15 シークレット商会にて①
シークレット商会
それは、オリビアが前世の記憶を元に、ルークの錬金術を合わせてつくった品物を売っている商会だ。
元は、オリビアが、王妃様の兄が継いだモーリスト侯爵家に養子として行く事になった事から始まる。
モーリスト家では、男の子ばかりが生まれ、娘が生まれなかった事に侯爵夫人は残念に思っていた。
その子供達も成長し、長男が結婚して家庭を持った時、嫁を可愛がっていたが、昨年孫が生まれ、嫁も子供にかかりきりで侯爵夫人の相手は出来ない。
そしてその孫も男の子であった。
そこに、オリビアを養女として迎える事となった為、侯爵夫人はようやく娘が出来ると喜んだものだ。
色々と娘に世話を焼きたい侯爵夫人が、オリビアのドレスを作ったり、アクセサリーや持ち物を選ぶ際、ふとオリビアが前世の記憶を頼りに出したアイデアが、侯爵夫人の目に留まり、商品化してみないかとの提案にて、あれよあれよという間に商会まで漕ぎ着けてしまったのだ。
元々モーリスト家の次男が、父が持っていた領地のない子爵位を引き継ぎ、ゆくゆくは家を出て商会を立てるつもりであったため、オリビアのアイデアを商品化してそのまま商会を立ち上げた。
なので、次男であるオリビアの義兄が商会長となるが、オリビアは売り上げの3割をアイデア料と商品開発費として貰っている。
その事を知ったルークが、オリビアの役に立ちたいと錬金術を駆使して、他に類を見ない商品が次々と開発された。
そして今や、この商会の品物を持っているかが貴族のステータスに成程にまでのし上がったのだった。
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「リーネ、ここに居たの?」
「オリビア様、お帰りなさいませ。
学園の後、こちらにお寄りになるのでは思い、こちらで待っておりました」
「商会まで世話を焼きに来る事はないのよ? 私も成長してるんだから、ある程度は自分で出来るし」
「まさか! 侯爵令嬢たるオリビア様の専属メイドが、学園以外で離れる事はありません!」
「程々にね? 私が侯爵家に居ない時くらい楽にしてくれて構わないのに……」
「私がオリビア様のお傍に居たいだけですので、お気になさらず。
学園内にメイドや侍女が入れないだけでも悔しいですのに……」
「ふふっ分かったわ。いつもありがとう、リーネ」
リーネは、わたしの言葉に、嬉しそうに笑顔で頷く。
私は、リーネの元気そうな表情に安堵した。
かつてルードグラセフ伯爵家にて、私を気遣って味方になってくれた人。
私を庇った為に、ルードグラセフ伯爵達に職を追われ、一時は行方が分からなくなっていた。
しかし、私がルーク様達に出逢い、王太子殿下を助けたお礼がしたいと申し出られた際に、一番にお願いしたのがリーネを探してもらう事だった。
幸い、ルードグラセフ伯爵家を出てから、それほど日をまたいでいなかった為、隣町の酒場の店で給仕についていたリーネを見つける事が出来た。
長居はするつもりがなかったらしいので、そこを離れられたら探すのが困難であっただろう。
本当に見つけられて良かったと、私は心から神に感謝したくらいだ。
そして、リーネを私の専属メイドとして侯爵家に迎え入れてもらい、その時より身の回りの世話をしてもらっていた。
「お、来たかオリビア」
「あ、ヘンリーお義兄様」
モーリスト侯爵家の次男、ヘンリー・モーリスト。
私の義兄であり、シークレット商会の商会長でもある。
「今日は一人で来たのか? いつもくっ付いてくるスノーメルの坊やが見当たらないな」
ヘンリーお義兄様がそう言った途端に、後ろから声がかかった。
「坊やというには、ヘンリー殿よりも僕の方が背が高いのですがね」
「あ、やっぱり居たか」
ルーク様の返事に、ヘンリーお義兄様がニヤッと笑ってそう答えた。
「二人に朗報だ。この前出した新作の収納バックの注文が殺到している。
バックに錬金術を施して収納量を増やすなんて発想、どうしてそんな事を思いついたんだ!?
本当にオリビアの発想は奇想天外だな」
ヘンリーお義兄様の言葉を聞いて、私はむず痒くなった。
(前世で見た、異次元アニメとかによく出てくるアイテムボックスや、インベントリを参考にしただけなのよ~)
そんな事を考えているとは悟られず、笑顔で私は義兄の話を聞いていた。
「でも、まさかオリビアが、治癒魔法の他に、錬金術の才能まであったとは知らなかったよ!」
そう話す義兄に、ルーク様まで乗っかる。
「ちょっと目の前で錬金術を見せたら、まさかそれを真似てすぐに錬金術が出来るとか、本当に目が離せないよオリビア。
でも、錬金術は僕の十八番だからね。そう簡単には負けないよ」
ルーク様の言葉にビックリする。
「とんでもないわ! ルーク様のように出来るわけありません!
私が出来るのは、ごく簡単な錬金術だけですもの」
「オリビア……簡単な錬金術で空間と空間を繋げる事は出来ないんだよ?
その発想はもちろん、そんな事が出来るなんて誰も思ってなかったからね?」
「ルーク様はすぐに出来たではありませんか」
ルーク様と私の会話を聞いて、参ったというように義兄が間に入った。
「天才同士の会話は不毛だな。
その天才二人に収納バックの元になる魔道具をまた頼むよ。
依頼が殺到しているからね」
ヘンリーお義兄様の言葉に、私とルーク様が頷く。
「ルーク、報酬は……」
ヘンリーお義兄様が言いかけた言葉を遮るようにルーク様が話す。
「僕の報酬分もオリビアへ回して。
どうせオリビアは、すぐに孤児院やら教会に寄付するし、奴隷たちの解放の為にお金を費やすんだからね」
前世日本に生まれた私は、この国の身分制度に慣れないでいた。
なので、奴隷たちを見た時の衝撃は忘れない。
なので、出来る範囲で奴隷たちが解放されて、人間の尊厳が守られながら生きて貰えるよう、儲けたお金から少しずつ奴隷を買っては解放し、仕事や住むところを提供していた。
分かっている。
こんなの、ただの気休めで自己満足なのだと。
それでも、一人でも救えるのならと、その一心でやり始めた事を、私の新しい家族やルーク様達も受け入れて、見守ってくれているのだ。
王太子殿下はじめ王族の人達も、奴隷制度がいい事ではないと分かってはいるが、廃止にするには大規模な予算と周りの理解が必要である事から、長年この問題に手を付けられずにいたという。
私一人の力など、大した事ではないのも分かっているが、それでもやらずには居られなかった私の気持ちを、黙って受け止めてくれているだけでも、有難いと思っていた。




