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アイングライツ戦技学校の周囲を回遊してビーム爆撃を繰り返してくる戦闘ポッド群。
弾幕を張って抵抗する即席防衛隊も奮闘して、残り八機まで減らしたものの、防衛戦に参加する二五式の数もすでに半減していた。
戦闘ポッド群のさらに外側、より高い高度を同じように回遊する敵母艦。
陣形はバラバラになり、数が減った代わりにグラウンドを移動しながら、的になるのを避けつつ対空砲火を上げる学徒兵。
そして、少し離れた市街地では一機の四一式がシックルサブアームを恐ろしげに肩からもたげるロトン・ロトンに追い詰められつつも抵抗を続けていた。
『カキザキ! レーザー砲の冷却はまだか!?』
レイラがロングライフルで敵機を攻撃しながら叫ぶ。
柿崎の四一式は重マシンガンで対空攻撃を行いながら苦しそうに返答する。
『もうバッテリーが加熱しすぎて放熱が終わらないっすよ! 熱でバッテリーが破裂しちまう! それに、もうレーザーを撃てるだけのチャージが残ってないですって、四一式の発電能力でカバー出来る範囲超えちゃってます!!』
レイラが追加の射撃を行なって一機のボディを弾いて穴を穿ったが、撃墜には至らない。
(くそっ、このままじゃあトーマが! 敵との機体性能が違いすぎる! ササナとホンジョーは何をしているんだ!!)
エレベーターが降りてきた。
やっと外に合流できる!
隔壁が開き、暗い四角い煙突状の空洞が現れて、ぼくは目を見張る。
「エレベーターは!?」
『下にいっちゃったみたい・・・だね・・・。この床がエレベーターの天井じゃないかな』
本庄くんが弱気な声で答えてくれた。
でも、これってどういう事!?
外に出るには、この縦坑の中を飛んで上がるしかないけど・・・。
「迷ってらんないよね・・・!」
『ちょ、四一式には飛行能力は無いよ!?』
「スラスタージャンプ力なら、」四一式を縦坑に進ませて上を見る「この高さなら余裕で飛べるよ!」
『だから! 飛行能力じゃないんだから! 真っ直ぐジャンプするなんて出来ないって!?』
失敗したら、機体が壁にぶつかって落下するだろうけど。
多分、この緊急エレベーターは非常時の装置で格納庫みたいに外装に守られてないから、戦闘の振動で止まっちゃってるんだ。地震の時みたいに。
だったら直接飛んで上がるしかないじゃないか!
「本庄くん、ぼく、行くよ。時間を取られすぎたし、早くみんなと合流しないと!」
『しょ、しょうがない・・・。僕も行くよ・・・』
「うん。ぼくが飛んだら、成功したら上がってきてね。万が一失敗して二機とも壊れたら元も子もないから・・・!」
『わ、わかった!』
よしっ!
気合いだ笹凪優!
スラスターペダルを一気に踏み込んで、垂直ジャンプだ!!
くそっ、くそっ、くそっ!!
四一式の性能のおかげでどうにか引きつけちゃいるが、ロトン・ロトンやっぱり強え!!
一か八か飛行戦闘やってみるか!?
市街地を盾に戦って、なんとなくだけど、四一式も強引に空を飛べるっていうのが分かってきたし。敵もこっちがただの陸戦兵器としか思ってなさそうだし。
航空燃料が残ってるうちしかチャンスは無い・・・!
ゲージを見る。
半分切ったくらいか・・・。
最大噴射時間ってどのくらいだっけ・・・!
くそっ、あんま頭良くないし飛行戦闘なんて想定してないから覚えてねえ!
でも、
やるしか・・・!
【アーアー・・・。そろそろ追っかけっこも飽きてきたなあ。もう良いかぁくたばっとけよ】
シックルを大上段に振り上げて突進して来た。
今か?
今がチャンスか!?
スラスターペダルを踏み込んで、アームグリップから手を離して脚の間に設置された操縦桿を握りしめる。
ゲーセンの飛行機シミュレーターと感覚が一緒でありますように!!
一気に加速してロトン・ロトンの足元をすり抜けて、上昇した。
飛べる・・・。
本当に飛べるぞ! すげえ!!
機体を回して、強引に反時計回りに旋回して、レーザー砲を発射した。
照準が固定出来ないまでもロトン・ロトンを捕らえて装甲を焼いていく!
【オアア!? 面白えじゃねえか!! 地球の戦闘ポッドもそんな芸当が出来るんだなあ!?】
「くそっ! 装甲を焼いてるのに面白がってるって、なんだよ!?」
【やっと喋りやがったなあ。だって面白えじゃあねえか。命の取り合いってやつはさあ!? 最っ高の娯楽だぜ!!】
「戦闘民族があ!!」
【ひゃはははは! 早く俺の機体を焼き切らねえと! 撃ち落としちまうぞ!?】
レーザーで焼かれながらもビームマシンガンを向けてくる。
半分は食らってるけど、四一式の装甲は頑丈で数分は持ちそうだ!
どっちだ・・・!
どっちの装甲が先に抜かれる!?
ガクン、と、機体から力が抜けた。
「え・・・」
【おいおい・・・。マジかよ・・・】
フューエルアラートが鳴っている。
燃料切れだ。
五分持たなかった・・・。
【折角楽しくなって来たってのに。期待はずれだぜ】
ロトン・ロトンが、
仰向けに落下する俺の機体の、
正面に踊り込んで来た。
二本のシックルアームが振り上げられる。
「優・・・ごめんな・・・」
振り下ろされた。
四一式の装甲がバターみたいに切り裂かれて、コクピットまで貫いた・・・。




