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応対に出たのはグレーの清潔なスーツを着た白髪の老人であった。ネームプレートを見なくとも、その人が美術館長であるのは知世にもすぐにわかった。
「中央警察署刑事一課の成沢と申します。こっちは二課の木崎です」成沢が控えめに警察手帳を提示して見せ、知世もそれにならう。
館長は、知世が心配になるくらい恐れ入った様子で、清水明憲と名乗った。
「気安い対応で結構ですよ」成沢が慣れた口調で言うと、館長の態度もいくらか和らいだように見えた。
「鎧塚先生はもうお見えです」館長にうながされると、知世は成沢に続いて中へと入った。
作業台や画材道具が並ぶ補修場を抜けると、守衛所脇の通路に出た。その突き当たりの扉をくぐると、もうそこは一般に開放された本館のロビーであった。吹き抜けの壁にかけられたタペストリーには大きく、『鎧塚千鶴子展 9月16日~12月10日』と銘打たれている。知世は後につきながら、二人の「今は個展が開催されているんでしたね」「そうなんです」という世間話を黙って聴いていた。
作品搬送用のエレベーターで三階に着くと、館長は左手通路に置かれた『立入禁止』の立て札をどかせた。それから二人は館長の背中を見ながら歩みを進め、やがて右手奥の「メンバーズルーム」と名のついた部屋に通された。