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今日のシミュレーター訓練もずっと移動だった。
自主練で何度か砲撃訓練もやってるけど、まあ実弾じゃないし専用のシミュレーターポッドじゃ無いから無振動でイマイチ感覚が掴めてるかわからん。
優もみんなも動きがメキメキ良くなってきてる中で、俺、三週間で正規兵並みに操縦できるか不安しかないです。
出来なかったら、優と別れろって言われんだろうな・・・。
軍人一家コワッ。
移動訓練を終えて四一式のコクピットから降りると、洗面所の方から(何故か居る)ビルギが真っ白タオルを胸に抱えて超絶乙女走りでよよよと駆けてきた。
「と〜うまあ〜!」
「え、何、やな予感しかしないんだけど?」
「はいタオル! 練習ご苦労様なのナ!」
「ありがとう使わせてもらうね!!」
横からひったくる優。
ぐぎぎと睨み合っていた。
「ちょっ、優! 何するかナ!?」
「こっちのセリフだよね。ぼくたち付き合ってるんですけど!」
「ふん。妾、女王様なのナ。関係ないのナ」
「いや関係ないでしょここ地球だし!」
「とうまは妾の大王様なのナ!!」
「ぼくの恋人です!!」
やいややいや。
困ってると柿崎が俺の肩を右手でがっしりと掴んできた。
「ふふ・・・まさかな・・・。あの時のプールのお嬢様が笹凪だったとは思わなかったぜ」
「お、おう・・・。別に隠してたんだけどな・・・」
「ははは人が悪いなあとうま」
「いや、お前は大凪さんと付き合ってるだろうが、いてて力強い力強い、肩の肉がもげる!」
「くそう、俺も初めから笹凪が女の子って知ってれば!」
「なあに?」
その柿崎の背後には背後霊のように大凪さんが。
「なんなの?宗佑」
「い、いえ、冗談です」
「そうよねえ?」
うん。怖い。
大凪さんは絶対怒らせちゃいけない人の一人だ。
「お前ら! いつまでチチクリあってるんだ今日のシミュレーターミーティング始めるぞクラスに戻れ!」
レイラ先生のちょっと怒った声が階段側から響いた。
やれやれと柿崎の手を振り払い、優からタオルを奪う。
「あ、ちょ!」
「俺も汗拭きたいの!」徐に顔を拭いて「ん・・・優の良いにお、」
「もう、変態!!」
奪い返されました。
「ほら、さっさと行くよ!!」
「あ、ちょ、優待って? 怒っちゃった?」
慌てて優を追いかける。
優はくるっと一度だけ振り向いてぺろっと舌を出して悪戯っぽく笑ってくれるのだった。
ビルギがケラケラと笑いながら追いかけてくる。
階段に差し掛かったところで、照明が一気に落ちて非常灯に切り替わった。
え、ちょっと待て。
この展開って・・・。
【ウーウーゥゥゥ・・・ぅぅゥゥゥウウウウウウウウウウウウウ!!】
「空襲警報!?」
レイラ先生が駆け降りてくる。
「貴様ら! ミーティングは中止だ、オクスタンに実弾装填急げ!!」
「な、なんで・・・」
怯える優。
俺は優の肩を両手で抱いて言った。
「一度襲われてるもんな。時間の問題だった。優は後方支援、訓練通り!」
「だけど、とうまっ」
「俺は学校を、施設を守る即戦力なんだ。だけどまだ怖いなら、」
「い、いくよ! とうまだけ危険に晒せない!」
ビルギが優にそっと寄り添って横脇腹のカマキリの鎌でチクっと優の左手を挟んだ。
「痛っ! ちょ、なんなのビルギ!?」
「精神高揚剤を注射しただけなのナ。妾は役目があるから戦えないけどナ? 優」
「な、なにさ・・・」
「これで恐怖は和らぐはずナ。とうまの事、よろしく頼むのナ」
『おい、お前ら! 早く準備するぞ!?』
柿崎達が実弾装填を始めている。
ほとんどがハンガー横のウェポンラックの自動装填だが、手順もあるし時間もかかる。
優の肩から手を離して、走りながら言った。
「無茶はしなくていいから!」
「あ、と、とうま・・・、」
何か言いかけた?
だけど今はそれどころじゃない。
そして、今はみんながいる。
ゲームの年表通り、夏の襲撃イベントなら敵機の数は四機の戦闘ポッドのみ。
力を合わせれば行けるはずなんだ・・・!
大グラウンド。
オクスタン二五式走行訓練中。
【ウーウーゥゥゥ・・・ぅぅゥゥゥウウウウウウウウウウウウウ!!】
突然の警報に全機が訓練を中断して戸惑う。
校内放送が鳴り響いた。
『緊急連絡! 緊急連絡! 在校生の普通科、戦術科の生徒、全校一、二年の生徒は直ちに体育館地下シェルター避難してください! 緊急連絡! 緊急連絡! 敵が、敵です! 敵が来ます!』
《きんきゅうけいほぅがぁ、はぁつぅれえぃいさぁれぇまぁしぃたぁ》
『戦技科三年生は大グラウンドに! 格納庫に集結してください! 訓練じゃありません! 訓練じゃありません!!』
《まぁつぅもぉとぉしぃにぃ、おぉすぅまぁいぃのぉ、じゅうーみんのぉみぃなぁさぁまぁはあー》
『繰り返します! 訓練じゃありません!! 訓練じゃありません!?』
戦技科教官の体育の先生たちがメガホンで怒鳴る。
『二五式搭乗の全訓練生! 二五式を格納庫に戻せ! 急げ! 手の空いてる者は格納庫地下に降りてウェポンラックの武器に実弾装填!! 急げ急げ訓練通りやればいい!!』
校庭で走行訓練を見守っていた一、二年の戦技科生徒たちは初めての状況に逃げればいいのか格納庫に行けばいいのか分からず右往左往するばかり。
二五式の、オクスタンの動きももたついていた。
教官が頭を抱える。
「まずい・・・このままじゃあいい標的だ・・・!」
二五式のコクピットの中で、恭太郎は歓喜に震える。
「おっしゃあ! 今度も俺のターン!!」
真壁広人から通信が入る。
『お、おい! これ! まずいんじゃ!?』
「安心しろヒロト。俺がザーシュゲインで出ればサクッと終わる」
『お前! 異星人の子になんか注射されたって!?』
「ヒーローに不可能はないんだよ!! ついて来いヒロト!!」
『無茶苦茶だよ、お前!!』
恭太郎と広人のオクスタンが格納庫に駆け出したのを見て、真似をして動き出す他の生徒たちの二五式。
全機が動き出すのを待って、最も格納庫の近くにいた久瀬志津香は機体に踵を返させて真っ先に格納庫へと入って行く。
「・・・轟沢くん・・・」
メインヒロインが呟いたのは、主人公の名前ではなかった。
エレベーターに駆け込み、もう二機が入れるスペースを空けて待っていたが、不意にエレベーターが動き出して下降していく。
「!? 操作してないのに・・・! 特別クラスが?」
下降を終えて隔壁が開いた先。
足速に二五式をエレベーターから出すと、そこは地下一階。二五式の格納庫だった。
(誰が操作したのかしら・・・? とにかくハンガーに一度戻して実弾を装填しないと!)
「あ、あれれ!? 降りてこない!?」
いくらぼくが怖がってたって、エレベーターの操作を間違えるはずがない。
先に装備を終えた前衛のとうまと、柿崎の四一式がエレベーターの隔壁前で立ち往生してる。
なんでなんで!?
『おい、笹凪! エレベーターB1で止まっちまったぞ! 何してんだ!?』
「し、しらないよ! 怒鳴んないでよ柿崎!!」
『空襲警報がずっと鳴ってるんだぞ!!』
ズムズムと、レイラ先生のオクスタン、ガメリカ製のローグキャットが背後からやって来てとうまと柿崎の機体に命令してた。
『トーマ! カキザキ! 普通グラウンド側の予備エレベーターを使う、ついて来い!』
『え、そんなのがあるんですか!?』
『先に教えろよ!!』
『一般生徒を巻き込みかねない設備を、おいそれと使えるか!! いいから着いてこい!』
『『了解!』』
『ビルギ・ジャーダ!!』
洗面所の側に控えて大人しくしてたビルギが腕組みをして落ち着いた様子でローグキャットを見つめてる。
「なんなのナ?」
『貴様のナノマシンでエレベーターは直せないのか?』
「妾のは人体に影響を及ぼす、いわゆる薬品系なのナ。残念ながら機械には無意味ナ」
『そうか・・・。だったらトイレの中に隠れていろ。格納庫はそれ自体がシェルターになっている。中でもそこが一番安全だ』
「いいから行くのナ。敵は待ってくれないのナ」
『チッ・・・。敵の狙いは貴様だと思うか?』
「一度、ザーシュゲインを見せてしまってるのナ? 十中八九、敵の狙いはそれナ」
『やはりそうか・・・。ともかく貴様は特戦機パイロット選出に必要な人材だ、隠れていろ!』
みんな、強いなぁ。
ぼくは・・・。
『優!』
とうまの声がスピーカー越しに聞こえる。
『深く考えるなよ。俺はキミに、生きていてほしい』
「根性の別れみたいな事言うな!! 装填終わったら、すぐぼくも行くから、絶対に落とされないでよ!?」
『分かってる。先に行く!』
男って勝手ばっかり・・・。
ああ・・・、どうして、平和な時代に出会えなかったんだろう・・・。
自分が死ぬのも怖い。
けど、
とうまを失うのが一番怖い・・・。
神様・・・・・・。




