」


 私の答えに王太子殿下は大きく頷き、その隣に座っているルーク様も、嬉しそうな顔でこちらを見てくる。


 ルーク様に見つめられた私は、慌てて真っ赤になりそうな顔を下に向けた。


 (だからルーク様。そんなに期待するような目で見ないで~!)


 

 そんな事を考えていると、王太子殿下が一つ、大きく手をパンっと打つ。

 

「さて、では次の話に移ろうかな。

 ここからは少し重い話になるけど、心して聞いてくれ。

 特にオリビア、君には少し辛い話になるかも知れないけど」


 急に真剣な表情をしてアレン王太子殿下が、私を見てそう話したので、私も顔を引き締めて頷いた。


「まずはヘンリー、魔鉱石の取り引き停止は聞いた?」


「は、はい。

 え? あれはアレン王太子殿下のご指示ですか?」


「ハハッ。違うよ。

 でもそうだよね。普通は魔鉱石の流通の采配権利は王家にある。だから君がそう思うのも無理はないね。

 ルークにも取り引き停止について、食ってかかられたからね」


 アレン王太子殿下が、楽しそうにルーク様を見ながらそう話す。


「仕方ないだろ。魔鉱石が手に入らなくなったら、錬金術が使えないんだから」


 不貞腐れた感じでそう話すルーク様が、幼く感じる。

 ルーク様は王太子殿下といる時は、いつもそんな感じなので、とても微笑ましい。


「そんな意地悪しないよ。ルークは拗ねると宥めるのに大変だからね」


 クスッと笑いながら王太子殿下はそう言った後、真剣な表情になった。


「今、魔鉱石の流通を担っているのは、魔鉱山のあるルードグラセフ伯爵領だ。

 どうやら今回の件は、ルードグラセフ伯爵の仕業かな?

 ルークに聞いたよ。君たちの商会先であの一家と揉めたんだって?

 顕示欲の強いあの伯爵が、あそこでやられて黙ってはいられなかったんだろうね」


 王太子殿下の言葉に、ヘンリーお義兄様はバツの悪い顔をし、ルーク様に至っては肩を竦めて笑っている。

 

「しかし、あそこの魔鉱石は国のもの。ルードグラセフ伯爵家にて、代々管理を任せていたが、それは王家の指示の元となっている。

 定期報告も義務付けしてあるし、本来なら流通の采配も、王家が定めた通りにする必要があって、ルードグラセフ伯爵家に一任した覚えはない。

 もちろん管理者として、ある程度の権限は許可してあるが、魔鉱石の流通を独自の判断で止めたりする権限はないんだよ」


 王太子殿下の説明に、私たちは静かに頷いた。


「だから今回の件は、ルードグラセフ伯爵の独断によるものであり、魔鉱山を私物化し、王家の指示を無視した事に値する。

 これから提出された報告書と照らしあわせて、過去に渡ってから調べ直してみる。

 場合によっては、ルードグラセフ伯爵はその権限を一切没収され、降格もしくは爵位没収になるかもしれない。

 それくらい魔鉱石は国の宝であり、国の礎だからね」


 王太子殿下の言葉を、私は複雑な気持ちで聞いていた。

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ