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天国へ贈るコイン  作者: 西松清一郎
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2-3

 署を出発して十数分後、外の雰囲気が若干変わったように思え、知世は窓外を眺めた。それまで見ていた住宅街に、樹木の緑が徐々に加わっていることに気付く。豊かな葉の間から覗く教会、そしてレンガ造りの洋館が、その先の美の総本山からにじみ出る崇高性を共有し、それらが持つ本来の気高さをさらなる高みへと押し上げている。

 知世は今度の非番に、コーヒーを持ちながらこの辺りを散歩するのもいいな、と一瞬考えた。しかし、まっさらな御影石みかげいしに彫られた県立美術館の文字と、ハンドルを切る成沢の所作を見ることで再び自身に、遊びに来たのではない、と言い聞かせもした。


 月曜の午前であるためか、来客用駐車場は広々としている。本館へと向かう数組の客以外に人の気配はなく、黒のシルフィを覆面パトカーだと気づく者もいないであろう。サイドブレーキを引き、シートベルトを外した成沢は、特に合図することなく車を降りた。知世もそれを見て慌ててドアを開け、警部の迷いない足取りについていった。


 成沢はチケット売り場を悠然と横切り、奥に位置する管理棟のかどを曲がった。関係者用通路には濡れて踏まれた落ち葉が無数に張りついていて、人目につく入場口ほど手入れされていないことを物語っている。棟の側壁に沿って数歩行くと、黄土色の無機質な扉が目に入った。成沢がインターホンを押したとき、知世はその横で手を組み、その日初めて顔の筋肉を引き締めた。

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