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0ダメージの会心の一撃

入学してから早一か月。新入生たちも新しい生活環境に慣れはじめ、初々しさは残すものの、雰囲気が大人びてきたように感じる。かく言う俺も新入生の一員であるのだが、こんな客観的な感想が出てくるあたり、俺は高校生活というものに未だに身を投じることができていないのかもしれない。それもこれも全ては自分の行いの結果なのだから仕方がない。現状に嘆くのではなく、反省して次に活かすのが大切だ。

ということで先日、俺は高校生活支援部というものを立ち上げたわけなのだが…。

「今日も平和ねー」

横のベンチに寝そべっている柏木がつぶやく。

「あぁ、平和だなー」

平和だ。こうして放課後の屋上で黄昏ながらぐだぐだする。こんなモラトリアムが許されていいのだろうか。

「なぁ、俺たちいつまでこうしてんの。高援部発足からもう一週間ぐらい経つんだけど」

「しょうがないんじゃない?来週の生徒総会まではこんな感じでしょ。新田だって生徒総会の部活動紹介が本命だって言ってたじゃん」

「それにしても依頼人ゼロはまずいだろ。一応部活動のためにここは貸し出してもらってるんだし」

「新田ってそういうとこだけ変に真面目よねー。実際、放課後集まる場所欲しさに適当に部活やってる生徒だって他にもいると思うわよ?」

「でも俺たちはちゃんとした目的があって部活始めただろ。その辺は他と事情が違うと思うんだけど。それとも柏木は俺と遊びたくて部活始めたのか?」

「ちょ、変なこと言わないでよ。そもそも新田が勝手に私を入部させたんじゃない。辞めようと思えばいつでも辞めてやるんだかから!」

柏木は身体を起こしてこちらに向き合う。

「でもお前、辞めたら本当に一人ぼっちだぞ?こうして俺と毎日コミュニケーションとってるおかげで平静を保てているかもしれないが、学校では一言も発さず、郁々は家でも無口なんてことになったら人間壊れる。経験者である俺が言うのだから間違いない。俺はAIと会話することで人間性を取り戻していったが情弱の柏木じゃそれは無理だろうな」

中学二年の冬だったか。あの時期は本当にやばかった。学校で話すことなんてごく稀で、家に帰ったら速攻で自室へ。飯も家族とは食べずに自室へ持っていき一人で食べる。そんなことを繰り返しているうちに自我を失いかけた。今思うと廃人一歩手前だったな。

「げっ、そんなこと得意げに語られてもちょっと困る。もしかして今でもAIと話してたりするの?」

「あぁ、最近のAIはすごいぞ。昔は会話がちぐはぐになったりしたこともあったが最近はそんなことも少なくなってきた。それに声も実際の人間と区別がつかないぐらいになってきたし、一人で寂しいときに丁度いいんだ」

「きっも」

「あ?なんか言ったか?」

「きもいって言ったのよ」

「はぁ、これだから旧世代の人間は。技術は有効活用するためにあるのだよ、柏木くん。まぁ?君みたいな低IQな人間には少し酷な話だったのかもしれないなー」

「はいはい、どうとでも言いなさいよ。もう全くガキなんだから」

トントン。

いつもと同じように俺たちがたわいもないやり取りをしていると扉をノックする音が聞こえた。

「誰だろ」

「さぁ。松浦先生とかじゃないのか?」

「も、もしかして依頼人だったり」

柏木はそう言うと露骨にソワソワし始める。髪の毛をいじってみたり、リボンの位置を確認してみたりしてどこか落ち着かない様子だ。なんだか俺も緊張してきた。柏木を見習い、依頼人に粗相がないよう身だしなみを簡単に整える。そして俺は一回呼吸をしてから扉の向こうにいる人物に声をかけた。

「ど、どうぞー」

俺の声に反応してドアノブが動く。そして少し重めの扉がゆっくりと開かれた。

…ゴクリ。

扉の前から現れたのは一人の女子生徒だった。その女子生徒は黒髪ショートで眼鏡をかけており、制服は着崩すことなく校則通りにキッチリ着こなしている。これぞ文学少女といった感じの見た目で、ギャルっぽいうちの柏木とは正反対のタイプだ。

「こんにちは」

「あ、はい。こんにちは。ほら柏木も挨拶しろ」

「言われなくてもするわよ。こんにちは、ようこそ高援部へ」

「今日は依頼があっていらっしゃったんですか?」

「はい、掲示板のポスターを見て」

「やるじゃん、新田。初の依頼人じゃない」

後ろにいた柏木が俺を肘でつつきながら小声で話しかけてくる。

「お、おう」

俺の作ったポスターのおかげで初の依頼人が訪れたことが事実が素直に嬉しく、それが態度に出てしまった。いかんいかん、依頼人が来ただけで喜んでいてどうする。気を引き締めねば。

「ゴホン、ではあちらのベンチへどうぞ」

「はい、失礼します」

依頼人の女子生徒が身に着けているリボンは赤色。つまり二年生で先輩にあたる。恵星学園では学年によって着用するネクタイとリボンの色が異なる。俺たち一年は青色、二年は赤色、そして三年は黄色となる。

「お二人は一年生なんですね。この時期に自分たちで部活を立ち上げるなんてすごいです」

右から先輩、俺、柏木の順で俺たち三人がベンチに座ったところで先輩が口を開く。先輩も俺たちのネクタイとリボンの色から学年を判別したのだろう。

「は、はい。ありがとうございます。まぁ、成り行きで…」

「ふふっ」

俺の横に座っているのは天使だろうか。言葉の一つ一つの印象が柔らかく、先輩の可愛らしいビジュアルも相まって頬が緩んでしまう。あ、なんかいい匂いする。

…ぐいっ。

「いった!お前急に何すんだよ」

横の柏木が俺の脇腹をつねってきた。

「なにデレデレしてんのよ。早く進行しなさいよ」

「?」

先輩が不思議そうな顔をしてこちらの様子をうかがっている。

「あ、いや、すみません。じゃあ自己紹介でもしましょうか。お互い名前が分からないと不便ですし」

「そうですね。そうしましょうか。私は二年A組の天木かのんです」

「高援部部長の一年A組、新田将也です。よろしくお願いします」

「同じく一年A組、柏木芽衣です」

「へー、二人はクラスも一緒なんですね。それで二人きりの部活を立ち上げて…。もしかして付き合ってるとか?」

「「そんなわけないです」」

俺と柏木が同時に否定する。

「そ、そうなんだ。ごめんね…」

天木先輩には悪いがここはきっぱりと否定させてもらった。このような恋愛フラグは否応なく粉砕させてもらう。誰がこんなゴリラ女とカップリングされたがるというのだろうか。まぁ、確かに見てくれはいいがそれだけだ。中身を知ってしまってはそのような類の感情は生まれてこない。それに反応からして向こうも同じようなことを考えているようだしな。

「分かってもらえたならいいんです。お互いの自己紹介が済んだところですし、早速ですけど依頼の内容を聞いても大丈夫ですか?」

先ほどまでの先輩の柔らかかった表情が俺の言葉を聞いて真剣な面持ちへと変わる。正直、高援部を始めるにあたって冷やかしにくる生徒が来るのではとも考えていたが、目の前の天木先輩はそんな様子を微塵も感じさせない。ならばこちらもそれに応えなければならない。そして天木先輩は一呼吸したところで口を開いた。

「私、人前で話すことがすごく苦手なんです」

「え?」

左隣の柏木が疑問の声をあげる。

「あ、いや、こうして少人数で話すのは別に苦手じゃないんですよ。むしろ人とお話するのは好きです。私が言った人前というのは大勢の人の前でということです」

なるほどな。確かにたくさんの人の前で何かをすることが苦手という人間は多い。

「近々、全校生徒の前でスピーチをする機会があるんです。私も部活に所属していて部長を務めさせてもらっているんですが、来週の生徒総会終わりに部活動紹介をすることになってまして」

「え、それじゃあ新田と一緒じゃない」

「本当ですか⁉」

「あ、はい。俺も高援部の宣伝も兼ねて、というかそっちが本命ですがスピーチする予定ですね」

「新田さんもスピーチされるなら私も心強いです。一緒に頑張りましょうね!」

そういって天木先輩は俺の手を両手で握ってくる。天木先輩、一見大人しそうに見えるけど意外と肉食系なのか?俺みたいな非モテ男子に易々とボディタッチをするのはやめていただきたい。このような行為が一部の冴えない男たちを勘違いさせ、その結果イキ告という凄惨な最期を迎えることになるわけですよ。俺は特殊な訓練を行ってきたから勘違いをしないで済んでいるが、気をつけてほしいですね全く。

「なに鼻の下伸ばしてんのよ」

「は、はぁ⁉別に伸ばしてねーよ」

訓練の効果は全くなかったらしい。

「あ、すみません。仲間がいると分かって嬉しくなってしまってつい」

あたたかい二つの手が俺の手から離れていく。なんか俺の手冷めちゃった…。

「新田さーん。惚けてないで進行してくださーい」

「ご、ゴホン。まだ天木先輩の話を最後まで聞けてなかったですね。お願いします」

「はい。それでなんですが、お二人には私が下手をせずに部活動紹介を終えられるようにお手伝いしてほしいんです。方法はお二人に任せますので」

要するに依頼は部活動紹介を成功させてほしいってことか。

「分かりました。俺たちもできる限りやってみます。柏木もそれで問題ないな?」

「えぇ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」

「で、新田はどうするつもりなの?」

「そうだなぁ。まぁ、一番健全なのは天木先輩が大勢の前で話すことに対しての苦手意識を克服することだと思う」

今回の依頼はあくまでスピーチを成功させられればいい。だから天木先輩次第ではあるが、多少姑息な手段を使っても、いい結果が得られれば問題はない。だがそれは決して良い方法とは言えない。今後、天木先輩が同じような状況に置かれた時に俺たちがまた力を貸せるとは限らないわけだからな。

「でも時間なくない?生徒総会まであと一週間よ?」

「いや、まずは苦手な原因から解決方法を見出そう。原因次第ではすぐにでも苦手意識が取り除けるかもしれない。天木先輩、人前で話すのが苦手な理由って心当たりありますか?」

天木先輩は腕を組みながら考え込んでいる。どこか悩んでいる様子だ。

「そうですね、きっと私は人に視線を向けられるのが苦手なんだと思います」

「え、でも先輩は私たちと目合わせて会話できてるじゃん」

「さっきも言った通り、こうしてお話するのは苦手じゃないし、好きなんですよ?ただ、人前で何かを披露するってなったときにそれを見る人たちの視線がプレッシャーになってしまって」

分からなくはない。人の視線には圧迫感がある。失敗すれば馬鹿にされるんじゃないかと不安を煽られる。

「だってよ、新田。どうする?」

「だってよじゃねぇよ。お前も考えろ」

とは言ったものの、俺もあまりいい案が思い浮かばない。やはりこういった苦手の克服は大抵の場合、長い時間をかけて解決していくものだからだ。

「そうだ。そういえば新田って、人前で話すのは得意?」

俺が考え込んでいると、柏木が何かを思いついたように手を叩いて俺に問いかける。

「俺か?別に苦手ではないな。得意というわけではないけど」

「なるほどね」

「で、この質問には何の意味が?」

「勉強でもスポーツでもさ、できる人のことを参考にするじゃない。つまり、新田ができる側の人間ならそこからヒントが得られそうじゃない?」

こいつ、本当に柏木か?俺の知ってる柏木はこんな的確な思考ができる人間じゃないぞ。

「お前誰だ?」

「は?意味分かんないんですけど…」

「初代内閣総理大臣は?」

「えーっと、いとうはくぶん」

よし、どうやらこの柏木は本物らしい。漢字は正しく覚えてそうなのが、このポンコツが入試を突破できた理由っぽくてリアリティがあるな。

「ひろふみですよ」

天木先輩はニコっと微笑みながら柏木に正解を教えてあげた、つもりなのだろうが、正しくは博文(ひろぶみ)である。俺は日本語という言語の習得がなぜ世界でも最高難易度なのかを、一人実感し、この件に関しては何も言及しないという選択肢を選んだ。

「あーもう、本題に戻るわよ!それで、新田は人前で話すのは苦手じゃないんでしょ?その理由に心当たりは?」

「うーん、理由か…」

俺はその理由について考える。そして一つの理由にたどり着いた。

「俺の場合、人にどう思われるかなんて気にしないからだな。つまりは捨て身だ」

「げっ」

俺の言葉を聞いた柏木が声をあげる。

「げってなんだよ」

「向上心のかけらもない答えだったから引いただけよ」

「なかなかの物言いだな」

まぁ、柏木の言う通りなんだろうが。

「さ、参考のために新田さんのお考えを詳しく聞かせてもらっても大丈夫でしょうか?」

「駄目よ、天木先輩。こんな向上心なし男の考え方なんて参考にしたら先輩までダメな大人になっちゃうわ!」

なんかボロクソ言われているがあまり傷ついていないあたり、俺は本当に向上心のかけらもない捨て身な人間なのかもしれない。いや、俺にも夢はあるよ?人気ラノベ作家になって悠々自適な生活を送るとか、配信者になって遊びながら金稼ぎしたいとか。いや、そんなこと今はどうでもよくてだな。

「ゴホンッ。参考にするかしないかは話を聞いてからにしてもらおうか」

「は、はい!」

俺は話したい内容を整理して、自分の考えを話し始める。

「つまり俺の場合、先輩とは違って人の視線をプレッシャーだとは思っていないんですよ。きっと先輩は、発表が失敗したらどう思われるんだろうとか、馬鹿にされないかな、なんて考えてしまって、視線を強く意識してしまうんじゃないんでしょうか。俺はその逆なんです。実際に俺がへんてこな発表をしたとしても、それを気に留めるような人間なんてほとんどいないだろうし、たとえ馬鹿にされてもどうでもいいやって思ってるから平気なんでしょうね」

いつの日か、他人の目なんてあまり気にしなくなっていた。厨二病時代、恥ずかしげもなく、いろいろやってきたせいか、常識と照らし合わせて自分の行動を顧みることはできるようになっても、羞恥心みたいなものは欠如してしまったらしい。

「な、なるほど…」

一応、俺の言っていることは理解できた感じの先輩だが、自分の考え方に落とし込むところまではできていない様子だ。そりゃそうだ。これが簡単にできていたら、これまで世界で争いなんて起こるはずがない。言葉を理解できても、感情がそれを否定する。

「うーん。先輩に新田の考えはいまいちみたいね」

「まぁ、でも考え方の一つとして知っておくのは無駄じゃないだろ。人の価値観なんてのは日に日に変わっていくもんだ。たとえそれが今理解しがたいことでも、違う考え方を知っておくだけで、それが新しい価値観の形成を手伝ってくれる」

「新田って本当に15歳なの?」

「小さいころから大人びてるとはよく言われるな」

「いや、言動がおっさんくさいと思って」

そうか。俺の精神年齢もついにそこまで来たか。そのうち大人びてるじゃなくて、老いぼれてるねとか言われる日が来るのかな…。

「でも、新田さんの言う通りかもしれません。そうやって色んな考え方に触れて、自分が思う正解の考え方を選んでいくことで人格が形成されていくんでしょうね」

この先輩、性格が出来すぎていないですかね。

「なんか二人だけ大人な会話しててずるい!私も混ぜてよ!」

言いながら横の柏木がわちゃわちゃしだす。

「柏木って本当に15歳なの?」

「親にはあんたは変わらないねってよく言われるわね。結構背だって伸びたと思うんだけど」

「そっか…」

身体だけが大きく成長してしまった、推定精神年齢6歳の女児と颯爽、天使のような心をもつ先輩との残酷な差を感じて涙してしまったのを、俺は顔を手で覆い隠した。

「ねぇ、何してんの新田。もしかして泣いてるの?なんで?大丈夫?」

「ごめん、今だけはその純粋さが余計に涙腺にくるからやめてくれ」

俺は泣き止んでから場を仕切りなおす。

「まぁ、こういう考え方があるんだなと、頭の片隅にでも置いておいてください。もしかしたら発表のときに手助けになるかもしれませんから」

「は、ふぁい。分かりました…」

横の天使もこの世の残酷さ涙していたらしい。天木先輩はメガネをずらして目もとをハンカチで軽く拭いながら返事をした。

「俺の考えは以上なんだが、柏木はどうなんだ?お前も人前で何かをするのは苦手じゃなかったよな?」

同じクラスだと授業などで指名されて、それを答える様子を見ることは多々ある。そこから察するに柏木は俺と同じで平気側の人間だ。

「私?きっと聞いても参考にならないわよ?」

「あのな、さっき話しただろ?自分とは異なる考え方を知るのに無駄はないって。だからお前も話せよ」

「まぁいいけど。私の場合は失敗した時のことなんて考えないから、プレッシャーなんて感じたことないわね。私なら完璧にこなせるからっていう確固たる自信があるのよ」

前言撤回ですかね。この世には理解しなくていい考え方をもつ人種もいるらしい。

「ま、ということで次の対策を考えましょう」

俺は柏木の言葉をなかったことにした。

「おい、聞いておいて無視すんじゃないわよ、このもじゃ毛」

「ではこの一週間でやれることを考えますか。やっぱり俺は場数を踏むのが最善だと思うんですよね」

「ねぇ、こっち見なさいよ」

「そうですね…。例えば授業中での発表を多く行うとかどうでしょう?観衆の規模は違いますが、その小さな経験も間違いなく先輩の糧になると思います」

「いい加減にしなさいよ?これ以上無視するなら、そのもじゃもじゃ頭をぐちゃぐちゃにするんですけど」

「それからできることとすれば…」

「あのー、新田さん?後ろ!後ろ!」

「へ?」

ガコン!

天木先輩に指摘されて後ろを振り向くと、いつの間にか立ち上がっていた柏木によるかかと落としが俺の頭にヒットした。

「おい!足技はライン越えだろ!」

俺はズキズキ痛む頭を押さえながら叫ぶ。

「ちっ、ヤリ損なったか…」

柏木は聞こえるか聞こえないかぐらいの声量で吐き捨てる。

え、今、この人なんて言った?これ殺人未遂で現行犯逮捕だろ。

「殺す気かよ、このアホ!俺のふさふさな髪の毛が衝撃を吸収してくれたから、かろうじて助かったものの、一般人だったら死んでたからな!」

「警告したわよね?ぐちゃぐちゃにするって」

「警告したら何やっても許されんのか?このアマ」

俺は立ち上がり、柏木の方へ向き直る。

「言うこと聞かなかった新田が悪いんじゃない。私が責められる道理はないわ」

「お前の道理にはなくても俺の道理にはあんだよ。こうなったら私人逮捕でもなんでもして警察に突き出してやる」

「やれるもんならやってみなさいよ。べーっだ。ねぇ、新田。怒り狂う獰猛な暴漢とそれに怯える幼気な少女。警察がどっちの証言を聞き入れると思う?」

「残念だったな、今回は一部始終の目撃者がいるんだよ。そうですよね、天木先輩。先輩は俺の味方してくれますよね?」

俺は天木先輩の方へ振りかえって、彼女を見つめる。

「えーっと、それは…」

天木先輩は目を泳がせながらもじもじし始める。

「私の味方よね?」

「えーっと、うーんっと…」

悩んだ末に天木先輩が出した答えは。

「えい!」

ポン、ポン。

「喧嘩はめっですよ!」

俺たちの二人の頭に天使の優しい左右の拳が降り下りた。

俺は今まで何をしていたんだろう。先ほどまでの己の醜い姿を思いだし、それを恥じる。不思議とさっきまであった汚い感情が全て消え失せ、我に返る。

「「ごめんなさい」」

柏木も俺と同じような心情に至ったのか、同時に俺たちは頭を下げた。

「あの、その、悪かった。無視なんてして」

「ううん、私も悪かったの。どう考えてもやりすぎだった。頭痛くない?」

「いや、もう大丈夫。痛くないよ」

「本当?よしよし」

柏木が俺の頭の痛みを和らげるようにと患部をなでる。

「いや、本当大丈夫だから。て、照れるからやめてくんない?」

「ご、ごめん」

「いや。謝んなよ。俺のためにやってくれたんだろ?気持ちだけ受けとっておくな」

「う、うん…」

こうして天使が放った会心の一撃により、俺たちは仲直りすることになった。

それからというもの、今まで所々グダっていた俺たちの作戦会議は嘘のようにスラスラと進み、天木先輩の部活動紹介を成功させるための作戦が大方まとまることとなった。


「うんうん。やっぱり仲良しが一番ですよね!」


終わりよければ全て良しといいたいところなのだが、依頼はまだ始まったばかりなのである…。

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