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天国へ贈るコイン  作者: 西松清一郎
14/38

2-6

 美術家は紙を両手で取ると、しばらくそれに目を這わせた。知世は、来る前に警察署で成沢から釘を刺されていた事柄を思い返す。


「いいと言うまで、純金色の五百円玉については触れるな」


 よって、勝手に下手なことは言えない。もし余計な口出しをすれば、下村巡査と同じ轍を踏むことになる。このとき知世は膝に手を置きながら、静かに事の成り行きを見守ろうと決めた。


 成沢は名簿が窃盗団に由来するものである、と諭すように説明した。また、「よく外出するか」と問いかけ、「午前中によく繁華街へ出る」という回答を二人から得た。


 そういった問診のようなやり取りの最中、扉を軽くノックする音が聞こえた。遠慮がちに入ってきたのは、スタッフを兼務する学芸員らしい女性だった。女性は端にいた館長に近づくと、肩越しに小声で何事かをささやいた。近くで座っていた知世の耳にも、断片的な言葉が滑り込んでくる。

「また来ています」


 これは成沢にも聞こえたようで、警部は一旦対話をやめると、館長の方を向いた。「何か急を要しますか」

「いえ、そんなことはないんですが」館長は言ってから、少しの間考える素振りを見せた。そして「刑事さん」と成沢を呼ぶと、二人だけで廊下へと出た。


 取り残された知世はしばらく、女性二人と雑談めいた会話を交わした。話を振ってみると美術家は案外饒舌で、作品に込めた平和への想いを滔々と披露した。


 しかし、ドアから顔だけ出した警部の「木崎巡査、一階のロビーへ」という声がすぐに、現れかけた安穏の上に重たい雲を被せた。

「少し席を外します。ゆっくりなさっててください」そう言うと知世は部屋を飛び出し、すでに数十歩先を行く警部の後を追った。

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