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1 本来の姿を隠された私


「オリビア! 何してるの!

 さっさと仕事に戻りなさい!

 わたくしの前に出てくるなと、いつも言っているでしょう!

 あなたの顔を見るのも嫌なのよ!」


「は、はい……。お義母さま」


「本当にお義姉様はグズねぇ。

 くすっ。眼鏡かけててもロクに見えていないのかしら」


 オリビアに罵声を浴びせたのは、オリビアが8歳の頃にこの家に来たルードグラセフ伯爵の後妻であり、オリビアにとっては義母に当たるナタリー・ルードグラセフ。

 そして、そんな義姉をみてクスクスと笑いながら蔑んでいるのが、オリビアと数ヶ月差しかない義妹のルイーゼ・ルードグラセフだ。


 いつものように義母や義妹に蔑まれながら、屋敷の下働きをさせられているのが、ルードグラセフ伯爵家の長女であるオリビア・ルードグラセフだった。

 

 オリビアは、父であるルードグラセフ伯爵と前妻との間に出来た第一子で、この家の長女にあたる。

 しかし、オリビアの母である前妻と父は、いわゆる政略結婚で愛はなく、母が病気で亡くなると、喪が開けないうちから後妻となるナタリーと、その連れ子をこの家に連れてきた。

 その連れ子は、父と同じブロンドベージュ髪の色と、翡翠色の目を持っていた。

 つまりは父の子であり、父はオリビアの母が生前の頃より浮気をしていたのだ。

 ちなみにオリビアの髪色は、白銀色。

 目の色は翠碧色。

 どちらもオリビアの母から受け継いだもので、父の色を持っていないオリビアは、父からも疎まれていた。

 

 そして、その父より、

「その目の色を見るとお前の母を思い出すから不快だ!

 この眼鏡をかけて、髪の色も変えろ!」

と言われ、父より渡された、ろくに前も見えない瓶底メガネをかけ、もっとも多いとされるダークブラウンに髪色を染めたオリビアは、本当の姿を見事に隠されてしまった。

 

 そして、 ルードグラセフ伯爵家の長女で、守られる立場であるはずのオリビアは、幼い頃より他のメイドや使用人達と同等、もしくは、それ以下の扱いを受けていたのだった。

 オリビアが不当な扱いを受けるようになってから、早5年。

 今、オリビアは13歳になっていた。





「お嬢様、あとは私がやっておきますので、今日はもうお休みください」


 オリビアにそう言って話しかけてきたのは、この家のメイドのリーネだ。

 オリビアより5歳年上の彼女は、まだオリビアがお嬢様として扱われていた頃に、この家に雇われてきた。

 なので、今のオリビアにとても同情しており、後妻たちと共にオリビアをバカにしてくる使用人たちが多くいる中で、優しくしてくれる数少ない使用人達のうちの一人だった。


「大丈夫よ、ありがとうリーネ。

 でもこれは私がやらないと、また後で義母に叱られてしまうから、最後までするわ」


 寒い夜に快適に眠れるよう、主人たちの寝室を予め暖かくしておくために、毎夜暖炉に薪をくべておく。

 それは下働きの仕事であるが、もう何年も前からオリビアの仕事となっていた。

 そして今、義母の部屋の暖炉に薪をくべている所だ。

 この後は義妹の部屋にも行かなければならない。

 

 義妹は、私が下働きをしている姿を見るのが好きで、薪をくべているところを横から見ながら私をバカにしてくるのが日課になっていた。



「全く……。まだ小さな頃からお嬢様にさせる仕事ではないでしょうに……。

 本当にあの方達は意地の悪い……」


「しっ! だめよ、リーネ。

 もし聞かれたら貴女まで虐められてしまうわ」


「お嬢様……。申し訳ございません……」


 オリビアの助けになる事すらなかなか出来ない現状に嘆いてくれるリーネを見るだけで、オリビアは救われる気持ちになる。

 せめて一緒に、と、義妹の部屋にリーネも付いてきてくれた。



「遅かったじゃないのお義姉様!

 しかも何!? 暖炉に薪を入れる事すら一人で出来ないのかしらぁ?

 本当にグズでどうしようもない人ね!」


 義妹のルイーゼは、ニヤニヤとしながら、意気揚々とオリビアを見下している。

 しかしこれに対し、下手に言い返すと、あとで義母に尾鰭を付けて告げ口され、酷い罰を与えられるのを身をもって知っているオリビアは、何も言わずに黙々と仕事を続けていた。


「ちょっと―。お義姉様のくせに無視する気? お母様に言いつけてやるわよ?」


 そう言いながら、ルイーゼは私を力強く押した。


「あ……っ!」


 すでに暖炉には火がついており、薪をくべる姿勢を取っていた私は、そのまま暖炉に向かって倒れ込んでしまった。


「きゃー!!」


 それを見ていたリーネがビックリして大声で叫び、その声に反応するかのように大勢の人がルイーゼの部屋に入ってきて、現状をみて慌てて私を暖炉から引き離してくれた。


 

「ルイーゼお嬢様がオリビアお嬢様を押したのです!」

 

「お、お義姉様が勝手に転んで暖炉に倒れ込んだのよ!? 私は悪くないわ!」


 大声でそう叫んでいるリーネとルイーゼの声が聞こえる中、私はゆっくりと意識を失った。



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政略結婚なのに、母親の実家が五年も何も言って来ないのはなぜ?
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