ターニングポイント
人生には誰にもいくつか分岐点があるらしい。
俺の場合、最初の分岐点は父が病に倒れた時だった。
先々代魔王だった父は勇者を筆頭にする人間どもからの
侵攻を止め毎日寝る間を惜しんで働いた無理がたたり、
体を壊してしまった。
そこで新たな魔王となったのが俺だった。
自慢ではないが魔法の実力だけで言えば、
当時15歳だった俺は四天王や将軍よりも強かった。
そして何より父の実子であることが俺の最大の強みだった。
父への忠誠心の高い者たちは多く、
俺からの無茶な命令にも従ってくれた。
諫言や異議を唱える者に理不尽な罰を与えた際も
ほとんどの者は反抗せず受け入れた。
そんなことをしていたからだろう。
魔王軍はどんどん規模を小さくさせてしまった。
次の分岐点は弟と対決した時だった。
俺には父が養子として迎えた義理の弟がいた。
魔法は全くと言ってよい程使えず、俺は見下していた。
しかし養父である俺の父からの信頼が厚く、弟も人望が厚かった。
後で気づいたが、俺はそれが悔しくて弟を嫌っていた。
魔王に着任して弟を追放した時はとても気分が良かった。
そんな弟は追放された後、急激に力をつけた。
あろうことか人間どもと仲良くなり、
彼らの技術を身に着けると誰もが注目するような豪傑になった。
その上、弟の人柄の良さは健在で関わる者すべてを味方につけた。
そして一大勢力として力を持つと人間と魔人との橋渡しを担うようになる。
弟の活躍を妬み、邪魔をし続け、
ついには禁忌に触れ、自滅を厭わず自ら弟を抹殺しに向かった。
そして敗北した。
そこですべてを吐き出し、己の間違いと器の小ささに気づくこともできた。
くだらないプライドのために多くを犠牲にした俺を
弟は俺を許し、今度こそ家族として向き合いたいと言ってくれた。
ありがとうと初めて感謝を口にしたが、俺の犯した罪は消えない。
すぐに魔王の座を弟に譲り、俺は旅に出た。
もっと多くの物をこの目で見て、本当の俺の力で
世界に何かを残したいと夢を見ていた。
そして数年が経ち、俺は古巣の魔王城に戻ってきた。
こんな形で戻りたくなかった。
「愚弟め……」
当代魔王の弟が死んだ。
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