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【ダーク】な短編シリーズ

おとなは悪いゆめをみる

作者: ウナム立早
掲載日:2024/01/11


 新しい年(とし)になった朝。ぼくたち家族は前の年(とし)と同じように、龍茂(たつしげ)おじさんの家へとまりにいくことになった。


 龍茂(たつしげ)おじさんの家は、昔はおじいさんとおばあさんも住(す)んでいたってパパが言ってたけど、今ではおじさんだけがいる。だからここはおじさんの城(しろ)みたいなものだ。だいたい3日か4日とまっていくんだけど、正直(しょうじき)、ぼくはおじさんのことがあまり好きじゃない。


「こら、理人(りひと)、そっちに行っちゃいかん。深(ふか)いみぞがあるぞ。もっと家の近くで遊ぶんだ」


 家の近くで遊んでいるだけなのに、おじさんはいつもぼくのことをみはっていて、少しでも危(あぶ)ないことをすると注意(ちゅうい)される。


「あぶない。玄関(げんかん)のまわりでぴょんぴょん飛びはねるんじゃない」

「なんべん言ったらわかるんだ。古い井戸のふたを開けたらだめだ」

「その遊具(ゆうぐ)はさびてて壊(こわ)れかけている。こっちのやつにしなさい」


 家のまわりにはおもしろいものがたくさんあるけど、こんなふうになんどもなんども注意(ちゅうい)されていたらうんざりしてしまう。だからこんども、外に出て遊ぶのはほどほどにして、中でゲームをしたりモチを食べたりしてすごそうと思った。ああ、はやく都会(とかい)の家に帰りたいな。




 その日の夜、ぼくはおなかがいたくなって目がさめた。おなかがゴロゴロなっている。


「ママ」

「う、ううん。どうしたの、理人(りひと)」

「おなかがいたい。トイレいきたい」

「もう、理人(りひと)ったら。晩ごはんの後にアイスを食べすぎるからよ」


 ママをおこして、トイレまでいっしょについてきてもらうことにした。こわいわけじゃないけど、ぼくはトイレの場所がなかなかおぼえられない。迷っているうちにチビっちゃった、イヤな思い出もある。


 おじさんの家は広くて、夜になるとまっくらで、ほとんど音もしない。時計の音が、チッ、チッ、と聞こえるぐらいだ。ぼくはママにくっつきながら、くらいろうかをすすんでいく。


「うっ、ううううっ、ううん」


 とつぜん、声がきこえてきた。苦しそうな声だ。ぼくは思わずママの足にしがみつく。


「ママ、あの声、なに」

「ああ、あれはね、龍茂(たつしげ)おじさんの声よ」

「えっ、おじさんはまだおきているの」

「そうじゃないの、おじさんはねているんだけど、たまに悪いゆめをみるようなのよ」

「悪いゆめを」

「そう、おじさんにはむかし、とてもかなしいことがあってね、それがときどき、ゆめになって出てくるみたいなの。だから理人(りひと)も、おじさんにはやさしくしてあげなくちゃだめよ」

「ふーん」


 おじさんの部屋(へや)をとおりすぎるとき、戸(と)のすきまからねているおじさんがみえた。かおに汗をかいていて、口をもごもごさせながらなにかを言っていた。


「ぐ、ぐう、こたろ、こた」




 トイレにいってすっきりしたぼくは、きもちよくねむることができた。そして、楽しいゆめもみた。ぼくがゲームの中の勇者(ゆうしゃ)になって、めちゃくちゃつよい魔法(まほう)をつかいながら、敵(てき)をぶっとばしていくゆめだ。


 ぼくはいままでに、悪いゆめなんかみたことがない。ねむった後は、いつだっていいゆめ、楽しいゆめがぼくをむかえてくれる。おじさんは、なんで悪いゆめなんかみるんだろう。もしかしておとなになったら、悪いゆめをみるようになるのかな。


 ゆめのなかで、ちらりとおじさんのことを考(かんが)えてしまったせいだろうか、剣(けん)の先から雷(かみなり)の魔法(まほう)をとばして、魔物(まもの)をけちらしているときに、どこからともなく声がきこえてきた。


「虎太郎(こたろう)、虎太郎(こたろう)」


 おじさんの声だ。すると、ぼくの目のまえにおじさんが、ふだんのすがたのままであらわれた。


「虎太郎(こたろう)よ、どこにいるんだ、返事(へんじ)をしてくれ」


 たしかにいつものおじさんだったけど、その声は、とてもかなしくて、さびしそうだった。ぼくに注意(ちゅうい)するときのきびしい声とは、まるでちがう声だった。


 そのまま目のまえをとおりすぎていくおじさんを、ぼくはただみつめることしかできなかった。




 あくる日の朝、ぼくはおじさんといっしょに家で留守番(るすばん)をすることになった。パパとママは、これからほかの親戚(しんせき)の人たちへあいさつをしにまわるらしい。


 パパとママをみおくったあと、おじさんがぼくにむかって、いつものきびしい声で言った。


「理人(りひと)、パパとママがかえってくるまで、きちんといい子にしていないとだめだぞ。まず外に出るのは禁止(きんし)だ。午後(ごご)から天気が荒(あ)れるみたいだからな。いいな、家の中でおとなしくしているんだ」


 なんどもしつこく言われて、ぼくはムッときてしまった。お昼ごはんを食べるまではおとなしくしていたけど、デザートのアイスを食べているときに、アクマのようないたずらを思いついてしまった。


 そうだ。外に出ていったフリをして、おじさんを困らせてやろう。


 ぼくはアイスを食べおわると、おじさんに見つからないようにしながら、玄関(げんかん)にあるぼくのクツを服の下にかくした。そしてそのまま部屋(へや)にもどって、押し入れにある布団(ふとん)と布団(ふとん)のあいだにもぐりこみ、戸(と)をしめる。


 これでばっちりだ。玄関(げんかん)を見たらおじさんは、ぼくが外に出ていったと思ってあわてるだろう。おじさんはぼくをさがしにいくかな。パパとママがかえってきたら、その時にタネあかしをしてやろっと。


 ぼくはまっくらな押し入れの中で、しばらくじっとしていた。だけど、外はしずかなままだ。おじさんの声も聞こえない。そのうち、布団(ふとん)にはさまれてあったかくなったのか、どんどんねむたくなってきた。




 気がつくと、ぼくはゆめのなかにいた。だけど、こんどのゆめはいつもとちがった。ひどい雨がふっている。ゴロゴロと雷(かみなり)の音もする。そして、おじさんもいた。おじさんは雨の中で、ふらふらとゆうれいのように歩きつづけている。


「虎太郎(こたろう)、虎太郎(こたろう)」


 きのうといっしょの、かなしくて、さびしそうな声だ。こたろう。こたろうってだれのことだろう。


「虎太郎(こたろう)、虎太郎(こたろう)なのか。そこにおちてしまったのか。まってろ、すぐに父さんがたすけにいくから」


 おじさんはだんだんと早足(はやあし)になって、ぼくからとおざかっていく。よく見てみると、おじさんがむかおうとしていた先には、大きな谷(たに)があった。おっこちたらぜったいにたすからないような、大きな、大きな谷(たに)にむかっている。だけど、おじさんは止まろうとしない。


 おじさん、そっちへいっちゃだめだ。




 大きな音とともに、ぼくは目をさました。あわてて押し入れの戸(と)を開けてみると、まどのむこうがまっくらになっていて、つよい雨がふっていた。ぴかっと雷(かみなり)が光り、また大きな音がなる。ぼくは思わず顔をふせた。


「いや、おれがさがしにいく。そっちの家でまっていてくれ、道路(どうろ)も冠水(かんすい)してるかもしれん」


 顔をふせたときに、おじさんの声がはっきりときこえた。玄関(げんかん)のほうだ。ぼくはいそいで玄関(げんかん)へとむかった。


 ろうかの角から玄関(げんかん)をのぞくと、合羽(かっぱ)みたいな雨具(あまぐ)をきたおじさんがいた。スマートフォンを片手にもって、どなるような大声をあげている。


「これはおれの責任(せきにん)なんだ。理人(りひと)は、おれが命(いのち)にかえてでも、なんとしてでも見つけだす。たぶん、そんなにとおくへはいっていない。どこかで雨宿(あまやど)りをしているかもしれん」


 ぼくは、おじさんに声をかけることができなかった。おこられると思ったから。おじさんは顔を真っ赤にして、目もまゆげも、まるで鬼(おに)みたいだった。ぜったいにおこっている、そう思っていた。


「じゃあ、いくよ。また新しいことがわかったら、つたえる」


 おじさんはスマートフォンをポケットに入れると、玄関(げんかん)の戸(と)に手をかけながら、言った。


「理人(りひと)、どうか無事(ぶじ)でいてくれよ」


 ぼくは、はっとした。あのときの、ゆめのなかのおじさんとおなじ声だった。かなしくて、さびしそうな声。


 気がつくと、おじさんは戸をあけて、大雨のふっている外へと走っていった。


「おじさん、そっちへいっちゃだめだ」


 ぼくはさけんだけど、おじさんにはきこえていなかったみたいだ。ぼくもクツをはいて、おじさんをおいかけに外へととび出した。


「おじさん、おじさあん」


 必死(ひっし)におじさんをよんだけど、おじさんはもどってこない。おおつぶの雨がまるでカーテンのように、はれていたときの景色(けしき)をかくしてしまっている。おじさんのすがたも、見つけることができなかった。


 ぼくは、とんでもないことをしてしまった、と思った。ぼくのせいで、おじさんはもうここへかえってこないような、そんな気がした。ぐらぐらと目がまわり、頭がおもくなった。なんとかしなきゃ、と思っても、どうすることもできない。ぼくは玄関(げんかん)のまえでひざをかかえて、座(すわ)りこんでしまった。


「理人(りひと)」


 人の声がきこえたような、と思ったあとすぐに、ぼくはだれかに抱(だ)きかかえられた。


「ばかっ、ばかっ。なぜ言いつけを守(まも)らなかったんだ。虎太郎(こたろう)だけでなく、理人(りひと)まで失(うしな)ってしまったら、おれはもう生きていけん。お前のパパとママにも顔むけができなかったよ。ああ、でも、無事(ぶじ)でよかった」


 ぼくはようやく、抱(だ)きかかえているのがおじさんだということに気がついた。そしてまた、おじさんはぼくに注意(ちゅうい)をする。でも、こんどのおじさんの声は、ゆめのなかのおじさんとおなじ声だった。とてもかなしくて、さびしそうな声。ぼくの心の真(ま)ん中(なか)が、きゅっとしまっていくような、そんなきもちになった。


「おじさん、ごめんなさい」


 ぼくははじめて、おじさんに心の底(そこ)からあやまった。なみだがあふれて、止まらなかった。


 ねえ、おじさん。ぼくも今日、悪いゆめをみたよ。これでぼくも、ちょっとはおとなに近づくことができたのかな。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] おじさん、悲しい過去があったんですね。 心の傷が癒されますように。
2024/02/04 19:41 退会済み
管理
[良い点] 正統派の児童文学という感じがしていいですね。親の心子知らずとはいいますが、「親」は「大人」にも言い換えられますね。おじさんがどれだけ主人公を心配しているのかが最後に分かり、主人公の成長がう…
[良い点] わかりますね、おじさんの気持ち。 私たち夫婦は孫を預かる時があるんですが、怪我や事故にかなり気を使います。このおじさんは我が子を事故で失っているのでなおさらのことでしょう。 本編。 ちょっ…
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