03
杏香に連れられて行ったアイングライツ戦技学校は、校門から本校舎まで桜並木の続く立派な学校だった。
校門をくぐり、右を望めば野球場かという広さのグラウンドが広がりその先にはドーム状の施設があり訓練用のオクスタン格納庫になっているそうだ。
左を見ればこれまたグラウンドが広がり、まあこっちは半分くらいの広さなんだが、その端には体育館と温水プールが併設されている。
高校時代を思い出すな。
俺の手を引く杏香が、ずっと俺の手を引いて息が少し上がっているのか頬を紅潮させながら僅かに振り向いて話しかけてきた。
「校長のアンナ先生は優しいけど怒ると怖い人だから絶対に刺激しちゃダメよ」
「刺激って何をするんだよ」
「なんでも!」
「まあ、うん、わかったよ」
「それと、斗真はあたしらと違って中途入学だから揉め事もあるかもだけど」
(中途入学? 中途採用? 今何月だろう)
「何かあったらすぐ言ってね! 力になるから」
「うん、まあ、わかったよ」
「もう! から返事ばっかり!」
しかし、こんな美少女と一つ屋根の下とか。なんという素敵な設定でしょうフィクションですか。
そうこうしているうちに本校舎に入って、校長室まで連行されるのだった。
校長室、といえば俺の知っている限り無機質でアルミのガラス戸付き書類棚に百科事典とか専門書とか並んだちょっとだけ良いデスクと黒いソファチェストなイメージだったんだけど。
この校長室は十畳の広さの立派な木製の本棚にやはり木製のデスク、椅子も革張りの高級ソファチェスト。床には暗い赤の絨毯。極め付けは窓辺、デスクの後ろに飾られた国旗と学園旗、そして軍旗。
あれ?
日本の国旗って日の丸・・・だよな。なんで二重丸なんだろう?
ソファに座ってデスクに両肘を乗せて綺麗な顎を組んだ手に乗せて、赤毛の美人な女性が、アンナ校長が声をかけてくる。
「よく来たわね、轟沢斗真君。桃乃木杏香君も案内ご苦労様」
「い、いえ! あ、ありがとうございます!!」
杏香ちゃんすっごい緊張してるな。
俺の方はなんだか現実味がないし、そもそもこんな軍人学校受験してたとか、斗真ってやつは何を考えて軍人になろうとしたんだろうか?
「さて、午前中のうちに来ると思っていたので案内役の生徒が用意出来ていない。なので、今日のところは杏香君」
「はっはいっ!?」
「君が案内してあげてくれ。頼めるかな?」
「も、もちろんです!」
「うむ。では斗真君」
「あ、はい」
「明日からよく学び、よく成長する事だ。私は君達生徒の成長を楽しみにしている」
「あ、はい」
「あ、はいじゃない! ちゃんと頭下げる!!」
ゲンコツ喰らった・・・。
杏香ちゃんって何気に手が早いのが玉に瑕だなあ・・・。
校長室。
アンナはデスクに埋め込むように設置されたノートパソコンのモニター越しに将官クラスの軍人の男性と通信していた。
『どうかね、アンナ中佐。今年の生徒は』
「はい、安良田少将。今年の新入生は残念ながら適正の高い者は少なかったのですが、中途入学生に一人適正の高い少年がいましたので。成長次第ですが、例の特戦機、ザーシュゲインのテストパイロットに最適かと」
『特戦機は拠点防衛用の、ある意味特攻機だ。私としては、次期主力オクスタンのパイロットの方が重要なのだがね』
「ラウアティガーですか。ドルゼ連邦から輸入した機体と伺ってますが」
『共同開発だよ。宇宙開発はゾライナ帝国とガメリカ合衆国に遅れをとっている現状で、近年は中欧民国も台頭してきている。国力の小さな我が国だけで宇宙用の機体の開発は限界があるのだ』
「ですが、宇宙艦は引けを取っていませんし、軌道射出台所有の数少ない国に入ります。そこまで事を急ぐ必要があるのでしょうか。宇宙空間での戦闘は、オクスタンよりも航宙戦闘機の方が理に適っていると思うのですが」
『侵略者との戦闘を経験しているのは、我が国とガメリカだけだ。そして、宇宙用オクスタンを主力機として配備していたガメリカ軍の方が我が軍よりも被害を抑える事が出来ている。多腕機構を持つ侵略者の戦闘兵器と渡り合うには、航宙戦闘機に匹敵する飛行能力を持ち多目的に活動出来る新型のオクスタンの配備が急務なのだ。パイロットの先行育成は課題の一つである』
「難しい事を生徒達に背負わせることになるのですね」
『試作機ではあるが、先行生産型のラウアティガーも三機、そちらに送る。特戦機ザーシュゲイン共々、テストを兼ねてパイロットの育成を頼むぞ』
「了解しました」