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07

 特別クラス、授業中。

 三時限目。

 歴史・近代史の授業は初老の白髪を短く綺麗に刈りそろえた、少し太り気味のメガネ先生が担当教師だった。

 ちなみに、一見温厚そうに見えて実は神経質な一面を持つ面倒臭そうな先生である。


「このようにして、新エネルギーを、宇宙から日常的に降り注いでいる微粒子を受け皿に半永久的に回転し続ける動力は実用化されたわけだが、まぁ詳しい所は化学でも学ぶんだろうが、これを発明した科学者が、教科書にも写真が載っているな? そう、この、」


 乱暴な字で黒板に人物の名前を書いていく。

 この歴史の先生絶対めんどくさいよな、きっと。


「や、ま、と、」大和と書く「せいのすけ」清之助と書く「先生だ」


 教師はチョークを置くと俺たちの方を振り返ってぐるっと見渡して言った。


「ではこの、大和先生の発明の何が凄いのか。大凪くん、分かるかね?」


「はい」


 大凪さんがすっと立ち上がるとふわっと胸が揺れる。

 この教師、大凪さんの胸目当てで当ててないだろうな?


「大和先生の発明した粒子測度反応機は、風力発電の応用ですが、屋内で安定した速度での電力供給を可能にした世界初の宇宙粒子発電機です。宇宙粒子自体は発見されて一世紀経っていましたが、」


 ん?

 一世紀・・・?

 今、何年だ?


「同様の発電機の実現に各国とも苦戦していました。大和博士が完成させることにより、世界から原子力発電から宇宙粒子力発電へとシフトしていきました」


「その通り。故に、大和先生は現代のエジソンと呼ばれ近代史に名を残すこととなったのだ。では、この宇宙粒子はなんという粒子か分かるかね?」


 げ、目が合った。


「轟沢くん」


「あっ、ええと」


 いやいや、俺この世界線の人間じゃないからわからねえよ!


「すみません、分かりません」


「小学生からやり直したまえ。笹凪くん」


「はい。ファーシス粒子です。これはドルゼ連邦のワーグテール・ファーシス博士が発見した亜高速粒子ですが、地球に降り注ぐ際に拡散して降り注いでいるため、人体等に影響は及ぼしません」


「厳密に言えば、影響はあるのだが、それは収束した状態に限られるということだな。その辺は化学で教えてもらうといい。先生は歴史専門だからな」


 キーン、コーン、カーン、コーオオオオオン


「おっと、ここまでだな」


 先生が教科書を閉じると、大凪さんが再び立ち上がって号令をかけた。


「起立、気を付け、礼!」


「では、次の授業までに今日わからなかったことは復習しておくように」


 緊張が解けて気だるそうにするクラスメイト達。

 大凪さんは肩にかかった髪の毛をファサッと両手で後ろに払い、その仕草がめちゃくちゃ魅力的で目を奪われてしまう。

 確か、クラスで実は一番の年長者だったよな。二十二歳だっけか全然ストライクゾーンだな!

 と、笹凪が俺の視界を遮るように顔を近付けてくる。おい邪魔だよ、素敵なお姉さんが見えないだろうが。


「轟ってさあ」


「略すな轟沢だ」


「轟ってさあ」


 コイツわざとだな。人の名前を面倒くさがりやがって。


「時々バカだよな。なんか所々常識が欠落してるっつーか」


「そいつは悪かったね! 記憶喪失なんだよ」


「「「「記憶喪失!?」」」」


 おっと。クラスの全員に反応されてしまった。

 笹凪を押し退けて柿崎が顔を近付けてくる。


「おまえ! 記憶喪失だったのか!?」


 近い近い、暑苦しい・・・!


「ちけえよ!」


「おっとすまん。でも、記憶喪失って大変なんじゃねえか!?」


「日常的には別に。ただ、自分の過去がわからないっていう面では不便かな」


 本庄も身を乗り出してくる。


「だけど、生活はどうしてるんだい? ご両親は?」


「ああ、なんか死んだらしい」


 おっと、大体他人事だしサラッと言ってしまったがみんな固まってしまったぞ。

 まずったか?

 笹凪が俺の襟を掴んで詰め寄ってきた。


「お前な!? 自分の両親なんだぞ!!」


「つーても、記憶がないんだから何かを感じようとしたって・・・なあ・・・」


「あ、・・・ご・・・ごめん」


 急にしおらしくなる笹凪。

 ショートボブの髪型も相まって美少年に見えるが、実際美少女なんだよな。

 しかもこの距離・・・、


「いい香りがするな」


「!?」


 ババっと笹凪が俺から距離を取った。


「お前! 何!? 気持ち悪いこと言ってんだ!?」


 おっと・・・。

 だけど女の子の香りはそうそう消せないぞ優也君。


「轟沢くん・・・」

「ないわー、お前そういう趣味だったの?」


 しまった!

 そりゃそうだよなそういう反応になるよな!?


「あ、いあ、違うよ? 使ってるシャンプーの匂い的な?」


「「へー」」


 くっ、本庄と柿崎の視線が痛い!

 笹凪はというと、ん?

 なんだかものすごく顔を真っ赤にして怒ってるぞ。


「ぷーっ!」


 ぷーて、頬膨らませるて、なんだよキミ可愛いじゃないか。


「轟のことなんて知らないんだからな!?」


 捨て台詞を吐いて教室から走り去ってしまった。

 いや、俺のこと知らないなんて当たり前すぎるだろう。何を怒ってるんだ?

 大凪さんと目が合った。

 え、やだ、凄い冷たい目が痛いです。


「轟沢くん」


「あ、はい・・・」


「あんまり人を揶揄っちゃあダメよ? 笹凪くんも難しい年頃なのだし」


「は、はあ、すみません・・・?」


 なんだか悪者になってしまった。

 そんな風にして、三時限目の休み時間は終わりを告げるのであった・・・。






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