17 シークレット商会にて③
「あっ!」
リーネがあっという間に店の奥に戻って行ったのを見て、思わずルイーゼが声を上げる。
きっと、まだまだリーネに絡みたかったであろうルイーゼは、不満気な表情でルークを見たが、ルークの冷ややかな目に、サッと目を逸らした。
「そう娘を虐めないでくれ、スノーメル小公爵殿。娘はこの店に来るのをとても楽しみにしていたんだ」
ルードグラセフ伯爵の言葉に、ルークはため息を零す。
「申し訳ありません。せっかく来て頂いたのに、このような雰囲気の中では買い物もしづらいのでは?
日を改めて来て頂いた方がよろしいかと」
ヘンリーがそう提案すると、ルイーゼが母親に泣きそうな表情で、母の腕を掴む。
「……あなた」
ナタリーに短く声をかけられたルードグラセフ伯爵は、気まずそうに眉間に皺を寄せながら、溜息を吐いた。
「先程は本当に申し訳なかった。
実は我々はこの店の商品の類似品を掴まされてしまってね。
知らずに学園で使っていた娘が、学園のクラスメイトに馬鹿にされたようなのだ。なので、正規品を買ってやらないと娘が学園に通えなくなる。
日を改めたいところだが、今日購入していきたい。いいだろうか?」
伯爵にそう言われて、ルークとヘンリーは顔を見合わせた。
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「リーネ! 大丈夫!?」
店奥のスタッフルームに戻ったリーネに、私は駆け寄った。
「お嬢様……申し訳ございません。まさか、あの人達が店に来ていたとは思いもせず……」
「そんなの、仕方ない事だわ。誰も分からなかった事ですもの!」
「でも、あの人達は、私の所からお嬢様の情報を手に入れようとするかも知れません……。お嬢様にご迷惑をおかけする事になるかも」
そう言ってリーネは泣きそうな表情をしていた。
「大丈夫よ! 私はすでにあの家の人達とは関係ないもの! 例え私が元オリビア・ルードグラセフだとバレても、今の私はオリビア・モーリストなの。
あの人達にどうこう出来るわけないもの!
だから、心配しないで?」
私はそう言って、リーネを抱きしめる。
「昔から、リーネが傍に居てくれるだけで、私は安心するの。
だから余計な気を回して、私から離れようなんてしないでね」
「お嬢様……ありがとうございます」
リーネは抱きついている私の背中を、ポンポンと軽く叩きながら、私を宥めてくれる。
昔から、義母や義妹たちに嫌がらせを受けて陰で泣いていた時も、こうやってリーネは私を慰めてくれていた。
「なんだか恋人同士みたいだなぁ。
ルーク、お前のライバルはどうやらリーネのようだね」
いつの間にか、店から戻って来たヘンリーお義兄様とルーク様が、私達の後ろに立っており、この光景を見て、ヘンリーお義兄様が笑いながらルーク様にそう言っている。
「やめてくれ。リーネには勝てそうにない」
ルーク様も笑いながら、私達を見てそう言っている。
ラ、ラ、ライバルって……!
私のこと、からかってるだけよね?
も、もう! いつもルーク様は私を勘違いさせるような言動をされるから、変に意識してしまうわ!
落ち着いて、私!
私なんか、ルーク様のおメガネに叶うわけないもの。
そう考えながらも、私は恥ずかしくなって、慌ててリーネから離れた。
「あの人達はどうなりました?」
そして私は、あの後の事を見ていなかったので、あれからどうなったのか気になって聞いた。
「ああ……。商品を売りたくなかったから、丁重にお引き取り願おうとしたんだけど、よっぽどここの商品が欲しかったんだろうね。
あの後、とても低姿勢で購入したいと言ってきたから、一応は客として対応したよ」
ヘンリーお義兄様は飄々としながら、そう返答する。
「一年前に流行った品物を、とても人気のある品だと売りつけていたくせに」
ルーク様が呆れながらヘンリーお義兄様にそう言うと、
「定番の人気商品には間違いないだろ?」
と、ヘンリーお義兄様は平然と返答した。
二人のやり取りを聞いて、ほんわかとした気持ちになる。
さっさまではあんなに気持ちがざわめいていたのに……。
「しかし、あれほど必死で購入した品物も、実はオリビアが開発者だと知ったら、アイツら悔しがるだろうなぁ」
ヘンリーお義兄様の言葉に、ルーク様も頷きながら同意している。
「全てを兼ね備えているオリビアの価値が分からないアイツらが悪い。
分かってから返せと言われても、絶対返さないけどね」
ルーク様のその言葉に、私は顔を真っ赤にして全力で抵抗を試みる。
「やめてください、ルーク様! 私はそんな風に言って貰えるような立派な人間ではありませんよ!?
ちょっ! 皆さんもなに、ニヤニヤしてるんですか!」
必死の私の叫びにも、ルーク様やリーネ、ヘンリーお義兄様までもが笑っていた。




