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対空砲火を潜り抜けて敵艦がアイングライツ戦技学校近郊に降下したのを受け、松本駐屯地では唯一の航空戦力であえる攻撃ヘリ四機からなる強襲部隊の準備が急がれていた。
慌ただしくヘリポートを駆ける兵士たち。
ロケットランチャーに装填されるのはレーザー近接信管弾。
パイロットがロケットランチャーに連動するレーザー照準器が内蔵された機銃に似た装置を操縦桿の親指を添えるあたりに装備されたアナログスティックを繰り返し操作して照準の動作確認を行う。
ロケット弾の装填が終わり、誘導兵が両手の黄旗を世話しなく明確な合図を送る。
パイロットたちが親指を立てて了解の意思表示をすると、勢いよく黄旗が振り下ろされた。
一斉に勢いよく飛び立つ攻撃ヘリ。
向かうはアイングライツ戦技学校。
特戦機の秘密工場であり、同兵器の専属パイロットの発見と育成を担う施設を敵の攻撃から守るために、命を賭して松本市の上を低空で力強く飛翔していった。
五機目を落とした!
レーザー砲もオーバーヒートが心配されたが、なんとか持ってくれている。
残り十一機。
『よう、轟沢! 俺の方が一機多いぜ!?』
「バカ言うなレイラ先生のおこぼれだろ!!」
『撃墜に変わりはねえよ!!』
アドレナリンが頭の中を満たしているのか、気分が恐ろしいほど高揚してる。
このままの流れならどうにかなるか!?
隣の、久瀬志津香のいる小隊は教官機の煌角の指揮のもと踏ん張っていたが、大グラウンドの方では被害が出始めていて、すでに三機が重大な損傷を受けて格納庫へと退避していた。
『十三番機! 腕をやられました、攻撃継続不能!』
『こちら放送室、十三番機、格納庫へ後退してください』
いつの間にか放送室に集まった戦術科の生徒数人が即席の指揮所を作り、奮闘する生徒たちに指示を出している。
それが功を奏して厚い抵抗が続けられていた。
戦果を上げられているのは、高性能火薬を装填したレイラ先生のローグキャットとレーザー砲を装備した俺と柿崎の四一式だけだったが、逆をいえば二五式で奮闘する彼らが敵の注意を俺たちから逸らしてくれているからこそ上げられている戦果でもある。
みんなで戦ってるんだ。
みんなで生き残る。
増援が来るまで耐えて、生き残れば、それが俺たちの初めての勝利になる!
「よし、次!」
レーザー砲の冷却をある程度待って追っていた敵機に照準を向けた時、敵艦が目に入った。
胴体が骨組みだけのムカデのような艦の頭部がばっくりと開き、肩から凶悪なシックル状になったサブアームを有する暗い緑色の人型兵器が上半身を覗かせてローリングする艦を下向きに固定して地上を見下ろしてきていた。
「ロトン・ロトン!!」
『何だ!? 何と言ったトーマ!』
無意味な単語とレイラ先生の叱責するような怒鳴り声が聞こえた。
思わず、俺は標的を変えてロトン・ロトンに照準を向けてしまう。
「アレはヤバい敵だ! アレはヤバい奴だ!!」
トリガーを引き絞り、レーザー砲を発射した。