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『五機一班で密集隊形! 互いの空をカバーしろ! 貴様らの腕で走りながら的に当てることなど出来んのだからな、友軍機を守るように弾幕を張れ! 友を信じろ! 己を信じろ! 持ち堪えれば正規軍が駆けつけてくれる! 決して諦めるな!』
レイラ中尉の檄が飛ぶ。大グラウンドに十五機、普通グラウンドに五機の二五式がW字型に並び正面に対空防御を張り、それぞれの死角となる背面をカバーし合うように配置されていた。
久瀬志津香も普通グラウンドに合流してきた二五式小隊に再度編成され、即応小隊は前面に俺と柿崎の四一式、レイラ中尉のローグキャットがやや後方でVの字に隊形を組み直し近くの小隊の後ろをカバーしている。
どうにか形だけでも整えることが間に合ったが、砲台がわりのオクスタンなんて冷たい鉄の棺桶でしかない。
でも、技量の足りない学徒兵に市街地を駆け回りながら敵機を落とすなど不可能に近いから、陣形を敷いて弾幕を張るしかないのが現状だった。
優と本庄の四一式はまだ上がってきていない。
なんかトラブってるんだろうか。
『轟沢』
柿崎から直接回線で通信が入って、俺の無駄な思考は中断される。
「なんだよ、柿崎」
『あの二人なら大丈夫だって。じきに上がってくるさ心配すんな』
別に心配ってわけじゃ・・・。いや、心配だな。
『まあ本庄は怖気付いてるかもしれないけどな! 優は上がってこない方が良いだろ? 俺だって乙葉がオクスタン適性がなくて安心してんだからさ、お前だってあの子が戦場に出ない方が良いだろうよ』
「そうだが・・・。滅多な事言うなよ、他の生徒たちもさんせしてるんだからさ」
『だけど認めろよ。そして心配すんな。格納庫の地下はシェルターにもなってるんだからよ』
「俺たちが負けたら、格納庫に戦闘ポッドが侵入して破壊される」
『いつになく弱気だな』
「当然だろ、アレと戦ったことあるんだから。だが、まあ、一機でも多く落として阻止するけどな」
『ちげえねえや』
レイラ中尉の通信が割り込んで来た。
『各員、雑談はそのくらいにしておけ。無線封鎖だ。必要な指示は私が出す。指定された方向を守れ』
「『『『『了解』』』』」
うん。どうやら直接回線で会話してたのは俺たちだけじゃ無かったようだ。
お互いに不安を吐き出し合ったり励まし合ってたりしてたんだろうな。
それにしても戦闘ポッド二十機か。蒼龍が沈められずに引きつけてくれても一六機は確実に降りてくる。
到達する前に航空戦力で落とせればいいんだけど、ミサイルのロックが効かないみたいだからオクスタンみたいに頑丈じゃない戦闘機じゃあ近付いただけで撃ち落とされるみたいだし、望み薄か。
他の生徒には悪いけど・・・、優、そのまま上がって来るなよな・・・。
地下二階、女子トイレ前で大凪乙葉は拳銃片手にビルギ・ジャーダの護衛に付いていた。
オクスタン操縦適性の低い彼女には、現状できることが無かったからだ。
笹凪優と本庄裕樹は非殺の超音波制圧銃を手にビルギ・ジャーダが唐突に即席で開発した偵察ロボット発見器を片手に格納庫内を走り回っている。
「びっくりだナ・・・。まさか、妾の監視をしていただけでなかったとはナ」
駆け回り、時折超音波制圧銃の甲高い音波発生音を聞きながら大凪乙葉がため息を吐く。
「ビルギちゃんが気付けただけでも救いだわ。でも流石に、他の階までは調べられないわよ? 上がった宗佑たちも心配だし、二人には早く上に合流してほしいけど」
「この階だけでも掃除しておかねば。超小型の偵察ロボットとはいえ、妾の持っているようなナノマシンを一回分は搭載していてもおかしくない。知らず刺されたら、どんな毒があるか分からんからナ。うん?」
ビルギが何かに気付いたように階段に目線を移し、二人の男子生徒がより地下深くを目指して駆け降りていくのを見て漆黒の水晶のような美しい目を鋭く細めた。
「あやつら・・・」
「どうしたのビルギちゃん?」
「すまぬのナ、乙葉。少し付き合ってほしいのナ」
そう言って階段に駆け出すビルギ。
大凪乙葉は偵察ロボット駆除を続ける笹凪優と本庄裕樹の方を見て逡巡したが、ビルギを追うことを優先して駆け出す。
「ビルギちゃん、ちょっと! 勝手に動き回ってはダメよ!?」
昆虫的な、人形的な可憐さを持つ顔を極寒に凍りついたように恐ろしげな怒りをたたえて、ビルギは地下深くを、おそらくは特戦機ザーシュゲインを目指す不届き者を追跡して行った。
「愚かなのナ、ザーシュゲインを目指すなど。ザーシュゲインはとうまと優が扱えるように調整中なのナ。他の人間に再び邪魔されては戦闘に間に合わなくなるナ。また勝手に乗り込まれて暫定パイロットを選ばせるわけにはいかないのナ!!」