表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/61

48

 普通グラウンド、体育館とは逆側、民家に近い片隅が四角く迫り上がり、10メートルの高さの正四角形の建物が出現する。

 その正面には隔壁があり、それがゆっくりと左右に開き、俺と柿崎の四一式よいち、そしてレイラ先生のローグキャットがグラウンドに駆け出しておおよそ中央に陣取った。

 モニター越しに校舎を見ると、避難を促す校内放送と市の空襲警報をバックに生徒たちの避難が混乱を起こしつつも進んでいる。

 体育館の両開きの大きな正面口に群がる生徒の半分が、突然現れた俺たちのオクスタンに好奇の目を向け、あるいは指を差して何事か叫んでいた。


『チッ、まだこの程度しか避難は進んでいないのか!』


 レイラ先生の悪態が聞こえる。

 桜並木の向こうにカメラを移すと、二五式が密集してこちらも動きが停滞していて今敵襲があったら一網打尽にされる恐れがあった。

 マニュアル通りに、俺たちは三機をトライアングルに配置して各々外側を向き対空警戒態勢をとる。

 まだ敵機は見えないが、直上では遠くオレンジ色の火線が見える気がする。


「まさかと思うんだけど・・・」


『・・・なんだよ轟沢』


 俺の不安げな呟きに柿崎も不安げに続き、レイラ先生が叱咤するように言った。


『直上で陽本宇宙軍の直営パトロール艦隊が戦っているんだろう』


『だったら! 俺たちの出番は無いかも!?』


『その程度の敵ならば、警報は鳴らん。苦戦しているんだろう』


 そうなのか・・・?

 出来ればそのまま撃退して欲しい。

 あ、そうか! それでここに到達する戦力が四機だけと。それなら辻褄が合う!

 全く知らないオペレーターの音声だけがコクピットに届いた。


『こちらは松本駐屯地。アイングライツ戦技学校の戦力展開状況を教えてください』


 レイラ先生が答える。


『こちらはアイングライツ戦技学校、即応小隊。隊長機の教官、レイラ中尉だ。現在即応小隊三機のみが配備完了。ただし現場は混乱、全ての防衛戦力が整うには時間を要する』


『松本駐屯地、承知しました。現在、各種対空砲、対空ミサイル装甲車の配備を完了し、攻撃ヘリ一個小隊の離陸準備が整っています。状況によっては援軍に向かえますが、まずは良くない知らせを先に伝えておきます』


 良くない知らせなんか聞きたくないんだけど・・・。

 対空監視を続ける目の端に映る生徒たちの進まない避難。

 オペレーターの無情な声に、俺は耳を疑った。


『敵戦力は、衛星軌道防衛を担っていた中欧パトロール艦隊を全滅させ、陽本直上防衛艦隊に到達。現在交戦中ですが、護衛艦飛衛が轟沈。護衛艦蒼龍も満身創痍で後退しつつ戦闘を継続しています。防衛艦隊のオクスタンは壊滅。敵に半数の損害を与えるも、母艦一隻と戦闘ポッド二十機が未だ健在。残存オクスタンと蒼龍で敵戦力を引きつけているそうですが、四機が限界だそうです』


 え?

 まてまて・・・。何機いるんだ・・・。

 思わず声に出してしまった。


「何機いたんですか・・・」


『あなたは?』


「す、すみません。声に出てしまいました! 自分は轟沢候補生。即応小隊のオクスタンパイロットです!」


『あなたが・・・。敵戦力は、非武装の強襲揚陸艦一隻、戦闘ポッド四十機いたそうです』


 なんだって!?

 それ・・・ゲームでは二年の二学期中盤に襲ってくる、中ボスのロトン・ロトンが混ざってる戦技学校爆撃部隊じゃないか!?

 顔面蒼白にならざるを得ない。


『我が軍の防衛艦隊は奮闘してくれたのです』


 俺の無言を叱責するような女性オペレーターの声。

 レイラ先生が返してくれた。


『状況は理解している。彼は戦闘経験も浅い訓練兵だ、許してやってほしい』


『いえ・・・。こちらこそ申し訳ありませんでした。そちらの健闘をお祈りします。通信終わり』


 一瞬の沈黙。

 レイラ先生が言った。


『通信終わりか。敵の目標がここだと確定しているようだな』


「以前、ザーシュゲインを出したからでしょうか」


『そうだろう。ビルギ・ジャーダを監視する極小の偵察ロボットが潜入していたと言ってただろう』


「はい・・・」


 その先はあんまり聞きたくないけど・・・。


『そのロボットが校舎内に残っていて、格納庫の状況を知ったんだろうな』


「エレベーターの故障の件もですか・・・?」


『ふむ・・・』


 今度は長い沈黙。

 レイラ先生の声色に怒りが混ざって聞こえた。


『誰かが妨害工作をしたのだろうな。それを感知した、と言うのならばこのタイミングの侵攻に納得も出来るというものだ。蚊ほどの大きさの偵察ロボットに、それほどの機能が搭載されているのかは未知数だがな』


 対空監視をしてじっと見つめる空に、黄色い明るい火の玉が出現するのが見える。

 冷や汗が頬を伝った。


「まさかとは思うんですが・・・。大気圏を直接降下出来たりするんですかね。敵の揚陸艦は・・・」


『聞くな。あの戦闘力の戦闘ポッドを有している敵だぞ』


 ですよね・・・。

 左右の手でグリップを握る手に自然と力が入る。

 地下シェルターへの生徒の避難はようやく完了しようとしていた。

 だが二五式の方は混乱がまだ続いている。まだ十機が入口を塞いで渋滞していた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ